vol.85 「コスト増はサプライヤが必ず吸収すべきもの?」
vol.85 「コスト増はサプライヤが必ず吸収すべきもの?」
【今週のトピックス】
「サプライチェーン全体で中長期にわたる競争力の強化に取り組むため、
足元の厳しい事業環境による仕入先の負担を当社が一旦受けとめます。」
出所)トヨタ自動車株式会社『2023年3月期 第1四半期決算情報 決算報
告プレゼンテーション資料(スクリプト付き)』、2022年
筆者はこのフレーズを見た時に違和感を覚えました。このフレーズには
「本来はコスト増はサプライヤが吸収するものだが、敢えて買い手企業の
ウチが負担してやっている。しかも、それは一時的なもので将来的にはサ
プライヤの方で負担しろよ。」といった前近代的な買い手企業の立場にあ
ぐらをかいた驕りや、「本来このコスト増はサプライヤが吸収すべきもの
だが、ウチが大企業で社会的責任のある立場なのでサプライヤを支えるた
めに負担する」といった偽善が感じられるからです。
価格は需給バランスで決まります。供給側の「この価格で売りたい」と需
要側の「この価格で買いたい」という意思のぶつかり合いです。それぞれ
が「この価格でなら売っても良い」「この価格でなら買っても良い」と合
意する事で初めて取引が成立します。
こうした原理原則を無視して「価格変更は一切認めない」というのは、か
なりに無謀な主張です。例え、契約で価格維持を縛ろうとしても、通常は
コストに大きく影響を与える経済情勢の変化があれば価格を見直す条項が
入るのが一般的です。仮にその条項が無かったとしてもあまりにも不当な
契約は無効となる可能性が高いです。無効とならなかったとしても、サプ
ライヤは契約破棄・取引解除という手段に出てくるでしょう。
会社としてこうした調達購買の基本が理解されていないのであれば、それ
は組織的な調達購買力の乏しさを示すものですのでかなり由々しき事態で
す。今回のフレーズはあくまでも原稿を書いたスピーチライターの個人的
なものでトヨタの会社としての考えではない事を祈ります。
2022.8.12