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vol.152「失われた30年から抜け出すために調達購買部門はどう動く?」

週刊 戦略調達
  【今週のトピックス】  先日、日本企業が失われた30年から抜け切れずにいる原因とその解決法について、「失敗の本質」などの名著がある一橋大学の野中郁次郎名誉教授へのインタビュー記事が日本経済新聞に掲載されていました。今後、私たち調達購買部門の人間がどう動くべきかをこの記事を基に考察します ...
当社は支出管理(スペンドマネジメント)・戦略調達(ストラテジックソーシング)・最適購買を支援するソリューション群ならびにこれら業務のマネジメントノウハウと中国・アジア・米国・欧州・中南米をカバーするグローバルソーシングネットワークとを基に1)支出管理並びに調達購買マネジメントのアウトソーシング 2)支出管理・調達購買関連システム導入 3)貴社のグローバル最適購買実現などの支出管理・調達・購買・SCMに関わるプロフェッショナルマネジメントサービスを提供しています。それらのサービスを通じて貴社の「最善の支出管理・調達・購買」を実現することにより、調達購買コスト・物流費用・経費の削減や外部支出ならびにサプライチェーンマネジメントに対する効果の最大化による貴社の競争 ...

vol.152「失われた30年から抜け出すために調達購買部門はどう動く?」

 

【今週のトピックス】

 
先日、日本企業が失われた30年から抜け切れずにいる原因とその解決法に
ついて、「失敗の本質」などの名著がある一橋大学の野中郁次郎名誉教授
へのインタビュー記事が日本経済新聞に掲載されていました。今後、私た
ち調達購買部門の人間がどう動くべきかをこの記事を基に考察します。


野中氏は日本企業が失われた30年から抜けられない原因として「プラン
(計画)、アナリシス(分析)、コンプライアンス(法令順守)の3つが
オーバーだった」と述べています。


プランについて同氏は「数値目標の重視も行きすぎると経営の活力を損な
う。例えば多くの企業がPDCAを大切にしているというが、社会学者の佐藤
郁哉氏は最近、『PdCa』になったといっている。Pの計画とCの評価ばかり
偏重され、dの実行とaの改善に手が回らないということ。」「行動が軽視
され、本質をつかんでやりぬく『野性味』がそがれてしまった。野性味と
は我々が生まれながらに持つ身体知だ。計画や評価が過剰になると劣化す
る」「計画や手順を優先させられると人は指示待ちになり、創意工夫をし
なくなる」と述べています。


「PdCa」的確な表現です。佐藤氏が指摘されている通り、実際に手を動か
す事なく、計画・評価のみをする人ばかりで、行動・行動の結果のフォロー
アップアクションが無いと何も変わりません。野中氏が言う様に計画や評
価が重視される様になると、人は指示待ちになり自発的に動かなくなって
しまいます。加えて、計画やチェックの優先が度が過ぎてしまうと従業員
が疲弊してしまい、近年続々と明るみになっている高品質を誇っていた日
本企業各社による品質不正といった行為に走らせる迄に至ってしまいます。


アナリシス(分析)については「過去の成功体験があまりにも大きかった
のが影響しているのかもしれない。刻々と変化する現実への対応を誤る傾
向がこの30年、続いた」「ベトナム戦争の当時、米国防長官を務めたロバー
ト・マクナマラはデータ分析を駆使したが、数値にあらわれないベトナム
人の愛国心や強さを洞察することができなかった。」と語っています。


数値分析偏重になってしまうと、どうしても数値が取れるこれまでの事業
から抜ける事ができず、変革や新しい事に対して数字が見えないという事
で二の足を踏んでしまい、変化への対応ができません。また、組織は人で
構成されていますので、従業員のやる気・感情を把握・鼓舞していく必要
がありますが、なかなか数値で取る事ができず見落とし勝ちです。従業員
満足度調査といった手法はありますが、どこまで本音を語ってくれている
か、また個々人の回答を入手する事は難しく、自分が関わる部下・同僚・
上司それぞれの考え・モチベーションの度合い・感情は自分の目で確かめ
ていく必要があります。


コンプライアンスについて野中氏は「誤解を恐れずにいえば、事なかれ主
義やリスク回避、忖度(そんたく)の文化が生まれやすい。『様子をみな
がら慎重に』などと悠長にやっていられない時もある。過剰反応は危うい」
と述べています。


コンプライアンス・ESG重視の経営の流れは止められません。理想はコン
プライアンス・ESGを尊重しつつ、個々の従業員が果敢に新しい事に挑戦
していくという事になるのでしょうが、計画・評価・分析・現状偏重で
個々人が疲弊しモチベーションが低い状態では、人はこうした挑戦を避け、
事なかれ主義・リスク回避に流れてしまいます。


こうした現状を脱却するために野中氏は「組織というものは本来、変化に
適応できるかどうかが絶えず問われる。」著書「失敗の本質」で指摘した
旧日本陸軍の敗因「戦略のあいまいさ、短期志向、集団主義、縦割り、異
質性の排除」を引き合いに出し「今思えば過去30年の日本も、底流にある
問題は当時の日本軍と変わらなかった可能性がある」と述べた上で「過去
の組織、戦略、構造、文化を変える。そして我々はなぜここにいるかを確
信できる価値と意味を問い直す。」「ソニーグループを再生した平井一夫
氏(前会長)が、改革には『IQ(知性)よりEQ(感性)だ』と話していた
のが興味深い。『感動』というパーパスで自信を失いかけた社員のマイン
ドセットを変えたのだが、重視したのは共感だった。6年で70回以上もタ
ウンホールミーティングをしつこくやったという」と訴えています。


私たち調達購買部門の人間は様々なコストが上昇基調・VUCAの時代・ESG
経営と社会的責任のある調達の要請・DX推進といった経営環境下の中での
調達購買部門の価値・あり方を考え続け、そのビジョンを経営・要求元に
対し熱意を持って語り続けていくという事が必要と考えます。
参考)「〈直言〉:『企業の失敗、野性喪失から』野中郁次郎氏」
『日本経済新聞』2022年7月20日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231008&ng=DGKKZO75108820X01C23A0EA1000
閲覧日:2023年10月8日)


2023.12.22

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