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vol.151「公共工事の4割超で物価高を越える事業費の増額。こうしたトラブルに調達購買担当者が巻き込まれない様にするには?」

週刊 戦略調達
  【今週のトピックス】  今回は適正な価格には適正な仕様の提示からと改めて思わされた事例をご紹介します。 「国発注の公共工事で、着工後に人件費単価や物価の伸びを上回って増額する事例が頻発している。日本経済新聞の調べでは、計画から10年以上過ぎた工事382件のうち42%で計5.2兆円増え ...
当社は支出管理(スペンドマネジメント)・戦略調達(ストラテジックソーシング)・最適購買を支援するソリューション群ならびにこれら業務のマネジメントノウハウと中国・アジア・米国・欧州・中南米をカバーするグローバルソーシングネットワークとを基に1)支出管理並びに調達購買マネジメントのアウトソーシング 2)支出管理・調達購買関連システム導入 3)貴社のグローバル最適購買実現などの支出管理・調達・購買・SCMに関わるプロフェッショナルマネジメントサービスを提供しています。それらのサービスを通じて貴社の「最善の支出管理・調達・購買」を実現することにより、調達購買コスト・物流費用・経費の削減や外部支出ならびにサプライチェーンマネジメントに対する効果の最大化による貴社の競争 ...

vol.151「公共工事の4割超で物価高を越える事業費の増額。こうしたトラブルに調達購買担当者が巻き込まれない様にするには?」

 

【今週のトピックス】

 
今回は適正な価格には適正な仕様の提示からと改めて思わされた事例をご
紹介します。


「国発注の公共工事で、着工後に人件費単価や物価の伸びを上回って増額
する事例が頻発している。日本経済新聞の調べでは、計画から10年以上過
ぎた工事382件のうち42%で計5.2兆円増えていた。(中略)


日経は2021年度時点で継続中のダムや道路などの工事について、計画当初
と21年度の事業費が分かる資料を国土交通省から入手。計画から10年以上
の大型案件を分析した。


増額していたのは全体の77%にあたる294件で、増額幅は6.5兆円だった。
382件全体の費用は当初計画比26%増の31.2兆円に膨らんでいた。このうち
人件費単価や資材費の上昇の範囲に収まる増額は135件で、物価高要因の
増額はやむを得ないと考えられている。


問題は物価高を超えた増額の多さだ。調査では159件に上り、当初計画の
2倍以上に増えた工事も30件あった。背景には国の見通しの甘さがある。


26年度までに開業予定の東関東道水戸線(潮来―鉾田)。当初の09年度に
710億円を見込んだが、21年度には2.5倍の1760億円に増えた。軟弱地盤対
策や残土処理の方法変更に加え、伐採する樹木数を見誤り3万本から13万
本に増えた。国交省常総国道事務所は『事業規模が大きくなると見積もり
の精度は粗くなる』と釈明する。


01年度に事業化した国道『横浜湘南道路』も掘削発生土の処理方法やトン
ネルの安全対策の変更で19年度に当初の2.1倍となる4600億円に増えた。
地元住民や行政間の調整不足が要因とされる。22年度にも1100億円増えた。


公共工事は経済効果を総費用で割った指数で事業価値を判断する。指数が
『1』を下回ると必要性を厳しく検証すべきだとされる。総費用が膨らん
だことで東関東道水戸線は1.5から0.6に悪化した。関西学院大の上村敏之
教授(公共経済学)は『工事を進めたい当局側が費用を低く見積もったか
どうか、検証する必要がある』と話す。」
出所)「公共工事、国発注4割で物価高超す増額」『日本経済新聞』
2023年12月6日朝刊1面


記事が指摘している通り、今回問題となるのは物価高を超えた事業費の増
額です。こうした問題を抱えた案件は調査対象382件中の159件と全体の4割
を超え、費用が2倍以上に増えたものが30件の7.8%と全体の1割近い数字と
なっています。


こうした問題の要因として事業主体の見通しの甘さが記事中では指摘され
ています。例えば、軟弱地盤や安全対策、残土処理方法の変更、中には伐
採する樹木数を本来は13万本の所を3万本と実際の1/4以下で予算設定した
ものもあります。


記事中では調査対象が公共工事であったため、用語がそれに関わるものと
なっており、貴方が工事の調達購買担当者でなければ自身の担当材カテゴ
リーでは起こらない問題とお考えかもしれませんが、果たしてそうでしょ
うか?


軟弱地盤・安全対策・残土処理方法といった技術要件は機能・品質・マネ
ジメント要件に関わるもので、それぞれの材カテゴリーで必要とされるそ
れらの要件を甘く考えたり、要件から漏らしてしまったりという事はどの
材でも起こりうる事です。伐採本数の誤りも必要量の見誤りという事で、
こちらもどの材でも起こりえます。


調達購買担当者として、貴方はこうした問題をどの様にすれば回避する事
ができるでしょう?一つの方法としてフェーズ分けがあります。案件の初
期段階では多くの要件が不明であったり、記事中にもある通り、案件規模
が大きくなると見積精度が落ちたりする場合があります。その様な場合に
は、調査やパイロット等の要件検証フェーズを設けたり、規模が大きな案
件であれば、計画精度を高めるべく、対象を小さく区分し、着手していく
区分をフェーズ分けしなければ進めていく事で計画精度を高める事ができ
ます。


購買力を高めるために案件規模を活かしたいという事であれば、サプライ
ヤからの見積取得時には案件全体を示しつつ、仕様・要件・タスク・数量
・単価をコミットするのは、その内の直近のフェーズのみという方法を取
る事で、案件規模を活かしつつ計画精度を高める事ができます。


記事中では案件を進めたい当局(我々の場合では要求元)が予算を低く抑
え案件を通しやすくするために敢えて要件を甘く見積もっている可能性を
指摘しています。或いは、調達購買担当者がサプライヤから有利な条件を
引き出そうと敢えて見積依頼の仕様・要件を曖昧・甘くしている場合もあ
るかもしれません。


我々は冷静な目で本当に提示されている仕様・要件だけで調達目的が達成
されるか、漏れている仕様・要件・タスク等がないかを見極める必要があ
ります。事実と異なる甘い仕様・要件でサプライヤから安い見積を引き出
しても、後々にトラブル、ひどい時には訴訟沙汰に巻き込まれたり、折角、
選定した優良サプライヤとの取引を打ち切られたりして、困難な思いをす
るのは調達購買を担当する貴方自身なのですから。


2023.12.15

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