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当社は支出管理(スペンドマネジメント)・戦略調達(ストラテジックソーシング)・最適購買を支援するソリューション群ならびにこれら業務のマネジメントノウハウと中国・アジア・米国・欧州・中南米をカバーするグローバルソーシングネットワークとを基に1)支出管理並びに調達購買マネジメントのアウトソーシング 2)支出管理・調達購買関連システム導入 3)貴社のグローバル最適購買実現などの支出管理・調達・購買・SCMに関わるプロフェッショナルマネジメントサービスを提供しています。それらのサービスを通じて貴社の「最善の支出管理・調達・購買」を実現することにより、調達購買コスト・物流費用・経費の削減や外部支出ならびにサプライチェーンマネジメントに対する効果の最大化による貴社の競争 ...

vol.105「ユーラシア・グループ/ 2023年10大リスク公表」

 

【今週のトピックス】


地政学リスクに関するコンサルティングファームのユーラシア・グループ
が2023年10大リスクを公表しました。それらの中からサプライリスクに関
連しそうなものを抜粋します。


リスクNo.1:ならず者国家ロシア
ロシアの日本への脅威は日本を含む西側諸国企業に対するサイバー攻撃や
小麦等の穀物・肥料等の供給リスクと考えられます。


リスクNo.2:「絶対的権力者」習近平
日本へのリスクとしてはこちらの方が第1位でしょう。習氏の権力固めが
終わり絶対的権力を持った事で、軍事・外交・経済等のあらゆる政策が彼
の思惑次第となり、それらの方向性がますます読みにくくなります。中国
市場向とそれ以外の市場向サプライチェーンのデカップリングを今年は一
層進めていく必要があると考えます


リスクNo.4:インフレショック
昨年本格化したインフレは各国中央銀行の利上げにも関わらず続く見込み
です。金融引き締めは終わっておらず、日本も含め各国で利上げが繰り返
されるでしょう。調達購買の観点からはまだまだ様々な品目でサプライヤ
から値上げの要請が来る事が予想されます。利上げのペースは各国で異な
るため今年も為替が乱高下する事が懸念されます。海外調達品については
難しい判断や様々な対応が求められる年になりそうです。加えて、インフ
レと金融引き締めによる世界各国での景気後退も予想され、サプライヤが
値上げ要請を受けているにも関わらず、経営陣からは更なるコストダウン
の指示が出て頭を悩ます事になるかもしれません。


リスクNo.5:追い詰められるイラン/ リスクNo.6:エネルギー危機
日本への影響を考える際にはこれら二つのリスクはセットで考えて良いで
しょう。ロシアからの原油・ガスの供給が限定的となり供給タイトになっ
ており、イランが原因で中東で紛争が起これば原油・LNGの価格が高騰す
る事が予想されます。原油・LNGの価格高騰は電力・石化品を始めとして
様々な品目に波及しますので、これらが顕在化しない事を祈るばかりです。


リスクNo.10:逼迫する水問題
水不足は農産物や半導体等の工程で水を大量に使う産業だけでなく、水力
発電が主要な地域では電力不足となり、業種を問わずそれら地域のすべて
の産業を直撃し、様々な品目のサプライチェーンに混乱を来す事となりま
す。


これらのリスクは起こるかもしれないリスクというより、リスクが顕在化
したインシデントといえるかもしれません。これらリスクの対応はもちろ
んですが、リスクの影響は想定外のもの顕在化した時の方が対応が進んで
おらず、その影響が甚大になります。また、会社・事業毎にリスクは異な
ります。新年を迎えるにあたって上記以外にも貴社にとってのリスクに何
があるかを点検されてはいかがでしょう。


参考)"TOP RISKS 2023" Eurasia Group


2023.1.6

vol.104「調達購買業務においてSDGs・ESG対応を進めるには」

 

【今週のトピックス】


「日本経済新聞社は国内886社について、国連の持続可能な開発目標(SD
Gs)への取り組みを格付けする「SDGs経営調査」をまとめた。人権侵害の
救済対象をサプライチェーン(供給網)まで広げている企業は269社(全
体の30.4%)だった。」
出所)「(NIKKEI SDGs)人権侵害による事業リスク、供給網の対策3割どま
り」『日本経済新聞』2022年11月17日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221117&ng=DGKKZO66051390X11C22A1MM8000
閲覧日:2022年12月28日)
2022/11/17付


SDGsの対応難しいですよね。一つには目標数が17、それらを更に具体化し
たターゲットが169と非常に多岐に亘っており、何に注力すれば良いのか
分からないという事があります。


もう一つにはSDGsは持続可能な開発を進めるために国連で採択された目標
ですので企業経営に直結していない事があります。例えば、それらの目標
は貧困撲滅や飢餓の解消、目標を具体化したターゲットであっても「2030
年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の
貧困をあらゆる場所で終わらせる。」といった形でかなり公益的なもので
あり、それぞれの企業の事業内容によってはすぐに結びつかないものが多
くあります。


SDGsを企業経営に落とし込んだものにESGがあります。ESGは企業経営にお
いて"Environment(環境)""Social(社会)""Governance(ガバナンス)"を重
視すべきという考え方ですが、自然発生的に広まっていった考え方なので
ESGそれぞれの分野の中で何をすべきかといった指針は各企業の判断に任
せられています。


ESGもSDGsに比べれば企業経営の中で重視すべき方向性をより明確に示唆
していますが、あくまでも環境・社会・ガバナンスの方向性のみで企業
活動に直結するものではなく、各社対応に苦慮しているのが実際ではない
でしょうか。


調達購買業務においても環境・社会・ガバナンスを考慮した調達購買を進
めていく必要があります。こうした調達購買活動はESG調達と呼ぶのが正
しいのかもしれませんが、頭文字にしてしまうと何を目指すのかが分かり
にくくなってしまうので、現在は環境・ガバナンス対応も含めて地球環境・
社会に対して責任のある調達購買を進めるという意味で社会的に責任のあ
る調達と呼んでいます。


社会的に責任のある調達を進めるには先に挙げた対応すべき項目が多岐に
亘る・公益的な目標で企業活動に直結しないといった課題がありますので、
調達購買業務においてそれらに対応するには、
1) サプライヤ・品目選定において環境・社会・ガバナンスの各項目につ
いての要件を明確にする
2) それらの要件において定性的なものは最低限貴社として遵守すべき足
切項目とするのを推奨
3) 各サプライヤ・品目での取引において環境・社会・ガバナンスの各項
目の中で特に重視するものを絞りこみ、それら項目については継続的改
善を進める
というのが良いと考えます。


2022.12.30

vol.103「鹿島建設 天野社長/ 作業員不足に『調達を含めて見直す必要がある。』」

 

【今週のトピックス】


「全国で300万人強の建設作業員のうち、65歳以上が53万人を占める。今
後10年で6分の1がリタイアする一方、若い人の入職がそれほど増えるとは
思えない。外国人の作業員は一時は10万人を超えていたが、コロナ禍で減
り、円安で賃金の魅力も薄れている」


「機械化や作業効率化で乗り越えるしかない。工場生産の部材を現場で組
み立てるなど、人手をかけない工法の技術開発が欠かせない。建築の仕上
げは人の手をかけるほど高級感が出るものだが、工業製品の仕上げ材に切
り替えてもそれを維持できるよう、調達を含めて見直す必要がある」
出所)「月曜経済観測」『日本経済新聞』2022年12月19日3面


上記は建設市場の先行きに関するインタビューの中で高齢化や人手不足へ
の対応について聞かれた時の鹿島建設 天野裕正社長の答えです。円高で
外国人作業員の確保が難しくなる事もあり人手不足が中期的には続きそう
です。そのため、これまで人手を掛けていた仕上工程を調達品の仕上材料
に置き換えるという考え方を示しています。


こうした経営環境の変化に対応するための迅速なサプライチェーンの組み
替えは調達業務が貴社にもたらす大きな価値の一つと筆者は考えます。サ
プライチェーンの組み替えが必要となる様な大きな変化の場合、工程や原
材料・部品を内製化していると、内製工程の能力や固定費の問題もあり、
なかなかそうした変化への対応を取る事ができません。


それらを調達している場合には、内製化している場合と比し、新しい要件
を高いレベルで満たすサプライを迅速にサプライチェーンに組み込む事が
可能です。こうしたサプライチェーンのデザインの自由度が調達の価値の
一つのため、仕様作成能力のサプライヤへの依存・サプライヤの過半の取
引が貴社等のサプライヤの貴社への過度の依存・サプライヤへの出資等の
サプライヤ切替の自由度を下げる様な行為は基本的には避けるべきです。


サプライチェーンの組み替えが必要となる様な変化は、現在、建設業界に
限らずどの業界の企業でも直面している課題です。そして、価格の高止ま
りや天災・withコロナ・米中経済対立等のサプライリスクの高まりと要因
の増加や脱炭素・人権尊重等のESG経営へのシフトなど対応しなければな
らない経営環境の変化の種類が多岐に亘ってきています。


各企業によってどの変化への対応を優先するかは異なります。貴方におか
れましては貴社の課題は何か、お客様・経営陣がそれらの対応優先順位を
どの様に考えているかを見極め、優先順位の高いものから取組を進めてい
く必要があります。


来年も調達購買部門は忙しくなりそうです。


2022.12.23

vol.102「総務省/ 電波オークション導入へ」

 

【今週のトピックス】


「通信サービスに使う電波をめぐり、最も高い価格を提示した事業者に割
り当てる『オークション方式』を、総務省が一部の周波数帯で導入する見
通しとなった。」
出所)「『電波オークション』高周波数帯で導入へ」『日本経済新聞』
2022年9月14日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64675330X20C22A9EP0000
閲覧日:2022年12月14日)


こちらは売り手が開催するオークションとなり、買い手企業が調達購買業
務で実施する場合には最も低い価格を提示したサプライヤが取引を獲得す
るリバースオークションとなります。


日本では実施されている企業は少数派となりますが、実施されている企業
では間接材を中心にかなり多くの案件を相見積や入札ではなくリバースオー
クションで調達しています。それにはリバースオークションに以下の様な
メリットがあるからです。
1. サプライヤ間に現行の最安値を開示する事で価格交渉を自動化し、担
当者の価格交渉力を問わずに交渉での取りこぼしを無くす
2. リバースオークションの競争の煽り効果でサプライヤのロジカルな予
定価格を超えるコスト低減を引き出す - コストは論理で決まりますが、
価格はサプライヤの意志で決まります


よって、リバースオークションが適しているのは上記の2.の煽りの効果が
得られる調達案件で、継続購入品よりも製品寿命の短い電子機器の一括購
入やPJ関連等の都度購買品です。


リバースオークションには開催時間中サプライヤの営業担当が張り付いて
いなければならないといった批判もありますが、最小価格から始め価格を
競り上げていき、最初に手を挙げたサプライヤに取引を授与するダッチフォ
ワードオークションといったオークションタイプとオークション開始価格
や価格変動幅を調整する事で開催時間を短縮、サプライヤの負荷を減らす
事が可能です。


また、オークションは価格しか評価できない、価格競争を煽る事で品質・
納期等に無理が生じるといったデメリットについては、品質・納期・マネ
ジメント要件について事前審査しすべてに合格したサプライヤや、品目は
都度購買であっても他品目で継続的取引があり、一度サプライヤがコミッ
トした事を反故にする様な事があればそれらの取引への影響が出るため約
束を遵守するサプライヤに絞ってオークションに招待するといった方法で
回避できます。


何にでも利く魔法の弾丸とはいきませんが、道具としてピタリとはまれば
有効なツールの一つですので、今回の総務省の電波割当でのオークション
の採用が日本でリバースオークションの理解を深める一助になればと考え
ます。


2022.12.16

vol.101「集中購買は調達権限の集約から」

 

【今週のトピックス】


「デジタル庁は各省庁が個別に企業と結ぶネットワーク契約をデジタル庁
に集約する時期の前倒しを検討する。各省庁の契約終了時に順次切り替え
る計画を改め、途中解約により予定より早める。一括契約で費用を抑え、
ソフトウエアの重複調達もなくす。


契約解除に伴う違約金を払ってでも計画を早める方が効率化やコスト削減
の利点が出る可能性があるとみて、各省庁との協議に入った。契約期間は
4年ほどとする例が多く、1~3年程度前倒しできるとみられる。


現在はそれぞれでネットワーク環境が異なるため、省庁ごとに別々のオン
ライン会議やメールなどのソフトを使っている。新型コロナウイルス禍で
省庁間でオンライン会議をつなげられないといったことが起こり、業務上
の連携の妨げになっていた。


デジタル庁の一括契約でネットワークを統合すれば、複数省庁を併任する
職員によるソフト調達の重複をなくせるほか、サイバー攻撃などに統一の
基準でセキュリティー対策をとれる。


契約が大型になるので調達先の企業との価格交渉力も高まる。霞が関全体
でみたネットワーク運用に関わるコスト削減につながる。


ネットワーク契約には省内イントラやインターネット回線、パソコン端末
や業務用スマートフォン、パソコンのソフトまで幅広く含まれる。」
出所)「省庁個別のネット契約 デジタル庁集約を1~3年前倒し」『日本
経済新聞』2022年11月9日朝刊4面


各省庁間で分散購買していた省内ネットワークやパソコン・スマートフォ
ンといったハードならびにソフトウェア等のITカテゴリーの支出を集中購
買に切り替えていくというケースです。


集中購買を進めていくには調達するものの仕様の共通化と調達権限の集約
とが必要となりますが、弊社ではまずはカテゴリー毎の調達権限の集約か
ら着手されるのが良いと考えます。


調達権限とはサプライヤと取引条件を決定する権限です。なぜなら、仕様
の共通化は容易ではなく、どうしても時間が掛かってしまう、場合によっ
ては要求元間での調整が上手くいかず、途中で頓挫してしまう可能性もあ
るからです。通常、仕様の決定権限はユーザにありますので、ユーザの数
だけ仕様の意思決定者がおり、仕様の共通化・仕様の決定権者の集約は容
易ではありません。一方で、調達権限はガバナンスの問題でマネジメント
が集約すると意思決定すれば集約可能です。


確かに仕様を共通化できれば取引量も増え、サプライヤにとって魅力のあ
る取引となり、より有利な取引条件を引き出せる可能性は増えます。しか
しながら、集中購買のメリットはそれだけではないので、仕様の共通化を
目指して集中購買の実現に時間を掛けるよりも、まずは調達権限の集約を
進めそれらのメリットを享受した上で仕様の共通化を進めていくのが望ま
しいと考えます。


取引量以外の集中購買のメリットとして、例えば人員や調達購買システム
といった調達リソースの重複の解消や、集約した調達購買スタッフ・シス
テムに集中投資する事でその機能を深堀、高度化できる事が挙げられます。
他にも、カテゴリー全体の支出が俯瞰できますので、品目は共通化されて
いないもののサプライヤは集約する、或いは品目毎のベストサプライヤか
らの分散購買とするといった適切な調達戦略の採択が可能になる、ハード
・ソフトウェア等の仕様の共通化が比較的容易なものはユーザをナビゲー
トし仕様の共通化を進めていくといったメリットもあります。


お客様と話していると、企業においては国内では集中購買が進めている所
は多くありますが、日本企業でグローバルに集中購買を進めている所はま
だまだ少ないというのが筆者の肌感覚となります。各地域の要件により仕
様の共通化は難しいにしても、調達権限の集約を目的とした集中購買には
上記の様なメリットがありますので、もっと日本企業もグローバルにカテ
ゴリー毎の調達権限の集約を進められた方がよろしいかと存じます。


2022.12.9

vol.100「中国からの2カ月の供給停止で日本は53兆円消失」

 

【今週のトピックス】


「部品など中国から日本への輸入の8割(約1兆4000億円)が2カ月間途絶
すると、家電や車、樹脂はもちろん、衣料品や食品もつくれなくなる。約
53兆円分の生産額が消失する。早稲田大学の戸堂康之教授らがスーパーコ
ンピューターの「富岳」で試算した。(中略)


製品の価格も上がる。供給網の調査会社、オウルズコンサルティンググルー
プ(東京・港)によると、家電や車など主要80品目で中国からの輸入をや
め、国産化や他地域からの調達に切り替えた場合、年13兆7000億円のコス
ト増になる。東証プライムに上場する製造業の純利益の合計の7割にあた
る規模だ。


個別の製品にコスト増を転嫁すると、パソコンの平均価格は5割上がり18
万円に、スマホも2割高い約9万円になる。」
出所)「分断・供給網(上)「世界の工場」分離の代償」『日本経済新聞』
『日本経済新聞』2022年10月18日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221018&ng=DGKKZO65219570Y2A011C2MM8000
閲覧日:2022年11月30日)


米中対立の激化により民主主義国家を中心とするサプライチェーンと中国
を中心とするサプライチェーンとのデカップリングを検討する企業が少な
くありません。


しかし、デカップリングを検討している企業からにとっては思考停止となっ
てしまう様な数字が示されました。中国から日本への供給の8割が止まる
と2カ月間で53兆円分の製造が止まる、調達先を中国から日本や他地域に
変更すると例えばパソコンでは5割・スマホは2割の価格上昇といった具合
です。これらの数字からは現在の中国サプライヤの競争力が高い事が伺え
ます。


貴社でデカップリングを進めたとしても、貴社のすべての競合が同じ様に
デカップリングを進める可能性は低いでしょう。調達先の変更は容易では
なく、そうした能力が無かったり、中国企業からの供給停止リスクを安易
に考えたりといった理由から、多くの企業がデカップリングを進めない可
能性の方が大きいかもしれません。


一方で、中国企業からの供給停止リスクが顕在化する確率もかなり高いと
見込まれ、弊社ではデカップリングを進めるべきと考えています。中国か
らの供給停止リスクが顕在化した場合、それは上記のシミュレーションの
2カ月よりももっと長期間、少なくとも数年は続くものとなるでしょう。
その場合、上記のシミュレーションの結果を援用すれば年間300兆円を超
える生産が止まる事となります。品目カテゴリーによりますが、サプライ
ヤの代替は直材では平時でも少なく見積もっても1年以上掛かるものが殆
どで、且つ中国市場での需要がすべてそれら代替先に殺到しますので、
事が起こってから行動してはかなり単価を引き上げても代替先の確保すら
難しいという事態に陥るのは容易に想像できます。


ですので、まだデカップリングに着手されていない企業については、今か
らすぐに行動を始め、多少時間が掛かったとしても現在の中国サプライヤ
を超える・少なくとも近しい競争力を有する中国の影響を受けないサプラ
イヤの開拓を進めるべきです。難しい調達になりますが、今すぐに始める
事で時間を確保する事により達成可能と考えます。


2022.12.2

vol.99「宮本清水建設会長/ 集約から分散の調達戦略への転換でコスト低減」

 

【今週のトピックス】


「それまで私は現場での作業をできるだけ集約し、1つの業者に一式任せ
た方が効率が上がり、コスト削減に結びつくと思っていた。清水建設の考
え方もそうだった。ところがスポンサーである大成建設は違う手法を採用
した。


例えば、石を打ち込む外壁用プレキャストコンクリート。切断・加工した
石を設計デザインに合わせ並べた後、コンクリートを流し込み板状(PC板)
に仕上げる。この一連の作業を1社に任せるのではなく、石の買い付け、
加工、海外からの運搬・通関・国内運搬、石の配置、コンクリート打設な
どをそれぞれ別の業者に発注したのである。


製作業者が一気通貫で手がけるより、商流をきちんと分析し細分化・単純
化した作業をそれぞれ専門業者にやらせた方が経費を切り詰められるとの
考え方だ。そして実際コストは下がった。」
出所)宮本洋一「私の履歴書(19)最後の現場」『日本経済新聞』2022年
11月22日 朝刊28面


「集約」と「分散」との異なる調達戦略の優位性の比較の話です。一般的
には調達コストは分散の方がコスト低減となりますが、社内コストも含め
たトータルコストはケースバイケースとなります。この違いがどこから生
じるかを考える上でも、まずは、それぞれの戦略の特徴を見ていきましょ
う。


今回のケースでは集約は清水建設の手法がそれにあたります。各専門工事
や工事で使われる材料・什器等の複数の調達単位を集約し1つのサプライ
ヤに任せるもので、買い手企業から見た場合、調達単位間の調整コストが
減り、取引金額を大きくする事で競争時の値下げによる案件獲得のインセ
ンティブを上げるというメリットがあります。


一方で、一つのサプライヤがあらゆる調達単位でNo.1というのは稀で、実
際には外注した上でマージンを乗せるものも多々ありあり、個々の調達単
位で見ると最上位のサプライヤではないという事が殆どです。集約のもう
一つのデメリットは調達単位を集約すればする程、対応できるサプライヤ
が限られるという点です。調達単位が広がればそれらすべてに対応・管理
する能力がサプライヤに求められます。サプライヤが限られるという事は、
それだけ競争環境が小さくなり、サプライヤ選定の自由度が減り、コスト
高となる可能性が高まります。


分散は大成建設のアプローチです。宮本会長の記述の通り、調達単位をそ
れぞれの専門企業向けに細かく分けて設定するものです。集約のデメリッ
トの反対がちょうど分散のメリットになります。メリットの一つはその調
達単位の専門企業のプールからサプライヤを選定しますのでそれぞれの調
達単位の最上位のサプライヤとの取引が可能となる点です。また、調達単
位が限定されますので、それぞれの市場で対応できるサプライヤが増え、
より厳しい競争環境を作る事で一層のコスト低減を引き出せます。実際に
宮本会長のケースではスーパーゼネコンである清水建設のこれまでの調達
手法よりもコストが下がっています。


分散のデメリットは管理工数・コストが必要という点です。分散では調達
単位を細かく分けて調達を行いますので調達案件数が増えます。また、工
程や各工程で使用する部材と業務委託とを分けて調達しますので、それら
の間の仕様・納期のすり合わせを買い手企業が中心となって行わなければ
なりません。この工数・コストが必要となりますので、冒頭に述べたそれ
ぞれの手法を比較した時に例え分散により調達コストが下がっても社内コ
ストも含めたトータルコストはケースバイケースとなるとの評価となりま
す。また、買い手企業内で人員数もしくは管理能力が不足している場合に
は分散のアプローチは取れず集約の調達戦略に絞って調達を進める必要が
あります。


それでは集約と分散のどちらのアプローチが良いのかという問いには、調
達全般に言える事ですがサプライヤという相手のある事なので机上の空論
は意味を為さず、調達結果は調達活動を実際にしてみないと正確な所は分
からないため、それぞれの戦略に基づき見積を取得し検証しないと分かり
ませんと答えざるを得ません。今回の清水建設のケースでも自社内では集
約の方が優位性があると考えられていましたが、実際に分散の戦略を採用
してみて初めてそちらの方が優位性があると明らかになりました。


もし、二つの戦略を検証している余裕が無いという事であれば、分散戦略
をとっても全体を管理する能力が貴社にあるのであれば経験則から分散の
方に優位性があると考えられますので、弊社では分散戦略を推奨します。


2022.11.25

vol.98「ソニー/ 取引先も脱炭素。求められる調達戦略のパラダイムシフト」

 

【今週のトピックス】

 

ソニーグループが専門部隊による取引先の温暖化ガス削減計画を検証する
活動を始めています。背景にあるのは温暖化ガスの排出は自社よりも調達
先から生じる「スコープ3」と区分されるものが圧倒的に多い事がありま
す。ソニーの調査では20年度のグループ全体のCO2排出量約1847万トンの
内スコープ3が9割を占めるとの事です。
参考)「ソニー、取引先も脱炭素」『日本経済新聞』2022年8月22日
(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220807&ng=DGKKZO63252160W2A800C2EA5000
閲覧日:2022年11月16日)


CO2排出量の排出量の殆どが自社からのものでなく、サプライチェーンか
らのものというのは当然と言えるもので、例えば、財務省の年次法人企業
統計調査から計算すると2021年の金融・保険を除いた全産業のコストの内、
社内人件費等を除いた外部支出は85%です。


外部支出には電力等のエネルギー調達に関連する「スコープ2」も含まれ
ますのでソニーの数字の9割より少し小さいですが、コストと経済活動と
はほぼ等しいと考えられますので、金融・保険を除いた全産業をならし
てみると自社事業に関わる8割5分の経済活動は自社以外のサプライチェー
ンで行われていると言っても良いでしょう。


そうなってくると温暖化ガスの削減についても自社ではなくその主要な排
出元となる調達先に着目する事になりますが、サプライヤの温暖化ガス削
減にあたってはやはりそのサプライヤの工程だけで検討しても効果はかな
り限定的となりますので、その先のサプライチェーンを遡っていく必要が
あります。しかしながら、かなりの大手を除き、自社のみならずサプライ
チェーン全体での温暖化ガスの削減に取り組める企業は限られるでしょう
から、ソニーの様な大企業は率先して取引先の中小サプライヤを支援して
いく必要があります。


同じ様な検討が必要なものにサプライリスクマネジメントがあります。供
給リスクを考えた時にリスク要因がそのサプライヤにある事は殆どなく、
その先ないしはその先の先といったサプライヤにある事が殆どでサプライ
ヤのサプライチェーンをかなり遡る必要があります。


こうした潮流は調達戦略のパラダイムシフトを各企業に迫っていると弊社
では考えます。これまでは一部の支配のサプライチェーン戦略を取る企業
を除き、サプライヤをその時のコスト競争力に応じて切り替えられる自由
を求める調達戦略が基本でした。弊社も内製ではなく外部調達をするのは
その自由に価値があると考えていました。しかし、現在は、リスクマネジ
メント・ESGの観点からサプライヤのサプライチェーン迄を把握する必要
があり、その把握に掛かる工数分だけサプライヤの切替コストが上がって
います。


そういった意味ではサプライヤの切替の容易な汎用品や期間限定の短期的
な取引を除いたすべてのサプライヤ選定において、


1) 初回の選定ではコスト競争力のみならず、リスク管理やESG対応を含め
たサプライチェーンマネジメント能力とその改善への協力意欲も含めた厳
密な評価によるサプライヤ選定


2) サプライヤ間の競争ではなく、選定したサプライヤとの中長期に亘る
深いコミュニケーションによるサプライヤのQCDMの改善


に調達購買部門の役割がシフトすると予想されます。特に後者では調達購
買スタッフに求められる役割が、これまでのサプライヤ間の競争や交渉に
よるコスト低減からサプライヤのサプライチェーンの把握とそのサプライ
チェーントータルのQCDM改善に大きく変わるため、そこで求められる能力・
スキルも大きく変わって来ます。


弊社では貴社でも調達購買部門のプロセス・人・組織・テクノロジーをこ
の方向にシフトさせる事をお勧めします。


2022.11.18

vol.97「取引基本契約に物価スライド条項が必須に」

 

【今週のトピックス】

 

建設資材高騰分の請負代金への転嫁が民間建築工事ではなかなか進まない
事を背景に日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長が公共工事と同様
に民間工事においても契約約款に「スライド条項」を盛り込むべきだと訴
えています。
出所)星野 拓美「『民間工事にもスライド条項を』、日建連・宮本会長
を突き動かす人材難への危機感 日本建設業連合会の宮本洋一会長に聞く
(後編)」『日経クロステック/日経アーキテクチュア』2022年10月28日
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01969/102100018/)


スライド条項とは契約において急激な物価変動時に請負代金の変更を請求
できるとするものです。貴社の取引基本契約の雛形に「経済状況の急激な
変化が生じた場合には取引単価・価格を見直すものとする」といった条項
が入っていれば、それがスライド条項です。


スライド条項の適用が迫られているのは建設業界のみではありません。原
材料および資源高・供給難・円安等から値上げが迫られている品目は多岐
に亘り、すべての買い手企業にスライド条項が迫られています。


物価上昇基調の現時点ではスライド条項は値上げにつながるため買い手企
業から見れば好ましくないと思われるかもしれませんが、物価下落時には
コスト低減の機会となります。また、スライド条項が無い場合、サプライ
ヤとしては将来の自社調達コストの上昇を見越してのバッファーとしてマー
ジン率を高めに設定せねばならず、結局は高値づかみとなる可能性があり
ます。弊社は購入単価決定における調達購買部門の役割は買い叩く事では
なく適正な価格を設定する事にあると考えていますので、スライド条項を
契約に設ける事は賛成です。


以前は買い手側の方がサプライヤに対する交渉力に勝っており、スライド
条項どころか、一定期間、価格を固定する価格ロックイン条項を契約に入
れる買い手企業が多くありました。その背景にはそういった企業の調達購
買担当者としては値上げの際には会社に対する説明責任が面倒、場合には
よっては、自社が顧客に対して価格ロックインを約束しており、調達コス
ト上昇リスクを回避するため、営業や経営層が同じ条件の価格ロックイン
条項をサプライヤに押し付ける様に求めているといった事があります。


スライド条項を含めた取引条件は交渉で確定します。しかしながら、現在
から今後はサプライヤも買い手企業に対する交渉力をつけており、価格ロッ
クイン条項は問題外、スライド条項を受け入れないと取引ができないといっ
た場面が多く出てくると予想されます。


調達購買部門としては調達力の更なる強化により交渉力を強化しつつ、自
社経営層・営業に対しこれまでの様に中長期で調達価格を一定期間保つ事
がむずかしくなっており、自社顧客への販売契約においてもスライド条項
を入れる・価格ロックイン条項を入れない様にアラート上げる必要があり
ます。


2022.11.11

vol.96「IMDデジタル競争力ランキングで日本は過去最低の29位」

 

【今週のトピックス】

 

「2022年9月28日、スイスのビジネススクールIMDは2022年の『世界デジ
タル競争力ランキング』を発表した。ランキングの対象となった63カ国・
地域のうち、日本は29位だった。2021年から順位を1つ落とし、2017年の
調査以来、過去最低となった。


世界デジタル競争力ランキングはその国・地域で行政の慣行やビジネスモ
デル、社会全般の変革につながるようにどの程度デジタル技術が活用や展
開ができているかを示すものだ。各国・地域の統計情報のほか、経営者や
管理職に対する聞き取り調査を基に、『知識』『技術』そしてデジタル変
革を展開するための準備度である『未来への準備』の3つの因子や、『人
材』や『規制の枠組み』など9つのサブ因子について順位付けし、総合順
位を決定する。


3つの因子のうち『知識』は2019年の25位から28位、『技術』は24位から
30位、『未来への準備』は24位から28位に転落した。サブ因子のうち
『人材』は2022年に50位、『規制の枠組み』は47位、『ビジネスの俊敏
性』は62位だった。


さらにサブ因子の内訳を見ると、『人材』の中の『国際経験』は63位、
『デジタル/技術的スキル』は62位、『ビジネスの俊敏性』の中の『機会
と脅威への素早い対応』、『企業の俊敏性』『ビッグデータとアナリティ
クスの活用』は63位だった。」
出所)外薗 祐理子「デジタル競争力ランキング過去最低の29位、企業の
『デジタル敗戦』を招いた真因」『日経クロステック/日経コンピュータ』
2022年10月27日(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/102501144/?n_cid=nbpnxt_mled_itmh 
閲覧日:2022年10月31日)


上記の結果で気になるのは人材の「国際経験」「デジタル/技術的スキル」
や企業の「機会と脅威への素早い対応」「企業の俊敏性」「ビッグデータ
とアナリティクスの活用」といった企業経営に関わる因子が日本の順位を
下げている事。これらの因子の評価が低い点は筆者の肌感覚とも一致しま
す。これらの因子が現在の日本企業の国際競争力の低下につながっている
のではないでしょうか。


上記の結果で気になるのは人材の「国際経験」「デジタル/技術的スキル」
や企業の「機会と脅威への素早い対応」「企業の俊敏性」「ビッグデータ
とアナリティクスの活用」といった企業経営に関わる因子が日本の順位を
下げている事。これらの因子の評価が低い点は筆者の肌感覚とも一致しま
す。これらの因子が現在の日本企業の国際競争力の低下につながっている
のではないでしょうか。


筆者は日本企業の国際競争力の低下の原因は、日本の市場がある程度の規
模があるため、日本国内市場での競争のみを考えており、国際競争をあま
り意識していない事にあると考えています。製品仕様の多くが日本国内の
みのガラパゴス仕様になっているが顕著な例でしょう。


しかしながら、現在の人口動態に大きな変化がなければ、中長期的に殆ど
の分野で日本国内市場は縮小していくでしょう。企業規模が大きくなれば
なる程、成長のみならず現在の売上規模を維持するのにも海外市場に打っ
て出ねばならず、そうした市場で勝ち抜くための国際競争力をつける必要
があります。


調達購買部門も当然そうした国際競争力をつけていく必要がありますが、
日本の経営スタイルがボトムアップである事を考えると、経営トップから
そうした指針が示される企業は少ないと考えます。部門の競争力向上は自
衛のためにそれぞれの部門で考えていかなかれば何も起こらず、ずるずる
と競争力を低下させるといった事になりかねません。


自ら改革を進めていくのは容易ではありませんが、そうした人材が日本の
調達購買領域では圧倒的に不足しているのも事実で、この困難な業務を成
し遂げれば、様々な企業から引く手あまたの人材となれる機会です。


お菓子のCMではありませんが「迷ったら、ハズむほう。」困難な挑戦をし
た方がその先のリターンや機会は必ず大きいと筆者は考えます


2022.11.4

vol.95「選外の見積依頼先にフィードバックを」

 

【今週のトピックス】

 

貴方は相見積を行った時に選外の見積依頼先にフィードバックをしていま
すか?弊社はサービスを外販しているので、提案・見積を提出する機会が
多々ありますが、かなりの数の案件でもともと案内されている意思決定日
に連絡がなく、結果・フィードバックを求めても何ら回答が無い事があり
ます。


先方は色々な業務を抱えていて、選外のサプライヤに対応している余裕が
ないのかもしれませんが、この様な対応をしていると結果的にコスト高を
招く事になると考えます。


品目毎にサプライヤの得意分野が若干異なり、最善の調達購買を進めるに
は多くのカテゴリーで複数のサプライヤを必要としており、1社だけと取
引していれば良いというものは非常に少ないと考えます。競争環境の構築
や近年のサプライリスクマネジメントの観点からも複数のサプライヤとの
取引が求められています。


提案・見積にはサプライヤの工数が掛かっているので、そうした誠意の無
い買い手企業からはサプライヤは離れて行ってしまいます。弊社ではフィー
ドバックの無い会社から別の案件で見積依頼が来ても、恐らく、前回フィ
ードバックが無かったのは既に取引先が決まっており、社内ルールで相見
積が義務付けられている等、社内を説得するためだけの当て馬見積の取得
が目的と判断し見積辞退をしています。


弊社はこの様に半分はサプライヤの立場で仕事をしており、サプライヤの
気持ちも分かるので、弊社が提案・見積取得を行う場合には選外のサプラ
イヤにも必ずフィードバックをする様にしています。特に、選外にはなっ
たものの選定社と価格が近い等ある程度の競争力を有するサプライヤには、
選定社の価格が明らかにならない様に数%の下駄を履かせた上で、「次回
の案件で貴社が選定されるには、今回の案件を例とすると〇〇%以上の価
格低減が必要となります。」という形でコスト低減目標を伝え、次回以降
のサプライヤの奮起を促しています。


もし、貴方が選外の見積依頼先にフィードバックをされていないのであれ
ば、これからはされる事をお勧めします。


2022.10.28

vol.94「アイリスオーヤマ/ 機動的に組み替えられるサプライチェーンの構築へ」

 

【今週のトピックス】

 

「アイリスオーヤマ(仙台市)は、中国3工場で製造しているプラスチッ
ク製品の一部について生産を日本国内に移管する。中国から日本への輸出
にあたり、円安長期化や海上運賃の高騰などでコストが上昇していること
に対応する。東アジアを巡る安全保障環境などの変化も踏まえ、さらなる
生産移管やサプライチェーン(供給網)分散も視野に入れる。


生産移管の対象はプラスチック製の収納ボックスやプランターなどの容器
類だ。中国子会社が大連、天津、広州の3拠点で製造。多くを日本に輸出
している。(中略)


一般的に製造業が海外から生産移管をする場合、工場のラインや設備、人
員確保やオペレーション準備に最低でも数カ月かかるとされる。同社は各
工場で稼働率を7割に抑え、常に急な増産などに対応できる体制をとる。
ロボットによる自動化を進め、短期間でスムーズな生産移管ができること
も背景にある。(中略)


電子部品など戦略部品の調達難を背景に、アイリスは21年にサプライチェー
ンマネジメント部を立ち上げた。それまで工場や現地法人ごとに在庫や部
品を管理する体制だったが、本社で一括管理する方式を取り入れた。」
出所)「アイリス、プラ製品生産を一部国内移管」
『日本経済新聞』2022年8月25日 (https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC246IW0U2A820C2000000/
閲覧日:2022年10月17日)


今回のケースの様に、現在、為替・海上運賃・地政学リスクの観点から中
国一辺倒のサプライチェーンの見直しが各社に迫られています。今回はた
またま日本国内への生産回帰となりましたが、今後、日本に続々と生産が
戻ってくるという事ではなく、為替・原材料市況・地政学リスクに応じて
グローバルに機動的に調達先・生産拠点を見直し、サプライチェーンを組
み替えられる体制づくりが迫られていると弊社は考えます。

 

今回アイリス社が生産拠点を移す要因になったのは主に為替と海上運賃の
高騰というそれぞれの市場動向によるもので、中長期的な構造的変化によ
るものではありません。為替・海上運賃や原材料価格等の動向によって、
再び国内生産ではなく海外生産でないと価格競争力に劣るという事態に陥
る事も大いにあり得ます。地政学リスクについては高まる事こそあれ、リ
スクが収束し安定した経営環境が整うという事は短中期的には見込めませ
ん。


グローバルに最適な調達先・生産拠点を選び直し機動的にサプライチェー
ンを組み替えられる体制づくりのヒントを今回のケースは与えてくれてい
ます。
・グローバルに最適な調達先・在庫ならびに生産拠点を決定するには、各
工場や現地法人にそれらの管理を任せるのではなく、グローバルに一元管

・工場の標準時の稼働率を7割に抑え常に急な増産などに対応できる体制
・ロボットによる自動化を進め短期間でスムーズな生産移管を可能に


アイリス社のこうした取組を参考に貴社でも機動的にサプライチェーンを
組み替えられる体制づくりを進めていくべきと弊社は考えます。


2022.10.21

vol.93「セブン&アイ・ホールディングス/ 低価格PBブランド『セブン・ザ・プライス』開始」

 

【今週のトピックス】

 

株式会社セブン&アイ・ホールディングスがグループのプライベートブ
ランド(PB) 「セブンプレミアム」において、より低価格を追求した「セ
ブン・ザ・ プライス」を新たに展開します。
出所)「確かな品質と安心価格で、『これはおトク』とうれしくなる セ
ブンプレミアムの新ブランド『セブン・ザ・プライス』誕生」『株式会社
セブン‐イレブン・ジャパン ニュースリリース』2022年9月26日


価格を抑えるために同社は、例えば納豆では競合製品には当たり前に
付いているからしとたれの添付を止めました。これにより、材料費を
抑えるだけでなく、パック時の作業工の低減にもなります。商品設計・構
成のシンプル化と部品点数削減にちよる製造工数低減の事例です。


きざみ沢庵では切れ端もあます事なく使う事で材料の歩留まり改善を行っ
ています。


商品パッケージでは色数を4色ではなく2色とする事で印刷費を低減してい
ます。


元々は「ザ・ プライス」はイトーヨーカ堂限定のPBでした。これを
他のグループ企業のヨークやセブン-イレブンにも拡大し原材料の購
買量を増やす事で、更なるコスト低減を引き出していると考えられます。


個々の施策を見ると魔法の杖の様な奇策はなく、基本に忠実な施策の積み
重ねで今回の低価格PB実現している事が伺えます。コスト低減には目標価
格とQDMのすべてを満たす夢の様なスーパーサプライヤの登場を待つので
なく、サプライヤ選定の厳正化に加えて、VEやデマンドマネジメントといっ
た基本的な施策を積み重ねて行く事が王道であると、今回のケースに改め
て感じさせられました。


2022.10.14

vol.92「社会的責任のある調達がトレンドから基本動作に」

 

【今週のトピックス】

 

先週の編集後記でご紹介したフィットネスジム関連の内装品の海外調達で
特に印象に残ったのは、お客様から「サプライヤへの見積依頼項目にカー
ボンニュートラルの取組の紹介を加えてほしい」との依頼を受けた事でし
た。


今回の調達目的はコスト低減でしたが、それでも加点項目として評価する
ので加えてほしいとの事でした。その依頼に対して現地の中国人スタッフ
からは「中国のサプライヤではカーボンニュートラルに取り組んでいる所
は多い」との回答でした。利にさとい中国人が実践しているという事は、
カーボンニュートラルは買い手企業へのアピールとなり、それらのサプラ
イヤにとって実際の利益になっていると考えられます。


日常の調達案件の評価項目にカーボンニュートラル等の社会的責任のある
調達に関連する項目が加えられ、サプライヤが選定に残るためにそれらの
項目に対応する。社会的責任のある調達がトレンドから調達購買の基本動
作として定着しつつあると感じた瞬間でした。


2022.10.7

vol.91「ヤフー/ 需要の平準化で配送コスト低減」

 

【今週のトピックス】

 

ヤフーは「アスクルのネット通販『LOHACO(ロハコ)』で通常より数日遅
い配達を選べる実証実験を始める。対象は10月9日までの日曜日。特典と
してスマートフォン決済『PayPay(ペイペイ)』のポイントを付与して利
用を促す。日曜日は注文が集中するため、配達日を分散させ物流や環境の
負荷軽減につなげる。


サービス名は「おトク指定便」。希望の配達日を遅らせるほどPayPayポイ
ントの還元率を上げる。還元率は検討中で、効果が確認できればヤフーの
電子商取引(EC)サイト『Yahoo!ショッピング』全体への拡大も検討す
る。


EC業界では翌日配送など配達の速さを競ってきた。新型コロナウイルス禍
の巣ごもり需要でECが拡大したことや慢性的な人手不足も影響し、宅配ド
ライバーの需給は逼迫している。急がない利用者に数日後の配達を促し、
物流への負荷を下げる狙いだ。」
出所)「ヤフー、ロハコで期日遅い配送便」『日本経済新聞』2022年8月24日
(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220824&ng=DGKKZO63694090T20C22A8TB2000
閲覧日:2022年9月25日)


ご存じの通り、価格の決定要因の一つに需給バランスがあります。供給が
逼迫していれば価格は上昇します。


2020年以降、運転手を中心とした労働力不足で国内陸運の運賃は上昇傾向
にあります。その一つにはEC業界を中心とした翌日・当日配送といった配
達の速さを競う競争です。配達日数を短縮しようとすれば、積載率を無視
して配達速度を優先せざるを得ません。積載効率が下がれば、便数を増や
さざるを得ず、便数を増やすには運転手の増員が必要となります。そのた
め運送会社各社は運転手を確保するために給与を上げざるを得ず、それが
運賃にも反映される事となっています。


コスト低減の手法の一つにサプライヤの採算改善への協力があります。サ
プライヤの採算を改善すれば値下げの余地が生まれるので、そこから生じ
た値下げ余地を価格に反映させるものです。


固定費の採算改善にはその設備・資産効率の改善が有効です。設備・資産
効率改善方法としてはキャパシティマネジメントと需要の平準化がありま
す。


ピークに合わせて投資しキャパシティを拡大してしまうと、そのキャパシ
ティに見合った仕事量を非ピーク時にも確保する必要が生じます。特に、
ピークと非ピーク時との需要の変動が大きい場合には、ピーク時にキャパ
シティを合わせてしまうと非ピーク時の稼働率が大きく下がってしまいま
す。一方で、キャパシティに制約があると、それを超える案件の受注がで
きなくなるので、単純にキャパシティを絞れば良いという話でもなく、サ
プライヤがどの様な事業を志向するのかという戦略に基づく意思決定が必
要です。


このピークと非ピーク時との需要の差を小さくし、平均して設備・資産の
稼働率を上げようというのが需要の平準化です。トヨタのJITの前提にも
この需要の平準化が置かれています。需要が平準化すれば設備・資産の平
均稼働率が上がりますし、需給ギャップに備えるためのまとめ生産による
在庫を抱えずに済み、在庫のムダも無くなるという発想です。


今回のケースの配送リードタイムに猶予を設ける試みは、配送会社(サプ
ライヤ)により計画的に配送手配を組む機会を設け、日々の需要のバラつ
きを猶予期間の間でならす事により需要の平準化を行い、サプライヤの積
載効率を改善するものです。配送業務委託の仕様として、恐らく、配送リー
ドタイムが通常より長めに設定されているでしょう。

 

そこ効果として以下の三点が考えられます。
1) サプライヤの採算改善の還元によるコスト低減
2) 要求水準・キャパシティに猶予が出た事によるより多くのサプライヤ
との取引可能性・配送能力の確保
3) より多くのサプライヤ間での競争によるコスト低減


サプライヤに単純に価格もサービスもと求める事はできます。しかしなが
ら、過度なサービスレベル・品質を求める事で、実は貴社にとって最善の
サプライヤとの取引を失っているかもしれません。適切な仕様設計がコス
ト低減となります。


安易に他社が当日・翌日配送をしているからといった理由でウチもと同質
競争に陥るのではなく、配送スピードよりも価格(ポイント)を求める顧
客を囲い込むといった異なる競争軸を持ち込む方が競争戦略上は優位と考
えます。孫氏曰く「 戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。」
です。


2022.9.30

vol.90「実のある調達購買業務には調達購買のデジタル化から」

 

【今週のトピックス】

 

「米航空宇宙局(NASA)などが昨冬に打ちあげた巨大な宇宙望遠鏡『ジェー
ムズ・ウェッブ(JWST)』の観測画像を初めて公開した。画像は極めて
鮮明で、既存の宇宙望遠鏡の100倍とされる能力を存分に発揮。(中略)


遠い銀河や恒星の観測に詳しい大栗真宗千葉大学教授は『これまで観測で
きなかった遠い銀河の細かい構造まで見えていて、予想以上にすごい』と
話す。画像だけでなく、同時にデータが公開された銀河の光を詳しく分析
したスペクトルも重要だ。スペクトルから銀河にどのような元素が含まれ
るかなどが分かるが『今まで見えなかったものが、はっきり見えた』と大
栗教授は驚く。(中略)


太陽系外惑星『WASP-96b』はスペクトルのデータだけが公開された。ス
ペクトルを調べることで大気にどのような成分が含まれているかがわかり、
今回は水が存在することが確認された。太陽系外惑星に詳しい成田憲保東
京大学教授は『従来より観測できる波長の幅が広がり、精度もよくなって
いる。詳しく解析するとメタンなど水以外も見えているのではないか』と
話す。」
出所)「『最初の星』に迫れ 『性能100倍』宇宙望遠鏡の画像公開」
『日本経済新聞』2022年7月20日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220720&ng=DGKKZO62740170Z10C22A7EA1000
閲覧日:2022年9月14日)


調達購買業務も現状が見えないと何も始まりません。例えば、コスト低減・
カテゴリーマネジメント・調達戦略策定には何を誰から幾らで買っている
のかをまずは知る必要があります。会計の勘定科目レベルでの製造経費が
幾ら・補修費が幾ら・業務委託費が幾ら・広告宣伝費が幾らといった情報
では調達活動は始められません。


購買統制も同じで契約購買比率がどれ位なのかといった数字が必要です。
サプライリスクマネジメントや社会的に責任のある調達の推進には各サプ
ライヤのBCPやESG経営への対応状況がどうなっているか把握する必要が
あります。


サプライヤのパフォーマンス改善には各サプライヤのQCDMの評価がどう
なっているのか、調達購買業務の改善には要求元の調達依頼から選定結果
通知迄・契約雛形発行から締結迄・購買申請から発注迄といった各業務の
サイクルタイムや掛かっている社内工数を把握する事でどこに課題がある
のかを明らかにする必要があります。


こうした情報を取得するには宇宙望遠鏡ではなく、調達購買業務ならびに
支出・BCPやESG対応調査票等のサプライヤからの提出情報・サプライヤ
の評価情報等のデジタル化が必要です。実のある調達購買業務を進めてい
くには調達購買のデジタル化が始まりとなります。


2022.9.16

vol.89「五輪組織委元理事を逮捕/サプライヤとの癒着・サプライヤ間の癒着を 防ぐには」

 

【今週のトピックス】

 

「東京五輪・パラリンピックの大会スポンサーだった紳士服大手のAOKI
ホールディングス(HD)側から現金5100万円の賄賂を受け取ったとして、
東京地検特捜部は17日、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)を
受託収賄容疑で逮捕した。」
出所)「五輪組織委元理事を逮捕」『日本経済新聞』2022年8月18日
朝刊1面


今回はこの事件を参考に、貴社が担当者のサプライヤとの癒着・サプライ
ヤ間の癒着を防ぐにはどの様にすれば良いか考えていきます。


今回の事件で目に付くのはスポンサー選定の経緯が高橋氏の下でブラック
ボックス化し、対等以上の立場で高橋氏に意見できる者からのチェックが
入っていない点です。同じ轍を踏まぬ様、貴社がサプライヤを選定する際
には選定プロセスの透明化が必要で、金額に応じてサプライヤ選定結果・
経緯を承認者が確認・決裁する形にする必要があります。


選定プロセスで担当者とサプライヤとの癒着を見抜くには、一つはその確
認プロセスでその調達案件に招待されたサプライヤリストを確認します。
そこでそのカテゴリーで有力なサプライヤが参加しているか、適切な数の
サプライヤが招待され競争が働いているかを確認します。


また、仕様・要件が調達目的にそぐわない形で選定されたサプライヤが有
利になる様に設定されていないかをチェックします。


サプライヤ間の癒着を見抜くには各社からの見積をチェックします。例え
ば、普段は価格競争力のあるサプライヤが普段とは異なる高止まりの見積
となっている・選定者のみが飛びぬけて安い・参加サプライヤすべての見
積が極端に非常に接戦となっている等の異常値がないかを確認します。


こうした異常値を発見したら、各サプライヤにどうしてその様な見積となっ
たか背景をヒアリングします。そこで納得の得られる説明が為されたかっ
た時にはサプライヤ間の談合を疑った方が良いかもしれません。


中期的な対策としては、担当者とサプライヤとの癒着を防ぐにはカテゴリー
毎の担当者の変更を、サプライヤ間の癒着を防ぐにはカテゴリー毎のサプ
ライヤプールに適宜新規を入れるの有効な手段です。


幅広いカテゴリーを見る事になりますが、承認者には各カテゴリー毎の有
力サプライヤとそれらの間での序列・価格レベルは頭に入れておく必要が
あります。


2022.9.9

vol.88「海外サプライヤの日本離れへの対処が必要」

 

【今週のトピックス】

 

「新型コロナウイルス禍で日本の港湾競争力低下に拍車がかかっている。
海上物流の混乱が長期化する中、海運会社は貨物量の少ない日本への寄港
に後ろ向きで、国内主要港へのコンテナ船の寄港隻数は2021年に00年以
降で最低を記録した。米国の主要港への直行便が減る中、荷主は韓国など
国際ハブ港経由での輸送に切り替えざるを得なくなり、輸送日数の予想が
難しくなるといった問題も浮上している。」
出所)「日本、港湾の競争力低下」『日本経済新聞』2022年8月28日朝刊
2面


別の形で弊社が肌身で感じている事を示している記事だったため、今回採
り上げました。それは日本の市場としての魅力の低下です。弊社ではグロー
バル調達代行やシステム導入で海外のモノ・システム・サービスを日本に
入れていますが、言葉の壁や規制・商習慣等で日本だけで閉ざされた市場
となっており、かなり苦労しています。世界3番目の市場であり、参入し
たければ相応の努力をしろという言い分があるのは理解できます。


しかしながら、サプライヤも顧客・市場を選べるという考え方に欠けてい
ると感じます。確かに国として日本はある程度の規模がありますが、市場
は国単位でなく、複数の国々の面で捉えられるものが多く、それらの方が
日本市場よりもはるかに大きかったりします。ある程度の市場規模がある
にしても、日本市場での販売に掛かる手間や時間を考えると、そちらの市
場を優先し日本市場を敬遠するサプライヤが出てきているのも事実です。


本記事中では海運会社の日本離れで日本発の海外市場への直行便が減少、
それに伴い輸送リードタイムが長期化し、輸出拠点としての日本の魅力の
低下、海運会社の更なる日本離れという負のサイクルに陥る懸念が指摘さ
れています。また、多くの市場は人口に市場規模が比例しますので、この
まま少子化・移民非受入が続けば様々な材での市場の縮小・日本の魅力の
低下が続くでしょう。


海外サプライヤの日本離れに対処するには、まず日本政府に規制を日本独
自の規格ではなく国際規格に基づくものにする・移民政策の推進といった
対応を求めたい所ですが、これらはそうそうすぐには進まないでしょう。
各企業が自社の裁量の範囲で仕様を海外市場に合わせ門戸を開放する努力
が必要です。そうする事により、グローバルのより厳しい競争に晒された
優れたサプライヤを自社のサプライチェーンに組み込み、競争力を高める
事ができます。


企業としてのもう一つの方策は販売市場を海外に求める事です。大企業で
もまだまだ売上の多くが日本市場という所が多くあります。海外売上が多
少あっても、その多くが輸出が中心という所が少なくありません。サプラ
イチェーンの競争力を高める並びにリスクマネジメントの観点から、でき
る限り需要地の近くで生産するのが主流となっています。日本離れを進め
る事となりますが、自社を守るには必要な事と考えます。


2022.9.2

vol.87「アマゾンエコー原価、旧型の半値」

 

【今週のトピックス】

 

「米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「エコー」の普及モデ
ルを分解調査した。部品価格を合計した推定原価は24ドル(約3200円)
と旧機種から半減した。(中略)


コスト削減に大きく寄与しているのは電子部品と素材だ。例えばメイン半
導体の推定価格は5ドルで台湾・聯発科技(メディアテック)製だった。
半導体は毎年性能が向上するが、古い製品はその分価格が下がっていく。
旧モデルからほとんど性能が変わらない半導体を採用することで価格を抑
えた形だ。


中核以外の半導体でもコスト削減の秘訣がある。これまで米国メーカー製
だったオーディオ用半導体はメディアテック製になり、韓国サムスン電子
製が使われていた記憶装置では米マイクロン製の価格が安い部品に切り替
わっていた。


また筐体(きょうたい)は旧モデルではアルミ製だったが、プラスチック
になった。筐体の価格は1ドルと10分の1程度に抑えた。」
出所)「アマゾンエコー原価、旧型の半値」『日本経済新聞』
2022年8月16日朝刊14面


今回はコスト低減についての色々な示唆を含むアマゾンのエコーの事例で
す。最初のポイントは商品コンセプトの明確化です。そもそも旧型とこの
商品を比べて良いのかという位、商品の位置づけが変わっています。これ
まではスマートスピーカという単体のハードとして販売されている側面が
ありました。そのため、製品単体の魅力度を高める必要がありました。


しかしながら、このエコーの普及モデルは発売して1年も経たない内から
原価割れで販売される等、動画・音楽のコンテンツ配信や会員制サービス
のプライム等のアマゾンの各サービスの販売チャネルとしての側面に重き
が置かれる様になっています。そのため、今回の普及モデルの機能・仕様
は必要最低限のものに抑え、コスト低減を徹底的に追及したものとなって
います。


スマートフォンや日本の家電メーカは新しいモデル投入時には消費者が求
めているか否かに関わらず、機能追加等により製品売価の維持・アップを
試みます。しかしながら、アマゾンはコスト低減という至上命題を果たす
ために、中核となる半導体の性能を維持し、年々性能比単価が低減すると
いう半導体の特性を活かしてコスト低減を果たしました。また、筐体をア
ルミからプラスチックにダウングレードしています。これならば確実にコ
ストは下がります。


次いでのポイントはコスト低減には何かを変える必要があるという事です。
基本的に最初の選定で適正にサプライヤを決定していれば、半導体の様な
特殊なカテゴリーを除き、交渉で価格を下げるのは難しく、何かを変える
必要があります。実際、アマゾンはオーディオ用半導体や記憶装置ではサ
プライヤを変更しています。繰り返しになりますが、筐体ではグレードを
下げています。こちらは仕様・材料変更です。


今回のケースでは抜本的なコスト低減には、
1. 商品コンセプトの明確化とそれに合わせた仕様の適正化
2. 仕様・サプライヤ等何かを変える
といった手法が有効である事を示しています。


2022.8.26

vol.86「ユナイテッドアローズ/ 新疆綿の使用を中止」

 

【今週のトピックス】

 

「セレクトショップ大手のユナイテッドアローズは2023年の秋冬向け商品
から、全ブランドで中国の新疆ウイグル自治区で生産された綿花の使用を
中止することを決めた。今年の秋冬商品から一部ブランドで先行して使用
をやめる。ウイグルでは強制労働の疑いがあり、消費者や投資家の視線が
厳しさを増していることに対応する。


米国が6月、新疆ウイグル自治区からの輸入を原則禁止する法律を施行する
など、同地の人権問題には厳しい目が向けられている。ユナイテッドアロー
ズは新疆綿の使用に関する姿勢を明確にしていなかったが、『人権侵害な
どの疑いがある素材を商品に使用するのは企業活動として適切でない』と
判断した。


現時点での新疆綿の使用量は調査中としている。各取引先に産地の確認を
求め、新疆綿を使っていることが判明すれば使用を取りやめる。ただ、使
用する素材は多岐にわたり『意図せず使用してしまう可能性はある』と難
しさをにじませる。」
出所)「ユナイテッドアローズ、新疆綿の使用を中止」『日本経済新聞』
2022年7月22日朝刊16面


米中の対立が激しくなる中でサプライチェーンの組み方が非常に難しくなっ
ています。新疆綿の使用も判断が分かれるテーマです。新疆綿を使い続け
れば欧米市場から排斥されるリスクがあります。一方で、新疆綿の利用を
辞めれば中国市場から排斥されるリスクがあります。


規制が製品を対象としたものであっても、新疆綿を巡るこれらの市場から
の排斥リスクはそれぞれの企業の価値観を巡る風評リスクのため、市場毎
にそれぞれに即した原材料を使い分けても免れる事ができない可能性があ
ります。


このケースにおいて二兎を追うのは両方の市場を失うリスクが高く、中国
市場を取るか、欧米市場を取るかの判断が迫られています。この場合、覚
悟を決め、自社にとりより重要な市場のどちらかを選ぶ必要があります。
決断をする事でどちらかの市場から排斥されるリスクを取る事により、取っ
ているリスクが特定されます。リスクが分かっているのであれば対策が取
れますので、リスクを取った市場から排斥される可能性を低減する事が可
能です。

 

反対にやってはいけないのは現状維持・意思決定の先延ばし等で気付かな
い内にリスクを取っている・両方の市場から排斥されるリスクを抱えると
いった事態です。事故発生時に良く聞く「想定外でした。」という言葉が
示す通り、リスクマネジメントはリスクを特定する事から始まります。


2022.8.19

vol.85 「コスト増はサプライヤが必ず吸収すべきもの?」

 

【今週のトピックス】

 

「サプライチェーン全体で中長期にわたる競争力の強化に取り組むため、
足元の厳しい事業環境による仕入先の負担を当社が一旦受けとめます。」
出所)トヨタ自動車株式会社『2023年3月期 第1四半期決算情報 決算報
告プレゼンテーション資料(スクリプト付き)』、2022年


筆者はこのフレーズを見た時に違和感を覚えました。このフレーズには
「本来はコスト増はサプライヤが吸収するものだが、敢えて買い手企業の
ウチが負担してやっている。しかも、それは一時的なもので将来的にはサ
プライヤの方で負担しろよ。」といった前近代的な買い手企業の立場にあ
ぐらをかいた驕りや、「本来このコスト増はサプライヤが吸収すべきもの
だが、ウチが大企業で社会的責任のある立場なのでサプライヤを支えるた
めに負担する」といった偽善が感じられるからです。


価格は需給バランスで決まります。供給側の「この価格で売りたい」と需
要側の「この価格で買いたい」という意思のぶつかり合いです。それぞれ
が「この価格でなら売っても良い」「この価格でなら買っても良い」と合
意する事で初めて取引が成立します。


こうした原理原則を無視して「価格変更は一切認めない」というのは、か
なりに無謀な主張です。例え、契約で価格維持を縛ろうとしても、通常は
コストに大きく影響を与える経済情勢の変化があれば価格を見直す条項が
入るのが一般的です。仮にその条項が無かったとしてもあまりにも不当な
契約は無効となる可能性が高いです。無効とならなかったとしても、サプ
ライヤは契約破棄・取引解除という手段に出てくるでしょう。


会社としてこうした調達購買の基本が理解されていないのであれば、それ
は組織的な調達購買力の乏しさを示すものですのでかなり由々しき事態で
す。今回のフレーズはあくまでも原稿を書いたスピーチライターの個人的
なものでトヨタの会社としての考えではない事を祈ります。


2022.8.12

vol.84「日本の調達購買のDXにはAIの前にデータ・プロセスのデジタル化とデータ活用から」

 

【今週のトピックス】

 

先日ある経営コンサルタントの方とお話していて、調達購買のDX・シス
テム関連の話では調達購買でのAIの活用事例の調査依頼が多いという事
を伺いました。


そこでその方と筆者との意見が一致したのは、日本のユーザ側ではDX=AI
の様に思われている方々が多いけれど本来はそうではない、そもそも日本
では業務で必要とされる情報やプロセスがデジタル化されていないの二点
でした。


DXは企業が競争上の優位性を保ち続けるべくデータとデジタル技術を活用
し、常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、「素早く」変革「し続ける」
能力を身に付け、実際に変革し続ける事と弊社では捉えています。AIはこ
れを実現するためのデジタル技術の一つにすぎず、決してAI=DXではあり
ません。AIが必要とされれない業務や場面は多々あります。


AIを機能させるには大量の学習用のデータが必要ですが、日本の企業では
調達購買プロセスがシステム化・デジタル化されておらず、そこで使われ
たり得られる情報がデジタル化されていないというケースが多く見られま
す。

こうした状況でAI活用をうんぬんしてもAIが機能するはずはありません。
こうしたケースではまずプロセスのシステム化とそこで使われる情報・
アウトプットとして出てくる情報のデジタル化が先決です。


それらが実現されて初めて、他の技術と横並びでAIを一つの手段として
活用を検討するというのが、課題に対して適切な解決法を見出す手順とな
ります。


2022.8.5

vol.83「中国政府/ ハイテク製品での外資排除を拡大」

 

【今週のトピックス】

 

「中国政府は業界ごとに製品の技術などを定める『国家標準』で、ハイテ
ク製品での外資排除を拡大する。中核部品を含めて中国で設計、開発、生
産をするよう求める。外資企業は中核技術を渡すか、中国市場から事実上
撤退するかの判断を迫られる。


中国の国家標準を手掛ける国家標準化管理委員会と品質管理を担う国家市
場監督管理総局が4月、複合機やプリンターなどのオフィス機器を対象と
した国家標準を刷新する検討に着手した。今年中に意見募集案を策定し、
2023年の実施を見込む。将来はパソコンやサーバーにも広がる可能性があ
る。


検討の草案によると、半導体やレーザー関連などの中核部品を含めた中国
国内での設計、開発、生産を新たに要求した。従来は情報漏洩の防止など
の安全技術が柱だったが、中国で完結するサプライチェーン(供給網)の
構築を求めた。


通信や情報サービス、エネルギー、交通、金融などの重要情報インフラ企
業は国家標準に適合した製品のみを購入することが義務付けられる。」
出所)「中国、ハイテクで外資『排除』」『日本経済新聞』2022年7月6日
朝刊15面


今回のケースは営業サイドの話ですが、製品に組み込まれる中核部品を含
めたサプライチェーンを規制するものですので、当然、これらに関わる調
達・サプライチェーンマネジメント業務に影響が出て参ります。


また、現時点ではハイテク製品に限定した話ですが、これまでの中国政府
の動きや中国を巡る国際関係の状況次第では、今後中国がサプライチェー
ンにどういった形で制限を掛けてくるか不透明なため、どういった品目に
こうした動きが広がるか分かりません。


サプライチェーン寸断リスクを考えると、何れの品目であっても、中国を
中心とした強権国家市場向けとそれ以外の市場向けの二つのサプライチェー
ンを調達サイドでは持つ必要があると弊社では考えます。


2022.7.29

vol.82「サプライヤが弱小・苦しい時が戦略的パートナーシップの機会」

 

【今週のトピックス】

 

強力なタッグで先端半導体市場をリードする台湾積体電路製造(TSMC)
とオランダの半導体製造装置大手のASMLですが、その関係は1980年代の
創業期からの深い縁で始まっています。


「『創業時の資金調達が大変難しく(日米の企業が関心を示さないなかで)、
TSMCの創業に唯一、手を差し伸べてくれた海外企業がフィリップスだった』。
創業に携わった清華大学の史欽泰教授はそう当時を振り返る。TSMC創業者
の張忠謀(モリス・チャン)氏は、この時もインテルに出資協力を仰いだ
が、無念にも断られた。」フィリップスはASMLの親会社でもあり、TMSC
とASMLとのビジネス面での仲介も行って参りました。


後の1997年、インテルが国際的なコンソーシアムを立ち上げ、米モトロー
ラなどと共同で最先端のEUV装置の開発に乗り出した際に、インテルはTSMC
の参画をかたくなに拒否。TSMCはASMLをパートナーに選び、この屈辱を
バネに2社でEUV開発にまい進。紆余(うよ)曲折を経ながらも、インテル
がなし得なかった世界初のEUVの実用化にこぎ着け、2019年から先端半導
体の量産を成功させました。
出所)「半導体2強、進む技術支配」『日本経済新聞』2022年6月29日朝
刊12面


調達購買の世界ではサプライヤとの信頼関係が重要と言われますが、会社
対会社でそうした関係を築く事は容易ではありません。特にそのサプライ
ヤが成功してからすり寄った場合にはなかなかそうした関係に迄至らない
でしょう。


筆者は総合商社に勤めていた時に商社の機能の調査・提言を行う業務を担
当しており、その一つに現在の商権がどの様にして成り立ち、現在自社が
果たしている機能について調査するというものがありました。そこで得ら
れた結果の中で、グロバール化や電子メール等のグローバルコミュニケー
ション技術が進展しサプライヤが成長した現在に至っては、総合商社が果
たしている機能に価値があまり見出せないものの、その事業の立ち上げ期
に与信や総合商社の物理的なグローバルネットワーク等によりサプライヤ
を支える事で商権を獲得、何十年もその商権が続いているというものが多
くありました。


会社は人の集団で成り立つもの。グローバル化・IT化が進もうと、相手が
弱小・苦しい時に支援するのが強固な関係構築につながるというのは不変
の様です。すべてのサプライヤとそうした関係を構築すべきとは考えませ
んが、技術的制約等でその会社からしか買えないという様なカテゴリーに
ついては、例え相手が小さくとも、否相手が小さい時こそこうした関係が
築きやすいので、積極的にサプライヤとの長期パートナーシップ戦略を採
り、そのサプライヤと共に事業を大きくしていくというのがかなり有効な
戦略の一つとなります。


2022.7.22

vol.81「日本電産/ EV半導体発注を集約」

 

【今週のトピックス】

 

「日本電産は2022年内に電気自動車(EV)向けなど車部品用の半導体に
ついて、メーカーへの発注をグループで集約する。重複する製品をまとめ
て注文し、発注量の多い顧客との取引を優先するメーカーへの交渉力を高
める。長期の購入契約を結び、安定調達につなげる取り組みも始める。」
出所)「日本電産、EV半導体発注を集約」『日本経済新聞』2022年6月8日
朝刊17面

 

調達の基本は購買力というケースです。交渉力は購買力から生じるものの
一つですが、交渉力=購買力ではありません。購買力は色々な要素の組み
合わせで生じるもので、一言で言えば「購買力とは買い手企業がサプライ
ヤにその取引を魅力的に見せる組織的な力」となります。


供給難の現在では想像できないかもしれませんが、購買力があれば交渉せ
ずともサプライヤの方から良い条件の提案を持ってきます。購買力を醸成
するには「お客様は神様」といったハリボテの立場にあぐらをかかず、取
引を可能な限り魅力的に見せるべく努力する必要があります。


例えば、今回のケースのグループ集中購買で発注量をまとめる、長期契約
で安定的な取引である事を示すといった行為がその努力にあたります。長
期契約は安定的な取引である事を示すだけでなく、取引期間中の発注量を
まとめる事で取引量を増やすという効果もあります。


発注量を増やす以外にも購買力を高める方法は色々あります。より多くの
サプライヤと接触する、期限内に支払をする、約束を守る、価格交渉に真
摯に対応し適正な値上げは受け入れる等々、競争環境を構築する一方、貴
社との取引をサプライヤに魅力的に見せる努力が貴社の購買力の強化につ
ながります。


少なくとも後数年は調達難の時代が続きそうですので、貴社の購買力を磨
く事が不可欠となります。


2022.7.15

vol.80「テレワーク導入はもう不要?」

 

【今週のトピックス】

 

総務省が5月に発表した通信利用動向調査によりますと、「テレワークを
導入している企業の割合は 51.9%に達し半数を超えた。導入目的は、
『新型コロナウイルス感染症への対応(感染防止や事業継続)のため』の
割合が9割を超えており最も高い。」との事です。


一方で、この調査の中でテレワーク導入済みに今後導入予定の企業を含め
た比率は2020年の58.2%(内、導入済み47.5%から2021年は57.4%に
下がっており、テレワーク導入が頭打ちになっている傾向が読み取れます。
出所)「令和3年通信利用動向調査」 総務省 2022年5月27日


コロナ禍が解消するPostコロナは少なくとも何年かは来ず、コロナ禍が
再来するWithコロナの時代が続き、再び緊急事態宣言が発令される可能
性を想定し業務設計すべきと弊社では考えます。BCPの観点から、必要に
応じてテレワークの体制が取れる様にしておくべきです。テレワークに対
応する事は柔軟な勤務体系を希望する求職者を引き付ける事ができるといっ
た採用面のメリットもあります。


テレワークについてはそれぞれの経営者の考えにより採否が分かれますが、
業務のデジタル化はあらゆる企業にメリットがあり、こちらはすべての企
業で検討すべきです。テレワーク化=デジタル化ではありませんが、テレ
ワークには業務のデジタル化が不可欠です。テレワーク導入が頭打ちにな
る中で業務のデジタル化の取組も止まってしまっているという事がないの
を祈ります。


2022.7.8

vol.79「電力調達では内製化が調達戦略の一つに」

 

【今週のトピックス】

 

電力供給が不安定になる中で電力調達を内製化する動きが出ています。物
流施設開発の日本GLPは新規事業としてデータセンター運営を考えていま
すが、既存の物流施設と合わせその電力は自社での再生可能エネルギー発
電により賄う計画である事を明らかにしました。
参考)「日本GLPが再生エネルギー事業に参入。新会社FPSを設立 エネル
ギーバリューチェーンを構築へ」『日本GLP株式会社プレスリリース』
2022年4月5日


現在、電力需給は世界的に大きな転換点を迎えています。需要面では脱炭
素化の要請が高まっており、中長期的には再生可能エネルギーによる発電
で電力を賄っていく事が求められています。供給面で見た場合、現時点で
はすべての電力需要を100%再生可能エネルギー発電で賄う目処は立って
おらず、再生可能エネルギー調達において供給不足が生じる事は明らかで
す。


こうした時に調達戦略の一つとして生じるのが内製化です。内製化は調達
対象がモノから設備・人材と大きく変わる、多大な初期投資が生じる、費
用が変動費から固定費に変わるといった理由から通常の調達戦略検討の中
では検討の俎上に上る事はありません。


しかしながら、電力調達においては需要面においてコスト低減のみならず
脱炭素化への対応といった新たな要件が加わる一方で、サプライチェーン
の転換やリスクの増加といった要因が加わる中で、現実的な戦略の一つと
して内製化を検討する局面を迎えているといえます。


2022.7.1

vol.78「欧州で販売する製品のサプライチェーンに組み込まれている企業が気にしなければならない事」

 

【今週のトピックス】

 

以前に比べ、経済安全保障や人権への配慮等、政治がサプライチェーンに
影響を与える度合いが増えている様に感じます。そうした中で欧州で販売
する製品のサプライチェーンに組み込まれている企業に影響がありそうな
ものが「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」です。


DPPは欧州連合(EU)が進めている新たな規則案です。DPPでは個々の製品
の部品ごとの詳細な使用原材料やその含有割合・環境負荷など環境関連情
報に関するデータ群の提供を求めています。もし、DPPが制度化された場
合にはバイヤ企業はサプライヤに各部品の納品時にDPPの提出を求める事
になるでしょう。


これは各サプライヤにDPPの作成、バイヤ企業にDPPの保管・管理を求め
る事になり相当の負荷となる事が予想されます。ですので実際に制度化さ
れるか否かを見極めていく必要があります。現在、法制化が進められてい
る電池規則ではバッテリー分野におけるDPPが議論されており、DPPの先
行事例となりそうです。


REACHやRoHS等、実現が難しそうな規則でもEUは押し通してきた実績が
あります。欧州で販売する製品のサプライチェーンに組み込まれている企
業にとってDPPは新たな頭痛の種となるかもしれません。


2022.6.24

vol.77「調達購買部門が調達を断念せざるを得ない機会が増える?」

 

【今週のトピックス】

 

「回転ずし「スシロー」を展開するFOOD&LIFE COMPANIESは21日、養殖事
業を手掛ける新会社を設立したと発表した。エサの調達や販売、魚の品種
改良などに取り組む。回転ずし業界は漁獲量の減少や漁業の人手不足、魚
の価格上昇などで将来の安定調達に不安を抱えている。安価で品質の良い
魚を安定して仕入れるため、養殖事業に関わる。」
出所)「スシロー、養殖の新会社」『日本経済新聞』2022年4月22日朝刊14面


世界的な供給難が続く半導体に加え、ロシアのウクライナ侵攻により肥料
・小麦・トウモロコシ・海産物など様々な材カテゴリーに供給難が広がっ
ています。VUCAの時代になり、サプライチェーンリスクは収束の動きを見
せる気配は全くなく、供給難に陥る材カテゴリーは広がるばかりです。


供給難を回避する手法の一つとして内製化があります。供給難に陥ってる
原材料・部品を自社で内製するものです。お寿司屋で材料の寿司ネタを養
殖するのも内製化の一つと言えます。供給難に陥っている材は価格が高騰
しているため、異業種からの参入で多少コストがかかっても、内製化によ
る安定調達でメリットが生じる様になってきています。


一方で、内製化は調達とは対極の考え方となります。サプライチェーンの
設計思想には相反する「自由」と「統合」との二つがあり、調達は自由に、
内製は統合の考え方に分類されます。ですので、内製化を進めるとなると
その推進役は調達購買部門から生産技術部門に移されるでしょう。調達購
買部門から見れば、内製化はその材についての調達をあきらめる事と言え
ます。


しかしながら、今後、その材の調達可否を見極められるのはそれを担当し
ている調達購買部門に他なりません。貴社にとり最善のサプライチェーン
を築くには、供給難の材につき調達を断念し内製化を会社に進言する機会
が増えて行くかもしれません。


2022.6.17

vol.76「脱炭素が調達購買業務に与える影響」

 

【今週のトピックス】

 

「欧州鉄鋼大手SSABは近く、『水素還元製鉄』と呼ばれる製造法でつくり、
二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に抑えた鋼材の供給を日本で始める。石
炭の代わりに水素を使った製鉄法で、脱炭素の将来的な切り札とされる。
物流や原材料などを含めたサプライチェーン(供給網)全体で大部分を占
める製造時でのCO2排出をゼロ近くに抑えた。スウェーデンのボルボなど
が採用しており、日本での投入は初めて。」
出所)「水素で製鉄、CO2大幅減」『日本経済新聞』2022年5月24日朝刊
13面


今回のケースでは脱炭素化の要請が調達購買業務に与える影響について考
えます。ロシアのウクライナ侵攻による欧州への天然ガスの供給難で現在
は短期的に若干トーンダウンした感がありますが、中長期的に脱炭素化に
向けた動きは止まる事は無いでしょう。脱炭素化の動きは調達購買業務に
1. 現在購入しているモノで二酸化炭素排出量が少ない代替品の調達
2. 貴社の脱炭素化への転換に関連した調達
という二つの課題を与える事となります。


1. 現在購入しているモノで二酸化炭素排出量が少ない代替品の調達
こちらは調達購買業務に大きな変化を与えるものではなく、あくまでも現
在調達しているものの代替品の探索となります。鋼材ユーザの立場で見れ
ば、今回のSSAB品の様に仕様の一つに二酸化炭素排出量が非常に少ない、
もしくはゼロであることといった要件が加わる事となる変化です。


2.貴社の脱炭素化への転換に関連した調達
こちらはSSABの調達購買担当の様な立場で、自社の脱炭素化を果たすた
めに必要な原材料・製造技術・物流方法の変更等、事業・製品開発的な調
達となります。これまでと全く異なるモノを調達する事になる場合もある
でしょうし、技術的にはまだ実現化していないものもあるでしょう。


今回のケースでは石炭の代わりに水素を使い鉄鉱石から鉄を取り出します。
この水素についてもそのサプライチェーンにおいて二酸化炭素を排出しな
いグリーン水素である必要があります。グリーン水素は水を電気分解して
製造する必要があり、その電気も再生可能エネルギー等の非化石燃料電源
で発電されたものでなければならず、そうしたグリーン水素を安価に大量
に供給できる国となると現時点では限定的になります。

 

こうしたものの調達では関連情報が一般的になっておらず、研究論文等か
ら集めなければならない等、難度が高いものとなるでしょう。調達購買担
当者としては、貴社が必要としている素材や技術情報を把握し、広く情報
収集を行っていく事から始めなければならないかと存じます。


2022.6.10

vol.75「供給難下のコスト低減にはデマンドコントロール」

 

【今週のトピックス】

 

半導体やコンテナの需給ギャップ・コロナ禍による工場稼働の低下や停止・
ロシアのウクライナ侵攻・原油高・円安と様々な材カテゴリーで値上げが
止まりません。調達購買部門の方々は値上げ回避・抑制どころか、供給確
保すらままならないのが現状ではないでしょうか?

それでも調達購買部門の方々は部門のミッションとしてコスト低減を進め
ていかなければなりません。とはいえ、こんな時に交渉や相見積で価格が
下がる訳はなく、新規サプライヤの採用によるコスト低減を図っても、供
給難の時にはサプライヤは既存取引先を優先するため、新規の開拓も進み
ません。

こうした時に有効な手段の一つに調達品の使用量を減らすデマンドコント
ロールがあります。単に需要を抑制しようとしても、要求部門は必要があっ
て購買申請をしていますので効果は見込めません。仕様変更等により自動
的に使用量が減る工夫が必要です。そうした工夫により正に需要(デマン
ド)をコントロールするのがデマンドコントロールです。

まずはもっとデマンドコントロールに力を注ぐべきと感じた事例を紹介し
ます。在宅勤務が続き納付書の回収が遅れ保険料の支払が遅延した事で日
本年金機構とやり取りをする機会があったのですが、受け手の事を考えて
いないコミュニケーション設計のために色々と不必要な需要(コミュニケー
ションや書類等)を生んでいると感じました。例を挙げると、

・相手の手許に届かない住所に何度も納付書や督促状を送付

・郵便物の送付先変更や銀行口座からの自動引落の手続きが民間企業等と
比し煩雑。例えば手続きに必要な提出書類の種類や量が多い、自動引落申
請書に銀行からの確認印の取り付けを求める等、こうした書類の取得の手
間を考えると手続きを断念させる様な仕様となっています

・個々の送付物の紙の量が多く半分以上は読まれない。例えば、口座から
の自動引落申請書が送られてきた時には、申請書を提出しない場合、なぜ
それを提出しないかを記載させるアンケート調査票が同封されていました

・銀行の確認印取得のために自動引落申請書を出せずにいると、機構が業
務委託しているコールセンターから書類提出の督促電話が掛かってきまし


これらは不良の真因を探らずに検査回数や人員を増やすといった対処療法
のみを実施しているようなものです。対処療法では問題解決につながらな
いため、また支払遅延という不良を生み、無駄なコミュニケーションが生
じる事となります。

今度は真の問題解決を図る事でデマンドコントロールを行いコスト低減を
達成している事例をご紹介します。保険会社のお客様では切手代の低減の
ためにHPやメールも含めてコミュニケーションの動線を検討し、郵便物そ
のものの量を減らしコスト低減をしています。

IT企業のお客様では、DMの送付にあたり厚い資料を紙で送付するのは止
め、資料をHPからダウンロードする様に促す1枚ものの案内文書に代え、
印刷ならびに郵送費用を抑えています。

同様の取組を日本年金機構が行えば、少なくとも今回のやり取りで機構が
支出している費用を1/4程度に圧縮できるのではと感じています。

何れの事例もコミュニケーション費用に関わるものとなってしまいました
が、デマンドコントロールは必ずしもコミュニケーション関連カテゴリー
だけにしか通用しないものではありません。例えば、樹脂製品で強度に影
響が出ない範囲で穴を開け、樹脂の使用量を抑制する・軽量化を図り物流
コストを低減するといったものもデマンドコントロールの一種と言えます。

デマンドコントロールを成功させるポイントは、

・調達品が必要となっているそもそもの目的を明らかにする。特に、途
中段階のものでなく、お客様の最終目的を明らかにする。調達品が原材
料・部品であれば、それらがお客様の最終目的に向けて果たす機能とな
ります

・調達品の事は一旦忘れ、その目的達成に向け、ゼロベースで必要な手
段を検討する。その際には目的から逆引きで手段を挙げて行くのが有効
です

・挙げた手段がお客様の最終目的を達成する最も効率的なものか、より
効率的な代替手段がないか今一度見直す。こうして得られた手段を調達
品として設定

になります。

2022.6.3

vol.74「テレワーク環境下でのコミュニケーションのマナーとルール」

 

【今週のトピックス】

 

前々回・前回とテレワーク環境下での社内コミュニケーションの先進企業
から学ぶシリーズを続けてきましたが、今回はその最後として同期・非同
期コミュニケーションに共通のマナーやルールを学びます。


同期・非同期コミュニケーションに共通するマナーとして「調べてから聞
く」が挙げられます。同期・非同期の何れにせよ、質問された側はその回
答のために時間を割かなければなりません。電話やチャット・メールの通
知は質問された方の集中を削ぐ原因にもなります。これらはスタッフの生
産性低下の原因となります。
.
ミスの指摘や何か注意をする際には文字ではどうしても角が立ってしまう
のでメール・チャットではなく口頭で行うのが良いでしょう。


定例ミーティングやスタッフから質問を受ける立場のリーダー以上の方は
定期的に質問を受ける時間を設けておくとスタッフの方々も会話のきっか
けを得やすくなります。アウトプットベースでの管理ではなく、細かく指
示を出した方が良い業務やスタッフの管理をされている方は、定例ミーティ
ングの頻度を日次など細かく設定し、チームに対してではなく個別のコミュ
ニケーションが必要な場合にはその方に定例ミーティング後に残ってもら
うといった形で密にコミュニケーションを取っていくのをお勧めします。


参考)西村 崇「『テレワーク環境下で気軽に声をかけられない』、課題
解決に効くマナーとルール」日経クロステック、2022年1月19日
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00355/021600001/
閲覧日:2022年4月3日)


2022.5.27

vol.73「非同期コミュニケーションのマナーとルール」

 

【今週のトピックス】

 

今回はテレワーク環境下での社内コミュニケーションの先進企業から非同
期コミュニケーションのマナーやルールを学びます。


非同期コミュニケーションはメールやチャット等の対話者が自分の都合の
良い時に返答をするコミュニケーションを指します。非同期コミュニケー
ションの特徴の一つにメールやチャット等のメディアを介しますので、情
報共有が可能です。


この特徴を活かして「個別チャットよりもチャンネル利用」をルール化し
ている企業があります。業務で分からない事がある時に自分と相手だけで
なく、チームメンバーもそのコミュニケーションに含めるのです。ある人
がつまづいているポイントは他の人にとっても同じ可能性があります。非
同期コミュニケーションは記録に残りますから、複数のメンバーが参照可
能なチャネルを利用する事で、例え、今は他のメンバーが必要としていな
い情報でも、将来には必要となる事もあるでしょう。同じコミュニケーショ
ンでもチャットではなくチャネルを利用するだけでチームの情報資産とな
ります。


「会話の往復が増えたらオンライン会議へ移行」をルール化している企業
もあります。チャットでの会話は音声での会話よりもキー入力の分だけ手
間と時間が掛かります。会話の往復が増えて来ると、その会話は非同期コ
ミュケーションから同期コミュニケーションになってきますので、筆者も
このルールに賛成です。


参考)西村 崇「『テレワーク環境下で気軽に声をかけられない』、課題
解決に効くマナーとルール」日経クロステック、2022年1月19日
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00355/021600001/
閲覧日:2022年4月3日)


2022.5.20

vol.72「テレワークの生産性向上にはそのマナー・ルールの確立が有効」

 

【今週のトピックス】

 

弊社のお客様の中には弊社の執務スペースを用意されない会社もあり、そ
うした案件ではコロナ禍の以前からテレワークを中心に執務しています。
テレワークの難しい所はちょっとした会話ができない所にあると感じてい
ました。コロナ禍でテレワークが普及した事もあり、こうした悩みを持つ
会社は増えてきている様です。そうした中でテレワーク環境下での社内コ
ミュニケーションのマナーやルールを確立させようとしている企業が出て
きています。今回はそうしたマナーやルールで参考になりそうなものを取
り上げます。


NTTコミュニケーションズはコミュニケーションの種類をオンライン会議
や電話等の対話者がお互いの時間を共有しリルタイムで話をする同期コミュ
ニケーションと、メール・チャット等の対話者が自分の都合の良い時に返
答をする2.非同期コミュニケーションの二つに分類し、それぞれの特性や
障害に応じたマナー・ルールを提唱しています。この分類はシンプルかつ
良く整理されているので、これらに即してお話していきます。


テレワーク下での同期コミュニケーションの障害の一つには相手の様子が
見えないので声を掛けるのをためらってしまい、そこで必要な情報が得ら
れる業務がスタックしてしまうという点が挙げられます。これを解決する
ルールが「ためらわずに聞く」です。また聞きやすい環境を作るにはチャッ
トツールのステータス表示の活用をルール化し、応対可の時はその旨を表
示させる事を徹底させ、応対可の時は遠慮無く話しかけて良いとするのが
良いでしょう。特にリーダークラス以上など他のスタッフから質問・確認
を受ける立場の方は、忙しかったり、自分の仕事に集中したかったりする
かもしれませんが、その責任においてそうした質問・確認を受ける時間を
1日の中である程度確保する必要があります。可能であれば曜日毎にその
時間帯を明確にしておくと、メンバーもコミュニケーションが諮りやすい
かと考えます。


テレワーク下での同期コミュニケーションにおけるもう一つの障害は話し
かけられる方が集中を妨げられるという点です。弊社ではテレワーク下で
のコミュニケーションのマナー・ルールが徹底されておらず、良くチャッ
トで「今話せますか」という確認が入ります。チャットの通知機能をオフ
にしていないと、これだけでも集中が切れてしまいますし、話せない時に
いちいち返答するのは手間となり、余計に集中がそがれてしまいます。こ
れを回避するには、こちらもチャットのステータス表示を活用し、応対可
以外の時には話しかけないのをマナーとするのが良いかと存じます。また、
ある会社ではこうした時に話しかけられた人は応答・コールバック不要と
しています。考え方としては、話しかけられた方の負担を減らし、話しか
けた方が必要としているのであれば再度掛けなおすかかチャット等でメッ
セージを残す等、必要としている人が行動すべきというものです。


ビデオチャットが普及する中で一つのテーマはビデオ表示をルール化する
か否かです。上司と部下という会話の場合、上司としては表情も含めて様
子を確認したいのでルール化したい所かと思いますが、ここは我慢してビ
デオの利用は個人の判断に任せるとした方がテレワークの普及につながる
と考えます(筆者は相手に好印象を持ってもらいたいので基本的にはビデ
オ表示をオンにしていますが。。。)


長くなりましたので今回はここまでとし、次回は非同期コミュニケーショ
ンのマナー・ルールについてお話します。


参考)西村 崇「『テレワーク環境下で気軽に声をかけられない』、課題
解決に効くマナーとルール」日経クロステック、2022年1月19日
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00355/021600001/
閲覧日:2022年4月3日)


2022.5.13

vol.71「EVのサプライチェーンのデザインに調達購買部門の活躍の機会有り」

 

【今週のトピックス】

 

「台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が進める電気自動車(EV)の共同開発
に当初の5倍にあたる約100社の日本企業が参加することが分かった。デン
ソーなどトヨタ自動車の系列企業も加わる。EVには異業種の参入が相次ぐ。
鴻海は部品の規格などを共通化し、受託生産を狙う。」
出所)「鴻海EV連合に国内100社」『日本経済新聞』2022年3月13日朝刊1面


自動車の主流がEVになる中で、自動車のサプライチェーンに変化が生じて
います。製品構造がエンジンを中心とするものから、モータや電池を中心
とするものに大きく変わります。それぞれの製造を得意とするサプライヤ
が異なりますのでこの変化は必然です。


弊社では調達購買部門の主な仕事の一つは「継続的に投資価値を最大化す
るサプライチェーンのデザイン」であると考えています。こうした産業構
造の変革期には新たなサプライチェーンのデザインが必要となります。


EVならびにEV向けの原材料・部品の製造販売に携わる企業の調達購買部門
の方々はこれからしばらくの間、EVのサプライチェーンのデザインに活躍
の機会が生じ、奔走される事になるかと存じます。


2022.4.22

vol.70「生分解性プラスチックを使用しないと批判に晒される時代がやってくる」

 

【今週のトピックス】

 

「カネカは2024年までに海洋生分解性プラスチックの生産量を現在の4倍
の年2万トンに拡大する。(中略)


海外大手のホテルチェーンや食品メーカーなどからも納入要請があり、
『既存のプラスチックから一気に置き換えが加速する』(田中稔社長)と
みる。今回の投資を手始めに30年までに国内外で生産能力を年10万~20
万トンに引き上げを検討する。」
出所)「海で溶けるプラ、カネカが増産」『日本経済新聞』2022年2月7
日朝刊5面


海に漂着したプラスチックごみを海洋生物が誤って摂取してしまい、その
生命を危機に晒してしまう事などから、生分解性でないプラスチックの使
用に批判が高まっています。


現時点ではカネカの海洋生分解性プラスチックの価格はそうではない一般
のプラスチックの2倍となりますが、同社はその引合の強さから生産量を
引き上げ、30年迄には現在の40倍に迄持っていこうとしています。


特に、消費材においては、生分解性プラスチックを使用しないと批判に晒
される時代がすぐにやってくるかもしれません。


2022.4.15

vol.69「買い手の行き当たりばったりのサプライヤ選定は百害あって一利なし」

 

【今週のトピックス】

 

「審査の結果、1位と2位の評価点が僅差だったために両者と交渉し、2位
の事業者を選定した――。京都府和束町の「和束町総合保健福祉施設設計
業務公募型プロポーザル」における設計者選定プロセスが物議を醸してい
る。審査で1位となった事業者を受注候補者として交渉し、まとまらなけ
れば2位と交渉するというルールを町が自ら破ったうえ、そのことについ
て丁寧に説明していないからだ。」
出所)坂本 曜平「和束町がプロポーザルでルール破り、審査結果に従わ
ず施設設計者を選定」『日経XTECH』2022年3月11日
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01405/
閲覧日2022年3月28日)


サプライヤに約束した選定プロセスを破ったケースです。約束した選定プ
ロセスを破る事はデメリットしかありません。正に百害あって一利なしで
す。


まず初めに、入札・相見積の後に交渉プロセスを入れるという事は、「サ
プライヤは最善価格を提示する」という入札・相見積の大前提を買い手自
らが否定する事となります。後で交渉でベストプライスを提示したサプラ
イヤを逆転する事ができるというのでは、各サプライヤが最初は少し様子
を見て最善の価格を提示するのを控えてしまい、競争環境が形骸化してし
まいます。その上、入札・見積後の複数社を相手にした不毛な交渉を長時
間・お互いに労力を掛けて続けて行く事となり、選定プロセスがグダグタ
となってしまいます。


次に、最安値を提示したのに選外となった企業にしてみれば、買い手に対
し不信感しか残らず、その企業から今後の入札・見積への参加・協力が得
られなくなってしまいます。有力なサプライヤの不参加は以降の案件での
競争環境の形骸化につながります。


また、こうした不公正な選定は選定者と選定サプライヤとの間に癒着があ
るのではといった疑いの念を周囲に引き起こします。他のサプライヤがこ
うした疑いを持てば、これらの企業からの入札・見積への協力が得られな
くなり、これも競争環境の形骸化となります。


更に、担当者の選定結果を正当な理由なく覆しては、担当者のモチベーショ
ンダウンとなります。記事では選定委員会で委員長を務めた長坂教授の以
下のコメントが紹介されています。「『時間と労力をかけて審査し、選定
結果を取りまとめたにもかかわらず、その結果を町が覆した。裏切られた
ような感覚で、極めて不愉快だ。町は詳細な経緯を公表すべきだ』と怒り
をあらわにする。」企業でいえば経営者が和束町、担当者が選定委員会に
あたり、もし経営者が和束町と同じ様な行動を取れば、担当者は長坂教授
の様な怒りを抱くでしょう。


もし、どうしても僅差の場合に最終交渉を入れたいのであれば、「評価点
の差が##点以内の場合には、その範囲の中にある入札者との交渉で決定す
る」といったルールを入札要綱・見積依頼書に入れるべきでした。しかし
ながら、弊社は入札・見積の後に交渉プロセスを入れるのはお勧めしませ
ん。それは冒頭に上げたサプライヤは最善価格の提示するという入札・相
見積の大原則を崩す事に他ならないからです。入札・見積の後に設けられ
るべきものは、後で「やっぱりこの価格ではできませんでした」とサプラ
イヤが匙を投げる事がないように見積前提や見積に誤りがないかの確認と
サプライヤの専門知識を活かした仕様の最適化による価格の最適化であっ
て、交渉ではないと弊社では考えます。


2022.4.8

vol.68「テレワークを妨げる三つの原因」

 

【今週のトピックス】

 

日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2021年10月に実施した「働
き方改革に関する動向・意識調査」によると、テレワークを利用していな
い理由の首位は「同僚(上司や部下を含む)や取引先、顧客と直接対話し
たいから」「職場(または派遣・常駐先)で扱う帳票や文書の電子化が進
んでいないから」「出社することでON/OFFを区分し、心身を仕事モードに
切り替えたいから」の3つが回答の22.1%で並びました。


一方で、「勤務先(または派遣・常駐先)がテレワークに必要なITシス
テム・インフラを整えていないから」は2020年4月の同調査では回答42.4%
を占めましたが、2021年10月調査では10.4%と32ポイント減っています。
この1年半でテレワーク向けの従業員の勤務環境の整備が進んだ事が伺え
ます。出所)大和田 尚孝「働き方改革を阻害する3大要因、解決が最も
遠い『あの問題』」日経BP総合研究所イノベーションICTラボ、2022.01.12
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01856/010600010/?P=2
閲覧日:2022年2月20日)


上記の内、相手と直接話したいと出社することでON/OFFを区分し心身を
仕事モードに切り替えたいとは心の持ち様の問題で無いものねだりと考え
ます。コロナ禍もあり、ここ2年でテレワークは急速に広まっており、貴
社が実施していないくても、サプライヤはテレワークを実施しているとい
う場合は多々あります。また、サプライヤが海外の場合には、まだまだ気
軽に出張して対面での打ち合わせを行うというのは容易ではありません。
コロナ禍も未だに収束の気配は無く、変異株の流行による感染の拡大で、
再び貴社や相手方の方針で強制的に対面での打ち合わせが一切禁じられる
という事態も想定されます。


この様に考えると、対面での対話ができない事を想定し、web会議での打
ち合わせに慣れていくしかないかと考えます。個々人の受け止め方の問題
はありますが、ビデオチャットを使えば相手の表情も見え、ほぼ対面での
打ち合わせに代替できると弊社では考えます。またweb会議での打ち合わ
せには打ち合わせの移動時間を無くすという大きなメリットがありますの
で、そのメリットを大いに享受すべきと考えます。


出社することでON/OFFを区分し心身を仕事モードに切り替えたいという
点につきましては、今後も出社ができない時が出て来ると考えられますの
で、自分なりの気持ちの切り替え方法を確立しておく必要があります。現
在はこうした需要を見越して、企業側で個室スペースを用意する所も出て
きていますので、そうした環境を提供している会社に属されている方はそ
れらを利用するのが一つの手でしょう。そうした制度が無い企業の方々の
場合には、個人でそうした環境を整えるしかありません。しかしながら、
自宅にミニ書斎を設ける事ができるキットや個人用テレワークブース提供
サービス等が手軽な価格で色々と出回っていますので、環境を整えないと
気持ちの切り替えができないという方にはそれらを利用される事をお勧め
します。良い仕事をするための投資と考えれば費用対効果は大きいと考え
られます。また、こうした環境を自宅ないしは自宅の近くに設ける事で、
通勤時間を大幅に削減できるというメリットもあります。


「職場で扱う帳票や文書の電子化が進んでいないから」は企業側の問題で
す。子供がいる家庭等、柔軟な働き方を求めるスタッフは増えています。
企業側も平時は毎日をテレワークとする必要はありませんが、月の何日か
はテレワークを従業員が選択できる様にし、スタッフのテレワークを前提
とした業務環境・プロセスの構築が今後は不可欠と弊社では考えます。本
来であれば、上記のテレワークに掛かる経費は必要経費として企業が負担
すべきものと考えます。テレワークの推進により通勤交通費・出張旅費や
オフィススペースを削減している場合には賃料も大きく削減されています
ので、新たにテレワークで生じる経費についてはそれらで十分に賄う事が
できるでしょう。スタッフが良い仕事をできる様に環境を整えるのは企業
の責任であり、良い人材はそうした点に配慮できる企業に集まる様になる
と弊社では考えます。


2022.4.1

vol.67「物価スライド条項が一般的になる?」

 

【今週のトピックス】

 

「建物物の鉄筋に使う異形棒鋼の取引価格が、13年4カ月ぶりに1トン10
万円を超える高値水準まで急上昇した。指標品は前月比8%高い。(中略)


異形棒鋼は電炉の鉄鋼メーカーが主に製造している。値上がりの主因は原
料に使う鉄スクラップの高騰だ。鉄筋くずなどからなる標準品種『H2』
の電炉の鉄鋼メーカーの買値は、東京地区で現在1トン5万7000円前後。1月
下旬に付けた直近の安値と比べ9%高い。08年8月以来の高値圏にある。中
国の景気刺激策の強化による鋼材消費の拡大観測などを背景に急速に値上
がりした。


原油や液化天然ガス(LNG)の高騰で電力価格が上昇し、電炉のエネルギー
コストも大きく膨らむ。製鋼の際に脱酸素剤として使うフェロシリコンな
どの合金鉄も昨夏から高止まりしている。(中略)


コスト高が重くなってきた棒鋼メーカー側は製造コストの変動を迅速に価
格に反映できるよう、商習慣の見直しも求める構えだ。棒鋼は使用する建
物の工事期間が始まる前にメーカーとゼネコンが商社を経由して必要量を
まとめて契約するのが一般的だ。契約から実際の納入完了までに1年以上
の時間が空くことも少なくない。(中略)


このためメーカーや商社はゼネコンに棒鋼の短納期化や契約期間の短縮を
要請している。棒鋼メーカーの幹部は『契約から納入完了までを四半期も
しくは半期に短縮することが理想』と話す。(中略)


ゼネコンにとっては施主と決める建設予算の組み方に変更が生じるため、
『商習慣の見直しは一筋縄ではいかない』(鉄鋼商社)。」
出所)「鉄筋用棒鋼、13年ぶり高値」『日本経済新聞』2022年3月4日朝
刊 21面


値決めの時期が納品時期と大きく乖離する建築資材等のケースです。この
事例の様に、建築資材では値決めから実際の製造・納品が数年先となる事
が少なくありません。この場合、サプライヤはその原材料等の市況の変化
による製造コスト増のリスクを抱える事となります。当然、サプライヤも
そのリスクを見越して見積にある程度のリスクプレミアムを載せています
が、競合との競争がある中で、見積に含められるのは限定的とならざるを
得ません。輸入品や原材料等に輸入品を使用している品目では、為替の影
響もあり10%超のコスト高となる事も珍しくありません。


デフレ基調にある日本国内での取引であれば、買い手企業のエンド顧客と
の契約が同様の条件となっているため、こうした値決めと製造・納品時期
のずれを受け入れる様にサプライヤと交渉する事もできるかもしれません
が、輸入品や採算が厳しくなる中で原材料等に輸入品を使用している品目
ではサプライヤはこのリスクを受け入れないでしょう。


こうした品目の取引では今回のケースの様に短納期化や単価の適用期間の
短縮等により値決めと製造・納品時期をできる限り近づける必要がありま
す。どうしてもこれらが難しい場合には、市況変動を反映する物価スライ
ド条項を設ける手もあります。


こうした手法はサプライヤのリスクを除く事になりますので、現在の価格
に織り込まれているリスクプレミアムを取り除く事が可能になります。ま
た、製造・納品時期に市況が下がっている時の高値掴みリスクを減らすと
いったメリットもあり、より適正な価格での取引が可能となります。


一方で、こうした条件を貴社のお客様との契約にも反映しないと貴社がこ
の価格変動リスクをすべて負う事になりますので、営業部門も含めて、貴
社のお客様との価格決定方法を変えるか、貴社でそのリスクを負うかの検
討も必要となります。


2022.3.25

vol.66「日本自動車部品工業会会長『カンバン方式見直す必要』」

 

【今週のトピックス】

 

「日本自動車部品工業会(部工会)の尾堂真一会長(日本特殊陶業会長)
は21日の記者会見で、『(在庫を極力持たない)カンバン方式は見直す必
要がある」と語った。』
出所)「部工会会長『カンバン方式見直す必要』」2021年12月22日、
電子版(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211222&ng=DGKKZO78649060R21C21A2TB2000
閲覧日:2022年1月28日)


供給難が起こる度にカンバン方式が問題の元凶とやり玉にあがります。果
たして、抜本的にカンバン方式そのものを捨てる生産モデルの見直しか、
供給リスクの高い一部部材についてのみ在庫を持つのみの修正とするのか、
トヨタの見解を伺いたい所ですが、弊社では後者になると考えます。


供給難に備え、サプライチェーン全体であらゆる原材料・部材の在庫レベ
ルを引き上げてしまうと、毎日の在庫管理費用が嵩む事となります。また、
商品のライフサイクルが短くなる中でサプライチェーン全体で在庫を抱え
てしまうと、機動的な商品の切り替えが難しくなり、機会損失・不良在庫
リスクを抱える事となります。これらの要素は製品コストを大きく押し上
げます。


そのため、こうした供給難にそなえ在庫を抱えるモデルは有効ではなく、
供給難の発生確率と供給停止による損失を掛け合わせた数字と、在庫保有
によるコスト増とを比較し、それが一致するギリギリの所での在庫保有が
正解になると考えます。


英国元首相のチャーチルであれば「在庫の極小化は最悪のサプライチェー
ンモデルといえる。これまで試みられてきた、在庫の極小化以外のすべて
のサプライチェーンモデルを除けばだが」と表現する所でしょうか。


2022.3.18

vol.65「QDMはどう評価する?」

 

【今週のトピックス】

 

秋田県や千葉県の3海域で政府が公募した洋上風力発電で三菱商事を中心
とする企業連合が総取りする結果となった事が問題となっています。


問題となっているのはその選定方法です。落札した企業連合の事業計画で
示された発電単価は1キロワット時あたり11.99円、13.26円、16.49円
と10円以下の欧州ほどではないものの、次点の企業連合とは5円前後の大
差となりました。


問題視されているのはその運転開始時期の評価方法です。落札企業連合は
2028~30年の運転開始を掲げていますが、選定にあたった経産省による
と数年早い計画を提案した所もあったといいます。自民党の政治家達がこ
の運転開始時期の違いが正しく評価に反映されていないと注文を付けてい
ます。
参考)新井惇太郎「洋上風力、安さか早さか(底流)」『日本経済新聞』
2022年2月22日朝刊 5面


このケースはサプライヤの選定方式の一つである総合評価落札方式の課題
を示す端的なケースです。この方式は価格(C)のみで選定するのではなく、
価格と価格以外のQDMの要素とを総合的に勘案して落札者を決定するもの
です。通常は価格も含めたQCDMのそれぞれの評価項目につき、重みと採
点方法を決め、重みx項目毎の点数の合計で落札者を決定します。


今回のケースでは3海域いずれも240点満点で、120点が電気の供給価格、
80点が事業の実施能力、40点が地域経済への波及効果、運転開始時期は
事業能力80点の内の20点の一部でした。価格は最も安ければ120点獲得で
きますが、運転開始はどれだけ早めても20点までしかとれない形となって
います。項目毎の配点の違いに採点に加えて重みが反映されています。


この重みと採点方法に調達者の調達戦略が反映されており、落札結果を見
て重みや採点方法を調整し選定結果を覆す様な事があれば、公正な選定を
保つ事ができません。この様に総合評価方式の問題は1.なぜその重みや採
点方法となるのか説明しきれない 2.担当者の恣意が働く余地があるとい
った課題があります。そのため、弊社ではできる限り、総合評価方式の使
用は避ける様にしています。


総合評価方式の課題の解消には、
1.QDMの要件についてはできる限り足切り基準とする
2.足切り基準とする事ができない場合には、可能な限りその項目のキャッ
シュフローへのインパクトを考え、それをNPVに換算して価格と合算し評

といった手法が有効です。


例えば、2028~30年の運転開始時期が遅いというのであれば、運転開始
時期は2025年迄とする等の足切り基準を設けるべきでした。早ければ早
い方が良いというのであれば、早期運転開始による技術波及効果のNPVを
算出し、その金額を消費者への負担減と合わせて評価すべきです。


足切り基準とする事ができない、もしくはキャッシュフローへの影響を与
えない要件は、重要ではなく、それを要件と掲げている方の単なる好みの
ものでしかないと言わざるを得ないと弊社では考えます。


2022.3.11

vol.64「日本企業も取引先の人権侵害の調査を強化」

 

【今週のトピックス】

 

「強制労働などの人権侵害がサプライチェーン上でないか、日本企業が取
引先の調査を強化する。花王は化粧品や洗剤に用いるパーム油原料の農園
数百万カ所を調べてシステム上で管理するほか、塩野義製薬も製薬材料な
どの生産現場の調査を年内に始める。」
出所)「調達網の人権侵害排除」『日本経済新聞』2021年8月13日、電子
版(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210813&ng=DGKKZO74741900T10C21A8MM8000
閲覧日:2022年1月5日)


ブランドイメージに敏感な欧米のグローバルブランド企業で進んでいたサ
プライチェーンにおける人権侵害の排除の動きが日本企業にも広がってい
ます。記事ではブランドイメージに敏感なBtoCの大手日本企業の事例ばか
りですが、サプライチェーンはつながっていますので、こうした動きが広
がればBtoBの中小企業であっても対応せざるを得ないでしょう。


貴社サプライチェーンから人権侵害を排除していくには、以下の取組が有
効です。


1. サプライチェーンを可能な限り短くする
自社で管理できるのは直接の取引先が中心です。間に中間流通が入り、サ
プライチェーンが長くなればなる程、サプライヤの実態把握が困難となり、
管理が難しくなります。コスト・リスクマネジメント面からもサプライチェー
ンは可能な限り短くすべきです。


2. 人権尊重を取引の前提として取引基本契約に織り込む
人権尊重を取引の前提とし、それを取引基本契約に明記します。取引先の
人権侵害が発覚した場合には、取引を解消する権利を貴社が有する事も記
載するのが良いでしょう。


3. サプライヤ監査の実施
必要に応じてサプライヤ監査を実施します。本当に貴社サプライチェーン
から人権侵害を排除したいのであれば、二次三次等その先々のサプライヤ
の管理も含めて貴社のリソース・コスト負担で行う必要があります。サプ
ライヤは会社毎にそれぞれの考えもありますから、すべてのサプライヤが
サプライチェーンからの人権排除に協力的、そのコスト負担をするとは限
りません。ですので、貴社のリソース・コスト負担でこうした活動は行う
必要があります。監査ノウハウや海外サプライヤ対応等で監査リソースが
不足している場合には、サプライヤ監査機関を起用する手もあります。


2022.3.4

vol.63「価値の源泉は外部調達ではなく内製で」

 

【今週のトピックス】

 

外作(外部調達)か内作(内製)か。企業が何かを調達しようとする時に
最初に判断すべき事の一つです。今回はその答えの参考になるトヨタのケー
スをご紹介します。

「トヨタ自動車は2025年にも、次世代車の加速や安全制御機能などを一
括で動かす頭脳にあたる基本的な車載ソフトウエアを実用化する。(中略)

トヨタが開発を進めるのは『アリーン』と呼ぶ車載用の基盤ソフト。米マ
イクロソフトの『ウィンドウズ』や米アップルの『iOS』などの基本ソフ
ト(OS)の車版と言える。トヨタ子会社のウーブン・プラネット・ホール
ディングス(東京・中央)が主に開発を手掛ける。」
出所)出所)「トヨタ、独自の車載用基盤ソフト 外販も」『日本経済新
聞』2022年1月4日朝刊 1面


トヨタはソフトウエア会社ではありません。通常の外部調達(以後「調達」
と表記)の考え方「内作より価格競争力のある専業から調達する事でコス
ト低減」という考え方に則れば、マイクロソフト・アップル・グーグルと
いったIT企業、もしくは車載OSで先行する電気自動車メーカのテスラ等、
外部企業から車載OSを調達するという選択肢になる所でしょう。


そうした選択が為されなかったのは、トヨタが車載OSは今後の自動車の
価値源泉と考えているからと弊社では捉えています。事業開発を進める際
のチェックリストの一つに「その事業を自社がやる意義があるか」という
ものがあります。この項目の意味する所は、貴社が顧客に対して価値を提
供できる立場にあるか、提供する価値が無いのであれば、貴社がその事業
を手掛ける意義はなく、その価値を提供できる他社が担うべきというもの
です。


トヨタの今回の判断は車載OSを自社で開発できないのであれば、それはト
ヨタが自動車メーカではなく、単なる受託製造企業になると考えたのでしょ
う。


恐らく、今回の開発投資は先行している他社から車載OSを調達するよりも
数倍も費用や時間が掛かるものと考えられます。それでも、トヨタが自動
車メーカであり続けようとするならば、どんなに費用が上回ろうとも、車
載OSは調達ではなく内製の一択と弊社は考えます。


2022.2.25

vol.62「DXを阻害するのは社員の不安」

 

【今週のトピックス】

 

DXの阻害要因として社員の不安が挙げられています。NPO法人ITスキル
研究フォーラム(iSRF)が毎年実施している、ITエンジニアのスキルと
意識を調べる「全国スキル調査2021」と一般企業のDX推進担当者や事業
企画担当者などを対象とした「DX意識と行動調査2021」とのの調査結果
によりますと、自社でDXを推進していると回答した926人のうち「答えた
くない」を除いた680人を年代別に分析すると、20代後半~40代後半でDX
に不安を感じる人が6割近くに上りました。


926人が感じる不安の種類別で最多なのは「分からないことが増えて追い
付けなくなる」の21.8%。一方「慣れないことが増えて仕事で失敗しや
すくなる」など2位以下の項目も一定の回答があります。
出所)神田 武、高橋 範光、鈴木 重央、池田 拓史、山之下 拓仁、市川
拓実、木本 将徳、板谷 成祥、松尾 翔 ITスキル研究フォーラム「1000
人調査で判明、DXをむしばむ『不安』社長が知らない一般社員と管理職の
不安、DX推進を阻むその正体」『日経XTECH』、2022年1月26日
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01923/012100001/?P=3
閲覧日:2022年2月6日)


弊社はDXは不可避と考えます。これは調達購買業務も例外ではありません。
人が変化に不安を感じるのは当然ですが、漠然と不安を抱えていても何の
助けにもなりません。変化の方向性を見極める事で、その不安を払拭しま
しょう。


弊社では調達購買のDXは以下の3つの方向で進むと考えています。
1. 調達購買各業務でのITツールの利用
2. 調達先の要件にDX対応が求められる
3. 調達カテゴリーの変化


1. 調達・購買業務のDX化
支出分析/見積依頼・取得/契約交渉・締結/発注・検収/請求・買掛管理/
サプライヤ情報・パフォーマンス管理といった各業務でのITツールの利用
が進むと考えられます。コロナ禍の影響もあり、対面での打ち合わせが減
り、Web会議に置き換わるでしょう。工場査察もリモートで対応せざるを
得ない機会が増え、難度が上がると考えられます。これらはツールの話で
あり、不安がらずに、マニュアル等を読みながら使って頂き、慣れていく
しかないと考えます。


2.調達先の要件にDX対応が求められる
DX化はサプライチェーン全体でのDX化を迫っています。そのため、デジ
タル化への対応はサプライチェーンを構成する個々のサプライヤにも求め
られます。すべてのサプライヤをデジタルなサプライチェーンに組み込ま
なければなりませんので、貴社の調達方針によりますが、デジタルのコミュ
ニケーションに対応できないサプライヤは、どんなに他の評価項目に優れ
ていても外さざるを得なくなるかもしれません。


3.調達カテゴリーの変化
DX化は貴社が必要とする調達品にも変化を生じさせます。一つは事業のDX
化に伴う調達品の変化です。例えば、自動車や家電で言えば、制御ソフト
ウェアへの調達金額のシフトがあります。小売や飲食・宿泊等の店舗・施
設でもIT・デジタル化が進み、そうした機器・アプリケーションやそれら
の保守・修理への支出金額が増えています。もう一つの変化は、あらゆる
業務でDX化が進みますので、それを推進するための機器・アプリケーショ
ンの調達が求められる事になります。


上記の内、1.調達・購買業務のDX化は確かにツールへの対応が必要です
ので仕事のやり方が変わります。しかしながら、2,調達先の要件にDX対
応が求められる・3.調達カテゴリーの変化はこれまでの調達業務の進め方
が変わるものではありません。2は仕様の変更、3は担当サプライ市場の変
更にすぎません。そして調達購買のDX化のウェイトの多くは2と3とになり
ます。


この様に考えれば、調達購買業務のDX化はそれ程不安に思うものではない
と考えられるものではないでしょうか?新しい仕様や新しい調達カテゴリー
への対応は貴方が調達購買機能の価値を示す良い機会です。この様に調達
購買のDX化を前向きに捉えて、恐れずに進んで頂ければと存じます。


2022.2.18

vol.61「EVは48万円で製造可能」

 

【今週のトピックス】

 

名古屋大学の山本真義教授らが中国の自動車メーカの上汽通用五菱汽車の
格安電気自動車(EV)「宏光MINI EV」の最上位版(3万8800元、約69万
円)を分解調査し、そのコストを合計48万円と推定しています。


この低コストの理由は大きく二つで、一つはEVで常識とされる機構を省い
たこと、もう一つは搭載部品で既存品を徹底的に使い回していることとし
ています。


EVで常識とされる機構の省略の例としては回生ブレーキと水冷装置の省略
が挙げられています。回生ブレーキは減速時に車輪の回転力を電力に変換
し車載電池に戻すシステムでEVの航続距離を延ばすには不可欠ですが、宏
光MINI EVには搭載されていません。そのため、この車の航続距離は最上
位版でも170キロメートルと短めです。それでも、回生ブレーキを省くこ
とで電装品を簡素化でき、例えば直流電流を交流に変えるインバーターで
は一般に6万円ほどかかるコストを1万6000円程度に抑えています。


既存品を徹底的に使い回している例に減速機の基幹部品のベアリングがあ
ります。このベアリングは専用設計ではなく、中国製のカタログ品を使用が
しています。インバータや充電器など電装品には耐久性が高い車載仕様で
はなく家電用半導体が使用されています。当然、これらの電装品は故障し
やすくなりますが、モジュールごと交換する設計で修理の手間を少なくし
その弱点を補っています。


中国の地方都市・農村では公共交通機関はもちろんガソリンスタンドすら
未整備な地域が多く、そうした地域の住民は自宅で充電できるゴルフ場の
カートのような低速EVを足代わりに使っています。上汽通用五菱は宏光MINI
EVを「代歩車(足代わりの車)」と名付け、年間100万台ほど売れている
この低速EV市場をターゲットとしている様です。
参考)「中国EV、機能絞り50万円台」『日本経済新聞』、2021年12月21日、16面


開発購買によるコスト低減のケースです。ここから伺えるのは、コスト低
減には、これまでの常識に囚われずに真摯に市場と向き合い、市場が求め
ていない機能・仕様は大胆に削ぎ落す、原材料・部品に標準品を使うといっ
た二点が有効ということです。何れもコスト低減の常套手段です。コスト
低減に奇策はなく、基本の徹底が重要と考えます。


2022.2.4

vol.60「VAIO/グローバルに個人向けPCの設計を共通化」

 

【今週のトピックス】

 

2014年にソニーから独立したパソコン(PC)メーカーのVAIOは2023年を
めどに世界で展開する個人向けPCの設計を共通化します。「VAIOは現在、
23カ国・地域でPCを販売している。開発する個人向けPCは、地域によっ
てPCの重さや端子の数が異なる。地域の特性に応じたPCを販売できるが、
部品調達に手間がかかったりブランドの統一感を出しづらかったりすると
いう課題があった。

 

設計を共通化すれば、一度に大量の部品を調達でき、コスト削減につなが
るほか、世界でブランドの統一感も出せる。共通化に向けて開発投資を始
めた。」
出所)「個人向けPC設計共通化へ」『日本経済新聞』、2022年1月14日
朝刊12面


グローバルソーシングを進めて行く上で当然の帰結と考えます。異なる原
材料・部品をまとめて調達するカテゴリーソーシングでもある程度の効果
は出せますが、設計を共通化する事で分散していた一品当たりの生産数量
が飛躍的に上がりますので開発・設計・生産の効率化・コスト低減につな
がります。


マーケティング上、地域の特性に応じた製品を開発する必要もあるかと思
いますが、ビジネスモデルに応じて、そうした需要には
1. その製品のターゲット需要ではないとして対応しない
2. 製品を幾つかのモジュールに分け、それらの組み合わせで対応するマ
スカスタマイザーションで対応
する事で、設計のグローバル共通化を進めて行くべきと弊社では考えます。


設計のグローバル共通化を進めて行くにあたりご留意頂きたいのは、ここ
で共通化すべきは仕様の共通化迄で決して品目・サプライヤの共通化では
無いという事です。なぜなら、商慣行や工場からの距離等により必ずしも
グローバルベストな品目・サプライヤがローカルベストとは限らないから
です。弊社ではトータルコストを最小化するグローバルサプライヤとロー
カルサプライヤとのMixが何れのカテゴリーでも最適と考えます。


世界各国の経済成長により世界的に中間層の市場が形成されつつあり、
iphoneやアパレルのZARAの様にグローバルにヒットする製品が登場して
います。そうした中で、グローバルに設計を標準化していく手法は今後ま
すます進んでいくと弊社では考えます。

 

2022.1.28

vol.59「欧州委がアップルLightning経済圏解体にメス」

 

【今週のトピックス】

 

「欧州委員会は2021年9月23日(現地時間)、電子機器の充電ポート(端
子、コネクター)をUSBの「Type-C(USB-C)」コネクターに統一する無
線機器指令(「Radio Equipment Directive」)の改正案を発表した。
欧州議会や欧州理事会の立法手続きを経て採択されれば、採択日から24カ
月の移行期間内に充電ポートをType-Cにする必要がある。(中略)


この改正案の影響を大きく受けるのが、「Lightning」コネクターを採用
している米Apple(アップル)のスマートフォン「iPhone」だ。(中略)


欧州委員会がType-Cへの統一を図るのは、充電器や充電ケーブルの無駄
を省き、環境負荷低減を図るためである。廃棄された未使用の充電器は毎
年1万1000t(トン)になると推定されるという。加えて、消費者の利便性
の低下やコスト増大を抑制する狙いがある。」
出所)根津 禎「iPhoneに逆風、充電口を『USB Type-C』に統一 欧州委
が法案」『シリコンバレーNextレポート 日経クロステック』2021年9月28日、
電子版(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00141/092700137/
閲覧日:2021年12月19日)


要求元サイドが差別化のためと称して原材料・部品の独自仕様に拘るのに
対し、調達購買サイドはコスト低減のため標準化を図るという構図と同じ
ケースです。


記事ではアップルが独自仕様のLightningに拘るのは、第三者がiphone
の周辺機器を販売するには、周辺機器の相互接続性を担保するという名目
で同社の認証プログラムに加入する必要があり、アップルは周辺機器メー
カからライセンス料などの収入を得るという「Lightning経済圏」を構築
している事が一つの要因と指摘しています。


オープンな規格でデファクトスタンダードを獲るか、独自規格で囲い込む
かは規格戦略の分かれ目でありますが、協力者の多いオープンな規格戦略
の方に一日の長がある様に考えられます。iphoneの様な非常に強力な商品
が無い限り、独自規格で一定規模の経済圏を作る事は難しいでしょう。


近年は圧倒的な経済圏を構築するプラットフォーマービジネスへの行政の
目が厳しくなっており、折角、苦労して経済圏を構築しても、この様に行
政から規制が掛けられ、それを解体させられるリスクも出てきています。
ユーザへの価値の無い方法でユーザを囲い込む方法は非公正な取引手法と
見なされる様になっていると言えます。


調達購買担当の立場としては、差別化のためとして要求元がユーザの利益
につながらない安易な独自仕様を示してきた時には、
1. コスト上昇要因
2. 製品普及の阻害要因となる可能性
3. 例え成功したとしても、非公正な取引手法として活用できなくなるリ
スク
を指摘、できる限り標準的なモノの組み合わせでユーザへの価値提供・差
別化を図る様に誘導すべきと考えます。


2022.1.21

vol.58「コストは市場で、価格は意志で」

 

【今週のトピックス】

 

「世界の株式市場で企業の「値上げ力」に注目した選別が進んでいる。原
料費や人件費などのコストの上昇を、製品やサービスに転嫁し競合に比べ
高い利益率を保てる企業への評価が高い。物価高は企業全体では利益の圧
迫要因となりかねず、投資家はインフレへの対応で企業の実力を見極めよ
うとしている。


『メニュー値上げが大きく寄与した』。米外食チェーンのチポトレ・メキ
シカン・グリルが7月20日、市場予想を上回る2021年4~6月期決算を発表
すると、翌21日の株価は12%高と急騰した。人件費の上昇を受けて6月に
メニュー価格を平均4%引き上げた。


その後も株価は堅調で、9月13日時点で6月末に比べ20%上昇している。同
期間の米S&P500種株価指数の上昇率(4%)を16ポイント上回る。


米マイクロソフトが8月19日に業務ソフトの『オフィス365(現マイクロ
ソフト365)』の法人価格を引き上げると発表すると、翌20日に株価は3%
上昇した。法人は個人に比べ値上げを受け入れやすく、業績の拡大につな
がると好感された。」
出所)「投資家『値上げ力』見極め」『日本経済新聞』、2021年9月15日、
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210915&ng=DGKKZO75754000U1A910C2ENG000 閲覧日:2021年12月10日)


コストは市場で決まりますが、価格は意志で決まります。なぜなら、
価格=コスト+利益ですので、価格にはコストにマージンが加わっている
からです。BtoCの場合、マージンは売り手のこの取引で幾らの利益を上げ
るという意志で決まると言えるでしょう。


その意思を貫くには乗せた利益の分を上回る価値を買い手に認めてもらう
必要がありますが、BtoCでは商品や販売方法に様々な工夫をこらす事によ
り、その意思を通す余地が非常に大きいので、BtoCの場合は売り手の意志
で価格が決まると言えるでしょう。


今回のケースの様に株式市場で値上する力のある企業の評価が高まる事は
容易に推測されます。それは値上げにより単純に利益率が改善するからと
いう事ではありません。値上げにはそれを買い手が受け入れず離反してし
まい、売上・利益減少につながるリスクがあります。顧客が値上げを受け
入れるという事は、その企業が買い手により高い価値を認めさせる商品を
生み出す力や販売力があるという事を示しているからです。


BtoBの場合には、マージンは、売り手のこの取引で幾らの利益を上げると
いう意志と、買い手のいかにコストに近い形で調達するかという意志との
ぶつかり合いで決まります。米マイクロソフトがマイクロソフト365の法
人価格を引き上げに成功できたのは、代替の利かない製品サービスを提供
する事で市場競争から抜け出す事に成功したからと言えるでしょう。売り
手の意思が買い手の意思を上回ったケースです。


我々、買い手企業としては、こうした売り手の意志に屈せぬ様、いかに汎
用製品・サービスで自社の製品・サービスを組み上げ、あらゆる支出にお
いて可能な限り調達市場を形成する事に腐心する必要があります。


2022.1.14

vol.57「パッケージの小型化の価値向上」

 

【今週のトピックス】

 

「家電製品のパッケージが小型化している。任天堂は10月に発売した「ニ
ンテンドースイッチ」の新型機の外箱の容量を2割削減。ソニーグループ
はワイヤレスイヤホンの包装の大きさを3分の1にした。(中略)


家電製品はこれまで高級感を演出するため大きなパッケージを採用する傾
向があった。(中略)海外では米アップルが20年に発売した『iPhone12』
から外箱の容量を従来の半分程度にしている。消費者の価値観も変化し、
小さいパッケージは無駄がないと好意的に見られるようになってきた。」
出所)「新型スイッチ、外箱小さく」『日本経済新聞』、2021年11月11日19面


貨物輸送の運賃は、ばら積みの場合、一般的に実重量と容積を重量に換算
した容積重量とを比較し、より重い方によって規定されるケースが多々あ
ります。ですので、パッケージの小型化は容積重量が勝る軽量品において
は従来からある物流費低減の手法です。また、小さいパッケージの方が包
装の材料の使用量や在庫の保管スペースが少なくなり、包装材料費や保管
費を抑制する事ができます。


しかしながら、過去においてはアップルの様に製品の高級感を出すために
敢えて大きめのパッケージを採用するケースがありました。消費者がそれ
を評価し、パッケージの小型化で物流・保管費や包装材料費を低減するよ
りも、大型のパッケージで消費者に訴求し売上を伸ばした方が企業はより
大きな利益を得る事ができました。


そんな時代も変わりつつある様です。消費者の間で環境負荷が意識される
様になり、パッケージの大きさで見栄えを良くするよりも、無駄のない包
装で環境負荷低減を真摯に考慮している事を訴えた方が消費者に支持され
る時代になっている様です。


こうした環境負荷低減の意識は先進国に限った事ではありません。むしろ
ASEAN諸国のそれは先進国を上回っています。株式会社電通が日・独・英
・米・中国・インド・インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポー
ル・タイ・ベトナムの12か国を対象に行った「サステナブル・ライフスタ
イル意識調査2021」によりますと、エコバック使用率では上位はフィリピ
ン(87.3%)・日本(78.8%)・中国(73.8%)の順で、下位は下から米国(28.2%)・
英国(43.8%)・シンガポール(50,7%)となっています。詰め替え商品を買
うの上位はフィリピン(74.3%)・インドネシア(73.7%)・日本(67.8%)、
下位は中国(32.4%)・英国(36.0%)・米国(43.6%)となります。水筒(マ
イボトル)を持ち歩くの上位はインドネシア(72.3%)・フィリピン(72.3%)・
マレーシア(72.0%)、下位は日本(46.4%)・米国(53.0%)・英国(43.6%)
となります。


また、昔は大きいもの・豪華なものが好きな国民性のため日本の小型乗用
車・軽自動車が売れなかった中国で、電気自動車では小型車の宏光Mini
EVがテスラを上回る販売台数を誇っています。こちらは小型である事が評
価されたというよりは、EVで圧倒的な低価格である事が好調の理由と考え
られますが、少なくともこれまでは見栄えが非常に重視された自動車市場
に費用対効果を重視する市場を創り出したと言えるでしょう。


この様にコンパクトな包装を支持する市場はグローバルに広がっています。
貴方も包装仕様をコンパクトにする余地がある案件を担当した際には、こ
うした事例を使って、包装仕様の改善を提案してはいかがでしょう。その
提案はコスト低減のみならず、売上ならびに企業イメージの向上にもつな
がると考えられます。


2022.1.7

vol.56「調達は自由への闘争」

 

【今週のトピックス】

 

「日産自動車は世界的な半導体不足に対応するため、車の設計の一部を見
直し始めた。ブレーキなどに組み込む特注の半導体を産業機械向けのよう
な一般製品で代用できるようにする。」
出所)「日産、汎用半導体で代替」『日本経済新聞』、2021年11月18日、
1面


カテゴリー毎の調達戦略は大別すると「統合」と「自由」との二つに分類
されます。「統合」の調達戦略を採るにはサプライヤを凌駕するマネジメ
ント能力とそれを支える人材が必要となりますので、多くの場面で「自由」
を求める調達戦略が採用されます。


「自由」の調達戦略はサプライヤに貴社の行動が縛られない様に備えるも
のです。例えば、敢えて一部の取引を二番手サプライヤに付与し、メイン
サプライヤにトラブルがあった時に、二番手サプライヤに取引移管できる
様にしておくシェア割は、自由を求める調達戦略の一つと言えます。


今回の日産の取組では、昨今の半導体不足に対応するため、設計を見直し
ブレーキなどに組み込む特注の半導体を産業機械向けのような一般製品で
代用できるようにするものです。


一社のサプライヤしかできないものを採用してしまうと、どんなに貴社が
大口顧客であろうが圧倒的にサプライヤ優位となってしまいます。サプラ
イヤの意向で貴社のサプライチェーンが左右されてしまい、供給トラブル
が生じた時などは、ただサプライヤに供給してもらえる様、懇願するしか
できません。


調達購買業務は基本は要求元が求めるものを調達します。しかしながら、
貴社のサプライチェーンマネジメントの自由を奪う様な要求が要求元から
出された場合、その供給リスクを説明し、要件変更を求めて闘う事も調達
購買部門の仕事と弊社は考えます。さもなければ、どんなに頑張っても貴
社に利益が上がらず、儲かるのはサプライヤばかり、サプライヤのために
貴社は仕事をしているといった事態に陥りかねません。


2021.12.24

vol.55「行政手続きでさえ2025年までに98%超のオンライン化」

 

【今週のトピックス】

 

政府の規制改革推進会議は21年6月に出した答申で2万2千ほどある行政手
続きの98%超を2025年までにオンライン化する目標を掲げました。
出所)「行政手続き、25年までに98%オンライン化」『日本経済新聞』、
2021年6月1日、電子版(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA31CH90R30C21A5000000/
閲覧日:2021年11月3日)


前例主義、変化を嫌う行政で98%の手続きのオンライン化が果たして本当
に達成できるかは甚だ疑問が残りますが、野心的な目標で、是非この方向
で進む事を望みます。


翻って、調達購買業務のDXは進んでいるでしょうか?筆者の肌感覚では、
各社こぞって調達購買業務のDXに向けて進んでいる様には感じられません。
理由の一つはDXには企業のビジネスモデル・戦略・すべてのオペレーショ
ンの変革が求められ、DXの優先順位が他業務にある、ないしはどこから手
をつけて良いか分からない状態に各社が置かれている事にあると考えられ
ます。


全社の変革において優先されるべきは売上に直結する開発・マーケティン
グ・営業になり、まずはこれらの業務のDXの目処がつかない事には、なか
なか調達購買業務のDXに経営者の目が向かないものと考えられます。


調達購買業務のDXが現在それほど取沙汰されないもう一つの理由は、元々
DXが巷で言われる前の2000年頃より調達購買業務のデジタル化は求められ
ており、先進企業は調達購買業務のデジタル化を既に済ませており、今に
なってDXに対応する必要が無い事にあるのではないでしょうか。


調達購買業務のパフォーマンスはそのDXの進展度合に直接的に大きく左右
されます。コスト低減機会の発掘の支出分析や適切な支出管理には、支出
明細やサプライヤデータを分析可能な形で一元管理する必要があります。
契約管理・調達購買管理・サプライヤ管理を効果・効率的に行うには電子
プラットフォームが不可欠です。調達購買業務の先進企業は成果を上げる
事を目的に20年程前からDXに取り組んでおり、今更DXという言葉に煽られ
る必要はないのではないでしょうか。


調達材や材カテゴリー毎の調達戦略は貴社のビジネスモデルや事業戦略に
応じて変化しますが、調達購買業務プロセス・インフラはその影響を受け
ません。もし、貴社の調達購買業務プロセス・インフラのDXが進んでい
ないのであれば、まずはこちらにフォーカスして進められる事をお勧めし
ます。


2021.12.17

vol.54「交渉に必要なものはBATNAと覚悟」

 

【今週のトピックス】

 

日本製鉄が中国の鉄鋼メーカーの宝山鋼鉄とトヨタ自動車とを無方向性電
磁鋼板の同社特許権の侵害で提訴しました。日本企業が大口顧客を訴える
という事は非常に少なく、本件は驚きを以って迎えられました。


但し、日鉄はいきなり両社を提訴した訳ではなく、宝鋼ならびにトヨタと
同社の特許侵害について協議して来た上で満足な結果が得られなかったた
め、提訴に踏み切っています。


このケースから学べるのは、交渉に臨むにあたって必要なものは相手と貴
方のBATNAの理解と交渉決裂した場合の覚悟という事です。BATNAはBest
Alternative to a Negotiated Agreementの略で、交渉を決裂させるし
かないと判断する限界線と交渉決裂時の次善策を指します。


日鉄のBATNAは例えトヨタとの関係が悪化する事になっても、提訴により
トヨタのみならず他ユーザでの宝山鋼鉄の無方向性電磁鋼板の使用停止に
あると考えられます。


無方向性電磁鋼板は特殊な製造プロセスによって鉄の磁石につく特性(磁
気特性)を著しく高めた高機能鋼板を、特定の方向に偏った磁気特性を示
さないように鋼板の面内でできるだけランダムに結晶方位をコントロール
したもので、モータなど回転機の鉄心に広く使用され、自動車の電動化に
必要不可欠なものです。
参考)「当社無方向性電磁鋼板特許に関する訴訟の提起について」日本製
鉄株式会社 2021 年10月14日


これまでは技術的難易度が高く、日鉄が市場を抑えていましたが、韓国・
中国の製鉄メーカが日鉄より低価格で参入、20年にトヨタが宝山鋼鉄品を
採用する等、技術・品質による参入障壁が無くなっています。ですので、
日鉄はこのまま宝山・トヨタと協議による解決を続けた場合、時間だけが
経過し、トヨタならびに他ユーザは宝山製品の使用・拡大が続き、提訴に
よる宝山の無方向性電磁鋼板のトヨタのみならず他ユーザでの使用停止と
いう同社のBATNAすら達成されないと判断したのでしょう。


敗訴しては意味がないので、日鉄が提訴したのには宝山が日鉄の特許侵害
を犯しているという確たる証拠を握っていると考えられます。それであれ
ば、判決を待って敗訴という最悪の結果を避けるべくトヨタは和解に動き、
宝山品の使用を止めるか、宝山を通じて日鉄への特許使用料を払い、日鉄
は自社品を販売したのと同等の利益を得られるでしょう。また、提訴した
段階で宝山品は知財トラブルを抱えている事が明らかになり、他ユーザへ
の宝山品の使用・採用の抑止にもつながります。


一方で、トヨタは日鉄のBATNAは自社との大口取引を打ち切る事はできず、
しぶしぶ取引を続けるものと考え、提訴に踏み切るというこの日鉄のBATNA
を見落としていたのではないでしょうか?トヨタの本件についてのプレス
リリースによると「本件につきましては、日本製鉄より当該の指摘を受け
たことから、改めて宝山鋼鉄に確認をさせて頂きましたが、先方からは
『特許侵害の問題はない』という見解を頂いております。」と特許侵害を
指摘されている当事者からの確認に留め、「長年に渡り、日本の自動車産
業、また弊社のクルマづくりを支えて頂き、また弊社の大切な取引先であ
ります日本製鉄が、ユーザーである弊社に対し、このような訴訟を決断さ
れたことは、改めて大変残念に思います。」と情に訴えているのとも、恫
喝ともどちらとも取れる根拠の無い反論で結んでいるのは、サプライヤが
顧客を訴える事はないと高を括っていたのではないかと考えられます。
出所)「日本製鉄株式会社による弊社への電磁鋼板に関する訴訟について」
トヨタ自動車株式会社 2021年10月14日 


交渉が決裂した時には、相手方は相手方のBATNAに則った行動をし、貴方
のBATNAはそれを前提としたものとなります。例えば、サプライヤが値上
げを申し入れてきた時に、そのサプライヤの提示した値上げが通らなかっ
た時にはBATNAが1.貴社への供給停止なのか、2.提示額より少ない%での
値上げ受入なのか、1.の場合、貴社のBATNAに提示の値上後の価格より価
格競争力のある代替サプライヤが確保できているのか、ないしはそのサプ
ライヤからの供給が止まってもしのげるといったものが無ければ、貴社の
BATNAは満額での値上受入となります。


この様に交渉に臨むにあたっては、相手と貴方のBATNAを理解し交渉決裂
した場合に貴方のBATNAを受け入れる不退転の覚悟があれば、交渉決裂を
恐れて、貴方のBATNAより悪い条件で交渉をまとめてしまうという事が避
けられます。


2021.12.10

vol.52「サプライヤのスペックインを防げ」

 

【今週のトピックス】

 

地方自治体が発注するウェブサイトのコンテンツ管理システム(CMS)を
巡り、公正取引委員会はスマートバリューとその営業協業先2社に独占禁
止法違反(不公正な取引方法)の疑いで立ち入り検査しました。これら2
社には、複数の地方自治体に対し、CMSの入札仕様書に「オープンソース
のソフトウエアを使っていないCMSであること」を要件に盛り込むよう働
きかけ、競合他社の参入を妨げた疑いが掛けられています。

CMSは誰でも利用可能なオープンソースのソフトウエアを使って開発する
ベンダーが多くありますが、スマートバリューはオープンソフトウェアを
使わずに自前でCMSを開発しているといいます。オープンソースのソフト
ウエアを禁じたのはセキュリティ対策が名目とされていますが、実際には
オープンソースを使う競合他社を排除する目的だった可能性があるとの事
です。
参考)「参入妨害疑い 2社立ち入り」『日本経済新聞』、2021年11月3日41面


スマートバリュー社の行為はスペックインという営業手法です。スペック
インとは、設計の段階で自社の商品・工法等を採用してもらうべく、自社
にしか無い仕様を設計・要件に織り込む事を図るものです。


スペックインすべてが独禁法に抵触する訳ではなく、不当なスペックイン
が独禁法上は問題となります。今回のケースは、オープンソースソフトウェ
アの排除がセキュリティ対策として適切とは言えない事が問題となってい
ると考えられます。


しかしながら、スペックイン営業は第三者の目に触れない商談の中で行わ
れているので、それが例え不当なものであってもなかなか明るみになる事
はなく、貴社が独禁法によって守られていると考えるのはちょっと安直と
言わざるを得ません。また、調達購買の観点からは、スペックインは元々
競合他社との競争を妨げるべく、そのサプライヤにしかない特殊・過剰仕
様を織り込もうとするものなので、すべてが貴社に不利に働くものと捉え
ておくべきです。


スペックインを防ぐには技術・設計知識が不可欠なので、担当材が技術バッ
クグラウンドの無い場合にはハードルが高くなりますが、調達購買担当者
としては、それでもその職責を全うする必要があります。その様な場合で
も、以下のテクニックを使う事でスペックインを防ぐ事が可能です。


■すべての仕様・要件の妥当性を疑う
すべての仕様・要件について、何故、その仕様・要件となっているかユー
ザの視点で考えてみましょう。その中で、過剰・特殊仕様と思われるもの、
サプライヤの数を大きく限定するものについては、依頼者にそれが本当に
必要なものなのか、どうしてその仕様・要件が必要かを確認しましょう。
依頼者がそれを説明できない場合、スペックイン営業に絡めとられており、
そのサプライヤの受け売りで指定しているだけで、仕様・要件の妥当性が
なく見直す必要があります。


■サプライヤの力を借りる
技術力・設計能力の高いサプライヤの場合、常識的でない仕様・要件につ
いて指摘してくれる時もあります。その様な指摘があった時には、妥当な
仕様・要件をそのサプライヤに確認し、依頼者に対してそれらの見直しが
可能か、不可能な場合、サプライヤの技術者も交えてその理由を検討しま
す。メーカ指定の場合、敢えて競合メーカの製品について同等品が無いか
を確認し、依頼者に競合メーカの同等品がなぜ不採用なのか理由を聞きま
す。上記の仕様・要件の妥当性の確認とこのサプライヤとのコミュニケー
ションにより、やがてはサプライヤに話を聞かなくとも、依頼者との仕様
・要件の調整に必要な技術・設計知識が身につく様になります。


■開発購買を進める
開発購買とは、設計に入る前の検討初期段階から仕様・要件整理に調達購
買の視点を織り込む事です。調達購買版のスペックインです。スペックイ
ン営業に対し、開発購買で対抗します。上記の二項目をできるだけ早い段
階で実施していきます。特に、自社に設計ノウハウが無く、サプライヤの
支援が必要な案件では開発購買を進めるべきです。その様な案件では設計
が懇意にしているサプライヤ一社に決め打ちで相談しスペックインされて
しまいがちですので、その様な案件でこそ、広くサプライヤから情報を集
め、適切な仕様・要件を設定すべきです。


2021.11.26

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