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vol.126「NHKの予算承認不適切手続きに学ぶ支出統制・ガバナンス」

週刊 戦略調達
  【今週のトピックス】   調達購買部門の役割の一つに外部支出が適切に為される様に統制・ガバナンスするというものがあります。それには権限を分離した上で統制・ガバナンスを利かせた業務プロセスの構築が必須です。今回は予算承認プロセスのケースですが、権限の分離やプロセスが形骸化してしまい問題 ...
当社は支出管理(スペンドマネジメント)・戦略調達(ストラテジックソーシング)・最適購買を支援するソリューション群ならびにこれら業務のマネジメントノウハウと中国・アジア・米国・欧州・中南米をカバーするグローバルソーシングネットワークとを基に1)支出管理並びに調達購買マネジメントのアウトソーシング 2)支出管理・調達購買関連システム導入 3)貴社のグローバル最適購買実現などの支出管理・調達・購買・SCMに関わるプロフェッショナルマネジメントサービスを提供しています。それらのサービスを通じて貴社の「最善の支出管理・調達・購買」を実現することにより、調達購買コスト・物流費用・経費の削減や外部支出ならびにサプライチェーンマネジメントに対する効果の最大化による貴社の競争 ...

vol.126「NHKの予算承認不適切手続きに学ぶ支出統制・ガバナンス」

 

【今週のトピックス】

 

調達購買部門の役割の一つに外部支出が適切に為される様に統制・ガバナ
ンスするというものがあります。それには権限を分離した上で統制・ガバ
ナンスを利かせた業務プロセスの構築が必須です。今回は予算承認プロセ
スのケースですが、権限の分離やプロセスが形骸化してしまい問題が生じ
た事例を紹介します。


NHKが業務範囲として認められていない衛星放送(BS)のインターネット配
信の関連支出を2023年度予算に計上し国会で承認されました。その後、局
内の指摘で調査した結果、業務範囲の変更に必要な総務相の認可を得てお
らず承認手続きが不適切であったと記者会見で釈明をする事態となりまし
た。


このケースには以下の幾つかの不適切な行為があります。
・業務範囲として認められていないBS放送番組のネット配信のための設備
開発を含む費用を予算計上
・業務範囲の変更に必要となる総務相の認可申請を行っていない
これらはNHKが従うべき規則に対する違反にあたります。


・今回の9億円の予算案について理事会を開かず一部理事らによる稟議の
みで承認
こちらはNHK内での予算承認権限の規程によるため、一概に社内規程違反
とはいえないかもしれません。一方で9億円という金額の支出の承認(予算)
が一部理事らで行うので十分か否かという点についての検討は必須と考え
ます。
参考)「NHK不適切手続き」『日本経済新聞』2023年5月31日朝刊2面


このケースを貴社の外部支出に当てはめますと、
・使途・金額等によるリスクが明確になっておらず、それに応じた審査・
承認プロセスが定められてない、ないしはプロセスが形骸化している
・その結果、今回の支出についての業法等のコンプライアンスチェックが
できてない
という様な事態と言えます。


この様な事態は過去に多くの企業が直面してきており、ある程度、統制が
取れている企業であれば以下の様な先人の知恵が調達購買プロセスに組み
込まれているはずです。
・申請・調達・検収の購買三権分立
・ワークフローシステムによる承認プロセスの形骸化防止
・購買システムによる検収の記録・透明化
・調達システムによるサプライヤ選定経緯の記録・透明化


購買三権分立における申請は予算消化を含めた支出する事を認める権限
(後述の支払承認ではなく、あくまで支出し費用負担の責を負う事の意思表示)、
そのため仕様・要件等を決定するのはそれを必要とする申請者となります。
調達は申請者の仕様・要件等を基にサプライヤ・取引条件等を決定する権
限。検収は仕様・要件等を満たす物品・サービスが納品され、サプリライ
ヤに対して支払を認める権限となります。検収を分離した場合、架空発注
の様な単純な不正は防げますが、検収は分離したものの、申請と調達の権
限が一人に集中していると、書面上は仕様・要件・取引条件等は記載の通
りなのでサプライヤとの癒着により価格操作しバックマージンを受けとる
といった手の込んだ不正を防ぐ事はできません。


予算承認にあたっては使途・金額等によるリスクを特定し、それに応じた
審査・承認プロセスを定める必要がありますが、それを紙の稟議で回して
は今回のNHKのケースの様に承認プロセスが形骸化してしまいます。また、
紙の稟議では、回付ルートのチェック漏れで必要な決裁者の承認が得られ
ていないのを見落とす事もあります。そのため、プロセスに強制力を持た
せられるという情報システムの利点を活かして、予算承認・購買申請プロ
セスをワークフローシステムに載せる事をお勧めします。


承認結果の記録は問題が起こった時に誰がどういう経緯で承認したのをト
レースするために必要です。直材における購買システムの導入は比較的多
くの企業で為されているので、直材の検収はあまり問題になりませんが、
間材で特に金額が大きくなるIT機器や広告宣伝・システム構築・工事等の
業務委託関連ではまだまだある程度の規模の企業であっても架空発注の事
件が報じられています。特に、企業が成長する過程で支出金額は大きくなっ
てきたものの間接材の購買管理システムは未導入といった企業は要注意で
す。


サプライヤの選定プロセスは大企業でもまだまだ担当者だけのブラックボッ
クスとなっている所が少なくありません。調達システムの導入により何時
でも関係者がサプライヤの選定状況・経緯を確認できるとなれば、不正の
牽制のみならず、調達担当者にとっては自分の調達活動の状況を常に周り
に見られているというかなりのプレッシャーになるでしょう。システムの
導入に至らない迄も、サプライ市場の市況もある中で上長は見積結果だけ
見ても何も分かりませんしパフォーマンス改善もできません。調達で最善
の結果を得るには、調達戦略の立案から見積依頼先のリストアップ・見積
回収から最終交渉迄のコミュニケーションのプロセス管理を上長が行う2名
以上の体制で臨むのが望ましいと考えます。


サプライヤの選定プロセスも含めて上記の様な統制・ガバナンスの仕組み
が調達購買部門で管理している支出ですべて整っている場合には、調達購
買部門が管理されていない支出に目を向けてみましょう。開発費・直材の
エンジニアリング購買カテゴリー・間接材の特にIT・広告宣伝・HR・コン
サルティング等の専門サービスを中心に上記の様な統制・ガバナンスの仕
組みを広げて行く機会が多々あるのではと考えます。


2023.6.9

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