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vol.99「宮本清水建設会長/ 集約から分散の調達戦略への転換でコスト低減」

週刊 戦略調達
  【今週のトピックス】 「それまで私は現場での作業をできるだけ集約し、1つの業者に一式任せた方が効率が上がり、コスト削減に結びつくと思っていた。清水建設の考え方もそうだった。ところがスポンサーである大成建設は違う手法を採用した。 例えば、石を打ち込む外壁用プレキャストコンクリート。切断・加工した ...
当社は支出管理(スペンドマネジメント)・戦略調達(ストラテジックソーシング)・最適購買を支援するソリューション群ならびにこれら業務のマネジメントノウハウと中国・アジア・米国・欧州・中南米をカバーするグローバルソーシングネットワークとを基に1)支出管理並びに調達購買マネジメントのアウトソーシング 2)支出管理・調達購買関連システム導入 3)貴社のグローバル最適購買実現などの支出管理・調達・購買・SCMに関わるプロフェッショナルマネジメントサービスを提供しています。それらのサービスを通じて貴社の「最善の支出管理・調達・購買」を実現することにより、調達購買コスト・物流費用・経費の削減や外部支出ならびにサプライチェーンマネジメントに対する効果の最大化による貴社の競争 ...

vol.99「宮本清水建設会長/ 集約から分散の調達戦略への転換でコスト低減」

 

【今週のトピックス】


「それまで私は現場での作業をできるだけ集約し、1つの業者に一式任せ
た方が効率が上がり、コスト削減に結びつくと思っていた。清水建設の考
え方もそうだった。ところがスポンサーである大成建設は違う手法を採用
した。


例えば、石を打ち込む外壁用プレキャストコンクリート。切断・加工した
石を設計デザインに合わせ並べた後、コンクリートを流し込み板状(PC板)
に仕上げる。この一連の作業を1社に任せるのではなく、石の買い付け、
加工、海外からの運搬・通関・国内運搬、石の配置、コンクリート打設な
どをそれぞれ別の業者に発注したのである。


製作業者が一気通貫で手がけるより、商流をきちんと分析し細分化・単純
化した作業をそれぞれ専門業者にやらせた方が経費を切り詰められるとの
考え方だ。そして実際コストは下がった。」
出所)宮本洋一「私の履歴書(19)最後の現場」『日本経済新聞』2022年
11月22日 朝刊28面


「集約」と「分散」との異なる調達戦略の優位性の比較の話です。一般的
には調達コストは分散の方がコスト低減となりますが、社内コストも含め
たトータルコストはケースバイケースとなります。この違いがどこから生
じるかを考える上でも、まずは、それぞれの戦略の特徴を見ていきましょ
う。


今回のケースでは集約は清水建設の手法がそれにあたります。各専門工事
や工事で使われる材料・什器等の複数の調達単位を集約し1つのサプライ
ヤに任せるもので、買い手企業から見た場合、調達単位間の調整コストが
減り、取引金額を大きくする事で競争時の値下げによる案件獲得のインセ
ンティブを上げるというメリットがあります。


一方で、一つのサプライヤがあらゆる調達単位でNo.1というのは稀で、実
際には外注した上でマージンを乗せるものも多々ありあり、個々の調達単
位で見ると最上位のサプライヤではないという事が殆どです。集約のもう
一つのデメリットは調達単位を集約すればする程、対応できるサプライヤ
が限られるという点です。調達単位が広がればそれらすべてに対応・管理
する能力がサプライヤに求められます。サプライヤが限られるという事は、
それだけ競争環境が小さくなり、サプライヤ選定の自由度が減り、コスト
高となる可能性が高まります。


分散は大成建設のアプローチです。宮本会長の記述の通り、調達単位をそ
れぞれの専門企業向けに細かく分けて設定するものです。集約のデメリッ
トの反対がちょうど分散のメリットになります。メリットの一つはその調
達単位の専門企業のプールからサプライヤを選定しますのでそれぞれの調
達単位の最上位のサプライヤとの取引が可能となる点です。また、調達単
位が限定されますので、それぞれの市場で対応できるサプライヤが増え、
より厳しい競争環境を作る事で一層のコスト低減を引き出せます。実際に
宮本会長のケースではスーパーゼネコンである清水建設のこれまでの調達
手法よりもコストが下がっています。


分散のデメリットは管理工数・コストが必要という点です。分散では調達
単位を細かく分けて調達を行いますので調達案件数が増えます。また、工
程や各工程で使用する部材と業務委託とを分けて調達しますので、それら
の間の仕様・納期のすり合わせを買い手企業が中心となって行わなければ
なりません。この工数・コストが必要となりますので、冒頭に述べたそれ
ぞれの手法を比較した時に例え分散により調達コストが下がっても社内コ
ストも含めたトータルコストはケースバイケースとなるとの評価となりま
す。また、買い手企業内で人員数もしくは管理能力が不足している場合に
は分散のアプローチは取れず集約の調達戦略に絞って調達を進める必要が
あります。


それでは集約と分散のどちらのアプローチが良いのかという問いには、調
達全般に言える事ですがサプライヤという相手のある事なので机上の空論
は意味を為さず、調達結果は調達活動を実際にしてみないと正確な所は分
からないため、それぞれの戦略に基づき見積を取得し検証しないと分かり
ませんと答えざるを得ません。今回の清水建設のケースでも自社内では集
約の方が優位性があると考えられていましたが、実際に分散の戦略を採用
してみて初めてそちらの方が優位性があると明らかになりました。


もし、二つの戦略を検証している余裕が無いという事であれば、分散戦略
をとっても全体を管理する能力が貴社にあるのであれば経験則から分散の
方に優位性があると考えられますので、弊社では分散戦略を推奨します。


2022.11.25

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