vol.75「供給難下のコスト低減にはデマンドコントロール」
vol.75「供給難下のコスト低減にはデマンドコントロール」
【今週のトピックス】
半導体やコンテナの需給ギャップ・コロナ禍による工場稼働の低下や停止・
ロシアのウクライナ侵攻・原油高・円安と様々な材カテゴリーで値上げが
止まりません。調達購買部門の方々は値上げ回避・抑制どころか、供給確
保すらままならないのが現状ではないでしょうか?
それでも調達購買部門の方々は部門のミッションとしてコスト低減を進め
ていかなければなりません。とはいえ、こんな時に交渉や相見積で価格が
下がる訳はなく、新規サプライヤの採用によるコスト低減を図っても、供
給難の時にはサプライヤは既存取引先を優先するため、新規の開拓も進み
ません。
こうした時に有効な手段の一つに調達品の使用量を減らすデマンドコント
ロールがあります。単に需要を抑制しようとしても、要求部門は必要があっ
て購買申請をしていますので効果は見込めません。仕様変更等により自動
的に使用量が減る工夫が必要です。そうした工夫により正に需要(デマン
ド)をコントロールするのがデマンドコントロールです。
まずはもっとデマンドコントロールに力を注ぐべきと感じた事例を紹介し
ます。在宅勤務が続き納付書の回収が遅れ保険料の支払が遅延した事で日
本年金機構とやり取りをする機会があったのですが、受け手の事を考えて
いないコミュニケーション設計のために色々と不必要な需要(コミュニケー
ションや書類等)を生んでいると感じました。例を挙げると、
・相手の手許に届かない住所に何度も納付書や督促状を送付
・郵便物の送付先変更や銀行口座からの自動引落の手続きが民間企業等と
比し煩雑。例えば手続きに必要な提出書類の種類や量が多い、自動引落申
請書に銀行からの確認印の取り付けを求める等、こうした書類の取得の手
間を考えると手続きを断念させる様な仕様となっています
・個々の送付物の紙の量が多く半分以上は読まれない。例えば、口座から
の自動引落申請書が送られてきた時には、申請書を提出しない場合、なぜ
それを提出しないかを記載させるアンケート調査票が同封されていました
・銀行の確認印取得のために自動引落申請書を出せずにいると、機構が業
務委託しているコールセンターから書類提出の督促電話が掛かってきまし
た
これらは不良の真因を探らずに検査回数や人員を増やすといった対処療法
のみを実施しているようなものです。対処療法では問題解決につながらな
いため、また支払遅延という不良を生み、無駄なコミュニケーションが生
じる事となります。
今度は真の問題解決を図る事でデマンドコントロールを行いコスト低減を
達成している事例をご紹介します。保険会社のお客様では切手代の低減の
ためにHPやメールも含めてコミュニケーションの動線を検討し、郵便物そ
のものの量を減らしコスト低減をしています。
IT企業のお客様では、DMの送付にあたり厚い資料を紙で送付するのは止
め、資料をHPからダウンロードする様に促す1枚ものの案内文書に代え、
印刷ならびに郵送費用を抑えています。
同様の取組を日本年金機構が行えば、少なくとも今回のやり取りで機構が
支出している費用を1/4程度に圧縮できるのではと感じています。
何れの事例もコミュニケーション費用に関わるものとなってしまいました
が、デマンドコントロールは必ずしもコミュニケーション関連カテゴリー
だけにしか通用しないものではありません。例えば、樹脂製品で強度に影
響が出ない範囲で穴を開け、樹脂の使用量を抑制する・軽量化を図り物流
コストを低減するといったものもデマンドコントロールの一種と言えます。
デマンドコントロールを成功させるポイントは、
・調達品が必要となっているそもそもの目的を明らかにする。特に、途
中段階のものでなく、お客様の最終目的を明らかにする。調達品が原材
料・部品であれば、それらがお客様の最終目的に向けて果たす機能とな
ります
・調達品の事は一旦忘れ、その目的達成に向け、ゼロベースで必要な手
段を検討する。その際には目的から逆引きで手段を挙げて行くのが有効
です
・挙げた手段がお客様の最終目的を達成する最も効率的なものか、より
効率的な代替手段がないか今一度見直す。こうして得られた手段を調達
品として設定
になります。
2022.6.3