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当社は支出管理(スペンドマネジメント)・戦略調達(ストラテジックソーシング)・最適購買を支援するソリューション群ならびにこれら業務のマネジメントノウハウと中国・アジア・米国・欧州・中南米をカバーするグローバルソーシングネットワークとを基に1)支出管理並びに調達購買マネジメントのアウトソーシング 2)支出管理・調達購買関連システム導入 3)貴社のグローバル最適購買実現などの支出管理・調達・購買・SCMに関わるプロフェッショナルマネジメントサービスを提供しています。それらのサービスを通じて貴社の「最善の支出管理・調達・購買」を実現することにより、調達購買コスト・物流費用・経費の削減や外部支出ならびにサプライチェーンマネジメントに対する効果の最大化による貴社の競争 ...

vol.164「データで暴く!サプライヤの談合」

 

【今週のトピックス】

 
入札データからサプライヤの談合を暴ける時代になりました。例として、
京都大学大学院経済学研究科の中林純教授(当時、近畿大学経済学部准教
授)、東京大学大学院経済学研究科の川合慶教授(当時、カリフォルニア大
学バークレー校助教授)が2019年2月に行った調査があります。


この調査では統計的手法で談合への関与が疑われると特定した約120社の
建設会社に公表済みの入札データから談合を見破る統計的手法の認知度等
を尋ねるアンケート調査への協力を求める依頼文を送付。ランダム化比較
試験として同じく談合の疑いがあると特定した別の約120社にはアンケー
ト調査への協力依頼を送らず、警告の有無による効果を統計的に検証した
ものです。


談合の疑いを抽出する方法は入札データを活用し落札者とその他入札参加
者との間で総合評価値と入札額それぞれの乖離度合を見るものです。入札
が競争的であれば、総合評価値が僅差で落札できるかどうかは偶然と考え
られ、例えば、2社の総合評価値が同じだと仮定した場合、片方の入札金
額が高くなる確率は半分になると考えられます。仕事をどうしても受注し
たいサプライヤであれば、技術評価点で他社に劣る懸念のある場合は他社
よりも低い入札金額を提示するからです。しかし、談合に参加しているサ
プライヤは、総合評価値が僅差であっても落札した会社よりも常に高い金
額を提示しているという傾向が見られます。入札が競争的であれば生じ得
ない現象で、こうした傾向がみられる場合に談合への関与の疑いが浮かび
上がります。


この調査では、アンケート依頼を送った企業は談合の事実が社内で認識さ
れて対応を取ったためか、その前後で入札行動に差が見られました。一方、
依頼を送付しなかった企業は、送付の前後での入札行動に変化は見られず、
総合評価値と入札額それぞれの乖離度合を見るこの手法が談合を見破るの
に有効である事を示しています。


今後の調達購買ソリューションにおけるAIの活用で、AIが談合を見抜く様
になっていくと考えられます。
出所)佐藤 斗夢「入札データで談合を見破れる時代、発注者が警告で阻
止する第3の抑制策」『日本XTECH』2024年3月21日
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00212/031300005/
閲覧日:2024年4月4日)


2024.4.5

vol.163「制約がヒット商品を生む。スズキに学ぶ商品開発・開発購買」

 

【今週のトピックス】

 
今回は開発購買のヒントになりそうなスズキの強さの秘密を解明する記事
を紹介します。


「ジムニーの価格は160万円台から。軽自動車サイズで小さいが、トラッ
クで採用される頑丈な構造を備えた本格的な四輪駆動車だ。荒れた山道で
横転してボディーが壊れても走行可能という規格外の個性で、熱狂的なファ
ンをつかんでいる。米S&Pグローバルの大西健之アナリストは「競合車が
見当たらない」とする。


個性が強すぎるため多数の消費者に受ける商品ではなく、販売台数は毎年
4万台程度とスズキ全体の1%程度を占めるにとどまっていた。他車と大き
く異なる構造のため専用ラインでの生産となり、大量に造りにくい面もあ
る。(中略)


21年、日本以外では初めてインドに生産ラインを設けた。アフリカなどで
の需要がけん引し、23年の販売はヒット商品の目安となる10万台を超えて
12万2000台となった。」


今迄、年産4万台の製品が一気に3倍超の12万台超の販売数なので、これは
かなりのヒットです。このヒットの背景には販売台数が少なくともジムニー
を商品として継続して販売してきた事があります。


「販売台数の少ないジムニーが商品として生き永らえたのは、競争力の源
泉となる車両の全面改良を最小限にとどめる割り切りがあったからだ。


1970年の初代発売から全面改良はたった4回で、18年に発売した最新型は
20年ぶりだった。一般的に全面改良は5年ごとのため低頻度といえる。


自動車メーカー経営の王道は大量生産で、スケールメリットをてこに利益
を増やす。ジムニーはその正反対の手法で時間をかけて投資を回収し、安
価でニッチな車の販売を継続してきた。」


他にも設計段階での原価低減を進めるスズキの手法が記事では紹介されて
います。「23年11月発売の新型軽自動車『スペーシア』。スズキの軽で最
も高価な車両だが、鈴木猛介チーフエンジニアは21年に全面改良した最も
安価なアルトと兼任し同時並行で開発した。車両開発の全責任を負い、多
忙を極めるチーフエンジニアが複数車種を同時に開発するのは競合他社を
見回しても珍しい。


スペーシアと競合するのは、鈴木俊宏社長が『軽自動車の王者』と認める
ホンダの「N-BOX」など、各社が経営資源をつぎ込む豪華な主力車種だ。
単価も高いため、『スペーシアの新型車はなんでも新しい部品にしがち』
(鈴木猛介氏)という。一方で、コスト削減を徹底し、安さを武器にする
アルトを同時に開発すると、『スペーシアでも自然に必要な機能かを突き
詰めるようになる』とコスト意識が高まる効用を説明する。


新型のスペーシアでは全面改良前の旧型車と部品点数の7割を共通化して
いる。目を引くのは車両の後部ドアの内側部品を全く同じにしたことだ。
消費者の目につく大型部品に同じ部品を使い続けるのは珍しい。『何度も
自問し、変えても顧客にメリットはないと判断した』(鈴木猛介氏)とい
い、新しい金型を不要にしコスト削減効果を高めた。」
出所)著者名「ビッグBiz解剖:スズキ、安さと個性、配分の妙」『日本
経済新聞』2024年2月29日朝刊16面


チーフエンジニアに複数車種の同時開発を任せる事すら異例という中で、
最低価格帯の商品と最高価格帯の商品との両極端の車種の開発を同時に任
せるというのはその中でも特に異例と言えるでしょう。実際にそうした差
配が功を奏し、高級品の開発にありがちな、コストについて特に考慮せず
に、すべての素材・部品で最高級・最先端のものを採択するといった考え
方になりがちな所を、最高価格帯品の全面改良であっても、「その変更が
顧客にとってメリットがあるのか」を突き詰めて考えさせ、全面改良前の
旧型車と部品点数の7割を共通化するという結果につながっています。


記事では他にも新型車のエンジン開発では通常ハイブリッド用や地域別等
の複数のエンジンを用意する所を、23年12月に行ったスイフトの7年ぶり
の全面改良では、自動車の電動化を考慮し、先代車両では4種類あったも
のを新規開発の1種類に絞り、エンジンの型番にわざわざ「Z」を入れ、最
後のエンジン開発との覚悟で力を注いだ結果、熱効率は従来から1割超高
く、小型車向けとしては世界最高水準の40%に達する製品に仕上げた事例
や、開発中の電動バイクで航続距離は必要最小限とし電動自転車向けに大
量生産されいる安価な電池を採用した事例を紹介しています。


その会社肝入りの製品開発の場合、コストを度外視して、すべての素材・
部品で最高級・最先端のものを追求してしまう事があります。しかし、ス
ズキの事例は製品開発において敢えて制約を設ける事で、どうすればユー
ザの要求に応えられるか突き詰めて考えさせ、工夫をこらす様にして製品
開発を成功させる手法がある事を示しています。


2024.3.29

vol.162「サプライチェーンのデカップリングじわり」

 

【今週のトピックス】

 
「日米韓や欧州で中国への貿易依存度が下がっている。2023年までの5年
間で中国貿易に占める各国の比率は0.1~2.5ポイント下落した。米商務省
が7日発表した昨年の貿易統計によると、米国の輸入相手で中国は17年ぶ
りに首位から外れた。(中略)


20カ国・地域(G20)を対象に各国・地域の統計を使って主な貿易相手国
の変遷などを調べた。


中国からみた日米韓、欧州連合(EU)との貿易総額の合計は2兆ドル(300兆
円弱)に上る。シェアは全体の35%を占めている。


中国にとって最大の貿易相手国である米国の輸入相手国をみると、メキシ
コが中国に代わって首位となった。電化製品などの調達先が中国から他国
に移った。23年1~11月ではスマートフォンは中国産が1割減り、インド産
が5倍に増えた。ノートパソコンも中国からは3割減り、ベトナムからが4
倍に増えた。


日韓は中国向けの輸出シェアが下がった。日本は4年ぶりに米国向け輸出
が最大となり、中国向けを超えた。韓国の輸出先も23年12月単月で20年ぶ
りに米中が逆転した。


米国はトランプ前政権が対中制裁関税を導入した。大部分を引き継いだバ
イデン政権は友好国との間でサプライチェーン(供給網)を完結する「フ
レンドショアリング」を進めてきた。


蜜月関係が続いてきた欧州でも、中国離れが広がり始めた。23年1~11月
の英国の輸入相手国をみると、中国はトップから3位に後退した。英国立
経済社会研究所のシニアエコノミスト、ベンジャミン・キャスウェル氏は
『欧米と中国の関係が冷え込み、企業が供給網を中国から遠ざけようとし
ている』と分析する。


ドイツは23年の対中輸入が前年比で13%減った。ショルツ政権は対中融和
路線の修正を進めており、24年は高成長を保つ米国が中国を抜き貿易相手
の首位となる勢いだ。」
出所)「日米韓が貿易で中国離れ 米の輸入相手、17年ぶり首位転落」
『日本経済新聞』2024年2月8日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240208&ng=DGKKZO78320550Y4A200C2MM8000
閲覧日:2024年3月20日)


米中の対立激化に伴い、米欧日等の民主主義国家を中心とするサプライチェー
ンと中国等の覇権主義国家を中心とするそれとのデカップリングが提唱さ
れてきました。それに対して、各社の中国への調達依存度が高く、デカッ
プリングは困難と言われてきましたが、各社の動向が実際の数字として表
れるレベルになってきている様です。


弊社も中国市場ならびにサプライ拠点としての中国の重要性は認識してお
り、サプライチェーンからの中国の完全排除を提唱するものではありませ
ん。民主主義国家を中心とする市場向けと中国等の覇権主義国家を中心と
する市場向けとの二つのサプライチェーンを構築し、地政学リスクを回避
する事を提唱しています。


今回の統計数字にはそうした地政学リスクに実際に備えたサプライチェー
ンを構築すべく動いている企業が少なくない事を示していると考えます。


2024.3.22

vol.161「コスト削減では価格は下がってもサプライヤの実際コストは下がりません」

 

【今週のトピックス】

 
公正取引委員会は24年3月に日産自動車に対し下請法に違反する行為があ
るとして、その事実を認めた上で再発防止を求める勧告を行いました。こ
の勧告によりますと、日産は2021年1月から2023年4月までの間に「自社
の原価低減を目的に、下請代金の額から『割戻金』を差し引くことにより、
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じていた。
減額した金額は、総額30億2367万6843円である(下請事業者36名)。」と
の事です。
出所)公正取引委員会「(令和6年3月7日)日産自動車株式会社に対する勧
告について」2024年3月7日 (https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/mar/240307_nissan.html
閲覧日:2024年3月13日)


世の中的には普及していませんが、弊社ではサプライヤとの取引価格に関
する「原価・コスト低減」と「原価・コスト削減」とを使い分けています。
弊社では原価・コスト低減は調達活動により、サプライヤの実際のコスト
を低減させる事により取引価格を低減させる行為、原価・コスト削減はサ
プライヤの実際コストの低減とは無関係に取引価格を削減する行為に対し
使っています。ですので、弊社が勧告文を書いていれば、「(サプライヤ
の実際コストの改善とは無関係に)自社の原価削減を目的に~」としてい
た所です。


コストは市場や物理的なコスト構造等の論理で決まりますが、価格は売り
手と買い手のそれぞれの意思で決まります。ですので交渉で価格は下がる
事もありますが、コストは下がりません。下請法では発注前に価格等の取
引条件を明文化し、事後的にそこに規定されていないものを下請事業者の
責めによらない理由で変更できませんので、発注後の交渉で価格を下げさ
せる行為は禁じられています。


これまではサプライヤに余裕があり、万が一、買い手企業からそうした不
当な要求があっても甘んじて受け入れる事ができたかもしれませんが、最
近ではサプライヤ間の競争が激しくなったり、様々なコストが上昇し、そ
うした不当な要求を受け入れられる余裕がなくなっています。中には、買
い手企業よりも力をつけ、そうした不当な要求は撥ねつける事ができるサ
プライヤも出てきています。


ですので、今後は下請法違反という禁じ手を使ってすら取引価格を下げる
事はできなくなっていくでしょう。ある意味、調達活動によりサプライヤ
の実際のコストを下げる事で自社のコスト低減を実践する真の調達購買の
時代になっていくものと考えます。


2024.3.15

vol.160「DNP/ 宅配伝票を樹脂から紙に」

 

【今週のトピックス】

 
「大日本印刷(DNP)は複数の宅配便を送る際に使う紙製の手書き伝票の
供給を始める。広く使われている樹脂製からの切り替え需要を狙う。伝票
の製造から廃棄までの温暖化ガス排出量を約40%減らすことができるとい
い、まずヤマト運輸が採用した。(中略)


宅配便では2つ以上の荷物を同じ住所に送る際、専用伝票を使う。複数枚
をひとまとまりにした複写式で、住所などを記入した後にはがして荷物ご
とに貼り付ける。はがす際の破れを防ぐために紙より強度の高いポリエス
テル製フィルムを使うのが一般的だ。


DNPは紙や接着剤の種類や構成を見直し、紙製でポリエステル製と同程度
の強度を実現した。価格は現行品と同水準を想定する。」
出所)「大日本印刷、宅配伝票を樹脂→紙製に」『日本経済新聞』
2024年1月5日朝刊3面(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220720&ng=DGKKZO62740170Z10C22A7EA1000
閲覧日:2024年3月4日)


調達品の要件にESG要件が加わる様になっている事を示す事例です。温暖
化ガス排出量の削減に加えて、プラスチックはマイクロプラスチックによ
る海洋汚染が懸念され、素材をプラスチックから紙や木材等の別のものに
代替する動きが出ています。


元々、この伝票にポリエステル製フィルムが使われる様になったのは、記
入後にはがして荷物に貼り付ける際にやぶれてしまうのを防ぐためで、必
要にかられての素材選択でした。


とはいえ、近年のESG経営の高まりにおいて、それへの対応という新しい
要件が生じているのも事実です。調達品の選定はQCDMの四つの観点から行
われます。弊社ではESG要件をMのマネジメント要件として新しく重視され
る様になった項目と整理しています。幾らESG要件が重視される様になっ
てきたとはいえ、求められる他のQCDM要件を満たさなければその製品は採
用されず、広く普及していきません。


今回のDNPの伝票のケースでは強度ならびに価格の何れもは従来のポリエ
ステル製フィルムと同等で、更に温暖化ガス排出量やプラスチック使用量
の削減といったESG対応という新しい価値が加わっている事から、買い手
企業に訴求がしやすく、普及が進むのではないでしょうか。


2024.3.8

vol.159「ローソン/サプライヤの困り事の解決でコスト低減」

 

【今週のトピックス】

 
昨年末、ローソンは冬休みで学校給食がなくなり牛乳の消費が減少する期
間にあわせて、国産牛乳を使用したデザートや菓子パン等の新商品4品の
発売や、国産牛乳を使用したカフェラテやミルク各種を割引販売するミル
クフェアを開催しました。


ローソンは2021年・2022年の大晦日と2022年・2023年の元日にホットミル
クの半額販売をする等、これまでも牛乳の消費量が落ち込む年末に牛乳の
消費を喚起する様なキャンペーンを行っています。この4日間合計でのホッ
トミルクの販売量は約235tと顧客からも支持を得ている様です。


出所)「国産牛乳を原材料に使用したデザート・ベーカリーを発売」
『株行会社ローソン ニュースリリース』2023年12月21日
(https://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1478237_2504.html
閲覧日:2024年2月26日)


乳製品に限らず、工場は生産コスト低減のために需要をできる限り平準化
したいと考えています。そうした工場の事情を鑑み、工場の閑散期にまと
めて注文を入れる事でコスト低減を図るのは100円ショップ等のディスカ
ウントストアの常套手段です。印刷業界ではラクスルが多数の印刷会社を
ネットワーク化し、それぞれのラインが非稼働の時にラクスルの仕事を受
けてもらう仕組みを構築し、印刷コストの低減を図っています。


サプライヤの困り事を解決する事で取引条件面で有利な条件を引き出す、
コスト低減の有効な手段の一つです。


2024.3.1

vol.158「調達DXが進まないただ一つの真因」

 

【今週のトピックス】

 
年商500億円以上の日本の製造業を対象にした調査で調達DXから「期待通
りの成果が出ている」と回答した企業は1割にも至りませんでした。今回
はその調査を基になぜ調達購買部門でDXが進まないのかを考えます。


この調査で調達DXから期待通りの成果が出ていると回答した人は71人中7人
で1割に未満にとどまっています。71人中、調達DXを導入済み(運用段階)
と回答した人は9人で、そもそも調達DXの導入が進んでいない事が伺えま
す。導入が進まない事には期待している成果は出ません。


調査では調達DXを進める上で難しい/課題と感じていることを複数回答可
で聞いており、調達DX推進上の主な課題として
「専門的な技術者や人材がいない(39人/55%)」
「費用対効果が示せない(26人/37%)」
「人手が足りない/時間が割けない(18人/25%)」
「他部門/他部署との連携ができていない(18人/25%)」
「予算の確保ができない(16人/23%)」
といった項目が挙げられています。
.
これらの回答からは調達DX推進上の主な課題の一つとして調達DXを社内の
みで進めようとしており、PJ予算承認の取り付けも含めた調達DXの進め方
が分からないというのが主なポイントの様に伺えます。日本では購買管理
領域のシステム化はかなり早くから進んでいますが、調達領域のDXは多く
の企業で手つかずです。そのため、調達領域へのシステム導入を進めた経
験のある方が社内におらず、社内では調達DXを進める知見に乏しい事と考
えられます。


また、こちらは本調査からではなく、弊社が調達購買業務の改善を支援し
てきた経験から感じている事ですが、調達DXの様な改革を進めるには調達
購買部門内に自社の調達購買業務のレベルを更に引き上げたいと考えるリー
ダーが必要です。リーダーの職位は高ければ高いほど良いのですが、調達
購買部門長でなく若手であっても構いません。今回の調査結果の様なPJ予
算承認の取り付けも含めた調達DXの進め方といった技術的な事は外部から
の支援が可能です。但し、そうした支援の予算も含めたPJ予算の取り付け
にはリーダーが熱意を以って社内を動かさない事には為しえません。


参考)株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部「調達のDX化に
向けた取り組み調査結果レポート」2023年9月


2024.2.16

vol.157「不正が相次いだトヨタグループに学ぶ調達購買マネジメント」

 

【今週のトピックス】

 
グループ企業で相次いだ不正を受けてトヨタの豊田章男会長が謝罪を致し
ました。グループで不正が相次いだ原因をまとめた記事からはその原因と
して
・不合理な目標や計画
・目標と能力との乖離
・現場の声を聞かない
の三点が挙げられます。


・不合理な目標や計画
記事によりますと不正が起こった各社の調査委員会の報告書では不合理な
開発日程(豊田織機)や過度にタイトで硬直的な開発日程(ダイハツ)が不正
の原因の一つとして挙げられています。


・目標と能力との乖離
目標や計画が不合理となるのはそれらが能力とかけ離れているからです。
記事では豊田織機では21年に法規認証に特化した部署を設置する迄は専門
部署が存在しておらず、専門家ではない従業員が複雑な法規則の内容を分
析することを余儀なくされていたとの事です。また、ダイハツでは担当人
員の削減、日野では開発業務と認証業務とを兼任しており、不正を起こし
た各社で目標と能力との乖離があった事が指摘されています。


・現場の声を聞かない
能力に見合わない不合理な目標や計画が是正されなかったのには不正を起
こした各社で現場の声が封殺されてしまっていた事にあります。「『量産
開始日程を遅らせるのは会社に迷惑をかける』。豊田織機の調査委員会は
従業員がさらされたプレッシャーをこう紹介した。「うまく開発が進んで
いないが、言っても聞いてもらえない中でやむなく不正に走った」ダイハ
ツでも『実際に相談しても『で?』と言われるだけ』。日野でも従業員の
間に『どうせ言ったところで何も変わらないという諦め感』が広がってい
たという。声をあげて問題を正す自浄作用は働かず、不正が起きてもモノ
を言えない空気が広がっていった。」記事では各社の現場の雰囲気につい
てこう記しています。


「不合理な目標や計画」「目標と能力との乖離」「現場の声を聞かない」
こうした特徴は下請法違反企業にも見受けられます。コスト削減の数字で
評価されやすい調達購買部門に対しては何ら根拠のない不合理なコスト削
減目標を突き付ける経営者が少なからずいます。


その不合理な目標を調達購買部員に下ろしてしまえば、調達購買部員はそ
れをそのままサプライヤに下ろしてしまうか、数字の操作といった不正を
働く事となってしまいます。買い手企業から無理な目標・計画を告げられ
たサプライヤは力のある所であればその買い手企業との取引から離反する
事となり、力のないサプライヤであればその従業員に無理を強いるか、会
社ぐるみの不正に走る事になりかねません。トヨタグループと同じ構図で
す。


こうした悪循環を断ち切るには調達購買部門長が理不尽な目標・計画を突
き付ける経営者と対峙する他にはありません。出された目標・計画を達成
するにはそれだけ追加の人員・投資が必要か、提供される人員・投資を含
めた上で現実的なストレッチを加味して達成できる数字・計画を示し、現
実を説明します。


そうした説明を経営者が受け付けない時はどうすれば良いでしょうか?不
合理な目標・計画は短期的には成果を上げるかもしれません。しかしなが
ら、そうした経営の仕方では従業員が持ちません。退職者が相次ぐか、不
正に走るかの何れかです。まともでない経営者のために非合理な目標・計
画を部下やサプライヤに押し付けたり、不正を働くといった犠牲を貴方が
払う必要はありません。正当な説明を受け付ける度量のない経営者とは袂
を分かつのが得策と考えます。


参考)「効率経営もろ刃の剣」『日本経済新聞』2024年1月31日朝刊3面


2024.2.9

vol.156「BtoB取引は買い手の立場を利用した力技から、ますます頭を使った工夫の時代に」

 

【今週のトピックス】

 
国土交通省は2023年11・12 月に行ったトラックGメンによる集中監視月間
の取組結果を公表しました。今回、過去に「要請」を受けたにもかかわら
ず、依然として違反原因行為に係る情報が相当数寄せられた荷主企業2社
に対し、違反原因行為をしないよう「勧告」し、それら荷主企業の社名や
違反原因行為の内容を公表した事が特徴となっています。


今回の取組では上記の勧告の他に164件の「要請」と47件の「働きかけ」
が行われた事が合わせて発表されています。これらの措置は荷主企業が適
正な取引を行う様に促すためのもので、
1.違反原因行為を荷主がしている疑いがあると認められる場合に「働きか
け」
2.荷主が違反原因行為をしていることを疑う相当な理由がある場合に「要
請」
3.要請してもなお改善されない場合に「勧告」。勧告については社名も含
めてその内容が公表されます


国土交通省によると、勧告・要請等の対象となった荷主等についてはトラッ
クGメンによるフォローアップが継続され、改善が図られない場合は更な
る法的措置の実施も含め厳正に対処するとの事ですので、今後、物流関連
の取引先との取引条件はトラックGメンの監視下に置かれると共に、改善
計画の策定等の対応が迫られる事となります。


中小企業庁が推進する価格交渉促進月間といい、政府は企業間取引の適正
化の推進に本腰を入れている様です。本来、調達購買担当者の業務は、世
間に思われている様な買い手の立場を利用して買い叩くというものではな
く、最善の取引先と適正な取引条件で取引できる様にするというものです
ので、本来の調達購買担当者の仕事の進め方をしている方々にとっては何
も慌てる事はありませんが、今回、勧告や要請を出されている企業が数多
くあるのも事実です。


今回の勧告の内容は、
・長時間の荷待ち
・契約にない附帯業務
・運賃・料金の不当な据置き
・過積載運行の指示
・その他の無理な運送依頼
といったもので、長時間の荷待ちはバース予約システムの導入等の業務の
工夫が必要ですが、他の項目は依頼条件を適正化しその対価を払えば済む
話で、実際に適正な取引を行い、勧告・要請だけでなく働きかけすら受け
ていない企業も多数あります。そうした企業は取引条件を工夫する事でコ
ストを低減し適正な価格で取引をしています。本来は昔からかくあるべき
ですが、買い手の立場を利用した力技ではなく、頭を使った工夫によって
コスト低減を進めて行く時代にますますなっていくものと考えます。


参考)国土交通省「トラックGメンによる「集中監視月間」(令和5年11月・
12月)の取組結果」2024年1月26日
(https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000292.html
閲覧日:2024年1月29日)


2024.2.2

vol.155「調達購買業務でのAI活用はこう進む!」

 

【今週のトピックス】

 
調達購買業務の事例ではありませんが、AIの業務での活用が進んでいます。
これらの事例を基にAIの調達購買業務への適用を考えます。


「顧客の問い合わせに対応するコールセンター業界で、生成AI(人工知能)
の導入が急速に進んでいる。大手13社中12社がオペレーターの支援や通話
内容の要約などに活用し、平均5割の業務時間削減効果を見込んでいるこ
とがわかった。人手不足の解消につなげ、データ分析など付加価値の高い
事業領域へのシフトを狙っている。(中略)


日本経済新聞は2023年12月中旬に国内のコールセンター大手15社に生成AI
に関するアンケートを実施し、13社から回答を得た。(中略)


具体的な用途(複数回答可)では、回答した11社全てが電話応対中に必要
な情報を示すなど「オペレーター支援」に利用していた。通話内容の書き
起こしや要約といった「後処理」の業務でも11社が生成AIを活用していた。


顧客対応そのものを人間のオペレーターから生成AIに切り替える動きも広
がる。7社が文章で自動回答する「チャットボット」の精度向上に生成AI
を活用し、3社が「ボイスボット(AI音声による自動回答)」の実用化を
進めている。(中略)


対話型AI「チャットGPT」などを使い音声通話終了後の書き起こしや要約
を自動化したKDDI傘下のアルティウスリンク(東京・新宿)は、対象とな
る業務時間を47%減らした。従業員の負荷が軽くなっただけでなく、記録
の質も高まったという。(中略)


NECフィールディングは電話による自動応答システムに、23年度中に生成
AIの機能を組み込む。従来は消費者が自動音声に従って該当する番号を入
力し、問い合わせ窓口を選ぶ仕組みだった。生成AIの導入後は口頭で用件
を説明すれば最適な窓口に自動で案内されるようになる。」
出所)「顧客対応時間、AIで半減」『日本経済新聞』2024年1月15日朝刊
7面


AIの回答精度はデータ量に依存しますので、調達購買業務でのAIの活用は
まずは他業務とも共通して行われるものから進むと考えられます。例えば、
調達購買業務に関する社内外の打ち合わせメモの自動書き起こし・要約メ
モの作成といった業務は会社全体として共通のツールを採用する事で導入
が進められていくでしょう。


次いで、ソリューションとしては既に実装され、欧米では導入が進んでい
ますが、トランザクションに関するものや契約締結業務でのAI活用が調達
購買ソリューションや契約管理ソリューションの採用と共に進んでいくと
考えれます。例えば、請求書送付や支払に関する照会といったサプライヤ
とのやり取りや、契約書案や交渉で生じた代替条項案のレビューにおいて
AIを活用化した自動化の事例が出てきています。


まだ、業務そのもののデジタル化が遅れているため、事例としては筆者は
把握していませんが、トランザクションに関するサプライヤとのやり取り
の延長として、サプライヤ登録や提案・見積依頼に関してサプライヤから
の問い合わせ対応においてもAIによる回答案の作成・回答の自動化といっ
た活用は近い将来実現していくと考えられます。


平行的に、ある事象が起こった時の供給リスクが懸念されるサプライヤ・
品目の特定や過去の対応事例から対応策を推奨するリスクマネジメントへ
の適用といったケースが出てくるものと考えられます。


多くの方が期待し問い合わせも多い見積査定・交渉へのAIの適用ですが、
調達・ソーシング業務のデジタル化の遅れやBtoBの価格交渉は企業間で個
別のものでデータ量に欠けるため精度向上に時間が掛かり、実用化はまだ
遠いと筆者は予想します。


筆者は元々コストは交渉では低減できず、サプライヤ開拓・競争環境構築・
仕様改善でなければ低減できないという立場ですので、価格交渉はおいて
おくとして、見積査定・コスト低減は、他の領域でのAIの活用によりそれ
らの業務での業務時間が低減されますので、それらの時間を使って調達購
買担当者が更に注力する領域になるものと考えられます。


2024.1.26

vol.154「教えて!どうして大企業向けBtoB企業の貴社がTVCMを打つのですか?」

 

【今週のトピックス】

 
隣の芝は青く見えるもので、大企業向けをメインとするBtoB企業のTVCMの
調達購買は改善余地があるように見えます。BtoC企業のTVCMの調達担当者
の多くの方々はCMによる売上へのインパクト等で厳しく評価されている事
と思います。また、同じ大企業向BtoB企業であっても、他の材の調達購買
担当の方々はコスト低減額等のKPIで厳密に評価されている事でしょう。


しかしながら、大企業向BtoB企業がTVCMを打つ目的が筆者にはあまり良く
理解できません。そういった企業であれば、顧客となる買い手企業の調達
担当者は当然その企業を知っており、TVCMによる売上へのインパクトがあ
るとは考えられません。


可能性として考えられるのは採用活動に向けた認知度の向上でしょうか。
それでも、企業名を連呼するだけのイメージ広告でどれだけ自社が望む様
な優秀な人材を引き付ける事ができるのでしょう。特に、専門能力が求め
られる中途採用でイメージ広告がきっかけで応募しました、そして、その
出会いがお互いにとって良縁でしたというケースは非常にレアなのではと
考えられます。あって、新卒採用向けかもしれませんが、あまたあるメディ
アや就活イベント等のアプローチ方法の中からTVCMというマスメディアを
選択したのでしょうか?


調達を成功させるには、調達目的をはっきりさせ、対象品ならびにサプラ
イヤの適切な評価方法を目的から導き出す事が大切です。こうしたイメー
ジ広告への投資を決定した担当者の方から、その調達目的と投資決定にあ
たってのKPIや評価方法について是非お話を伺ってみたいものです。


2024.1.19

vol.153「ユーラシアグループ『2024年10大リスク』から2024年のサプライチェーンリスクを考える」

 

【今週のトピックス】

 
米国の調査会社ユーラシア・グループが2024年の「世界の10大リスク」を
発表しました。今回はそれを基に2024年のサプライチェーンリスクについ
て考察します。


同社が発表した2024年の世界10大リスクは:
リスク No.1 米国の敵は米国
リスク No.2 瀬戸際に立つ中東
リスク No.3 ウクライナ分割
リスク No.4 AIのガバナンス欠如
リスク No.5 ならず者国家の枢軸
リスク No.6 回復しない中国
リスク No.7 重要鉱物の争奪戦
リスク No.8 インフレによる経済的逆風
リスク No.9 エルニーニョ再来
リスク No.10 分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク
です。


例年、これらのリスクがすべてサプライチェーンリスクに関わるものでは
なく半数程でありましたが、今年は間接的なものもありますが、全てサプ
ライチェーンリスクに関わっているというのが一つの特徴と言えます。


最初の「米国の敵は米国」は米国の分極化と党派対立が歴史的な高水準に
ある事を示したものです。この最大のリスクはドナルド・トランプ前大統
領が再び米国の大統領に選出される可能性が決して小さくない事です。ト
ランプ氏が再び大統領に返り咲くと、国際協調体制が再び崩れ、世界各国
の政治・経済が混乱に陥り、世界各所でサプライチェーンリスクが顕在化
する事になると筆者は考えます。


次の「瀬戸際に立つ中東」はイスラエルとハマスとの衝突がエスカレート
し、貨物保険料の高騰、中東からの原油供給の途絶、原油価格の上昇等に
つながるリスクが懸念されます。


3位の「ウクライナ分割」はロシアが部分的にウクライナの領土の支配権
を維持するというものです。これは強権国家のロシアの勝利・民主主義陣
営の敗北を意味するものであり、政治的不安定をもたらす事でサプライチェー
ンリスク高める事になります。


4位の「AIのガバナンス欠如」は生成AIを悪用し高精度な偽情報が濫造・
拡散されるというものです。これはインシデントが生じた際に混乱を増幅
させるリスクの高まりを意味します。


5位の「ならず者国家の枢軸」はロシア・北朝鮮・イランのならず者国家3カ
国が結束を強め、世界の秩序を混乱させるというものです。そうした行為
により、世界各所でサプライチェーンの混乱をもたらす事が懸念されます。


6位の「回復しない中国」は中国経済が回復しない事を示唆したものです。
これは近年懸念されていた中国の地政学的なリスクではなく、世界経済を
けん引してきた中国市場の低迷という純粋な経済的リスクを意味します。


7位の「重要鉱物の争奪戦」はバッテリーや半導体等の需要が急増してい
る品目で使用されるリチウム・コバルト・ニッケル・レアアース等の重要
鉱物の文字通り争奪戦が繰り広げられるというものです。


8位の「インフレによる経済的逆風」は世界的なインフレによる世界中での
市場低迷のリスクです。


9位の「エルニーニョ再来」は4年ぶりに強力なエルニーニョ現象が再来す
る事に警鐘を鳴らしています。エルニーニョ現象は熱波・干ばつ・暴風雨
・洪水等の異常気象の頻度と規模を増大させます。こうした異常気象は自
然災害による物流の混乱・水不足・食料難といった形でサプライチェーン
に悪影響をもたらします。


10位の「分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク」は米国にお
いて支持政党だけでなく、LGBTQの権利・教育政策・環境規制・妊娠中絶
・銃規制、はたまた予防接種の義務化等、様々な論点を巡って米国内で二
極化が進み、顧客・従業員・投資家・州政府等の様々なグループが企業に
対しそれぞれの論点において立場を明確にする様に迫り、企業が自社の考
えを表明すると、どの様な立場を取っても、一方の反対派から商品や取引
のボイコットやその企業にとって不利となる法令や行政措置を科せられる
という事が頻発しており、世界最大の市場である米国でそうした事業遂行
リスクが生じている事を挙げています。


こうしてみますと「米国の敵は米国」「瀬戸際に立つ中東」「ウクライナ
分割」「AIのガバナンス欠如」「ならず者国家の枢軸」「重要鉱物の争奪
戦」の6つは地政学に起因ないしは地政学リスクを増幅させるもので、地
政学のサプライチェーンに与える影響が年々大きくなっているとしみじみ
感じます。
参考)「2024 年 10 大リスク」『Eurasia Group』


2024.1.12

vol.152「失われた30年から抜け出すために調達購買部門はどう動く?」

 

【今週のトピックス】

 
先日、日本企業が失われた30年から抜け切れずにいる原因とその解決法に
ついて、「失敗の本質」などの名著がある一橋大学の野中郁次郎名誉教授
へのインタビュー記事が日本経済新聞に掲載されていました。今後、私た
ち調達購買部門の人間がどう動くべきかをこの記事を基に考察します。


野中氏は日本企業が失われた30年から抜けられない原因として「プラン
(計画)、アナリシス(分析)、コンプライアンス(法令順守)の3つが
オーバーだった」と述べています。


プランについて同氏は「数値目標の重視も行きすぎると経営の活力を損な
う。例えば多くの企業がPDCAを大切にしているというが、社会学者の佐藤
郁哉氏は最近、『PdCa』になったといっている。Pの計画とCの評価ばかり
偏重され、dの実行とaの改善に手が回らないということ。」「行動が軽視
され、本質をつかんでやりぬく『野性味』がそがれてしまった。野性味と
は我々が生まれながらに持つ身体知だ。計画や評価が過剰になると劣化す
る」「計画や手順を優先させられると人は指示待ちになり、創意工夫をし
なくなる」と述べています。


「PdCa」的確な表現です。佐藤氏が指摘されている通り、実際に手を動か
す事なく、計画・評価のみをする人ばかりで、行動・行動の結果のフォロー
アップアクションが無いと何も変わりません。野中氏が言う様に計画や評
価が重視される様になると、人は指示待ちになり自発的に動かなくなって
しまいます。加えて、計画やチェックの優先が度が過ぎてしまうと従業員
が疲弊してしまい、近年続々と明るみになっている高品質を誇っていた日
本企業各社による品質不正といった行為に走らせる迄に至ってしまいます。


アナリシス(分析)については「過去の成功体験があまりにも大きかった
のが影響しているのかもしれない。刻々と変化する現実への対応を誤る傾
向がこの30年、続いた」「ベトナム戦争の当時、米国防長官を務めたロバー
ト・マクナマラはデータ分析を駆使したが、数値にあらわれないベトナム
人の愛国心や強さを洞察することができなかった。」と語っています。


数値分析偏重になってしまうと、どうしても数値が取れるこれまでの事業
から抜ける事ができず、変革や新しい事に対して数字が見えないという事
で二の足を踏んでしまい、変化への対応ができません。また、組織は人で
構成されていますので、従業員のやる気・感情を把握・鼓舞していく必要
がありますが、なかなか数値で取る事ができず見落とし勝ちです。従業員
満足度調査といった手法はありますが、どこまで本音を語ってくれている
か、また個々人の回答を入手する事は難しく、自分が関わる部下・同僚・
上司それぞれの考え・モチベーションの度合い・感情は自分の目で確かめ
ていく必要があります。


コンプライアンスについて野中氏は「誤解を恐れずにいえば、事なかれ主
義やリスク回避、忖度(そんたく)の文化が生まれやすい。『様子をみな
がら慎重に』などと悠長にやっていられない時もある。過剰反応は危うい」
と述べています。


コンプライアンス・ESG重視の経営の流れは止められません。理想はコン
プライアンス・ESGを尊重しつつ、個々の従業員が果敢に新しい事に挑戦
していくという事になるのでしょうが、計画・評価・分析・現状偏重で
個々人が疲弊しモチベーションが低い状態では、人はこうした挑戦を避け、
事なかれ主義・リスク回避に流れてしまいます。


こうした現状を脱却するために野中氏は「組織というものは本来、変化に
適応できるかどうかが絶えず問われる。」著書「失敗の本質」で指摘した
旧日本陸軍の敗因「戦略のあいまいさ、短期志向、集団主義、縦割り、異
質性の排除」を引き合いに出し「今思えば過去30年の日本も、底流にある
問題は当時の日本軍と変わらなかった可能性がある」と述べた上で「過去
の組織、戦略、構造、文化を変える。そして我々はなぜここにいるかを確
信できる価値と意味を問い直す。」「ソニーグループを再生した平井一夫
氏(前会長)が、改革には『IQ(知性)よりEQ(感性)だ』と話していた
のが興味深い。『感動』というパーパスで自信を失いかけた社員のマイン
ドセットを変えたのだが、重視したのは共感だった。6年で70回以上もタ
ウンホールミーティングをしつこくやったという」と訴えています。


私たち調達購買部門の人間は様々なコストが上昇基調・VUCAの時代・ESG
経営と社会的責任のある調達の要請・DX推進といった経営環境下の中での
調達購買部門の価値・あり方を考え続け、そのビジョンを経営・要求元に
対し熱意を持って語り続けていくという事が必要と考えます。
参考)「〈直言〉:『企業の失敗、野性喪失から』野中郁次郎氏」
『日本経済新聞』2022年7月20日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231008&ng=DGKKZO75108820X01C23A0EA1000
閲覧日:2023年10月8日)


2023.12.22

vol.151「公共工事の4割超で物価高を越える事業費の増額。こうしたトラブルに調達購買担当者が巻き込まれない様にするには?」

 

【今週のトピックス】

 
今回は適正な価格には適正な仕様の提示からと改めて思わされた事例をご
紹介します。


「国発注の公共工事で、着工後に人件費単価や物価の伸びを上回って増額
する事例が頻発している。日本経済新聞の調べでは、計画から10年以上過
ぎた工事382件のうち42%で計5.2兆円増えていた。(中略)


日経は2021年度時点で継続中のダムや道路などの工事について、計画当初
と21年度の事業費が分かる資料を国土交通省から入手。計画から10年以上
の大型案件を分析した。


増額していたのは全体の77%にあたる294件で、増額幅は6.5兆円だった。
382件全体の費用は当初計画比26%増の31.2兆円に膨らんでいた。このうち
人件費単価や資材費の上昇の範囲に収まる増額は135件で、物価高要因の
増額はやむを得ないと考えられている。


問題は物価高を超えた増額の多さだ。調査では159件に上り、当初計画の
2倍以上に増えた工事も30件あった。背景には国の見通しの甘さがある。


26年度までに開業予定の東関東道水戸線(潮来―鉾田)。当初の09年度に
710億円を見込んだが、21年度には2.5倍の1760億円に増えた。軟弱地盤対
策や残土処理の方法変更に加え、伐採する樹木数を見誤り3万本から13万
本に増えた。国交省常総国道事務所は『事業規模が大きくなると見積もり
の精度は粗くなる』と釈明する。


01年度に事業化した国道『横浜湘南道路』も掘削発生土の処理方法やトン
ネルの安全対策の変更で19年度に当初の2.1倍となる4600億円に増えた。
地元住民や行政間の調整不足が要因とされる。22年度にも1100億円増えた。


公共工事は経済効果を総費用で割った指数で事業価値を判断する。指数が
『1』を下回ると必要性を厳しく検証すべきだとされる。総費用が膨らん
だことで東関東道水戸線は1.5から0.6に悪化した。関西学院大の上村敏之
教授(公共経済学)は『工事を進めたい当局側が費用を低く見積もったか
どうか、検証する必要がある』と話す。」
出所)「公共工事、国発注4割で物価高超す増額」『日本経済新聞』
2023年12月6日朝刊1面


記事が指摘している通り、今回問題となるのは物価高を超えた事業費の増
額です。こうした問題を抱えた案件は調査対象382件中の159件と全体の4割
を超え、費用が2倍以上に増えたものが30件の7.8%と全体の1割近い数字と
なっています。


こうした問題の要因として事業主体の見通しの甘さが記事中では指摘され
ています。例えば、軟弱地盤や安全対策、残土処理方法の変更、中には伐
採する樹木数を本来は13万本の所を3万本と実際の1/4以下で予算設定した
ものもあります。


記事中では調査対象が公共工事であったため、用語がそれに関わるものと
なっており、貴方が工事の調達購買担当者でなければ自身の担当材カテゴ
リーでは起こらない問題とお考えかもしれませんが、果たしてそうでしょ
うか?


軟弱地盤・安全対策・残土処理方法といった技術要件は機能・品質・マネ
ジメント要件に関わるもので、それぞれの材カテゴリーで必要とされるそ
れらの要件を甘く考えたり、要件から漏らしてしまったりという事はどの
材でも起こりうる事です。伐採本数の誤りも必要量の見誤りという事で、
こちらもどの材でも起こりえます。


調達購買担当者として、貴方はこうした問題をどの様にすれば回避する事
ができるでしょう?一つの方法としてフェーズ分けがあります。案件の初
期段階では多くの要件が不明であったり、記事中にもある通り、案件規模
が大きくなると見積精度が落ちたりする場合があります。その様な場合に
は、調査やパイロット等の要件検証フェーズを設けたり、規模が大きな案
件であれば、計画精度を高めるべく、対象を小さく区分し、着手していく
区分をフェーズ分けしなければ進めていく事で計画精度を高める事ができ
ます。


購買力を高めるために案件規模を活かしたいという事であれば、サプライ
ヤからの見積取得時には案件全体を示しつつ、仕様・要件・タスク・数量
・単価をコミットするのは、その内の直近のフェーズのみという方法を取
る事で、案件規模を活かしつつ計画精度を高める事ができます。


記事中では案件を進めたい当局(我々の場合では要求元)が予算を低く抑
え案件を通しやすくするために敢えて要件を甘く見積もっている可能性を
指摘しています。或いは、調達購買担当者がサプライヤから有利な条件を
引き出そうと敢えて見積依頼の仕様・要件を曖昧・甘くしている場合もあ
るかもしれません。


我々は冷静な目で本当に提示されている仕様・要件だけで調達目的が達成
されるか、漏れている仕様・要件・タスク等がないかを見極める必要があ
ります。事実と異なる甘い仕様・要件でサプライヤから安い見積を引き出
しても、後々にトラブル、ひどい時には訴訟沙汰に巻き込まれたり、折角、
選定した優良サプライヤとの取引を打ち切られたりして、困難な思いをす
るのは調達購買を担当する貴方自身なのですから。


2023.12.15

vol.150「サプライチェーン計画ソリューションを必要としない日本の特殊なサプライチェーンマネジメント事情の終焉」

 

【今週のトピックス】

 
先日、サプライチェーン計画(SCP)ソリューション企業の役員の方との
会話で、日本ではこれまで精緻な計画が必要とされず、SCPソリューショ
ンが売れていないとの話がありました。


彼曰く、日本ではバイヤ企業の拙い計画やトラブル等から生じた無理な要
求を優秀なサプライヤが吸収し滞りなくサプライチェーンを回してきたた
め、バイヤ企業ではSCPソリューションへのニーズが無いとのとの事です。


ただ、そうしたサプライヤ頼みのサプライチェーン計画業務の潮目が変わ
ろうとしています。深刻な人手不足等でサプライヤの方でバイヤ企業から
の無理な要求に応えらえなくなっている、サプライチェーンのグローバル
化でドライな対応しかしない海外サプライヤとの取引の増加や、日本国内
のサプライヤであっても、それらのサプライヤが力をつける様になり、採
算管理や業務の標準化を徹底する事でバイヤ企業からのイレギュラーな要
求には断りを入れる様になってきているからです。


サプライヤを頼れないとなると、バイヤ企業としては自分たちでしっかり
したサプライチェーン計画が作れる、トラブル等で急な計画変更が迫られ
た時には迅速に対応計画が作れるといった能力を自ら身に着けるしかあり
ません。


サプライヤを真に対等の立場にあるパートナーとみなして、適正なモノを
適正な価格で買う、そんな時代になっていると感じます。


2023.12.8

vol.149「手強い交渉相手を突き崩す魔法の交渉手法」

 

【今週のトピックス】

 
本年2023年、全米自動車労組(UAW)は25%の大幅な賃上げを勝ち取りました。
その裏には米自動車大手のビッグ3を相手取り、各社の間で条件を競わせ
るUAWのしたたかな交渉手法がありました。この手法は労使間での賃上げ
のみに限定されるものではなく、相見積等、複数社・組織を相手とした交
渉・調整に活かせる手法ですので、今回はこの手法について解説します。


今回の交渉の流れは以下となります:


「GMの経営陣は過去に何度もUAWと対立してきた。今回もメアリー・バー
ラ最高経営責任者(CEO)は『会社の未来を危うくする要求はのめない』
とストが1カ月を超えた10月24日の時点でなお戦闘態勢だった。


だが翌25日にフォードが一転してUAWと暫定合意したことで流れが変わっ
た。欧州ステランティスもストの終結を急ぎ、28日に合意した。


UAWは4年ごとの労働協約見直しで、これまでビッグ3の1社を相手取って交
渉してきた。代表社との合意内容を他の2社も受け入れるのが暗黙のルー
ルだった。交渉を一本化して待遇格差を無くす狙いがあったが、今回は慣
例を廃して3社と同時に交渉した。


3社を競わせて最大限の条件を引き出すためだ。スト期間中は毎週金曜に
交渉の進捗をオンラインで公開し、個別に評価した。評価が低いメーカー
に対しては即時追加ストを打った。各社はUAW執行部との交渉内容をつま
びらかにされ、懲罰を受けるような演出にさらされた。


会社側が提示した条件は筒抜けとなり、1社でも譲歩すれば他社は追わざ
るを得ない状況がつくられた。そのうえで、UAWはペースメーカー役にフォー
ドを選んだ。


フォードの経営陣は伝統的に労組に友好的とされる。UAWの歴史をひもと
いても、GMと旧クライスラー(現ステランティス)で度々ストが発生した
一方、フォードの前回の大規模ストは1970年代にさかのぼる。


『私は最も『組合寄り』のリーダーだ』。創業家出身のビル・フォード会
長は良好な労使関係を強調してきた。UAWはフォードとの交渉日程を他の
2社より前に設定することで先頭を走らせ、同社の条件を波及させる戦術
をとった。」
出所)堀田隆文「真相深層:交渉巧者、ビッグ3競わす」『日本経済新聞』
2023年11月10日朝刊3面

今回の手法の最大のポイントは複数の交渉相手を競わせると共に、最も組
みしやすい相手であるフォードから崩していった事にあります。これまで
のUAWの労働協約見直し交渉は交渉を一本化して3社間の待遇格差を無くす
ために、ビッグ3の内の1社を代表社としそことの合意内容を他の2社にも
展開するチャンピオン交渉に類似する形式のものでした。

この場合、ビッグ3の代表社は交渉において自社のみならず業界全体の利
害関係に配慮せざるを得ず、何れの条件においてもなかなか譲歩する事が
できません。今回はその慣例を廃して3社と同時に交渉する事で、各社が
自社の利害のみを追求し迅速に判断ができる様にしました。

次に、UAWは各社との交渉の進捗をオンラインで公開すると共に、交渉の
進捗において評価の低いメーカーに対しては即時追加ストを打つという演
出を行いました。これは相見積参加社すべてに対して見積参加各社の見積
を公開するリバースオークションと同様に交渉先に対して早期の妥協を迫
る煽りの効果があります。

そして、伝統的に労組に友好的とされるフォードとの交渉日程を他の2社
より先行させ、そこでの交渉成果を他社との交渉に波及させる手法を取り
ました。これは、強固な堤防であっても一部の脆い所から水が漏れだし、
一気に堤防を決壊させる様な攻め方です。

これらの手法はサプライヤとの価格交渉や集中購買の推進・システム導入
といった調達購買改革に対する抵抗勢力の説得等、様々な調達購買業務の
場面で使えます。例えば、集中購買の推進・システム導入といった調達購
買改革に対する抵抗勢力の説得においては、一口に抵抗勢力といっても個
々の部署・個人の間でその温度感に違いがあるものです。それらの中には
業績が低迷していて何等かの改善を迫られている所があるものです。そう
した弱みのある所から説得・崩していく事で、一気に貴方が望む流れにもっ
ていくといった形で使う事ができます。事例を重んじる日本では、こうし
た弱っている所を攻め、成功事例を作るというのは非常に効果的な手法と
なります。


2023.12.1

vol.148「世界貿易機関(WTO)が世界的なサプライチェーンの分断を示唆。求められる二つのサプライチェーンの構築」

 

【今週のトピックス】

 
世界貿易機関(WTO)が世界的なサプライチェーンの分断を示す指数を発
表しました。


「分断の実態を示すのが国連貿易開発会議(UNCTAD)が算出した貿易相手
国の広がりを示す指数だ。22年1~3月期を100とすると23年1~3月期に94.2
と5.8%下がった。


政治的な立場が近い国との貿易の増減を示す指数は1年間で2.7%上昇した。
政治的な立場は国連総会の投票行動に基づいて判断している。


UNCTADは相手国との地理的な距離を示す指標は横ばいだったとして『2国
間貿易が政治的な価値観を共有する国を優先する方向に変化している』と
みる。」
出所)「世界貿易、深まる分断 相手国の多様性、指数低下鮮明」『日本
経済新聞』2023年10月24日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231024&ng=DGKKZO75518530T21C23A0EP0000
閲覧日:2023年11月23日


同盟国や友好国など政治的な近い国からの調達を進める動きはフレンドショ
アリング(friend-shoring)と呼ばれるものです。米国を中心とする民主
主義陣営と中国を中心とする権威主義陣営との対立の先鋭化に予断が許さ
れない現在、地政学リスクを考えると、貴社がグローバルに事業を展開さ
れているのであれば、民主主義陣営向市場にはそれら陣営の国で、権威主
義向市場にはそれら陣営の国で固めた二つのサプライチェーンを構築する
必要があると筆者は考えます。


2023.11.24

vol.147「イオン/値上基調でも調達購買改革の手を緩めず。電力のグループ集中購買を推進」

 

【今週のトピックス】

 
「イオンは2023年内にもグループで使う電力の集中購入を始める。新電力
(総合2面きょうのことば)も含め地域最安値の事業者を選び、原則は再
生可能エネルギー由来の電力で契約する。24年2月までに約50社に広げ、
将来はグループ全300社に増やす。(中略)


イオンはまず全国を約10の地域に分ける。イオン本体が各地域で電気料金
が最安値の電力事業者と一括契約する。従来はグループ各社が個別に電力
事業者と契約していた。(中略)


24年2月までにドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスをは
じめ、食品スーパーやディスカウント店など50社の傘下企業がイオンの電
気に切り替える。集中購入で年間電気代は通常契約よりも最大1割程度安
くなる見込み。


電力大手との契約期間は数年単位で長期だったが、十数カ月単位の短期に
変えて乗り換えしやすくする。将来は大型の洋上風力発電が稼働し、割安
な再エネ由来の電力を調達できる可能性がある。機動的に電力調達できる
体制を整える。」
出所)「イオン、電力一括購入」『日本経済新聞』2023年10月31日朝刊1面


集中購買の事例です。電力は値上基調にありますので、個々の契約で見た
ら値上になるものもあるかもしれません。しかしながら、分散購買を続け
ていたとしても値上の要請が来て、結果的には今回の締結価格を上回る価
格で契約更新となっていたかもしれません。


理想を言えば、調達価格に関する調達活動の成果は市場環境の影響もあり
ますので、現行価格との対比ではなく、適正価格との対比とすべきですが、
多くの企業間取引が相対取引のため、適正価格が分かりません。強いて言
うならば、適正な調達活動の結果で得られた価格が適正価格と言えるかと
考えます。ですので、新規品や値上基調の時に調達活動の成果をコスト低
減額で評価しようとするのはナンセンス。評価のための基準価格が定まら
ない、もしくは適正価格(=調達活動の成果)とすると評価0という全く
実態にそぐわないものとなってしまいます。今回のイオンのケースでは、
通常契約との比較としていますので、新規に分散購買で契約をした場合と
の比較で評価したのではないでしょうか。


今回の様なケースでは、個々のグループ企業の契約価格を明らかにし、そ
れを下回らない時にはそれらの企業は参加しないとする前提で見積依頼を
展開すれば、サプライヤに対して適正な数量で見積依頼を出せるものと考
えます。


買い手企業としてはコスト低減も必要ですが、売価設定や予算策定の観点
からは価格の安定も重要です。価格固定には長期契約が有効ですが、流石
に現在の現在の値上げ基調の価格で価格をロックインする事はできません。
イオンは短期契約とする事でこの問題を回避しています。


値上基調の現在、契約見直しは値上げにつながる可能性が高いため、買い
手企業は二の足を踏み勝ちです。しかしながら、それでは改善のスピード
が遅れてしまいます。場合によっては若干の値上(実際には何もしなかっ
た場合の値上幅を抑えるコストアボイダンス)やコストアボイダンスに留
まってしまうかもしれませんが、何もせずに調達購買部門の工数を余らせ
ておくより、果敢に将来のコスト低減の種をまく活動を進めるべきで、経
営者はそうした活動を正当に評価すべきと考えます。


2023.11.17

vol.146「判断に迷う社会的課題に対して意思を持ってポジションを取るのが社会的に責任のある調達」

 

【今週のトピックス】

 
「衣料品の大手小売り各社が軍政下のミャンマーからの調達を停止し始め
た。人権リスクや不安定な市場環境が背景にあり、英マークス・アンド・
スペンサー(M&S)やファーストリテイリングが生産委託の中止を決めた。
(中略)


M&Sは3月までにミャンマーでの生産委託を中止すると発表している。サプ
ライチェーン(供給網)における人権侵害が理由の一つ。アイルランド発
の低価格衣料ブランド、プライマークも撤退方針を表明済みで『現地にチー
ムを派遣して検討し、責任ある撤退が唯一の選択肢だと判断した』(プラ
イマーク)。(中略)


ミャンマーに残って労働環境の改善に貢献すべきだとの声もある。欧州連
合(EU)やミャンマー欧州商工会議所は適正な雇用を維持する取り組みを
促すネットワークを設立した。少なくとも200工場を対象に、雇用環境の
モニタリングなどを行う仕組みをつくる。(中略)


『ZARA』ブランドで知られるアパレル世界最大手のインディテックス(ス
ペイン)や『H&M』のヘネス・アンド・マウリッツ(スウェーデン)もミャ
ンマーからの調達を続けている。H&Mは取材に『多くの人が国際企業(の
発注)に依存しており、将来の発注について直ちに決定を下すことは控え
ている。すべての関係者と協力していく』とコメントした。」
出所)「アパレル、ミャンマー調達停止」『日本経済新聞』2023年3月29日
(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230329&ng=DGKKZO69680160Y3A320C2FFJ000
閲覧日:2023年11月7日)


ESG経営の高まりと共に社会的に責任のある調達が求められています。環
境負荷の削減の様に方向性が分かりやすいものは良いですが、今回のケー
スは複数の両立しない果たすべき責任を内包しています。


2015年の国連サミットですべての加盟国が同意した持続可能な開発目標
(SDGs)中には、「貧困をなくす」「雇用と経済成長」「平和・正義・堅
牢な制度」の3つが含まれます。


ミャンマーの軍政は明らかに「平和・正義・堅牢な制度」に反しますが、
軍政に反対して撤退した場合、ミャンマーの人々の雇用機会を損なってし
い、結果として「貧困をなくす」「雇用と経済成長」の目標に反する事と
なります。


この様に複数の両立しない果たすべき責任を内包した社会課題に直面した
場合にはどの様に対応すれば良いのでしょう?


筆者はこの様な場合には、自社が果たすべき社会的責任とは何かを深く考
えた上で、それを貫くべきと考えます。反対にやってはいけないのは、難
しい課題に直面し、思考停止に陥ってしまい、ずるずると現状を続けてし
まう事です。一見、これは意思を持ってミャンマーから調達を続けている
企業と変わらない様に見えますが、責任を持ってそのポジションを取って
いるか否かで大きく異なります。


責任を持ってポジションを取っている場合、対立する考えの者から批判さ
れた時に、相手が納得する様な説明ができません。意思を持ってポジショ
ンを取っている場合には、批判覚悟で意思決定していますので、堂々と自
社の立場を説明する事ができます。


自社のポジションを堂々と説明する、それこそが責任のある行動と言える
のではないでしょうか。複数の両立しない果たすべき責任を内包した社会
課題に直面した時には、責任を持ってどちらかのポジションを取る。それ
が社会的に責任のある調達の態度と考えます。


2023.11.10

vol.145「日本のサプライヤの優秀さが日本企業の調達購買の弱点に」

 

【今週のトピックス】

 
過去の強みが環境変化の適応を遅れさせ、弱みとなる。そんな事例をリョー
ビの浦上社長がインタビューで紹介しています。


「私は31歳で住建機器本部の電動工具部門で課長に就任しました。赤字で
国内事業の継続が難しくなり、中国・大連市にある工場へ電動工具の生産
を移管。調達部品の手配や仕入れ先の開拓に奔走しました。


大連での生産準備が本格化したころです。『おい、部品が届いてないぞ!』
と現地の生産担当者に電話で怒鳴られました。血の気が引いたのを覚えて
います。慌てて部品表を確認しました。記載のあるものは全て送っていた。
でも現場には『届いていない』のです。


足りない部品の出庫元は台湾の部品会社でした。部下に台湾まで部品を取
りに行ってもらい、日本に残ったメンバーで原因究明に努めました。しか
し、いくら調べても手配ミスはなかった。それもそのはずです。表に記載
された部品のデータそのものが間違っていたからです。


日本で設計の変更時などに部品データを更新していなかったことが原因で
した。気がつかなかったのは誤った部品データで発注しても国内生産に滞
りがなかったためです。私は日本のものづくりの強さと弱さを知ることに
なります。


国内の部品会社は長年の付き合いから、誤った発注を修正して部品を製造
してくれていました。『あうんの呼吸』で通じる日本の強みですね。一方
でこれは弱さでもあると肝に銘じています。海外企業とのビジネスでは
『呼吸』は通用しませんから。」
出所)「私の課長時代:リョービ社長 浦上彰氏(上)」『日本経済新聞』
2023年9月20日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230920&ng=DGKKZO74581060Q3A920C2TB2000
閲覧日:2023年10月24日)


日本のサプライヤは優秀な所が多いです。過去においては、この様に買い
手企業のミスを無償でリカバリーしてくれる所が多々ありました。一方で、
そうしたサプライヤの対応に甘えてきた買い手企業が多くあるのではない
でしょうか?


こうしたミスは買い手企業の実行ないしは管理能力の欠落により生じます。
ミスをサプライヤがリカバリーする事により、そうした能力の欠如が明ら
かになる事はなく、そららが改善されず置き去りになってしまいます。ト
ヨタがJITで在庫を極限まで減らし適正在庫のみに留めようとするのは、
過剰在庫がこうした能力の欠如を隠してしまうからというのが一因です。
問題は顕在化しない限り、改善される事は決してありません。


既存サプライヤに余力があったり、国内サプライヤとだけつきあっていれ
ば良かった時代はそれでも良かったかもしれません。しかしながら、各サ
プライヤが激しいグローバル競争に晒され、買い手企業が日本以外のサプ
ライヤと付き合っていかなければいけない現在においては、無償で買い手
企業のミスや能力の欠如をリカバリーしてもらえると考えるのには無理が
あります。


国内のサプライヤにはそうした体力が残っておらず、海外のサプライヤに
してみれば、契約にない事を無償で提供するというのは全く理解ができな
い事であり得ません。


そうすると、買い手企業は自社でそうしたミスや能力の欠如をカバーして
いかなければならないのですが、そうした問題点すら把握していないのが
現状です。今後、5年位掛けて、各企業はこうした問題点に気付くのでは
ないでしょうか。


残念ながら過去の日系サプライヤの非常に高い忖度の能力が今の日本企業
の低いサプライチェーン管理能力につながっている、筆者にはそんな気が
してなりません。


2023.10.27

vol.144「マツダ/部品バリエーションの絞り込みでコスト低減・利益率改善」

 

【今週のトピックス】

 
マツダは主力製品でエンジンを搭載する多目的スポーツ車(SUV)の
駆動装置の種類を2割削減する。2030年に世界販売の25~40%を電気自
動車(EV)にする方針だが、電動化は出遅れ気味だ。EVシフトに向け
た経営資源を捻出するため、エンジンや関連部品からなる駆動装置の
種類を減らし利益率を引き上げる。


国内で扱う5車種(販売終了予定の車を除く)のSUVについて、駆動装
置の種類を18から14に絞る。駆動装置を減らせば、部品や生産設備を
削減できるほか、法令に対応したり機能を高めたりする際の仕様変更
のコストも抑えられる。SUVは23年3月期の世界販売台数のうち65%を
占めるマツダの主力製品で、生産や開発の費用を大幅に圧縮できると
みられる。


主力のSUV「CX-5」ではマニュアル車を廃止し、駆動装置を4種類から
3種類にする。小型SUV「CX-30」は新型エンジン「スカイアクティブ
X」を搭載した車やマニュアル車を廃止する。駆動装置は5種類から2
種類になる。(中略)


マツダの車1台あたり営業利益は23年3月期に12万円と前の期(8万円)
より改善したが、SUBARU(スバル)の31万円と比較して低さが目立つ。


SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは「マツダは品ぞろえが生産規
模に対してあまりに多い」と指摘。プラグインハイブリッド車(PHV)
やハイブリッド車(HV)など幅広く手がけており、消費者のニーズに
きめ細かく対応していた。半面、駆動装置の種類が増える傾向にあり、
利益率の低さにつながった。


マツダは世界の自動車メーカーで初めて、小型で出力の高い「ロータ
リーエンジン」の量産に成功したほか、低燃費エンジン技術「スカイ
アクティブ」を開発した。それぞれを搭載したエンジン車で販売台数
を伸ばし、支持を得てきた。


スカイアクティブXは燃費を改善し、走行性能を高めたとして期待が
寄せられていた一方、マツダの他のガソリンエンジンと比べ1台あた
り70万円ほど価格が高く、費用対効果の面で消費者に敬遠されていた
もようで、一部車種での廃止を決めた。
出所)「マツダ、SUVで駆動装置絞りこみ」『日本経済新聞』2023年
9月4日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230904&ng=DGKKZO74133730T00C23A9TB0000
閲覧日:2023年10月17日)


粗利の高さはマーケティング・営業・経営施策や研究開発への投資の
自由度を高め、事業の活性化・更なる収益性の改善・将来の成長につ
ながります。反対に粗利が少ないと、これらの事業・経営の改善策を
打てず、じり貧の負のサイクルに陥ってしまいます。


粗利の改善には個々の品目でのコスト低減の積み上げという方法もあ
りますが、昨今の様々な費目でのコストアップや最初の品目・サプラ
イヤ選定時に徹底した調達活動をされている場合にはそれらによりコ
スト低減は難しく、値上げ幅の抑制がやっとという所かと存じます。


現在の様々な費目でのコストアップの環境下でコスト低減、それも経
営にインパクトを与える様なコスト低減を成し遂げるにはドラスチッ
クなアプローチが必要となります。


今回のマツダのケースでは部品バリエーションの絞り込みのケースで
す。部品バリエーションの絞り込みにより見込まれる効果は


■その部品バリエーションの絞り込みによる一品目当たりの数量増の
量産効果・購買力増によるコスト低減


■周辺部品・関連工具や治具の絞り込みよる一品目当たりの数量増の
量産効果・購買力増によるコスト低減


■生産設備の削減による設備コスト、法令や規制対応等による仕様変
更に伴う開発コストの低減


■絞り込んだ製品に集中してマーケティング・営業投資する事による
投資対効果の改善


といったものがあります。


抜本的なコスト低減・利益率の現在の様々な費目でのコストアップの
環境下でコスト低減、それも経営にインパクトを与える様なコスト低
減を成し遂げるにはドラスチックなアプローチが必要となります。


2023.10.20

vol.143「2024年問題で進む物流のDX。翻って調達購買業務のDXは?」

 

【今週のトピックス】

 

物流に関しては24年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限が年
960時間までに制限される事よるドライバー不足が懸念される「2024年問
題」が喫緊の課題となっています。


その対策としてトラックから鉄道や船舶に輸送を切り替えるモーダルシフ
トや、長距離輸送に対して中継地点を設け複数の運転手で運転を分担し、
これまで2日で1往復していたものを1日1往復の日帰り勤務に代える中継輸
送等が検討されています。


そうした中で物流センターや工場で荷受け準備が整うのを待つドライバー
の荷待ち時間を削減すべく導入が進むのがバース予約管理システムです。
バース予約管理システムはトラックが荷物の積卸をする場所であるバース
での入荷時間を事前に予約するもので、トラック側も荷受側も計画的にそ
れぞれの業務を行える様になり、バースにトラックが集中してしまい荷待
ちが発生するといった事態を避ける事ができる様になります。


バース予約管理システムは数年前から提供されていましたが、物流の2024
年問題が喧伝される様になった近年になりその採用が堅調に進んでいます。


翻って調達購買業務のDXのスピードはあまり変わらずゆっくりとしたもの
の様に感じます。やはり、はっきりとした脅威や課題が眼前に突き付けら
れないと日本では人も組織も変わらないのかもしれません。ホワイトカラー
の残業規制が今の半分程度になる、労働人口が半減する等によって、これ
までの2人分の調達購買業務を1人でこなさなければならないといった差し
迫った課題が生じない限り、日本の調達購買業務のDX化は進まないのかも
しれません。


2023.10.13

vol.142「中小企業庁/2023年3月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査の結果発表」

 

【今週のトピックス】

 

中小企業庁は2023年3月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査の結果
について発表しました。調査結果によりますと、直近6ヶ月間における貴
社と発注側企業との価格交渉の協議についてで「価格交渉を申し入れて応
じて貰えた/発注側からの声かけで交渉できた」割合は前回調査(22年9月)
の58.4%から63.4%に増加が見られます。行政のPRのせいでしょうか?サプ
ライヤ・買い手企業のそれぞれにおいて、適正な価格で取引すべく、価格
交渉をする・価格交渉に応じるという事が少し浸透してきたのでしょうか。


今回の調査では価格交渉・転嫁の好事例が幾つか紹介されています。挙げ
られているものとしては、


■適正な価格転嫁が行われる様に会社を挙げて対応する方針を経営トップ
が社内・取引先に発信


■コスト上昇分を取引価格に反映させる必要がないか発注者側から能動的
に確認し価格交渉を働きかけ


■市況を正しく反映させるために原材料・電力・労務費・運送費等の費目
を明示した価格交渉用のフォーマットをコスト構造分析力のある買い手企
業側から提示し、サプライヤに呼びかけ


■原油価格上昇分を考慮した燃料サーチャージの導入

■労務費の値上げに対応する予算を措置し適正な転嫁を行う環境を整備

■サプライヤとの交渉を記録し、上長が必ず確認することをルール化。そ
のデータを社内で一元管理し、交渉の進捗状況や結果を視える化


といったものがあります。買い手企業側からコスト上昇分の価格転嫁を促
す等、かなり能動的なものが目立ちます。最後のサプライヤとの交渉の記
録・上長確認・交渉の進捗状況や結果の視える化は、組織的に適正な価格
での取引を進めて行こうという姿勢が伺えます。


積極的に値上げを受け入れてしまうと損ではないかと思われる方もいるか
もしれませんが、現在はコスト上昇基調なので値上げの受入となりますが、
市況下落局面では、今回スムーズに価格転嫁を進めた事を材料に、迅速に
値下げ交渉を進める事ができますので、一概に損をするばかりとは言えま
せん。市況に合わせて機動的に適正価格で取引できるので、買い手企業の
顧客に対して市況の肌感覚に合った価格での商品・サービスの提供が可能
になるメリットは大きいと考えます。


こうした適正価格での取引の志向は買い手企業もサプライヤから選別され
る時代になってきていることを示唆していると考えます。特に、優良サプ
ライヤであればある程、買い手企業を選べる立場にあるので、こうしたサ
プライヤの囲い込みには公正な取引相手であるとそれらのサプライヤに認
めてもらう必要があります。


筆者には政府は公正な取引が行われる様に監視を強めていると感じられま
す。今月からはインボイス制度が始まりました。向こう3年間は経過措置
があるため免税事業者に対する支払の8%は仕入税額控除が受けられ、買
い手企業側で仕入税額控除が受けられないのは2%分のみとなりますが、こ
うした仕入税額控除が受けられなくなる事を理由として、その免税事業者
と交渉する事なく請求金額からその金額を一方的に減額、免税事業者が課
税事業者に転換したにも関わらず課税転換の価格交渉に応じず一方的に単
価を据え置くといった行為は独占禁止法上問題になる可能性があります。
インボイス制度は政府肝入りの政策ですので、こうした行為には目を光ら
せている所だと考えます。


2023.10.6

vol.141「セブン&アイ/ 納品期限の緩和でコスト低減」

 

【今週のトピックス】

 

セブン&アイ・ホールディングスは傘下のコンビニエンスストアやスーパ
ー事業で加工食品の納品ルールを緩和しました。対象は対象は賞味期限が
6カ月以上ある常温保存できる加工食品全てで、納品期限についてメーカ
が定める賞味期限の1/3を過ぎるまでに納品するものとする「1/3ルール」
から、1/2を過ぎるまでに納品すれば良いものとする「1/2ルール」に変更
するものです。


鮮度や賞味期限を重視する消費者の需要に対応するため、これまでは1/3
ルールが小売業界の慣習となっていました。卸で在庫している間に納品期
限が切れてしまったり、納品期限が切れているのに卸や小売店舗に納品さ
れたものはメーカなどに返品となってしまい、返品された商品は通常のルー
トでは販売できませんので大半が廃棄となってしまいます。


ですので、今回の納品期限の延長はこうした食品ロスの削減につながると
共に、在庫期間が長くなる事を活かしたより大口での発注による配送頻度
の減少や返品の減少による輸送コストの低減にもつながります。今後もし
ばらくは燃料費やドライバーを中心とする人件費の上昇により運賃の上昇
基調となりますので、物流費の抑制は買い手企業の課題の一つです。在庫
の保管期限の延長は在庫を使った生産の平準化がしやすくなりますので、
それによる製造コストの低減にも寄与します。


様々なコストが上昇する中で、商品そのもののコスト低減は多くの商品で
難しい状況にあります。こうした状況の中では物流条件の緩和等、サプラ
イチェーントータルでのコスト低減を考えていく必要があります。
参考)「セブン&アイ、食品ロス削減へ納品期限緩和」『日本経済新聞』
2023年4月3日 (https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC283BK0Y3A320C2000000/
閲覧日:2023年9月26日)


2023.9.29

vol.140「貴方の話を一切聞かず自国の主張のみを押し付ける中国政府の様な輩と交渉するには」

 

【今週のトピックス】

 

中国政府が公表した同国の領土や領海を示す新しい地図を巡り、アジア各
国・地域が一斉に反発しています。理由はこの地図では、南沙諸島や西沙
諸島等、中国が一方的に領有権を主張する地域についてすべて自国の主張
に沿う形で公表されているからです。日本の領土である尖閣諸島について
も中国の主張に基づく表記がされており、日本政府はそれに対し抗議する
と共にその地図の即時撤回を求めています。


調達購買業務の交渉においてもこうした自身の主張しか繰り返さない人い
ませんか?筆者の経験では、中国企業の場合、日本企業との取引を経験し
ている人が多いせいか、そうした人の比率はそれ程多くなく、国民性と言
えるレベルではないと感じます。

こうした交渉スタイルが国民性と言えるのは、まだ仮説レベルですが、イ
ンドのエリート層と筆者は現在、感じています。これも国民すべてという
ものではなく、あくまで役員クラスのエリート層についてです。


彼・彼女らの交渉スタイルは例えばミーティング等でこちらの主張を聞い
た後に、その場では特に何も反論せず、こちらは合意を得られたと感じら
れる様な場面であっても、議事録や対案において何も言い訳する事なく、
しれっと自分の主張を繰り返してきます。これでは全く交渉が進む気配が
見られず、他の選択肢があるならば、私であればさっさとそちらの選択肢
の検討を進めます。


確かにこの交渉スタイルであれば、交渉が成立した場合には、自分の主張
を総取りする事ができます。とはいえ、これでは合意形成できない故の全
体の進行の遅れや交渉決裂の恐れがあります。あまり合理的な交渉スタイ
ルとは思えませんが、それでも、彼・彼女らはそれらのリスクなどは全く
お構いなしに彼・彼女らは自分の主張を繰り返すのみです。インドでは案
件進行の遅延や交渉決裂よりも、交渉で少しでも妥協する方が彼・彼女ら
の社内での評価が大きく下げてしまうのではないかと思える程です。とは
いえ、他に選択肢もない場面もあるでしょうから、今回はそうした輩への
対処法をお伝えします。


まずは譲歩すれば相手も譲歩してくれるという期待は一切捨てて、単純に
BATNA(次善の選択肢)を基に貴社回答をするのが原則です。一方で、全
く譲歩ができない部分については、全く譲歩できない事を繰り返し主張す
るのみです。大切なのは譲歩できない時には譲歩できないと事ある毎に主
張する事です。なぜなら、彼・彼女らは自分達の都合の良い様にしか物事
を解釈しないので、反論しないとこちらは彼・彼女らの主張に合意したと
解釈してしまうからです。


自分の主張を貫く事による交渉リスクを恐れる必要はありません。なぜな
ら、彼・彼女らにとってこうした対応は自分達と同じであり、当然と考え
ているだろうからです。こうした交渉スタイルを取っている人に限って、
向こう側にも交渉に同じ無ければいけない理由があり、交渉を破棄するつ
もりがないからです。また、こちらがBATNAを超えて情報してしまえば、
BATNAを選択するよりも悪い結果となってしまうので、そうした状況であ
ればこの交渉は終わりとし、BATNAを採択した方が自社にとってメリット
があります。


こうした輩との交渉を部下等の第三者に任せる場合には、個々の交渉項目
についてBATNA等どこまでなら譲歩して良いか交渉委任先に明確に権限を
譲歩する必要があります。それがないと、交渉担当者は全く判断ができず、
単なるメッセンジャーと化してしまい、相手にもそれが見透かされてしま
います。一々、貴方の判断を仰いでいては貴方と交渉担当者に無駄な時間
を取らせてしまうばかりで、その担当者に交渉を任せた意味がありません。
貴方がもし少しでも担当者がより良い条件を勝ち取ってきてほしいと考え
ているならば、まずはBATNAではなく、その線を担当者単独での譲歩可能
範囲として担当者にそこ迄の権限を与えましょう。


相手に譲歩する場合には、基本はこれまでよりも譲歩幅を小さく、最低で
もこれまでと同じ譲歩幅となる様に設定しましょう。これは通常の交渉相
手に対しては貴方が誠実な交渉相手であり決して相手の足許を見ている訳
ではないとのメッセージを送るためですが、こちらの話を聞かない相手に
対しては、彼・彼女らはとにかく自分達の都合の良い様に解釈しますので、
粘れば粘る程、良い条件を引き出せるという誤ったメッセージを送らない
ためです。


2023.9.22

vol.139 2023.9.15「ジャニー喜多川氏の性加害についてのジャニーズ事務所の記者会見を見た調達購買担当者がやるべき事」

 

【今週のトピックス】

 

ジャニーズ事務所は記者会見を開き、創業者の故ジャニー喜多川氏による
性加害があった事を認めました。これを受けて、ジャニーズ事務所の所属
タレントを広告宣伝に起用している企業の中からその起用を取り止める企
業が出てきています。


アサヒグループホールディングスは「今後、ジャニーズ事務所のタレント
を起用した広告や新たな販促は展開しない」との方針を示しました。現時
点の契約は満了後の更新をしないとの事です。また、契約が残っていても、
それらのタレントが出演する広告宣伝の取り下げに着手するとの事です。


キリンHDは現契約満了後はそれらの契約の更新はせず、今後は同事務所の
タレントの起用を見送るとの事です。日本航空も同事務所の所属タレント
の広告起用の見送りを表明しました。


一方でCMを継続する企業もあります。住友金属鉱山や不二家は現時点では
同事務所の所属タレントの起用を継続する方針です。


今回のケースは自分とは関わりの無い芸能界の事であったり、人権侵害で
あったりする事から調達購買と無関係に思えるかもしれませんが、事象と
しては、サプライヤの不祥事であり、サプライヤ管理・サプライリスクマ
ネジメントの観点から、マーケティング関連支出の調達購買担当が率先し
て対応にあたるべきものです。


こうしたサプライヤの不祥事が明らかになった時に調達購買担当者が考え
なければならないのは、
■既存の取引を継続するのか否か
■今後もこのサプライヤとの取引を継続するのか否か
です。


その際には、品質事故の場合には品質管理部門に事故の深刻度・影響範囲・
事故への対応・恒久対策等についてのインプットを得る様に、今回の人権
侵害の場合には、ESG経営担当や広報・マーケティング部門より同様のイ
ンプットが必要となります。既契約の解除を考える場合には法務部門のイ
ンプットも必要となります。


こうした事故・リスク事象はある程度想定がつきますので、起こりうる事
故やリスクを整理・分類し、それらが顕在化した時にそれぞれの事故・リ
スクについてどの様な場で対処するか決めておくと実際に事が起こった時
の対応がスムーズです。


過去はこうした企業イメージに関わる問題は大企業だけが考えていれば良
かったのでしょうが、昨今はサプライチェーン全体での管理の徹底が求め
られており、企業イメージや人権尊重を大切に考えている企業のサプライ
チェーンに組み込まれている企業であれば、企業規模を問わずにこうした
サプライヤの不祥事を適切に管理できなければなりません。


今回のケースで各社が厳しい対応を取る背景にはESG経営を求める声が高
まる中で、貴社のみならず貴社のサプライチェーンすべてにおいて人権尊
重を推進していく事が課題の一つとなっている事があります。


それでも同事務所との取引を続ける企業もあるのは、今回の性加害が起用
しているタレントが犯したものではなく、また、喜多川氏の個人的な行為
であり、同事務所の組織的なものでない事である点を考慮しての事でしょ
う。


筆者はどちらの判断もあると考えます。大切なのは、貴社の人権尊重の考
え方に照らし合わせてジャニー喜多川氏の行為やジャニーズ事務所の対応・
再発防止策を評価し、貴社の価値観に基づいて判断を下す事です。今回の
ケースでは取引を停止する・継続するのどちらの判断もありうるため、反
対の考えを持つ者から貴社の決定について批評が浴びせられる可能性があ
ります。自社の価値観に基づいてしっかりと検討し判断していれば、そう
した批評に対しても自信を持って反論できるでしょう。


2023.9.15

vol.138「あわや納品事故!?他者に仕事を依頼する時に失敗しない様にするには」

 

【今週のトピックス】

 

弊社で担当している案件でヒヤリ・ハットした事例がありましたので、ご
参考迄に共有致します。


その案件は特注品の海外調達・購買管理業務の案件なのですが、同じデザ
インで色違いの本体とパッケージとを組み合わせる仕様で、発注数量はそ
れぞれ異なります。大まかに言いますと、品目Aは本体が赤、パッケージ
が黄、発注数量が5万個、品目Bは本体が黄、パッケージが赤、発注数量が
7万個、品目AとBの本体のデザインとパッケージのデザインは同じで配色
だけが異なるというものです。


この仕様を見た時に筆者が懸念したのは品目AとBのそれぞれの本体+パッ
ケージ+発注数量の組み合わせがサプライヤの製造・梱包現場に正しく伝
わっているのかというものでした。筆者はサプライヤの営業としかコミュ
ニケーションチャネルが無く、製造・梱包現場にどの様な指図が出ている
のか確認する手段がありませんでした。


それでも、試作品の本体+パッケージの組み合わせは問題なく、大丈夫か
なと安心しかけた所に梱包仕様書が送られてきて、中身を確認した所、
「やっぱり、このミスが起こったか。」と思いました。梱包仕様書では品
目Aは本体・パッケージ共に赤、品目Bは本体・パッケージ共に黄となっ
ていました。筆者は慌ててサプライヤの営業に連絡し、梱包仕様書の誤り
を指摘すると共に、品目A・Bの製造・梱包指図の本体・パッケージ・発
注数量がどの様になっているか報告してもらう事としました。


結果は品目A・Bの本体・パッケージ・発注数量は両方とも仕様通りとなっ
ており、サプライヤの営業によると今回のミスは梱包仕様書の作成過程で
の人為的ミスであって、品目A・Bの製造・梱包指図は元々誤っていなかっ
たとの事でした。但し、これはあくまでサプライヤの営業の報告ベースに
よるもので、ここでそれぞれの指図を修正した可能性は残りますが、量産
開始前でしたので何れにせよ事なきを得ました。梱包仕様書の確認が量産
開始後であったらと思うとゾッとします。


今回の事例は調達購買業務に限った事ではありませんが、他者に仕事を依
頼する場合には、手直しの工数が大きくなる前迄に依頼内容が正しく理解
されているかを確認するチェックポイントを複数回設ける必要があると改
めて感じさせるものでした。そのチェックにおいては相手方の内部のコミュ
ニケーションが正確に行われているかを知るために、調達購買業務を例に
とれば、相手方の図面・指図書・試作品等、できれば相手方の文書等で確
認するのが望ましいと考えます。


2023.9.8

vol.137「数次先迄に遡ってサプライヤを特定するソリューションの登場か!?」

 

【今週のトピックス】

 

サプライチェーンリスク管理等でサプライヤのサプライヤ、またその先の
サプライヤといったサプライチェーンを遡る形で自社のサプライチェーン
の中に含まれている企業を把握したいと考えた事はありませんか?


これまではそうした場合、自社と直接取引している一次サプライヤに対し
調査票を送る位しか方法がありませんでした。この方法では必ずしもそれ
らのサプライヤが回答に協力してくれる訳でもなく、回答があってもその
サプライヤの先の二次サプライヤ迄に留まってしまっていました。


どうやら、こうした課題を解決する企業が出てきたかもしれません。弊社
では現在サプライチェーン調査に関する具体的な案件が無いためその企業
のHP上で確認しただけですが、FRONTEO社のサプライチェーン解析ソリュー
ションがこうした課題の解決につながりそうです。


このサプライチェーン解析ソリューションは投資家情報や有価証券報告書
等の公開情報から得られる情報を元に、対象企業の取引関係の可能性を示
すというものです。


公開情報のみでどれだけの網羅性があるのか、何社の企業情報を保有して
いるのか公開されていませんので分かりかねますが、同社が例として挙げ
ているテスラのケースでは、テスラのEV製造に関わる5次サプライヤ迄遡
り、主要な取引先として1万3428社の推定サプライヤーを抽出したとの事
です。


このソリューションがあれば、サプライヤ選定時にサプライヤ各候補のサ
プライチェーンを解析し、ボトルネック企業がその候補サプライヤのサプ
ライチェーンに含まれていないかといった確認できそうです。


サプライチェーンの深堀調査やサプライチェーンリスクマネジメント体制
の構築といった案件が出てきた時には是非話を聞いてみたい企業です。


2023.9.1

vol.136「秋本議員、司直が許しても、あなたは調達購買担当者としてはダメダメです!」

 

【今週のトピックス】

 

元自民党の(嫌疑を受け離党)秋本真利衆院議員に対し洋上風力発電を巡り
日本風力開発から計約3,000万円の賄賂を受けとったとの嫌疑が掛けられ
ています。


私がこの案件に注目したのは22年10月に洋上風力発電の公募における選定
ルールを改訂した事にあります。事の経緯は21年12月末に遡り、その時に
三菱商事が政府が3つの海域で公募していた洋上風力発電事業ですべて落
札した事にあります。これに対し、急に一社独占に対する批判の声が巻き
上がり、上記の選定ルールの変更となりました。主な変更点のポイントは
落札キャパシティの制限や事業実現性評価の合計点についての点数補正制
度の導入等です。


まず、落札キャパシティの制限は尤もらしく聞こえますが、本来は優良サ
プライヤにキャパシティがあるのであれば、それに制限を掛けるのはおか
しな事です。カテゴリー戦略としてのシェア割の様にも見えますが、何だ
か官製談合の様で当時において違和感を覚えたものです。


そして、事業実現性評価における点数補正ですが、こちらはこれまでは各
評価項目における点数の合計点をそのまま評価点としていたものを、促進
区域毎に最高の評価点を受けた公募参加者の評価点が満点となるように補
正するものです。元々、価格については同じ様に評価していますが、最高
の評価点に下駄をはかせる補正になりますので、選定区域の事業実現性評
価で最高の評価点を受けた入札者に対してのみ有利に働く補正となります。


筆者は元来、恣意性が働く総合評価方式には反対で、QDM要件は足切り条
件としこれらをクリアした入札・見積の中から最も価格競争力のある会社
を選ぶ、それが難しい場合にはQDMに関する提案をキャッシュフローに置
き換え、金利を考慮したNPV(準現在価値)に換算してそれのみで評価する
という立場のため、これらの変更はロジカルではなく恣意的なものだと感
じていましたが、衆人が見ている公募案件の中で収賄が行われていると迄
は考えが及びませんでした。秋本氏の本件の収賄嫌疑については司直の判
断に委ねますが、今回のケースから我々が学ぶポイントは以下となります。


■事後的な選定ルール・方法の変更はその恣意的な意図が各サプライヤに
伝わり、次回以降、不利な扱いを受けたサプライヤすべてが非協力的とな
り、見積不調となります。


■サプライヤ選定ではなるべく個人の恣意性を排除し、できる限りQDM要
件は足切り条件としこれらをクリアした入札・見積の中から最も価格競争
力のある会社を選ぶべきです。QDMを金額換算しようとしても複雑になる
だけで、どこかで換算式に個人的見解が入ってしまい、適正さに欠けるも
のです。評価に恣意性が入ってしまうと、そこがサプライヤとの癒着・不
正の温床となってしまいますので、可能な限り恣意性を排除すべきです。


■あなたが調達管理者の立場である場合、担当者があるサプライヤ選定に
おいて複雑ないしは恣意性のあるサプライヤ選定方法を用いてきた時には、
特定サプライヤとの癒着・不正がないか疑うべきです。その懸念がある場
合には、そうした事実がないか確かめると共に、もっとシンプルで公正な
サプライヤ選定方法に基づきサプライヤ選定を行う様に担当者を促すべき
です。


2023.8.25

vol.135「自動車メーカのステランティスの半導体調達戦略から学ぶ調達難カテゴリーにおける調達戦略・手法」

 

【今週のトピックス】

 

改善されつつはありますが、半導体の調達難により自動車業界では新車の
納期が車種によっては1年超と長期化しています。また、電気自動車の普
及によりレアアースやレアメタルの調達難も予想されます。自動車関連以
外でも穀物・魚介類等の食料品でも調達難が想定されます。


今回は自動車メーカのステランティスが発表した半導体カテゴリーの調達
戦略を参考に調達難カテゴリーに対する調達戦略のあり方を解説します。


ステランティスが掲げた半導体カテゴリーの調達戦略は以下となります。
■調達品の視える化
■低調達リスク品への集約
- 体系的リスク評価と高リスク品の排除
- グリーンリストの導入・徹底
■長期コミットメント
- 半導体製品レベルでの長期需要予測によるチップメーカ・シリコンファ
ウンドリの供給キャパシティ確保
- 長期契約を含めたミッションクリティカル品の半導体メーカからの直接
購入
- 戦略半導体サプライヤとの連携による製品改良・独自製品開発


■調達品の視える化
同社は半導体データベースを導入し調達している半導体製品の内容につい
完全な透明性を確保するとしています。これは次の体系的リスク評価・グ
リーンリストにもつながるものです。また、ある品目で調達難となった時
にその機能・仕様等の内容が明らかになっている事で迅速に代替品の調達
に着手する事が可能となります。


■低調達リスク品への集約
同社は体系的に各調達品目のリスク評価を行い、高リスク品を使用しない
様に排除していくと共に、同社が供給枠を確保しやすい調達リスクの低い
ものを一覧化したグリーンリストを導入・徹底するものとしています。こ
れらは設計ガイドの役割を果たし、設計段階で高リスク品を排除・低リス
ク品に集約していく事となるでしょう。調達品を集約していく事で、サプ
ライヤに対する影響力を強化する狙いもあるでしょう。


■長期コミットメント
同社は半導体製品レベルでの長期需要予測に基づき長期的にチップメーカ
やシリコンファウンドリの供給キャパシティ確保していくとしています。
需要予測の共有だけではサプライヤが自社のために動いてくれない場合も
ありますので、ミッションクリティカル品を中心に長期契約を行い、予め
供給枠を確保するという手法も取り入れています。ミッションクリティカ
ル品については商社経由ではなく、メーカからの直接購買とする事でより
密な関係の構築・調整が可能となる様に図っています。


また、戦略半導体サプライヤとの連携による製品改良・独自製品開発も買
い手企業の長期コミットメントを示すもので、必要に応じて改良・開発製
品の買取数量を示し、予め供給枠を確保しているものと想定されます。


同社の発表によりますと半導体メーカとの直接調達契約は現時点で2030年
迄に総額で1超6千億円に近くなっているとの事です。


同社の発表には含まれていませんでしたが、長期コミットメントにより供
給枠を確保する手法についてはサプライヤの買収や内製化があります。こ
れらは調達ではコントロールが難しい高調達リスク品について自社プロセ
スに統合する事で自社のコントロール下に置くものです。


こうした戦略・手法は何れも半導体以外のカテゴリーにも有効です。貴方
も自社の調達品の中長期的な調達リスクを評価し、中長期的な調達難が予
想されるカテゴリーについてはこうした戦略・手法を展開してはいかがで
しょう?


参考)Stellantis N.V."Stellantis Implements Multifaceted Semicon-
ductor Strategy to Ensure Supply Security, Drive Innovation" press
releas, July 18, 2023 https://www.stellantis.com/en/news/press-releases/2023/july/stellantis-implements-multifaceted-semiconductor-strategy-to-ensure-supply-security-drive-innovation 閲覧日:2023年8月17日)


2023.8.18

vol.134「サプライヤ選定時の仕様・要件の想定が実際と異なってしまうアクシデントへの対処方法」

 

【今週のトピックス】

 

サプライヤ選定時の仕様・要件の想定は正しく行わなければなりません。
なぜならば、これらが調達品を既定し、サプライヤの見積前提となり、契
約単価が決まります。想定していた仕様・要件が実際と異なった場合、単
価の見直しに留まらず、全く異なる技術を用いた調達品やサプライヤの再
選定が必要となる事態になりかねない事もあります。

「新東名高速道路の唯一の未開通区間である新御殿場インターチェンジ(IC)─
新秦野IC間(延長約25km)では、地質や地盤を巡るトラブルがたびたび発生
している。事業を進める中日本高速道路会社は、当初20年度としていた開
通予定を23年度に延期。さらにトラブルが続いたことから開通予定をいっ
たん白紙に戻し、その後、27年度とした。

最初の開通延期の主な要因となったのが、神奈川県松田町に建設している
エクストラドーズド橋の中津川橋だ。着工後の調査で、主塔の下に脆弱な
断層破砕帯が広がっていると判明。それを避けるために、川の左岸側に計
画していた主塔を右岸側に変更する必要が生じた。構造形式の大幅な見直
しなどで、事業費が300億円増大した。

2回目に延期した要因の1つは、中津川橋に隣接する高松トンネルだ。NATM
工法で掘削中に脆弱な地盤が出現し、トンネル内に土砂が流入した。この
事故を受け、長尺鋼管フォアパイリングやインバートストラットといった
対策を追加。事業費が245億円増えた。

現在も、地表面の変位が管理値を超えたため掘削を止めている。いつ完成
するのか、全く見通しが立たない状態だ。」
出所)青野 昌行・橋本 剛志「後出し増額の罪:事業費膨張の要因を解剖、
『仕方ない増額』の舞台裏」『日経クロステック/日経コンストラクション』
2023年3月17日 (https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00183/031000003/
閲覧日:2023年7月31日)

残念ながらこの様な事態に陥った場合にすべき対応は以下の二点となりま
す。


一つは、これまでの投資をサンクコストとした上で、手直しやサプライヤ
代替等のそれぞれの対応の選択肢の費用・効果を算出し費用対効果が最大
となる選択肢を選ぶ事です。これまでの投資をサンクコストとするのは、
これまでの投資は各選択肢の費用・効果に影響を与えませんので、正しい
意思決定をするにはこれまでの投資は除外して考える必要があります。

一方で、サプライヤを代替する場合にはこれまでになされた業務分の撤去
や解約違約金等のペナルティが生じる事もあり、既存のサプライヤに対し
て発注内容を修正するよりもコストが高額となりがちです。しかしながら、
修正仕様・要件によっては既存サプライヤでは対応できずこちらを選択せ
ざるを得ないケースもあります。


もう一つ実施すべきは仕様・要件を修正せざるを得なかった原因の追究と、
そうした不備が再発しない様に開発・設計・サプライヤ選定プロセスの中
で改善すべき点がないかの確認とそうした点があれば改善の実施となりま
す。


2023.8.4

vol.133「企業融資にも貴社のサプライチェーンのESG経営対応が求められる時代に!?」

 

【今週のトピックス】

 

「3メガバンクが人権問題で融資審査を厳しくする。三菱UFJフィナンシャ
ル・グループ(FG)は7月から融資先のサプライチェーン(供給網)に児
童労働や強制労働などがないか詳細に調べる。改善が見込めない場合は新
規融資を停止する。(中略)


三井住友FGは融資先など顧客が人権侵害に関与している可能性がないか調
査する。リスクの高い事業を特定し、疑わしい場合は改善を促す。既存の
取引先でも是正されなければ、与信を減らす可能性があるという。


みずほFGは22年度に海外で農園事業などを手掛ける4社に対して外部デー
タをもとに人権侵害の事実を指摘、再発防止策の策定を求めている。」
出所)「3メガ銀、融資で人権順守を厳格審査」『日本経済新聞』
2023年6月29日朝刊1面


これら都銀の方針転換にはESG経営を求める投資家からのプレッシャーが
影響していると考えられます。主要な投資家から銀行経営陣に自行のESG
経営方針や融資にあたっての融資先の審査基準にESG経営の観点が織り込
まれているかを問いただされる機会が増えているのでしょう。


もう一つの背景にはサプライチェーンの概念が広く世の中に普及してきた
事もあるでしょう。一企業ですべてのサプライチェーンが完結する事業は
皆無、かつ自社の事業であってもその企業が事業にもたらしている価値は
事業によってばらつきはありますが1-2割程度です。価値創出には経済活
動が伴いますので、多くの経済活動はその事業の担い手よりもそのサプラ
イチェーンで8-9割が行われている事になります。ですので、世の中にイ
ンパクトのある変化をもたらすには事業の担い手の一社だけでなく、その
サプライチェーンすべてを変えて行く必要があります。


サプライチェーンすべてを変えて行くにあたっては、サプライチェーンの
参加者すべてにあたっていくのには膨大なリソースが必要となり非効率で
す。価値創出の割合としては1-2割ですが、自社のサプライチェーンをデ
ザインするのは買い手企業であるという事から、買い手企業にESG経営な
らびにサプライチェーンにESG経営対応を織り込む様に迫るのが効果的と
いう事をESG経営の推進を求める人々は理解しており、そうした対応を経
営者に求めています。


ですので、サプライチェーンをデザインする役割を担う調達購買部門にサ
プライヤ選定にあたってESG経営の要素を織り込む事を求めるプレッシャー
はますます高まっていく事が予想されます。一口にESG経営といっても求
められる対応はカーボンニュートラルであったり人権尊重であったりと様
々な要素があります。またサプライヤ選定にあたってはサプライヤの企業
としての要件と調達品の仕様・要件とに分かれます。


ESG経営の要素をサプライチェーンに織り込むにはサプライヤの企業とし
ての評価項目・要件に何を盛り込み、調達品の仕様・要件として何を盛り
込むのかという所に迄、落とし込む必要があります。


2023.7.28

vol.132「公正取引委員会/ EV充電市場で『競争』の調達戦略を推奨」

 

【今週のトピックス】

 

公正取引委員会は電気自動車(EV)充電サービスを今後の急速な成長が見込
まれる市場とみなし、特に需要が見込まれる高速道路におけるEV充電サー
ビスを対象とする実態調査を行いました。


調査の結果、高速道路のSA・PAに現在設置されているEV充電器の約98.7%
は株式会社e-Mobility Power(前身であるNCS及びJCNを含む。以下eMP)
によって設置され、設置後の入替えもNEXCO三社との共同事業の一環とし
てeMPによって行われており、「現状、eMP以外の事業者が、高速道路のSA・
PAにEV充電器を設置することが想定されているとは言い難い。」と高速道
路におけるEV充電器市場がeMPの独占状態にあると結論づけています。


その上でサービス改善やEV充電器のアップグレード需要・イノベーション
への迅速な対応という観点から「今後、EV充電器の新規設置や入替えに当
たって、高速道路会社は、複数の事業者からEV充電器設置者を選定するこ
とが、競争政策上望ましく、将来的には、EV充電器設置者の新規参入を促
進することにより、EV充電サービスの競争が活発化することが望まれる。」
と提言しています。
出所)「高速道路における電気自動車(EV)充電サービスに関する実態調
査について」『公正取引委員会』2023年7月13日 (https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/jul/230713.html
閲覧日:2023年7月18日)


見方を変えれば、これは公正取引委員会はEV充電器・サービスの調達戦略
として「競争」を推奨していると言えます。公正取引委員会は企業の活力
向上、消費者の効用増大、イノベーションの活性には市場経済が不可欠で、
市場経済のメリットを最大限に引き出すのが公正かつ自由な競争であると
考え、調達戦略の基本として競争戦略を推奨しています。


競争の対極の調達戦略には有力企業との戦略的パートナーシップとの「統
合」がありますが、相手が有力であればある程、買い手企業のコントロー
ル下に置いて統合するのが難しく、サプライヤ優位で取引条件が決められ
る事になります。ですので、その調達品が事業の肝であるならば、必要で
あればその有力サプライヤを買収してでも内製化を進めるべきです。そう
でなければ、買い手企業がその事業を行っている価値がなく、サプライヤ
企業のために事業を行っている事になってしまいます。一部の調達品に統
合の調達戦略によって外部調達するものがあっても構いませんが、その調
達品の事業における相対的価値が低くなる様、どこか他の所で買い手企業
は自分達の力で事業価値を創出する必要があります。


この様な理由から弊社も主たる調達戦略は競争が基本であると考えます。


2023.7.21

vol.131「調達購買DXを進めるリーダーに不可欠な3つの要素」

 

【今週のトピックス】

 

支援企業として外側から見ていると、調達購買領域のDXを進めている日本
企業はまだまだ少ないと感じます。調達購買領域のDXを進めている企業と
そうでない企業との差はどこにあるのか、今回は調達購買領域のDXを進め
ているNippon Gases Europeのケースから考察します。


先日、日本酸素ホールディングスグループのNippon Gases Europeで調達
購買変革を推進している同社のプロダクティビティ&プロキュアメントディ
レクター ガブリエル キーウェック氏の講演を聞く機会がありました。


同社では欧州のグループ企業の間でSAPやOracle等、また同じシステムで
も異なるバージョンのものを一つとしてカウントすると8つのERPを使って
おり、支出の一元管理やそれぞれのEPRに重複して登録されるサプライヤ
の統合管理が課題となっておりました。


ERPの統合は影響範囲も広く調整に時間が掛かるといった問題があり、ガ
ブリエル氏は支出・サプライヤ管理システムをそれぞれのERPから切り出
し、統合支出・サプライヤ管理システムとして一つの独立したシステムを
置く事でERPの統合に左右されない形で支出・サプライヤの一元管理を短
期間で成し遂げました。


こうした変革の最大のチャレンジは変革開始後の技術的課題よりも、変革
そのものに踏み切る事です。調達購買業務は従来より為されているもので、
どこの企業でも色々と課題はあるにしても今までも業務は何とか回ってお
り、業務が回っている限り、大抵の企業では課題解決のための変革に踏み
切る事は致しません。なぜ、同社ではそうした変革に踏み切れたのか、ガ
ブリエル氏は以下の様に説明しています。


「企業買収によりグループの拡大を進める以前からずっと支出管理システ
ムを導入しようとしてきたが、経営者の経営課題の優先順位は調達購買領
域ではなかったため調達購買システムへの投資はされてこなかった。


それでも、日本酸素には改善DNAがあり、サプライチェーンの環境変化も
あり、ビジネス側から調達購買領域の改革を求め投資が後押しされた。課
題が山積でスレッシュホールドに来ていたとも言える。」


ガブリエル氏のコメントから調達購買領域のDXを進めるのに不可欠な要件
は以下の様に読み取る事ができます。


1) 調達購買部門のリーダーが現状に満足する事なく、調達購買部門のあ
るべき姿・ビジョンを有している


2) 経営・要求部門が調達購買部門のあるべき姿・ビジョンに共感・期待
している


3) マネジメントが業務改善に必要な投資を行う


1)は調達購買部門のあるべき姿・ビジョンを調達購買部門が自ら培い、2)
は経営・要求部門に対し調達購買部門がそのあるべき姿・ビジョンの共有
に努める事で為しうるものです。1)と2)が実現すれば3)の業務改善に必要
な投資は自ずとついてきます。


2023.7.14

vol.130「コスト高騰に抗う!食品・飲料メーカ各社のコスト低減の取組」

 

【今週のトピックス】

 

「国内食品メーカーが商品数を絞っている。2022年の品目数は5年前に比
べて3割減った。(中略)この5年で減り幅が大きかったのは、原料高の影
響が大きい調味料や食用油脂などを使った商品が多い。しょうゆ(71%減)
や食用酢・酢関連調味料(69%減)、マーガリン・ファットスプレッド(67%減)、
マヨネーズ(40%減)などだ。」


記事には以下の各社の取組が紹介されています。


■キリンビバレッジは22年に「アルカリイオンの水」2リットルの販売を
終了するなど商品を見直し、「午後の紅茶」「生茶」「『プラズマ乳酸菌
入り』飲料」へと選択と集中を進める


■ワイン大手メルシャンは22年の新製品数を前年比の5割減


■食品世界最大手のネスレ(スイス)はSKU数を1年半前に比べ約2割減。23年
もさらに商品数を1割削減する計画


■ハウス食品は23年春の新商品を前年の51品目から30品目に減らす


■プリマハムは春夏向け新商品を前年比48%減の14品目に絞る
出所)「食品 5年で品目3割減 定番に集中、戦略転換」『日本経済新聞』
2023年5月25日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230525&ng=DGKKZO71301740U3A520C2EA2000
閲覧日:2023年7月3日)


現在は原材料・物流・電力等の様々なコストが上昇する中で、調達購買部
門だけのコスト低減の取組では焼け石に水といった状況です。


食品・飲料業界ではそうした状況を受けて製品戦略にまで遡った抜本的な
コスト低減の取組を進めています。食品・飲料業界では新商品で目先を変
えて売り上げを伸ばすといった戦略がこれまでは多く取られていましたが、
現在のコスト上昇を受け、採算の悪い製品を廃番としたり、新商品数を減
らしたりする一方で、主力の定番商品に重点的に広告宣伝・販促を行うと
いう戦略に転換しています。


新商品は消費者への商品の浸透・訴求に広告宣伝費が余計にかかり、販売
予測も難しく不良在庫を生じさせやすいリスクがあります。


在庫に関して言えば、製品数が増えると製品在庫のみならず派生的にそれ
らに投入される原材料・資材の種類・在庫数も膨らみ、在庫効率が低下し
勝ちです。


ですので、製品数ならびに新商品投入数の絞り込みは様々なコストが上昇
する中でも抜本的なコスト低減を引き出し、すべてのコスト上昇分が吸収
できなかったとしても、その上昇をかなり抑える事ができます。


2023年はペースが落ちてきたとはいえ、まだまだ原材料・部材の値上要請
も多く、値上要請がない品目であっても価格が高止まりしたままというも
のが殆どで、調達購買部門にとっては受難の年と言えます。


こうした状況だからこそ、調達購買部門のみでのコスト低減には限界があ
り、製品数の絞り込みやVA・VE等による全社での抜本的なコスト低減の取
組が必要である事を経営層・全社に対し訴える良い機会ではないでしょう
か?


2023.7.7

vol.129「NEC/ サプライチェーン全体のサイバー防衛を強化」

 

【今週のトピックス】

 

「NECがサプライチェーン(供給網)全体のサイバー防衛を強化している。(中略)
取引先を侵入口とするサイバー攻撃が起きることを前提に、迅速に復旧す
るための備えを強めている。


NECは2022年、米国防総省が取引先に義務づける米国立標準技術研究所(NIST)
の基準などに沿ったセキュリティーガイドラインを定めた。従来はサイバー
攻撃の未然防止に軸足を置いた国際基準に準拠していたが、攻撃を受けた
場合の対応や復旧を重視するより実践的なNISTの基準に切り替えた。」
出所)「NEC、供給網でサイバー防衛」『日本経済新聞』2023年5月23日
(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230523&ng=DGKKZO71235110S3A520C2TEB000
閲覧日:2023年6月28日)


記事から同社の対策のポイントをまとめますと、


■ サプライヤがサイバー攻撃を防ぎきれない事態を前提


■ サプライヤ約1800社にサイバー攻撃を受けた時や攻撃を防ぎきれなかっ
た際の自社の取り組み状況について自己申告を求める


■ 同社スタッフ約100人が年約200社ずつサプライヤの申告内容を点検


■ サプライヤを集めてサイバー攻撃対策の研修を開催


■ セキュリティー対策が遅れている取引先には3年間の猶予期間を設けて
対応を促す


■ 統制を取りやすくするため特別な理由がない限りサプライヤが業務を
再委託するのを制限


こうした対応を見ますと、力のある企業はサプライヤ並びにそれらの先に
あるサプライチェーンへの関与を深めているのが伺えます。一般的にサプ
ライヤの多くは自社のみではサイバー攻撃対策ならびにサイバー攻撃被害
からの復旧対策を取れない中小企業であり、サプライヤ任せにしていては
管理・改善が進みません。


サプライチェーンリスクはサイバー攻撃のみではなく、天災・地政学等様
々なものがあります。また、サプライチェーンリスクの他にもサプライチェー
ンマネジメントには温暖化ガス排出量の削減・人権尊重等のESG経営の推
進といった新しい課題が生じています。


こうした様々なテーマについてすべての調達材のサプライチェーンを源流
迄遡ってマネジメントしていくというのは相当な大企業であっても至難の
技です。現実的な落とし所としては、管理する調達材・項目・サプライチェー
ンの深度に優先順位を付け、投入できるリソースの中で優先順位の高いも
のから対応していくしかないかと考えます。


2023.6.30

vol.128「名刺に通常の6倍の価格を払う価値はある?」

 

【今週のトピックス】

 

調達購買の業務はとにかくコストを下げる事でしょうか?そうではないと
弊社では考えています。調達品の価格に関する調達購買部門の役割につい
て弊社では「適正なモノを適正な価格で購入できる様にする」事と考えま
す。今回はそれに関するケースをご紹介します。


「環境や人権に配慮したエシカル(倫理的)な素材を使った高価格の名刺
が増えている。中には1枚で約30円する物もある。対面が制限された新型
コロナウイルス禍を経て、会うことの重要性が再認識された。物語性のあ
る名刺を関係づくりに役立てたいとの思いが、1枚に込められている。


三井不動産グループでオフィスや商業施設の空間設計を手がける三井デザ
インテック(東京・中央)は、名刺の紙を2022年春に切り替えた。東日本
大震災の被災農家が育てた綿花の茎を使っており、温かな色味と風合いが
特徴だ。


津波で稲作が困難になった農地では塩害に強い綿花の栽培が広がる。総務
人事部の桐山徹治氏は『当社も東北の子どもたちを対象とした絵画コンクー
ルを共催してきた。復興への願いを名刺で伝えたかった』と語る。


価格は両面カラーで100枚1500円程度。従来より5割程度高いが、商談など
で風合いや手触りに関心を示した取引先が素材の由来を聞くなど、おおむ
ね好評だ。(中略)


名刺や封筒を製造・販売する山桜は名刺の素材に「エシカルな紙の扱いを
増やしてきた。『最近ではSDGs(持続可能な開発目標)に配慮した紙を名
刺に使いたい企業が急速に増えている』(マーケティング部門の村上大介
部長)。エシカルな素材を使った名刺は22年度の同社の総販売数量の6割
を占めた。


12年に採用した『バナナペーパー』は、ザンビアで盛んな有機バナナ栽培
で廃棄される茎の繊維から作る。環境負荷を減らすだけでなく、繊維を取
り出す工程で雇用を生むなど、現地の貧困対策にもつながる。


バナナペーパーは用紙代だけで100枚当たり約1200円かかる。同社の通常
の用紙の4倍以上だ。これに1500円前後の印刷代が加わる。実際の名刺の
価格は3000円程度になる。1枚当たり30円程度だ。」
出所)後藤宏光「価格は語る:エシカル名刺、1枚30円も」
『日本経済新聞』2023年6月8日朝刊17面


通常の用紙の両面カラー名刺100枚の価格は送料別で500円程度からとなり
ます。ですのでバナナペーパーの名刺のコストは6倍です。それではバナ
ナペーパーの名刺を採用した企業の判断は誤りだったのでしょうか?それ
らの企業が名刺に商談を活性化させる物語性や自社のESGの取組姿勢を持
たせるという機能を求め、その機能の対価として通常の用紙の名刺との価
格差を適正と判断しているのであれば適正な選定と言えます。


弊社では企業におけるすべての外部支出はコストではなく投資と考えます。
企業の支出は本来はすべてにおいて事業で利益であげるために使われるも
のであります。それは製品・サービス提供のための原材料・部材や設備投
資のみならず、マーケティング・IT関連やその他のコーポレートサービス
或いは経営施策絡みの一時的な支出であっても、事業で利益を上げるため
に行われるものです。企業の支出は何れも何等かのリターン・成果を上げ
るために行われるものであり、それが外部支出はコストではなく投資と申
し上げる理由です。


投資の場合、支出の最小化ではなく、費用対効果の最大化が求められます。
確かに、投資であっても効果が一定であるならば支出を最小化する事で費
用対効果の最大化が可能ですが、投資であるならば多少支出が大きくなっ
ても費用対効果がより大きくなる様なリターンが得られるのであれば、そ
ちらを選択すべきです。


今回のケースは正にそうしたもので、名刺に販促ないしはPR効果を求めて
います。弊社としてはそうした経営施策への投資そのものについては反対
はしません。どのような投資をするかというのは各社の経営判断です。た
だ、こうした投資の多くにおいて、本来であればあるべきである、それら
の効果を測定するKPIを定め、導入後に効果測定をした上で継続・改善・
打ち切りの判断をするというプロセスが抜け勝ちである事が懸念されます。
この振り返りのプロセスが抜けてしまうと期待リターンを下回る誤った投
資を繰り返すといった結果に陥りがちです。


2023.6.23

vol.127「J-オイルミルズ/ プラスチック廃棄物削減に向け紙パックの食用油をシリーズ展開」

 

【今週のトピックス】

 

これまで気付かなかったのですが、TVのCMでスマートグリーンパックとい
う紙パックの食用油シリーズが販売されているのが目に留まりました。調
べると紙パックの食用油の販売開始は2021年8月とかなり前から出ていた
事が分かりました。


製造元のJ-オイルミルズによりますと、紙パックの採用に至ったのは海洋
汚染等の問題が指摘されているプラスチック廃棄物の削減が狙いとの事で
す。


しかしながら、従来使われていない素材への変換は容易ではありません。
例えば、製造ラインの変更や用途等に即した素材の改良が求められます。
スマートグリーンパックでは従来のペットボトル容器と比較してプラスチ
ック使用量を約60%以上削減したと歌っており、プラスチックの使用量が
40%近くと一般的な紙パックよりプラスチックの使用量が多くなっている
と推察されます。品質劣化を防ぐためパッケージ内部にポリエステル・ポ
リエチレンを重ねた5層構造になっている事がその要因と考えられます。
新しい用途への適用にはこうした工夫が必要となります。


これまでの素材選択では強度・重量・耐久性・加工性といった機能性とコ
ストを軸に行われており、今回の様なプラスチック廃棄物の削減といった
要素は素材選択における判断基準には含まれておりませんでした。今回の
ケースを見ると素材選択にもESG対応という判断基準が含まれる様になっ
て来ていると感じます。


参考)
「オリーブオイルやキャノーラ油が紙パックに!J-オイルミルズの『スマー
トグリーンパック』とは?」『ストーリー』(https://story.ajinomoto.co.jp/report/078.html
閲覧日:2023年6月13日)
「紙パックの食用油『スマートグリーンパック』シリーズ 容器デザイン
を一新、9製品に拡大」『株式会社J-オイルミルズ プレスリリース』2023年
1月6日(https://www.j-oil.com/press/article/230106_003736.html 閲覧
日:2023年6月13日)


2023.6.16

vol.126「NHKの予算承認不適切手続きに学ぶ支出統制・ガバナンス」

 

【今週のトピックス】

 

調達購買部門の役割の一つに外部支出が適切に為される様に統制・ガバナ
ンスするというものがあります。それには権限を分離した上で統制・ガバ
ナンスを利かせた業務プロセスの構築が必須です。今回は予算承認プロセ
スのケースですが、権限の分離やプロセスが形骸化してしまい問題が生じ
た事例を紹介します。


NHKが業務範囲として認められていない衛星放送(BS)のインターネット配
信の関連支出を2023年度予算に計上し国会で承認されました。その後、局
内の指摘で調査した結果、業務範囲の変更に必要な総務相の認可を得てお
らず承認手続きが不適切であったと記者会見で釈明をする事態となりまし
た。


このケースには以下の幾つかの不適切な行為があります。
・業務範囲として認められていないBS放送番組のネット配信のための設備
開発を含む費用を予算計上
・業務範囲の変更に必要となる総務相の認可申請を行っていない
これらはNHKが従うべき規則に対する違反にあたります。


・今回の9億円の予算案について理事会を開かず一部理事らによる稟議の
みで承認
こちらはNHK内での予算承認権限の規程によるため、一概に社内規程違反
とはいえないかもしれません。一方で9億円という金額の支出の承認(予算)
が一部理事らで行うので十分か否かという点についての検討は必須と考え
ます。
参考)「NHK不適切手続き」『日本経済新聞』2023年5月31日朝刊2面


このケースを貴社の外部支出に当てはめますと、
・使途・金額等によるリスクが明確になっておらず、それに応じた審査・
承認プロセスが定められてない、ないしはプロセスが形骸化している
・その結果、今回の支出についての業法等のコンプライアンスチェックが
できてない
という様な事態と言えます。


この様な事態は過去に多くの企業が直面してきており、ある程度、統制が
取れている企業であれば以下の様な先人の知恵が調達購買プロセスに組み
込まれているはずです。
・申請・調達・検収の購買三権分立
・ワークフローシステムによる承認プロセスの形骸化防止
・購買システムによる検収の記録・透明化
・調達システムによるサプライヤ選定経緯の記録・透明化


購買三権分立における申請は予算消化を含めた支出する事を認める権限
(後述の支払承認ではなく、あくまで支出し費用負担の責を負う事の意思表示)、
そのため仕様・要件等を決定するのはそれを必要とする申請者となります。
調達は申請者の仕様・要件等を基にサプライヤ・取引条件等を決定する権
限。検収は仕様・要件等を満たす物品・サービスが納品され、サプリライ
ヤに対して支払を認める権限となります。検収を分離した場合、架空発注
の様な単純な不正は防げますが、検収は分離したものの、申請と調達の権
限が一人に集中していると、書面上は仕様・要件・取引条件等は記載の通
りなのでサプライヤとの癒着により価格操作しバックマージンを受けとる
といった手の込んだ不正を防ぐ事はできません。


予算承認にあたっては使途・金額等によるリスクを特定し、それに応じた
審査・承認プロセスを定める必要がありますが、それを紙の稟議で回して
は今回のNHKのケースの様に承認プロセスが形骸化してしまいます。また、
紙の稟議では、回付ルートのチェック漏れで必要な決裁者の承認が得られ
ていないのを見落とす事もあります。そのため、プロセスに強制力を持た
せられるという情報システムの利点を活かして、予算承認・購買申請プロ
セスをワークフローシステムに載せる事をお勧めします。


承認結果の記録は問題が起こった時に誰がどういう経緯で承認したのをト
レースするために必要です。直材における購買システムの導入は比較的多
くの企業で為されているので、直材の検収はあまり問題になりませんが、
間材で特に金額が大きくなるIT機器や広告宣伝・システム構築・工事等の
業務委託関連ではまだまだある程度の規模の企業であっても架空発注の事
件が報じられています。特に、企業が成長する過程で支出金額は大きくなっ
てきたものの間接材の購買管理システムは未導入といった企業は要注意で
す。


サプライヤの選定プロセスは大企業でもまだまだ担当者だけのブラックボッ
クスとなっている所が少なくありません。調達システムの導入により何時
でも関係者がサプライヤの選定状況・経緯を確認できるとなれば、不正の
牽制のみならず、調達担当者にとっては自分の調達活動の状況を常に周り
に見られているというかなりのプレッシャーになるでしょう。システムの
導入に至らない迄も、サプライ市場の市況もある中で上長は見積結果だけ
見ても何も分かりませんしパフォーマンス改善もできません。調達で最善
の結果を得るには、調達戦略の立案から見積依頼先のリストアップ・見積
回収から最終交渉迄のコミュニケーションのプロセス管理を上長が行う2名
以上の体制で臨むのが望ましいと考えます。


サプライヤの選定プロセスも含めて上記の様な統制・ガバナンスの仕組み
が調達購買部門で管理している支出ですべて整っている場合には、調達購
買部門が管理されていない支出に目を向けてみましょう。開発費・直材の
エンジニアリング購買カテゴリー・間接材の特にIT・広告宣伝・HR・コン
サルティング等の専門サービスを中心に上記の様な統制・ガバナンスの仕
組みを広げて行く機会が多々あるのではと考えます。


2023.6.9

vol.125「ChatGPT等の生成AIの調達購買・SCM領域の活用事例として見込まれるサプライリスクアラートソリューション」

 

【今週のトピックス】

 

様々な業務での活用が見込まれるChatGPTを始めとする生成AI(人工知能)。
2023年4月にドイツで開催されたHANNOVER MESSE 2023でかなり早期に実務
で使われそうな活用事例が参考出展されましたのでご紹介します。


こちらはマイクロソフトが出展したもので、「ある地域で気象災害が発生
したとする。すると、AIがサプライヤーの被害状況をインターネットを通
じて調べ上げる。直接的な被害情報が無くても、過去の同様の事象から材
料供給に影響を及ぼしそうなサプライヤーを洗い出して報告してくれる。」
というものです。
出所)
石橋 拓馬著「HANNOVER MESSE 2023 ChatGPTで保守点検支援など、MSやシー
メンスらが製造業の生成AI活用事例を披露」『日経クロステック/日経も
のづくり』2023年4月24日 (https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02435/042100004/
閲覧日:2023年5月29日)


事例の様に生成AIを活用すれば、過去のリスク事象が顕在化した事例から
地域・リスク事象を整理し、そのリスク事象が影響をもたらした地域・買
い手企業・材カテゴリー等を調べ上げて学習し、新たに供給リスクが顕在
化した時に、どこの地域のどういった業種のどの材カテゴリーに影響が出
るか推測ができます。ですのでこの類のソリューションはかなり近い将来
に実用化されるものと考えられます。


しかしながら、現在の生成AIの弱点の一つに学習していない事には回答で
きないという事がありますので、100%の確率で影響を受ける材・サプラ
イヤを洗い出す事ができるというのは期待すべきではありません。例えば、
その地域で新しく起こった産業に対する災害といった過去にその地域で無
かったリスク事象や買い手が新しい産業であったりすると、学習漏れがあ
り影響の予測ができない可能性があります。ソリューションのユーザ側で
はAIが何をどの様にどれだけ学習しているかが分かりかねるので、どこ迄
であればAIの予測を当てにし、どの範囲については人間側で重点的に検証
すべきか判断ができないという課題もあります。


リスク管理や危機対応の肝の一つにはリスクや危機の二次被害を想定する
という事があります。仮に生成AIによるサプライリスクアラートソリュー
ションが実用化されたとしても、そのアラートのみに頼るというのではな
く、顕在化したリスク事象の影響の洗い出しのたたき台の作成といったア
シスタント的な位置づけに留め、それを基に漏れている影響範囲がないか
膨らませて考えるという使い方が主流になるのではと考えます。


2023.6.2

vol.124「言わずもがなですが、ご担当材の技術革新の動向を抑えましょう」

 

【今週のトピックス】

 

バッテリーの技術で主役交代が起こりそうです。現在の主流はリチウム(Li)
イオン2次電池(LIB)ですが、ナトリウム(Na)イオン電池(NIB)が主役
になりそうです。


この事例を紹介した記事によりますと「わずか2年前、NIBの開発、量産に
取り組んでいるのは世界で数社だった。ところが、現時点ではCATLだけで
はなく、電池セルメーカーだけで現時点で少なくとも20社超。原材料や部
材メーカーも含めると約50社にのぼる。今後はさらに増える見込みだ。」


NIBが注目される様になったのは高いエネルギー密度のLIBに使われている
コバルト(Co)、次いでニッケル(Ni)の供給が児童労働問題やロシアの
ウクライナ侵攻等で今後の安定供給に不安が広がり、それらを使わないリ
ン酸鉄リチウム(LFP)系LIB(以下、LFP)が急速にEV向バッテリー市場
を席巻。これをきっかけに、航続距離の長さだけがEV向市場での訴求ポイ
ントではない事が判明し、更にその後でリチウム(Li)も供給タイトになり、
LIBの重要な原料の1つである炭酸リチウム(Li2CO3)の市場価格が暴騰、
結果、将来にわたって供給に不安がないNaが脚光を浴びたとの事です。


NIBが次世代のバッテリーの主役として有力視されるのはエネルギー密度
ではLFPと同等ですが、量産が進めばLFPよりもかなり価格低減が進む。安
全性や信頼性がLFPより高く、超急速充電やセ氏マイナス30度といった低
温での出力特性に優れるといった点が挙げられています。


NIBの製造コストがLIBに比べて大幅に下がるとみられるのには、Liイオン
がNaイオンに代わるだけでなく、正極材料も安い材料が多いこと、負極は
特定地域に依存する黒鉛に代わりハードカーボンが使えること、負極集電
体はLIBでは高価なCu箔を選ばざるを得ないが、NIBでは銅(Cu)箔の1/3の
価格のアルミニウム(Al)箔が使えるといった事があるからです。


中国・民生証券の試算では、NIBは市場の立ち上がり時こそLFP等よりも製
造コスト若干上回っていますが、量産が進みサプライチェーンが整い部材
や材料の調達コストが下がってくると、2022年11月時点の14,595円/kWhか
ら6,500円/kWhにまで低減し、LFPの主なコストドライバーの炭酸リチウム
(Li2CO3)の価格が22年11月時点のものから6割程度に落ち着いたとしても
NIBの製造コストはLFPの6割以下となるとしています。
出所)野澤 哲生「ナトリウムイオン電池時代幕開け、関連メーカーが50
社超で価格はLIBの1/2へ」『日経クロステック/日経エレクトロニクス』
2023年5月8日 (https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07985/
閲覧日:2023年5月22日)


どうやら、NIBはコスト低減のみならず、調達難のリスクも低下させる技
術革新となりそうです。技術革新の無いサプライ市場は非常に限られてい
ます。ご自身のご担当材の市場における技術革新の動向を抑えておくのは
ご担当材の調達戦略を考える上で不可欠な要素です。


2023.5.26

vol.123「ホンダ/ EV化で更に強める垂直統合型のモノづくり」

 

【今週のトピックス】

 

ホンダが車載半導体の調達で台湾積体電路製造(TSMC)との協業を発表し
ました。この協業について紹介している記事によりますと、「車載半導体
は部品会社をはじめ、取引先を通じて調達するケースが多かった。今回の
協業では25年度以降にTSMCから調達する半導体をホンダの車載システムに
導入し、将来は先端品の開発も視野に入れる。(中略)


ホンダは半導体以外でも調達の提携先を広げている。4月上旬には韓国の
鉄鋼大手、ポスコとの提携を発表した。電池のリサイクルや素材調達、駆
動モーターに使う高性能材料「電磁鋼板」などの安定調達につなげる。」
出所)「ホンダ、TSMCと協業」『日本経済新聞』2023年4月27日朝刊2面


自動車産業がEVにシフトし始めて以来、エンジンがモータに置き換わり、
部品点数が大きく減るといった事から、業界アナリスト等の識者は自動車
産業のモノづくりが完成車メーカを頂点とする垂直統合型からPC等の家電
製品の様な水平分業型に移行するといった見立てが主流でした。


しかし、上記のホンダの様な完成車メーカの動きを見ると、サプライヤの
構成は異なりますが、垂直統合型の動きが更に強まると予想されます。そ
の背景には半導体やバッテリー等の様に供給制約が生じる部材の安定調達
に加え、半導体やバッテリーに加えて車載OSなど自動車の性能に大きな影
響を与えるパーツが出てきており、これらパーツの開発力が完成車の売上
を大きく左右するから、完成車メーカとして競争力を維持していくには、
これらパーツについては自社の管理下に置いておく必要が生じているから
です。


統合型のサプライチェーンは統合する部材の内製化を志向するもので、そ
の時々で最善のサプライヤの能力を活かす事を志向する調達と比べ、サプ
ライヤ管理者に求められる能力が大きく異なる事や多大なリソースが必要
となる事から、その業界で圧倒的な地位にある極わずかな企業を除いて真
似ができるものではなく、推奨すべきものでもないと弊社では考えていま
す。


あまりにも事業環境が特殊でますます完成車メーカの直材の調達購買のあ
り方は他産業の企業の調達購買業務の参考にならなくなっていると今回の
ケースには感じさせられました。


2023.5.19

vol.122「新しく調達購買部門に配属された方へのメッセージ」

 

【今週のトピックス】

 

4月は人事異動の季節です。また、新入社員の方々の配属がそろそろされ
る頃ではないでしょうか?4・5月に新たに調達購買部門に配属された方々
もいらっしゃるのではないかと思います。果たして、その中の何名の方々
が調達購買業務の内容を把握し、望んで調達購買部門に配属されているで
しょうか?また、それらの中の何人の方々が調達購買業務を生涯のキャリ
アと考えているでしょうか?残念ながら、筆者はそうした方々は非常に少
ないと考えます。多くの方々はその業務内容も良く分からず配属され、戸
惑っている事かと存じます。


しかしながら、筆者は調達購買業務はそのダイナミックさからキャリアと
して追求するも良し、他部門でも活用できる様々なスキルを学べる部署で
もありますので、調達購買業務をキャリアとして志向していなくても、目
の前の仕事に専心し、トップレベルの仕事ができる様に努める事をお勧め
します。受入側の調達購買部門としてはそうした調達購買業務の魅力を新
しく配属されたメンバーにしっかりと伝え、目的とモチベーションとを持っ
て業務にあたる環境を整える必要があります。


弊社では調達購買業務は大別して1)支出管理 2)調達 3)購買の3つの業務
で構成されると考えます。1)支出管理は支出分析を基に継続的に投資価値
を最大化するサプライチェーンにつながる改善機会の発掘、2)調達は継続
的に投資価値を最大化するサプライチェーンのデザイン・マネジメント、
3)購買は調達で築いた価値を最も効率的に回収すべく購買業務を自働化す
るのがそれぞれのミッションと捉えています。用語の使い方は各企業によっ
て異なり、特に調達と購買とは同義的に捉えている企業も多くありますの
で、購買部という名称で上記3つの業務をすべて担っている所もあれば、
調達部の名称で購買業務のみを行っている会社もあったりします。


支出管理業務では大量の支出データを分析し、データからカテゴリー別の
業務改善戦略を立案、それぞれの改善機会の費用対効果を分析し取組の優
先順位をつけるといったデータ分析・改善戦略立案・費用対効果試算といっ
たスキルを身に着ける事ができます。


調達業務では要求元のニーズ・課題を把握し、それらを調達品目の仕様・
要件に整理、サプライ市場の調査、市場の技術開発の方向性やリスク等の
市場動向の仕様・要件への反映といったサプライチェーンデザイン、自社
が求める取引条件を取得できる様な見積依頼書等の調達文書作成、取引条
件・契約締結交渉、取引開始後の取引先のQCDM評価・改善といったサプラ
イヤマネジメント等、様々なスキルを身に着ける事ができます。


購買ではオペレーションプロセス改善や供給トラブル対応やそれを受けて
の供給リスクマネジメントを学ぶ事ができます。また、タイミングが合え
ば購買システム導入の担当としてシステム導入PJのマネジメントスキルを
身に着ける機会が得られます。


この様に調達購買業務は様々な専門的なスキルを取得できるものです。一
生のキャリアとするにも、様々なキャリア形成の一つのステップとして担
当するとしても非常に有益な機会になるでしょう。


2023.5.12

vol.121「IPCCの第6次統合報告書で加速するサプライチェーンの温暖化ガス削減」

 

【今週のトピックス】


国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次統合報告書により
ますと、


■人間の活動が地球温暖化を引き起こしてきたことは「疑う余地がない」


■1850年以降の累積排出量の4割超は直近20年間分


■11~20年の世界の平均気温は1850~1900年を既に1.1度上回る


■各国の従来の削減目標は「極めて不十分」


■今のペースでは10年以内に異常気象のリスクが高まる1.5度の気温上昇
に達する恐れがある


■それを回避するには排出量を35年に19年比60%、40年に69%、50年に84%
減らす必要がある


出所)「IPCC報告『温暖化ガス35年60%減を』」『日本経済新聞』2023年
3月21日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230321&ng=DGKKZO69461200R20C23A3MM8000
閲覧日:2023年4月24日)


と厳しい警鐘を鳴らしています。この報告によりますと、温暖化ガスの
削減目標の上積みが必須となる可能性が高いと言えます。そうなってき
ますと、自社内の温暖化ガス排出量の削減だけでは不十分となるでしょ
う。


何れの製品・サービスにおいてもその大部分はその構成要素のサプライ
チェーンで構成されています。本報告にもあります通り、温暖化ガスの
排出と経済活動とは密接な関係がありますから、温暖化ガスの排出量の
多くはサプライチェーンで生じている方が圧倒的に多い事が容易に推測
されます。


ですので、温暖化ガスの削減目標の上積み・前倒しのみならず、管理・
削減の焦点がサプライチェーン上の温暖化ガスに移ってくる事が予想さ
れます。


2023.4.28

vol.120「テスラ/ 部品の安定調達に向けサプライチェーンを簡素化」

 

【今週のトピックス】


Tesla(テスラ)社がコロナ禍による部品不足や生産の混乱を踏まえ、部
品の安定調達を果たすべく、サプライチェーンの改善を進めています。そ
の方向性は「サプライチェーンの簡素化」です。


その背景には「プレーヤーは少ないほどミスは起こりにくい。ヒューマン
エラーも無視できない。だからテスラは、少数精鋭のチームで完全自動化
を目指す」という考えがあります。


記事によりますと「テスラはプラットフォーム(PF)の刷新を機に取引する
サプライヤを劇的に減らし」ました。改善前の「『モデルS』と『モデル
X』に使うPFでは1次部品メーカー(ティア1)から調達する部品は3400個
で、2次部品メーカー(ティア2)からは同2万1000個だった。これを『モ
デル3』と『モデルY』に使うPFでは、ティア1から同2100個、ティア2から
同1万9000個に減らした。」との事です。


PFの移行にあたりテスラはサプライヤの絞り込みを行いました。「サプラ
イヤの技術力や財政面など判断し、テスラの基準に見合わないメーカを
(新しい)3Y-PFでは使わなかった」との事です。「テスラは低価格な次
世代EVに向けた新PFを準備中で、『(サプライヤ数の削減を)継続的に進め
ていく』方針」だそうです。


とはいえ、サプライヤを絞りすぎるとそのサプライヤに何かあった際の供
給途絶リスクが高まってしまい、実際にそれはコロナ禍で顕在化したリス
クです。そのため「テスラは今、『重要部品の一部を2社、あるいは3社か
ら調達することに取り組んでいる』」との事です。
出所)久米 秀尚「テスラが見せた次世代EVの手札:テスラ『次世代PFで
サプライヤーさらに絞る』、コロナ禍の“悪夢”が教訓」日経クロステッ
ク/日経Automotive 2023年3月23日 (https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02385/032200008/
閲覧日:2023年4月17日)


供給途絶リスクの高まりに加えて、米中対立に伴う地政学リスクの高まり、
社会的に責任のある調達の要請等、サプライチェーンを巡ってはよりきめ
細かい管理が求められる様になっています。そのためにはサプライヤ数を
絞り込んで管理限界の中に収めて行く「サプライチェーンの簡素化」は必
然の動きと言えるかもしれません。


2023.4.21

vol.119「セブン―イレブン・ジャパン/ 取引先協力工場の品質管理DX推進」

 

【今週のトピックス】


「セブン―イレブン・ジャパンの取引先工場が挑む品質管理DX(デジタル
変革)が成果を上げつつある。弁当・総菜をつくる工場の衛生管理や品質
管理に関するデータをタブレットのアプリに入力してクラウド上に集約。
紙の帳票と手作業に頼っていた点検作業や管理業務の効率化を図り、トラ
ブルの未然防止にも役立てている。(中略)


セブン―イレブン向けの弁当や総菜、サンドイッチなどの日配品をつくる
176の工場のうち8割に当たる139工場が2023年3月までに導入した。(中略)」
出所)玉置 亮太「セブンが協力工場と挑む品質管理DX、20年来変わらぬ
アナログ現場を変革」『日経クロステック/日経コンピュータ』2023年
3月29日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220720&ng=DGKKZO62740170Z10C22A7EA1000
閲覧日:2023年4月11日)


記事によりますと、この品質管理DX導入プロジェクトはセブン―イレブン
が同社の協力工場を組織化した日本デリカフーズ協同組合管理(NDF)を通
じてメーカ各社に一つの品質管理ツールを推奨、各メーカがそのソシュー
ションベンダと契約して導入したとの事です。


セブン―イレブンが社外のサプライヤの現場にまで踏み込んで品質管理DX
に力を注ぐのは、弁当・総菜が売上の中で大きな割合を占める主要カテゴ
リーである事に加え、「SNS(交流サイト)の普及や浸透で『今までは見
えなかった現場の情報がどんどん外に出るようになった』ため、(品質)
トラブルが経営に与える影響は格段に増した。(出所:同上)」という問
題意識が背景にあります。加えて、「工場の現場はいまだにアナログで非
効率。なおかつデジタルの専門人材は不足している。(出所:同上)」と
いった事もあり、DXの様な変革はサプライヤのみに任せていてはなかなか
進まないといった背景もあります。


同社の協力工場は全国に65社176工場ありますが、「そのうち92%がセブ
ン-イレブン向けの商品のみを扱う工場」という事もこうした密な関係を
築く要因となっているかもしれません。
出所)青山 誠一同社取締役 執行役員 商品本部長 兼、物流管理本部長 兼、
QC室管掌「企業や市民団体の食への取り組み 株式会社セブン-イレブ
ン・ジャパン」『NPO法人 食の安全と安心を科学する会HP』
(https://www.nposfss.com/cat5/7eleven.html 閲覧日:2023年4月11日)


現在、DX・ESG経営と社会的責任のある調達の推進・インフレ対応等、サ
プライチェーンの大きな変革が求められています。貴社におかれましても
自社の戦略カテゴリーにおいて主要取引先が中小企業というものについて
はサプライヤの対応を待つのではなく、率先して変革をリード・支援する
必要があると考えます。


2023.4.14

vol.118「調達購買担当者のやりがいを失わせる経営者・上司の行動」

 

【今週のトピックス】


ITスキル研究フォーラムの調査によると「やりがいを感じていないIT技術
者は全体の3割にも上る。」との事。その要因分析の結果は調達購買担当
者のやりがいにもつながると考えますのでご紹介します。
出所)木本 将徳、高橋 範光、鈴木 重央、池田 拓史、山之下 拓仁、神
田 武、板谷 成祥、福田 竜太、本釡 大三=ITスキル研究フォーラム著
「調査でわかった、経営層・管理職のDX通信簿:経営層や上司の『その行
動』が、IT技術者のやりがいを失わせる」 『日経クロステック』2023年
3月24日(https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00458/022200002/
閲覧日:2022年9月14日)


本調査によりますと「IT技術者のやりがいに最も大きく関わっているのは、
自身が描くキャリアの実現と現在の業務との関連性であることが分かった。
また、アイデアを提案するための十分な機会や、成長できる機会も大きな
要因である。」との事です。


筆者の様にサプライチェーンマネジメントのダイナミックさに惹かれ、そ
れを担う調達購買業務をキャリアとして選ぶ人間は稀で、望んで調達購買
業務をキャリアとして選択する方は少ないかもしれません。実際には調達
購買業務はサプライチェーンをデザイン・マネジメントする職なので、マ
ネジメント職につながる様々なスキル・知識・経験を培う事ができるポジ
ションです。アップルCEOのTim Cook氏の様に調達購買領域で大きな成果
を上げ、アップルの様なグローバル大企業のCEOとなった人物もいます。
経営者・調達購買部門マネジメント職の方々は調達購買領域でどの様なキャ
リアが描けるかを、望まずに調達購買部門に配置された人材には特に、明
示する必要があります。

 
アイデアの提案・成長できる機会については、調達業務では単品ではなく
品目カテゴリーのマネジメントや難易度の高い案件に従事する事で、調達
戦略を考えたり成長できる機会が得られます。購買業務ではトラブル対応
やそもそもトラブルを起こさない様にサプライヤのQDMの改善を促す業務
等に従事する事で自ら考え成長する機会が得られます。調達購買部門マネ
ジメント職の方々はそうした機会を積極的に担当者にアサインする事が求
められます。


調査では「『DX経営満足度』と『上司満足度』もIT技術者のやりがいを左
右する重要な要素であるとの結果も出た。両者を比較すると、やりがいと
の相関はDX経営満足度の方が大きい。DX経営満足度が1段階上昇すると、
やりがいを感じる人のオッズ比は2.5倍程度増える。IT技術者のやりがい
の問題は、上司の問題以上にDXに取り組む経営者の問題と言える。」との
結果が出ています。


これは調達購買担当者にとっては自社の経営者がサプライチェーンの高度
化にどれだけ積極的に取り組んでいるかという事にあたるでしょう。日本
の大企業のサラリーマン経営者の中には自身の出身業務領域のみに関心を
示し、それ以外は関心が無いという方も見受けられます。サプライチェー
ンを巡っては米中対立激化・天災等による供給途絶リスクの増加・ESG経
営対応等の課題が山積しており、経営者の方々はそうした課題への取組を
進める必要があります。


IT技術者のやりがいに影響を与える上司の行動については最も重要なもの
が「部門やチームの目指す方向性を明確に示すこと」、次に「嘘をつかな
い」「ハラスメントをしない」等の「ビジネス倫理の順守」、3番目に
「知的好奇心」が挙げられています。「ビジネス倫理の順守」は当然の事
として、最重要の「部門やチームの目指す方向性を明確に示すこと」につ
いても、外向けにHPに掲載する調達方針ではなく、5年後の調達購買部門
がどうなっているかを自らの言葉で語る調達購買部門責任者の方に筆者は
あまりお目に掛かる機会が無いのが気になります。また、調達環境は先の
サプライチェーンを巡る課題に加え、買い手企業優位から買い手企業とサ
プライヤは対等ないしはカテゴリーによってはサプライヤ優位に一気に変
わっています。調達購買領域のIT技術もかなり進んできていますが、それ
らの活用を検討している企業はまだまだ極一部の様に感じられます。


本調査を踏まえ、部下の調達購買担当者にやりがいをもたせるには、上司
である調達購買部門責任者・マネージャーが自らのビジョンを示す事と全
般的なものと各担当者の担当材カテゴリーにおけるサプライチェーン・調
達購買業務の環境変化と技術動向に知的好奇心を発揮する必要があると考
えます。


2023.4.7

vol.117「米メタ社/ 半導体サプライチェーンでデカップリングを進める」

 

【今週のトピックス】


企業によってはじわりと民主主義国家を中心とするサプライチェーンと中
国を中心とするサプライチェーンとのデカップリングが進められています。


日本経済新聞社が米メタの最新の仮想現実(VR)ゴーグルを分解調査した
所、「米国部品の使用比率は34%と従来機種より4ポイント上昇した。半導
体や記憶装置、通信といった情報処理の中核を担う部品には米国製を中心
に構成する一方、ディスプレーには中国製を使った。半導体は徹底して地
政学リスクを回避しつつ、それ以外では割り切って中国製を使う調達戦略
が浮き彫りとなった。」との事です。
出所)「VRゴーグル、米部品が中核」『日本経済新聞』
2023年3月21日朝刊14面


サプライチェーンの構築・変更には時間が掛かります。事が起こってから
対応していては間に合いません。米メタ社はそれを見越して半導体のサプ
ライチェーンではデカップリングを進めたのでしょう。


一方で「原価全体に占める中国部品の比率は18%で従来機種より14ポイン
ト上昇した。半導体での中国企業の採用には慎重だが、特に原価全体に占
める比率が高い高精細液晶で、中国の京東方科技集団(BOE)製を使った
点が影響している(出所:同上)。」とディスプレーには中国製を使ってい
ます。メタ社はディスプレーについては米中対立の地政学リスクは低いと
判断して敢えてこのリスクを取る事を選んだのでしょう。


二つのサプライチェーンのデカップリングを行うか、行う場合にどの材カ
テゴリーで行うかというのは各社のリスク観で分かれます。何も検討せず
に現状維持を続ける事だけは避けるべきと考えます。


2023.3.31

vol.116「トヨタでも真の調達購買が必要な時代に」

 

【今週のトピックス】


「『欲しいものをすぐに手に入れられる時代は終わった』。トヨタ関係者
は危機感を強める。調達本部本部長の熊倉和生は『(一部半導体で)車向
けの供給が優先されない』と認める。」
出所)「トヨタ 難路を行く2『車向け半導体、優先されない』」
『日本経済新聞』2023年3月15日朝刊2面


現在も半導体の調達に苦労している事を受けてのトヨタ関係者のコメント
です。特に利益率の低い古い型の半導体の調達に苦労している様です。こ
こからトヨタですらサプライヤと対等の関係になりつつある材カテゴリー
が出てきている事が伺えます。


これまで特に日本のサプライヤに対しては買い手は絶対、神様であり、そ
の立場を利用して強引にコスト削減を進めたり、供給難を乗り越えてきた
りしました。それでも日本経済が成長している時には取引関係を続けてい
けばサプライヤも売上を伸ばし採算を取る事ができたので、そうした関係
に我慢を続けていました。


しかしながら、日本企業の成長力が衰え、買い手企業の理不尽な要求を聞
いていては自社もじり貧となる中、サプライヤも個々の品目の取引毎の採
算管理を強める傾向となっており、コロナ禍で生じた供給難はサプライヤ
が買い手企業を選別する必要がある事をサプライヤが認識するのを加速し
ました。日本のサプライヤも急速に自社と買い手企業とは対等の関係であ
るべきで理に適った取引しかしないというものに態度を改めています。


これは調達購買担当者の受難の時代の到来でしょうか?弊社はそうは考え
ません。ようやく調達購買担当者が活躍できる時代が到来しつつあると考
えます。なぜならば、これまでは個々の調達購買担当者の能力に関わらず、
買い手企業の立場を利用すれば業務ができました。しかしながら、これか
らは調達購買担当者がサプライヤと取引できる予算・条件を取得し、サプ
ライヤに自社との取引がサプライヤにとってメリットがある事をきちんと
説明できなければ調達購買ができない、企業としての調達購買力を基盤と
した個々の調達購買担当者の能力差が調達購買業務の結果に如実に表れる
時代になったと言えるからです。


2023.3.24

vol.115「貴社はサプライチェーンのESG経営への対応を始めていますか?」

 

【今週のトピックス】


「日本経済新聞社は国内886社について、国連の持続可能な開発目標(SDGs)
への取り組みを格付けする「SDGs経営調査」をまとめた。人権侵害の救済
対象をサプライチェーン(供給網)まで広げている企業は269社(全体の
30.4%)だった。(中略)


自社や国内子会社を対象とする企業は半数を超えるが、供給網に広げてい
る企業は少ない。(中略)多くの企業で特に海外サプライヤーへの取り組
みは遅れている。海外取引先の人権取り組み状況を定期的に調査している
企業は28.9%(256社)。客観的に調査できる第三者による外部監査の実施
は7.0%(62社)にとどまった。」
出所)「人権侵害による事業リスク、供給網の対策3割どまり」『日本経
済新聞』2022年11月17日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221117&ng=DGKKZO66051390X11C22A1MM8000
閲覧日:2023年3月15日)


この結果を見て、「まだサプライチェーンのESG経営への対応をしなくて
も大丈夫」と思われたでしょうか?弊社はそうは捉えず、日本企業は出遅
れていると考えます。なぜなら、サプライヤの育成・入替には時間が掛か
るからです。


サプライチェーンのESG経営への対応が遅れると1)取組を進めている貴社
顧客からの取引打ち切り 2)各国市場でのESG経営を求める形での法令変更
とそれによるその市場から締め出される 3)貴社サプライヤが問題を起こ
す事による供給途絶と貴社への風評被害といったリスクが考えられます。


実際に弊社のお客様の中にはサプライヤに対し毎年第三者機関によるESG
経営の実践状況についての監査報告書の提出を義務付けている企業もあり
ます。一方で、日本のサプライヤの中には業界トップクラスの所であって
も品目カテゴリーによっては初めての所もあり、そういった所では対応に
戸惑っている様です。


ただESG経営の流れは一過性のブームというより不可逆の流れと考えらま
すのでやがてはすべての品目カテゴリーでESG経営の実践状況についての
監査報告書の提出が一般的になるものと捉えています。


2023.3.17

vol.114「龍角散のど飴品薄。日本のサプライヤも日本パッシングする時代に?」

 

【今週のトピックス】


最近、店頭で龍角散のど飴を見かけないと思っていたら、同社から品薄の
お詫びのプレスリリースが出ていました。そのプレスリリースによると、
「コロナ治癒後にも喉の症状が長引くことや中国のゼロコロナ政策の転換
による日本での買い占め現象などから、龍角散ののどすっきり飴・タブレッ
ト各種への通年では考えられないほどの急激な需要拡大に伴い、生産可能
数を超え、全国的に品薄状態が続いています。」との事です。
出所)「『龍角散ののどすっきり飴シリーズ』品薄のお詫びとお知らせ」
株式会社龍角散プレスリリース 2023年2月10日


このリリースに記載の通り、今回の品薄の主因は中国に買い負けです。店
頭に商品が届いていないので、中国人個人の爆買いというより、卸等の流
通段階で買い負けしていると考えられます。


のど飴は医薬品ではなく国の安全保障に関わるものでもないため、のど飴
の中国への販売を禁止するのはできないでしょう。中国に販売している卸
等に対して「日本企業なのに日本市場をないがしろにするなんてけしから
ん」といった感情論で迫るのにも無理があります。


中国にこれらののど飴を販売している企業は営利企業です。恐らく、中国
市場よりはこれまでの取引条件もよりもかなり良いものを提示されている
でしょう。そうしたオファーを前にして既存の日本の買い手を優先するか、
中国の買い手を優先するかは各社の営業判断です。


このままでは日本のサプライヤであっても日本市場をパッシングという事
になるかもしれません。


2023.3.10

vol.113「DXプロジェクト準備段階での9つの心得」

 

【今週のトピックス】


日経クロステックでDXプロジェクトを開始する前の準備段階で有効な9つ
の心得が紹介されています。何れも的を得ていると思いますので共有致し
ます。それらの心得は以下となります:
■DXに取り組むと社内に発信せよ
■自走できる体制を整えよ
■トップは十分に巻き込んでおけ
■トップには粘り強く説明せよ
■現場に合わせて広げ方を変えよ
■全社員で共有する手段も講じよ
■予算と開発体制は柔軟に確保しておけ
■ROIをコミットさせるな
■本気度は見極めろ
出所)西村 崇「DXプロジェクトを始める前に知っておきたい、準備で役
立つ9つの心得」『日経クロステック/日経コンピュータ』2023年2月17日
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02344/012500002/
閲覧日:2023年3月2日)


これらの心得は的は得ているのですが、確かにそうなんだけれど何だかな。。。
と違和感を覚えるのが、
■トップは十分に巻き込んでおけ
■トップには粘り強く説明せよ
■ROIをコミットさせるな
■本気度は見極めろ
の四つです。


「トップは十分に巻き込んでおけ」「トップには粘り強く説明せよ」が心
得としてあるのはDXもボトムアップで起こす必要があるという事が背景に
あります。日本の現実は確かにその通りですが、変革もボトムアップで起
こさなければならないというのでは現場も大変で、これでは日本でDXが起
きるのは限定的とならざるを得ないでしょう。


「ROIをコミットさせるな」は「DXプロジェクトでは、ゼロからイチを生
み出すことに取り組んでいる。」「ゼロからイチを生み出すとは、これま
でにないシステムやサービスの原型を、試行錯誤しながら生み出すことを
意味する。」もので、「例えばシステムのモックアップをつくる段階でROI
をコミットしてくださいと言っても、プロジェクトのメンバーがコミット
するのは絶対に無理」という事が背景にあります。モックの段階ではコミッ
トはしないものの最終的なリターンを示していかにモックへの投資が実装
の投資に比べ小さく、一方でPJの失敗のリスクを大きく引き下げる事を示
すのが良いでしょう。


この心得でもう一つ気になるのは「ROIをコミットさせる背景には、経営
トップや意思決定層が『失敗は許容できない』と考えることがある。」で
す。確かにその通りなのですが、変革に失敗はつきものです。失敗を許容
できない文化の企業では挑戦や変革は生まれないでしょう。


「本気度は見極めろ」は日本ではDXが現場がリーダーとなって進められる
事が少なく、DX推進部といった社内コンサルティング部門がリーダーとなっ
て進められる事が多い事にあります。確かに新しい業務プロセスを作って
いくのとできあがった業務プロセスを遂行していくのではスキルが異なり
ます。とはいえ、部門マネジメントの役割は出来上がった業務プロセスを
遂行する事ではなく、そのプロセスを改善・改良していく事にありますの
で、本来DXを推進するのは現場であり、DX推進部といった社内コンサルテ
ィング部門は現場が望む変革を実現するデジタルテクノロジー面からのサ
ポートというのが正しい役割分担と考えます。


こうして見ていくとDXはなかなか日本企業には馴染まないのではないかと
思われます。しかしながら、現状維持のままでは明らかに日本企業の国際
競争力は衰退していくだけなのですが。。。


2023.3.3

vol.112「価格交渉促進月間フォローアップ調査結果での貴社評価の確認を」

 

【今週のトピックス】


2022年12月に中小企業庁は9月に実施した価格交渉促進月間フォローアッ
プ調査結果を公表しました。今回の調査で特徴的な点は10社以上の受注中
小企業から「主要な取引先」として挙げられた発注企業について、受注中
小企業からの「2)価格交渉の回答状況」「3)価格転嫁の回答状況」につい
てスコアリングし各発注企業のスコアを実名で公表した点です。この調査
結果は何ら法的拘束力を持つものではありませんが、それぞれの項目で最
低評価を受けた企業は名前を挙げて報道され、記者会見やプレスリリース
等の釈明に追われました。


本来あるべき姿の適正な価格での調達購買を心がけていればこの調査で低
い評価を受ける事はないはずですが、かなり多くの企業がどちらかの項目
もしくは双方の項目で低い評価を受けています。


調達購買部門並びに経営者はこの調査での自社の評価を確認し、その結果
を真摯に受け止めるべきと弊社では考えます。その理由は企業イメージや
風評被害といった曖昧なものではなく、この評価は貴社の調達購買力に直
結するものだからです。


どの分野のサプライヤでも採算管理を強めており、発注企業を選別する様
になっており、優良サプライヤであればある程、仕事に困っていませんの
で、その傾向は高まります。サプライヤ各社も今回の調査結果を見ていま
すので、もし見積依頼が重なれば正当な対価を支払う発注企業への対応が
優先され、他のサプライヤからの評価が低い企業は場合によっては見積そ
のものを辞退されるという事となります。


本調査で高い評価を受ける事は難しい事ではありません。まず価格交渉の
要請があれば必ず応じる。サプライヤとの関係は対等ですので当然の事で
す。基本動作ですね。これに応じない理由というのは全く考えられません。
よって、ここで低い評価を受けるというのは最もあってはならない事です。
次いで、その要請を受けるか否かはあくまでも正当な要請であれば受理し、
そうでないものについては理由を添えて回答する。値上げそのものは正当
だが値上げ幅が正当でないというのであれば、ここ迄は正当と認められら
れるので受理するという形で交渉していく。


正当でない要請については受け入れなくても低評価にはつながらないと考
えます。なぜならば、今回の調査を見る限り、まだまだ多くの発注企業で
適正な価格で買うという事ができておらず、適正な価格で購入する企業は
高い評価を得られると伺えるからです。


2023.2.24

vol.111「台湾有事『起こる』、中国人の56%」

 

【今週のトピックス】


「日本の非営利団体『言論NPO』と中国国際出版集団は30日、日中両国で
実施した共同世論調査の結果を発表した。台湾海峡での軍事紛争につい
て中国人の回答は『将来的には起こる』(40.5%)と『数年以内に起こる』
(16.2%)の合計が56.7%に上った。(中略)


日本人は『将来的には』(34.1%)と『数年以内に』(10.4%)の合計が44.5%
で中国人に比べて12.2ポイント低かった。(中略)


調査は22年7~9月に両国で18歳以上の男女を対象に実施した。日本は全国
で1000人、中国は北京、上海など10都市で1528人から回答を得た。」
出所)「台湾有事『起こる』、中国人の56% 」『日本経済新聞』2022年12
月1日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221201&ng=DGKKZO66436490Q2A131C2EA2000
閲覧日:2023年2月13日)


上記のアンケート調査から中国人の6割近くが台湾有事が起こると考えて
いる事が伺えます。また、日本は紛争の当事者でないためか、日本人で台
湾有事が起こると考えている人は中国人に比し12.2ポイント低く、半数を
下回っています。


しかしながら、当事者の一方である中国人の半数以上が台湾有事が起こる
と捉えている事を考慮すると、台湾有事を想定したBCPの策定と中国市場
向サプライチェーンと中国以外の市場向サプライチェーンのデカップリン
グは必須と弊社では考えます。


2023.2.17

vol.110「宮崎市/ 週刊 戦略調達 vol.110「宮崎市/ 指名競争入札の一般競争入札への変更でサプライヤ間の競争活性化」

 

【今週のトピックス】


宮崎市はこれまで指名競争入札で発注していた予定価格6000万円未満の建
設工事の一部で条件付き一般競争入札を試行する。2021年度において指名
競争入札では土木一式や舗装等の工事種によっては入札参加者が指名者の
半数以下の案件が5割を超えた。また、入札参加者なしが12件、入札参加
者はあるものの不落となった案件は22件あった。
出所)ニュース解説:土木 奥山 晃平「宮崎市が不調・不落対策で一般競
争入札を拡大、指名競争で辞退者相次ぐ」『 日経クロステック/日経コ
ンストラクション』2022年10月26日 (https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/01445/?P=2
閲覧日:2023年2月7日)


記事によりますと、指名された企業の多くが施工余力がなかったり、配置
技術者を確保できなかったりしたため入札参加を辞退したとの事です。


何時も同じメンバーの企業から相見積を取っていると、やがて優劣がつい
てしまい、何時も同じサプライヤが選定される事となるケースは多々あり
ます。そうした状況は選外となったサプライヤにも伝わるもので、序列が
はっきりしてしまうと選外となるサプライヤは応札してもおざなりの見積
しか出さない所か、見積作成の手間を惜しんで案件辞退する事となります。


こうして競争環境が不活性化してしまうと、選定されるサプライヤもギリ
ギリの条件を出さずとも受注できるさじ加減をつかんできます。


変化の激しいサプライ市場であれば案件に招待されていないサプライヤも
含めてその市場におけるサプライヤの序列が頻繁に変わっている事もあり
ます。


こうしたサプライヤの序列の変化を捉え、競争を活性化させるには案件毎
に序列のはっきりついたサプライヤは思い切って外し、別のサプライヤに
入れ替える、この入れ替えを毎回実施するのが効果的です。健全な競争環
境を構築・維持していく事は調達購買担当者の力量の見せ所の一つです。


2023.2.10

vol.109「セブンーイレブン・ジャパン/店舗のCO2排出量を半減」

 

【今週のトピックス】


セブン―イレブン・ジャパンが店舗の二酸化炭素(CO2)排出量を2013年
度比で最大半減するとの事です。


記事によるとCO2排出量削減の手法としては、


■太陽光パネルの設置にあたり建物の強度を見直しパネルの設置面積を2
倍にしたうえで性能も高め、1店当たりの最大出力を従来の3倍に高める


■壁面ガラスを二重ガラスにし断熱性を高める


■空調の排水を活用して空調の室外機を冷却


同社は節電・省エネ効果で吸収していくとしていますが、CO2排出の削減
効果を高めた新型店の設置費用は従来店より嵩むとの事です。
出所)「セブン新型店、CO2を半減」『日本経済新聞』2022年10月20日
(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221020&ng=DGKKZO65282260Z11C22A0EA2000
閲覧日:2023年1月31日)


すべての調達品の仕様に社会的に責任のある調達が求められる時代が来る
のはそう遠くないかもしれません。


2023.2.3

vol.108「日本製鉄/ 国内建設用鋼材の価格改定を3カ月毎に短縮」

 

【今週のトピックス】


「日本製鉄は国内の建設用鋼材の販売価格を3カ月ごとに見直す。従来よ
り2カ月短くする。ロシアのウクライナ侵攻による供給不安などで原料価
格の乱高下が激しいためだ。生コンクリート会社でも原料高を販価に反
映しやすくしようとする動きがある。高層ビルなどの大型物件は工期が
長く、一度価格を決めると基本的には途中で変えられない。こうした建
設業界との取引慣行が変わる可能性がある。」
出所)「日本製鉄、値決め間隔短縮 建設資材で慣行見直し拡大」『日
本経済新聞』2023年1月6日電子版 (https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB07DRY0X01C22A2000000/
閲覧日:2023年1月24日)


工事関連に限らず、特に買い手企業側が強く望んできた事もあり、これ
までの日本の企業間取引では長期的に価格が一定である事が好まれてき
ました。新規の見積の場合には提示後一カ月後迄等の具体的な見積有効
期限が記載されている事もありますが、既存取引の見積においては見積
有効期限に次回価格改定迄と記載され実際の期限がいつなのか定かでな
いものが多く見られます。契約書の中にも価格改定について触れられて
いないものが多く、例え、触れられていたとしても、急激な経済環境等
の変化によって価格が不相当になった時にはその価格をお互いの協議に
より見直す事ができるといった旨の曖昧な文言となっており、急激な経
済環境等の変化というのはコストで言うと5%なのか、10%なのか、30%な
のか定かではありません。実際に10%程度のコスト上昇要因を理由とし
たサプライヤからの値上げの申し入れがあれば、買い手企業はこれは一
時的なもの、或いは10%程度であれば急激な経済環境の変化とは言えな
いといった回答で時間稼ぎをしている内に、本当にそのコスト上昇が収
まり元のコスト水準に戻り、価格を改定せずに済むといった事が多々あ
りました。


しかしながら、近年では投機マネーの流入もあり為替や各種コモディティ
の価格変動幅が大きくなっています。加えて、実需に基づく製品市場で
あっても、コロナ禍といった供給制約が生じた事もあり、様々な材での
価格変動幅が大きくなっています。さすがにこの様な状況では日本のサ
プライヤであってもこれまでの様に企業努力で値上げを抑制するという
のには限界があり、昨年来の値上げラッシュとなっている訳ですが、こ
うした傾向は一時的ではないとサプライヤ各社は考えており、今回の日
本製鉄の様に、長期的に価格をコミットしなければいけない取引は避け
るべく動き始めています。


確かに現在は価格上昇基調のため、買い手企業としてはこうした動きは
避けたいと考えるかもしれませんが、それほど忌避すべき話ではないと
考えます。長期に価格を固定する取引にはその間のコスト変動に耐えう
るべく真っ当なサプライヤであれば必ずリスクプレミアムを載せていま
す。ですので、コストの変動に合わせて取引価格を上下させられる取引
とした方がそのリスクプレミアムが除かれ、より適正な価格で取引でき
る可能性が高まると考えられます。貴社におかれましてもこうした情勢
をより適正な価格での取引を構築する機会に転じていってはいかがでし
ょう。


2023.1.27

vol.107「ITベンダの選定には製品評価だけではなく被買収リスクのチェックも」

 

【今週のトピックス】


調達・購買管理ソリューションをSaaSで提供する米クーパ・ソフトウエア
がプライベートエクイティファンドのトーマ・ブラボーに買収される事に
合意しました。
出所)「ソフトウエアのクーパ、PE投資のトーマ・ブラボーに身売りで合
意」『ロイター』2022年12月13日 (https://jp.reuters.com/article/coupa-m-a-thoma-bravo-idJPKBN2SW1XX
閲覧日:2023年1月18日)


調達・購買領域に限らずソフトウェア業界はM&Aによる業界再編が活発な
材市場です。こうした企業買収は買収されるソフトウェア企業のユーザ企
業にとっては一般的にはデメリットしかないため注意が必要です。


ソフトウェア企業の買収は同業他社やファンド等の機関投資家の何れによ
るものであっても一般的には短期的な利益改善に重点を置いているため被
買収企業の経営に以下の様な歪みが生じます。


■短期的利益改善のため、ソリューション開発やデイリーの顧客サポート
等への長期的な投資に悪影響を与える可能性があります


■利益基準を満たさないソリューション・事業の縮小・停止


■被買収企業のマネジメントを中心とする人材の退職。彼/彼女らによる
これまでのコミットメントが反故になります。そうしたコミットメントで
契約書に記載されているものであっても書面通りのみで捉えられ、行間に
対して行われていた配慮が失われてしまいます


■被買収企業のソリュショーンで買収企業と重複するモジュールについて
はそれら製品の優劣ではなく、例え機能的には劣っていたとしてもバージョ
ンアップと称して買収企業のものに置き換わっていきます


■特に今回の様に機関投資家に買収された場合には、その利益確定のため
に多くの場合、上場を待たずに再売却されます。その時には再び上記の負
のスパイラルが繰り返される事となります


ですので貴社でITソリューションの選定を実施する際には製品の評価のみ
ならず、そのソリューションベンダの財務の独立性・健全性をチェックす
るのをお勧めします。


2023.1.20

vol.106「慣れ親しんだ市場こそ既存サプライヤの技術革新・新規参入サプライヤの確認を」

 

【今週のトピックス】


「豊田自動織機は、自動車向けの樹脂製ウインドーを従来に比べて4割低
コストで製造できる新工法を開発した。加工性を高められる新開発のコー
ト剤を採用することで、ポリカーボネート(PC)製ウインドーの製造工程
を簡略化した。」


工程簡略化の具体的な内容は以下となります。


「豊田自動織機の従来の工法では、PC樹脂をウインドーの形状に射出成形
後、コート剤を2回塗布していた。射出成形のために専用の金型が必要だっ
たほか、コート剤を塗布するたびに熱をかけて硬化させなければならなかっ
た。同社の担当者は『使う材料やエネルギーが多く、製造工程も長くなっ
ていた』と話す。


新工法では、押出成形したPC樹脂の平板にコート剤を塗布した後、熱成形
によってウインドーの形状にする。平板であるためコート剤の塗布が容易
で、成形時に熱をかける時間も短くできるという。射出成形用の金型も必
要としない。製造コストは、ガラス製ウインドーとの比較では『昔は3~4
倍だったが、1.5倍弱程度まで下がってきた』(同担当者)という。


新工法の実現に寄与したのが、新たに開発したUVで硬化するコート剤であ
る。曲げに耐える性能を高めることで、コート剤の塗布後でもウインドー
の形状に成形できるようになった。」
出所)本多 倖基「豊田織機がコスト4割減の樹脂ウインドー、パノラマルー
フ以外も開拓」『日経クロステック/日経Automotive』2023年1月6日
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07553/?P=2
閲覧日:2023年1月11日)


様々な材カテゴリーで値上げ基調にある中、4割のコスト低減ができれば
非常にありがたい話です。こうした抜本的なコスト低減をもたらすのは大
抵が新技術等を活用した抜本的な工程改善や異なるビジネスモデル・技術
を持った新規参入のサプライヤです。


得てしてその材のサプライヤ市場を熟知している経験者程こうしたサプラ
イ市場の変化を見落としがちです。この市場の主要なサプライヤはどこと
どこでその価格競争力はこの程度といった思い込みが壁となってしまうか
らです。


コスト低減が厳しくなっている現在こそ、価格上昇は仕方がない事とあき
らめずに、既存サプライヤの中で技術革新を起こしている所はないか、異
なるビジネスモデル・技術を以って新規参入してきたサプライヤはないか
を確認する事が大切と考えさせられるケースです。


2023.1.13

vol.105「ユーラシア・グループ/ 2023年10大リスク公表」

 

【今週のトピックス】


地政学リスクに関するコンサルティングファームのユーラシア・グループ
が2023年10大リスクを公表しました。それらの中からサプライリスクに関
連しそうなものを抜粋します。


リスクNo.1:ならず者国家ロシア
ロシアの日本への脅威は日本を含む西側諸国企業に対するサイバー攻撃や
小麦等の穀物・肥料等の供給リスクと考えられます。


リスクNo.2:「絶対的権力者」習近平
日本へのリスクとしてはこちらの方が第1位でしょう。習氏の権力固めが
終わり絶対的権力を持った事で、軍事・外交・経済等のあらゆる政策が彼
の思惑次第となり、それらの方向性がますます読みにくくなります。中国
市場向とそれ以外の市場向サプライチェーンのデカップリングを今年は一
層進めていく必要があると考えます


リスクNo.4:インフレショック
昨年本格化したインフレは各国中央銀行の利上げにも関わらず続く見込み
です。金融引き締めは終わっておらず、日本も含め各国で利上げが繰り返
されるでしょう。調達購買の観点からはまだまだ様々な品目でサプライヤ
から値上げの要請が来る事が予想されます。利上げのペースは各国で異な
るため今年も為替が乱高下する事が懸念されます。海外調達品については
難しい判断や様々な対応が求められる年になりそうです。加えて、インフ
レと金融引き締めによる世界各国での景気後退も予想され、サプライヤが
値上げ要請を受けているにも関わらず、経営陣からは更なるコストダウン
の指示が出て頭を悩ます事になるかもしれません。


リスクNo.5:追い詰められるイラン/ リスクNo.6:エネルギー危機
日本への影響を考える際にはこれら二つのリスクはセットで考えて良いで
しょう。ロシアからの原油・ガスの供給が限定的となり供給タイトになっ
ており、イランが原因で中東で紛争が起これば原油・LNGの価格が高騰す
る事が予想されます。原油・LNGの価格高騰は電力・石化品を始めとして
様々な品目に波及しますので、これらが顕在化しない事を祈るばかりです。


リスクNo.10:逼迫する水問題
水不足は農産物や半導体等の工程で水を大量に使う産業だけでなく、水力
発電が主要な地域では電力不足となり、業種を問わずそれら地域のすべて
の産業を直撃し、様々な品目のサプライチェーンに混乱を来す事となりま
す。


これらのリスクは起こるかもしれないリスクというより、リスクが顕在化
したインシデントといえるかもしれません。これらリスクの対応はもちろ
んですが、リスクの影響は想定外のもの顕在化した時の方が対応が進んで
おらず、その影響が甚大になります。また、会社・事業毎にリスクは異な
ります。新年を迎えるにあたって上記以外にも貴社にとってのリスクに何
があるかを点検されてはいかがでしょう。


参考)"TOP RISKS 2023" Eurasia Group


2023.1.6

vol.104「調達購買業務においてSDGs・ESG対応を進めるには」

 

【今週のトピックス】


「日本経済新聞社は国内886社について、国連の持続可能な開発目標(SD
Gs)への取り組みを格付けする「SDGs経営調査」をまとめた。人権侵害の
救済対象をサプライチェーン(供給網)まで広げている企業は269社(全
体の30.4%)だった。」
出所)「(NIKKEI SDGs)人権侵害による事業リスク、供給網の対策3割どま
り」『日本経済新聞』2022年11月17日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221117&ng=DGKKZO66051390X11C22A1MM8000
閲覧日:2022年12月28日)
2022/11/17付


SDGsの対応難しいですよね。一つには目標数が17、それらを更に具体化し
たターゲットが169と非常に多岐に亘っており、何に注力すれば良いのか
分からないという事があります。


もう一つにはSDGsは持続可能な開発を進めるために国連で採択された目標
ですので企業経営に直結していない事があります。例えば、それらの目標
は貧困撲滅や飢餓の解消、目標を具体化したターゲットであっても「2030
年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の
貧困をあらゆる場所で終わらせる。」といった形でかなり公益的なもので
あり、それぞれの企業の事業内容によってはすぐに結びつかないものが多
くあります。


SDGsを企業経営に落とし込んだものにESGがあります。ESGは企業経営にお
いて"Environment(環境)""Social(社会)""Governance(ガバナンス)"を重
視すべきという考え方ですが、自然発生的に広まっていった考え方なので
ESGそれぞれの分野の中で何をすべきかといった指針は各企業の判断に任
せられています。


ESGもSDGsに比べれば企業経営の中で重視すべき方向性をより明確に示唆
していますが、あくまでも環境・社会・ガバナンスの方向性のみで企業
活動に直結するものではなく、各社対応に苦慮しているのが実際ではない
でしょうか。


調達購買業務においても環境・社会・ガバナンスを考慮した調達購買を進
めていく必要があります。こうした調達購買活動はESG調達と呼ぶのが正
しいのかもしれませんが、頭文字にしてしまうと何を目指すのかが分かり
にくくなってしまうので、現在は環境・ガバナンス対応も含めて地球環境・
社会に対して責任のある調達購買を進めるという意味で社会的に責任のあ
る調達と呼んでいます。


社会的に責任のある調達を進めるには先に挙げた対応すべき項目が多岐に
亘る・公益的な目標で企業活動に直結しないといった課題がありますので、
調達購買業務においてそれらに対応するには、
1) サプライヤ・品目選定において環境・社会・ガバナンスの各項目につ
いての要件を明確にする
2) それらの要件において定性的なものは最低限貴社として遵守すべき足
切項目とするのを推奨
3) 各サプライヤ・品目での取引において環境・社会・ガバナンスの各項
目の中で特に重視するものを絞りこみ、それら項目については継続的改
善を進める
というのが良いと考えます。


2022.12.30

vol.103「鹿島建設 天野社長/ 作業員不足に『調達を含めて見直す必要がある。』」

 

【今週のトピックス】


「全国で300万人強の建設作業員のうち、65歳以上が53万人を占める。今
後10年で6分の1がリタイアする一方、若い人の入職がそれほど増えるとは
思えない。外国人の作業員は一時は10万人を超えていたが、コロナ禍で減
り、円安で賃金の魅力も薄れている」


「機械化や作業効率化で乗り越えるしかない。工場生産の部材を現場で組
み立てるなど、人手をかけない工法の技術開発が欠かせない。建築の仕上
げは人の手をかけるほど高級感が出るものだが、工業製品の仕上げ材に切
り替えてもそれを維持できるよう、調達を含めて見直す必要がある」
出所)「月曜経済観測」『日本経済新聞』2022年12月19日3面


上記は建設市場の先行きに関するインタビューの中で高齢化や人手不足へ
の対応について聞かれた時の鹿島建設 天野裕正社長の答えです。円高で
外国人作業員の確保が難しくなる事もあり人手不足が中期的には続きそう
です。そのため、これまで人手を掛けていた仕上工程を調達品の仕上材料
に置き換えるという考え方を示しています。


こうした経営環境の変化に対応するための迅速なサプライチェーンの組み
替えは調達業務が貴社にもたらす大きな価値の一つと筆者は考えます。サ
プライチェーンの組み替えが必要となる様な大きな変化の場合、工程や原
材料・部品を内製化していると、内製工程の能力や固定費の問題もあり、
なかなかそうした変化への対応を取る事ができません。


それらを調達している場合には、内製化している場合と比し、新しい要件
を高いレベルで満たすサプライを迅速にサプライチェーンに組み込む事が
可能です。こうしたサプライチェーンのデザインの自由度が調達の価値の
一つのため、仕様作成能力のサプライヤへの依存・サプライヤの過半の取
引が貴社等のサプライヤの貴社への過度の依存・サプライヤへの出資等の
サプライヤ切替の自由度を下げる様な行為は基本的には避けるべきです。


サプライチェーンの組み替えが必要となる様な変化は、現在、建設業界に
限らずどの業界の企業でも直面している課題です。そして、価格の高止ま
りや天災・withコロナ・米中経済対立等のサプライリスクの高まりと要因
の増加や脱炭素・人権尊重等のESG経営へのシフトなど対応しなければな
らない経営環境の変化の種類が多岐に亘ってきています。


各企業によってどの変化への対応を優先するかは異なります。貴方におか
れましては貴社の課題は何か、お客様・経営陣がそれらの対応優先順位を
どの様に考えているかを見極め、優先順位の高いものから取組を進めてい
く必要があります。


来年も調達購買部門は忙しくなりそうです。


2022.12.23

vol.102「総務省/ 電波オークション導入へ」

 

【今週のトピックス】


「通信サービスに使う電波をめぐり、最も高い価格を提示した事業者に割
り当てる『オークション方式』を、総務省が一部の周波数帯で導入する見
通しとなった。」
出所)「『電波オークション』高周波数帯で導入へ」『日本経済新聞』
2022年9月14日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64675330X20C22A9EP0000
閲覧日:2022年12月14日)


こちらは売り手が開催するオークションとなり、買い手企業が調達購買業
務で実施する場合には最も低い価格を提示したサプライヤが取引を獲得す
るリバースオークションとなります。


日本では実施されている企業は少数派となりますが、実施されている企業
では間接材を中心にかなり多くの案件を相見積や入札ではなくリバースオー
クションで調達しています。それにはリバースオークションに以下の様な
メリットがあるからです。
1. サプライヤ間に現行の最安値を開示する事で価格交渉を自動化し、担
当者の価格交渉力を問わずに交渉での取りこぼしを無くす
2. リバースオークションの競争の煽り効果でサプライヤのロジカルな予
定価格を超えるコスト低減を引き出す - コストは論理で決まりますが、
価格はサプライヤの意志で決まります


よって、リバースオークションが適しているのは上記の2.の煽りの効果が
得られる調達案件で、継続購入品よりも製品寿命の短い電子機器の一括購
入やPJ関連等の都度購買品です。


リバースオークションには開催時間中サプライヤの営業担当が張り付いて
いなければならないといった批判もありますが、最小価格から始め価格を
競り上げていき、最初に手を挙げたサプライヤに取引を授与するダッチフォ
ワードオークションといったオークションタイプとオークション開始価格
や価格変動幅を調整する事で開催時間を短縮、サプライヤの負荷を減らす
事が可能です。


また、オークションは価格しか評価できない、価格競争を煽る事で品質・
納期等に無理が生じるといったデメリットについては、品質・納期・マネ
ジメント要件について事前審査しすべてに合格したサプライヤや、品目は
都度購買であっても他品目で継続的取引があり、一度サプライヤがコミッ
トした事を反故にする様な事があればそれらの取引への影響が出るため約
束を遵守するサプライヤに絞ってオークションに招待するといった方法で
回避できます。


何にでも利く魔法の弾丸とはいきませんが、道具としてピタリとはまれば
有効なツールの一つですので、今回の総務省の電波割当でのオークション
の採用が日本でリバースオークションの理解を深める一助になればと考え
ます。


2022.12.16

vol.101「集中購買は調達権限の集約から」

 

【今週のトピックス】


「デジタル庁は各省庁が個別に企業と結ぶネットワーク契約をデジタル庁
に集約する時期の前倒しを検討する。各省庁の契約終了時に順次切り替え
る計画を改め、途中解約により予定より早める。一括契約で費用を抑え、
ソフトウエアの重複調達もなくす。


契約解除に伴う違約金を払ってでも計画を早める方が効率化やコスト削減
の利点が出る可能性があるとみて、各省庁との協議に入った。契約期間は
4年ほどとする例が多く、1~3年程度前倒しできるとみられる。


現在はそれぞれでネットワーク環境が異なるため、省庁ごとに別々のオン
ライン会議やメールなどのソフトを使っている。新型コロナウイルス禍で
省庁間でオンライン会議をつなげられないといったことが起こり、業務上
の連携の妨げになっていた。


デジタル庁の一括契約でネットワークを統合すれば、複数省庁を併任する
職員によるソフト調達の重複をなくせるほか、サイバー攻撃などに統一の
基準でセキュリティー対策をとれる。


契約が大型になるので調達先の企業との価格交渉力も高まる。霞が関全体
でみたネットワーク運用に関わるコスト削減につながる。


ネットワーク契約には省内イントラやインターネット回線、パソコン端末
や業務用スマートフォン、パソコンのソフトまで幅広く含まれる。」
出所)「省庁個別のネット契約 デジタル庁集約を1~3年前倒し」『日本
経済新聞』2022年11月9日朝刊4面


各省庁間で分散購買していた省内ネットワークやパソコン・スマートフォ
ンといったハードならびにソフトウェア等のITカテゴリーの支出を集中購
買に切り替えていくというケースです。


集中購買を進めていくには調達するものの仕様の共通化と調達権限の集約
とが必要となりますが、弊社ではまずはカテゴリー毎の調達権限の集約か
ら着手されるのが良いと考えます。


調達権限とはサプライヤと取引条件を決定する権限です。なぜなら、仕様
の共通化は容易ではなく、どうしても時間が掛かってしまう、場合によっ
ては要求元間での調整が上手くいかず、途中で頓挫してしまう可能性もあ
るからです。通常、仕様の決定権限はユーザにありますので、ユーザの数
だけ仕様の意思決定者がおり、仕様の共通化・仕様の決定権者の集約は容
易ではありません。一方で、調達権限はガバナンスの問題でマネジメント
が集約すると意思決定すれば集約可能です。


確かに仕様を共通化できれば取引量も増え、サプライヤにとって魅力のあ
る取引となり、より有利な取引条件を引き出せる可能性は増えます。しか
しながら、集中購買のメリットはそれだけではないので、仕様の共通化を
目指して集中購買の実現に時間を掛けるよりも、まずは調達権限の集約を
進めそれらのメリットを享受した上で仕様の共通化を進めていくのが望ま
しいと考えます。


取引量以外の集中購買のメリットとして、例えば人員や調達購買システム
といった調達リソースの重複の解消や、集約した調達購買スタッフ・シス
テムに集中投資する事でその機能を深堀、高度化できる事が挙げられます。
他にも、カテゴリー全体の支出が俯瞰できますので、品目は共通化されて
いないもののサプライヤは集約する、或いは品目毎のベストサプライヤか
らの分散購買とするといった適切な調達戦略の採択が可能になる、ハード
・ソフトウェア等の仕様の共通化が比較的容易なものはユーザをナビゲー
トし仕様の共通化を進めていくといったメリットもあります。


お客様と話していると、企業においては国内では集中購買が進めている所
は多くありますが、日本企業でグローバルに集中購買を進めている所はま
だまだ少ないというのが筆者の肌感覚となります。各地域の要件により仕
様の共通化は難しいにしても、調達権限の集約を目的とした集中購買には
上記の様なメリットがありますので、もっと日本企業もグローバルにカテ
ゴリー毎の調達権限の集約を進められた方がよろしいかと存じます。


2022.12.9

vol.100「中国からの2カ月の供給停止で日本は53兆円消失」

 

【今週のトピックス】


「部品など中国から日本への輸入の8割(約1兆4000億円)が2カ月間途絶
すると、家電や車、樹脂はもちろん、衣料品や食品もつくれなくなる。約
53兆円分の生産額が消失する。早稲田大学の戸堂康之教授らがスーパーコ
ンピューターの「富岳」で試算した。(中略)


製品の価格も上がる。供給網の調査会社、オウルズコンサルティンググルー
プ(東京・港)によると、家電や車など主要80品目で中国からの輸入をや
め、国産化や他地域からの調達に切り替えた場合、年13兆7000億円のコス
ト増になる。東証プライムに上場する製造業の純利益の合計の7割にあた
る規模だ。


個別の製品にコスト増を転嫁すると、パソコンの平均価格は5割上がり18
万円に、スマホも2割高い約9万円になる。」
出所)「分断・供給網(上)「世界の工場」分離の代償」『日本経済新聞』
『日本経済新聞』2022年10月18日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221018&ng=DGKKZO65219570Y2A011C2MM8000
閲覧日:2022年11月30日)


米中対立の激化により民主主義国家を中心とするサプライチェーンと中国
を中心とするサプライチェーンとのデカップリングを検討する企業が少な
くありません。


しかし、デカップリングを検討している企業からにとっては思考停止となっ
てしまう様な数字が示されました。中国から日本への供給の8割が止まる
と2カ月間で53兆円分の製造が止まる、調達先を中国から日本や他地域に
変更すると例えばパソコンでは5割・スマホは2割の価格上昇といった具合
です。これらの数字からは現在の中国サプライヤの競争力が高い事が伺え
ます。


貴社でデカップリングを進めたとしても、貴社のすべての競合が同じ様に
デカップリングを進める可能性は低いでしょう。調達先の変更は容易では
なく、そうした能力が無かったり、中国企業からの供給停止リスクを安易
に考えたりといった理由から、多くの企業がデカップリングを進めない可
能性の方が大きいかもしれません。


一方で、中国企業からの供給停止リスクが顕在化する確率もかなり高いと
見込まれ、弊社ではデカップリングを進めるべきと考えています。中国か
らの供給停止リスクが顕在化した場合、それは上記のシミュレーションの
2カ月よりももっと長期間、少なくとも数年は続くものとなるでしょう。
その場合、上記のシミュレーションの結果を援用すれば年間300兆円を超
える生産が止まる事となります。品目カテゴリーによりますが、サプライ
ヤの代替は直材では平時でも少なく見積もっても1年以上掛かるものが殆
どで、且つ中国市場での需要がすべてそれら代替先に殺到しますので、
事が起こってから行動してはかなり単価を引き上げても代替先の確保すら
難しいという事態に陥るのは容易に想像できます。


ですので、まだデカップリングに着手されていない企業については、今か
らすぐに行動を始め、多少時間が掛かったとしても現在の中国サプライヤ
を超える・少なくとも近しい競争力を有する中国の影響を受けないサプラ
イヤの開拓を進めるべきです。難しい調達になりますが、今すぐに始める
事で時間を確保する事により達成可能と考えます。


2022.12.2

vol.99「宮本清水建設会長/ 集約から分散の調達戦略への転換でコスト低減」

 

【今週のトピックス】


「それまで私は現場での作業をできるだけ集約し、1つの業者に一式任せ
た方が効率が上がり、コスト削減に結びつくと思っていた。清水建設の考
え方もそうだった。ところがスポンサーである大成建設は違う手法を採用
した。


例えば、石を打ち込む外壁用プレキャストコンクリート。切断・加工した
石を設計デザインに合わせ並べた後、コンクリートを流し込み板状(PC板)
に仕上げる。この一連の作業を1社に任せるのではなく、石の買い付け、
加工、海外からの運搬・通関・国内運搬、石の配置、コンクリート打設な
どをそれぞれ別の業者に発注したのである。


製作業者が一気通貫で手がけるより、商流をきちんと分析し細分化・単純
化した作業をそれぞれ専門業者にやらせた方が経費を切り詰められるとの
考え方だ。そして実際コストは下がった。」
出所)宮本洋一「私の履歴書(19)最後の現場」『日本経済新聞』2022年
11月22日 朝刊28面


「集約」と「分散」との異なる調達戦略の優位性の比較の話です。一般的
には調達コストは分散の方がコスト低減となりますが、社内コストも含め
たトータルコストはケースバイケースとなります。この違いがどこから生
じるかを考える上でも、まずは、それぞれの戦略の特徴を見ていきましょ
う。


今回のケースでは集約は清水建設の手法がそれにあたります。各専門工事
や工事で使われる材料・什器等の複数の調達単位を集約し1つのサプライ
ヤに任せるもので、買い手企業から見た場合、調達単位間の調整コストが
減り、取引金額を大きくする事で競争時の値下げによる案件獲得のインセ
ンティブを上げるというメリットがあります。


一方で、一つのサプライヤがあらゆる調達単位でNo.1というのは稀で、実
際には外注した上でマージンを乗せるものも多々ありあり、個々の調達単
位で見ると最上位のサプライヤではないという事が殆どです。集約のもう
一つのデメリットは調達単位を集約すればする程、対応できるサプライヤ
が限られるという点です。調達単位が広がればそれらすべてに対応・管理
する能力がサプライヤに求められます。サプライヤが限られるという事は、
それだけ競争環境が小さくなり、サプライヤ選定の自由度が減り、コスト
高となる可能性が高まります。


分散は大成建設のアプローチです。宮本会長の記述の通り、調達単位をそ
れぞれの専門企業向けに細かく分けて設定するものです。集約のデメリッ
トの反対がちょうど分散のメリットになります。メリットの一つはその調
達単位の専門企業のプールからサプライヤを選定しますのでそれぞれの調
達単位の最上位のサプライヤとの取引が可能となる点です。また、調達単
位が限定されますので、それぞれの市場で対応できるサプライヤが増え、
より厳しい競争環境を作る事で一層のコスト低減を引き出せます。実際に
宮本会長のケースではスーパーゼネコンである清水建設のこれまでの調達
手法よりもコストが下がっています。


分散のデメリットは管理工数・コストが必要という点です。分散では調達
単位を細かく分けて調達を行いますので調達案件数が増えます。また、工
程や各工程で使用する部材と業務委託とを分けて調達しますので、それら
の間の仕様・納期のすり合わせを買い手企業が中心となって行わなければ
なりません。この工数・コストが必要となりますので、冒頭に述べたそれ
ぞれの手法を比較した時に例え分散により調達コストが下がっても社内コ
ストも含めたトータルコストはケースバイケースとなるとの評価となりま
す。また、買い手企業内で人員数もしくは管理能力が不足している場合に
は分散のアプローチは取れず集約の調達戦略に絞って調達を進める必要が
あります。


それでは集約と分散のどちらのアプローチが良いのかという問いには、調
達全般に言える事ですがサプライヤという相手のある事なので机上の空論
は意味を為さず、調達結果は調達活動を実際にしてみないと正確な所は分
からないため、それぞれの戦略に基づき見積を取得し検証しないと分かり
ませんと答えざるを得ません。今回の清水建設のケースでも自社内では集
約の方が優位性があると考えられていましたが、実際に分散の戦略を採用
してみて初めてそちらの方が優位性があると明らかになりました。


もし、二つの戦略を検証している余裕が無いという事であれば、分散戦略
をとっても全体を管理する能力が貴社にあるのであれば経験則から分散の
方に優位性があると考えられますので、弊社では分散戦略を推奨します。


2022.11.25

vol.98「ソニー/ 取引先も脱炭素。求められる調達戦略のパラダイムシフト」

 

【今週のトピックス】

 

ソニーグループが専門部隊による取引先の温暖化ガス削減計画を検証する
活動を始めています。背景にあるのは温暖化ガスの排出は自社よりも調達
先から生じる「スコープ3」と区分されるものが圧倒的に多い事がありま
す。ソニーの調査では20年度のグループ全体のCO2排出量約1847万トンの
内スコープ3が9割を占めるとの事です。
参考)「ソニー、取引先も脱炭素」『日本経済新聞』2022年8月22日
(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220807&ng=DGKKZO63252160W2A800C2EA5000
閲覧日:2022年11月16日)


CO2排出量の排出量の殆どが自社からのものでなく、サプライチェーンか
らのものというのは当然と言えるもので、例えば、財務省の年次法人企業
統計調査から計算すると2021年の金融・保険を除いた全産業のコストの内、
社内人件費等を除いた外部支出は85%です。


外部支出には電力等のエネルギー調達に関連する「スコープ2」も含まれ
ますのでソニーの数字の9割より少し小さいですが、コストと経済活動と
はほぼ等しいと考えられますので、金融・保険を除いた全産業をならし
てみると自社事業に関わる8割5分の経済活動は自社以外のサプライチェー
ンで行われていると言っても良いでしょう。


そうなってくると温暖化ガスの削減についても自社ではなくその主要な排
出元となる調達先に着目する事になりますが、サプライヤの温暖化ガス削
減にあたってはやはりそのサプライヤの工程だけで検討しても効果はかな
り限定的となりますので、その先のサプライチェーンを遡っていく必要が
あります。しかしながら、かなりの大手を除き、自社のみならずサプライ
チェーン全体での温暖化ガスの削減に取り組める企業は限られるでしょう
から、ソニーの様な大企業は率先して取引先の中小サプライヤを支援して
いく必要があります。


同じ様な検討が必要なものにサプライリスクマネジメントがあります。供
給リスクを考えた時にリスク要因がそのサプライヤにある事は殆どなく、
その先ないしはその先の先といったサプライヤにある事が殆どでサプライ
ヤのサプライチェーンをかなり遡る必要があります。


こうした潮流は調達戦略のパラダイムシフトを各企業に迫っていると弊社
では考えます。これまでは一部の支配のサプライチェーン戦略を取る企業
を除き、サプライヤをその時のコスト競争力に応じて切り替えられる自由
を求める調達戦略が基本でした。弊社も内製ではなく外部調達をするのは
その自由に価値があると考えていました。しかし、現在は、リスクマネジ
メント・ESGの観点からサプライヤのサプライチェーン迄を把握する必要
があり、その把握に掛かる工数分だけサプライヤの切替コストが上がって
います。


そういった意味ではサプライヤの切替の容易な汎用品や期間限定の短期的
な取引を除いたすべてのサプライヤ選定において、


1) 初回の選定ではコスト競争力のみならず、リスク管理やESG対応を含め
たサプライチェーンマネジメント能力とその改善への協力意欲も含めた厳
密な評価によるサプライヤ選定


2) サプライヤ間の競争ではなく、選定したサプライヤとの中長期に亘る
深いコミュニケーションによるサプライヤのQCDMの改善


に調達購買部門の役割がシフトすると予想されます。特に後者では調達購
買スタッフに求められる役割が、これまでのサプライヤ間の競争や交渉に
よるコスト低減からサプライヤのサプライチェーンの把握とそのサプライ
チェーントータルのQCDM改善に大きく変わるため、そこで求められる能力・
スキルも大きく変わって来ます。


弊社では貴社でも調達購買部門のプロセス・人・組織・テクノロジーをこ
の方向にシフトさせる事をお勧めします。


2022.11.18

vol.97「取引基本契約に物価スライド条項が必須に」

 

【今週のトピックス】

 

建設資材高騰分の請負代金への転嫁が民間建築工事ではなかなか進まない
事を背景に日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長が公共工事と同様
に民間工事においても契約約款に「スライド条項」を盛り込むべきだと訴
えています。
出所)星野 拓美「『民間工事にもスライド条項を』、日建連・宮本会長
を突き動かす人材難への危機感 日本建設業連合会の宮本洋一会長に聞く
(後編)」『日経クロステック/日経アーキテクチュア』2022年10月28日
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01969/102100018/)


スライド条項とは契約において急激な物価変動時に請負代金の変更を請求
できるとするものです。貴社の取引基本契約の雛形に「経済状況の急激な
変化が生じた場合には取引単価・価格を見直すものとする」といった条項
が入っていれば、それがスライド条項です。


スライド条項の適用が迫られているのは建設業界のみではありません。原
材料および資源高・供給難・円安等から値上げが迫られている品目は多岐
に亘り、すべての買い手企業にスライド条項が迫られています。


物価上昇基調の現時点ではスライド条項は値上げにつながるため買い手企
業から見れば好ましくないと思われるかもしれませんが、物価下落時には
コスト低減の機会となります。また、スライド条項が無い場合、サプライ
ヤとしては将来の自社調達コストの上昇を見越してのバッファーとしてマー
ジン率を高めに設定せねばならず、結局は高値づかみとなる可能性があり
ます。弊社は購入単価決定における調達購買部門の役割は買い叩く事では
なく適正な価格を設定する事にあると考えていますので、スライド条項を
契約に設ける事は賛成です。


以前は買い手側の方がサプライヤに対する交渉力に勝っており、スライド
条項どころか、一定期間、価格を固定する価格ロックイン条項を契約に入
れる買い手企業が多くありました。その背景にはそういった企業の調達購
買担当者としては値上げの際には会社に対する説明責任が面倒、場合には
よっては、自社が顧客に対して価格ロックインを約束しており、調達コス
ト上昇リスクを回避するため、営業や経営層が同じ条件の価格ロックイン
条項をサプライヤに押し付ける様に求めているといった事があります。


スライド条項を含めた取引条件は交渉で確定します。しかしながら、現在
から今後はサプライヤも買い手企業に対する交渉力をつけており、価格ロッ
クイン条項は問題外、スライド条項を受け入れないと取引ができないといっ
た場面が多く出てくると予想されます。


調達購買部門としては調達力の更なる強化により交渉力を強化しつつ、自
社経営層・営業に対しこれまでの様に中長期で調達価格を一定期間保つ事
がむずかしくなっており、自社顧客への販売契約においてもスライド条項
を入れる・価格ロックイン条項を入れない様にアラート上げる必要があり
ます。


2022.11.11

vol.96「IMDデジタル競争力ランキングで日本は過去最低の29位」

 

【今週のトピックス】

 

「2022年9月28日、スイスのビジネススクールIMDは2022年の『世界デジ
タル競争力ランキング』を発表した。ランキングの対象となった63カ国・
地域のうち、日本は29位だった。2021年から順位を1つ落とし、2017年の
調査以来、過去最低となった。


世界デジタル競争力ランキングはその国・地域で行政の慣行やビジネスモ
デル、社会全般の変革につながるようにどの程度デジタル技術が活用や展
開ができているかを示すものだ。各国・地域の統計情報のほか、経営者や
管理職に対する聞き取り調査を基に、『知識』『技術』そしてデジタル変
革を展開するための準備度である『未来への準備』の3つの因子や、『人
材』や『規制の枠組み』など9つのサブ因子について順位付けし、総合順
位を決定する。


3つの因子のうち『知識』は2019年の25位から28位、『技術』は24位から
30位、『未来への準備』は24位から28位に転落した。サブ因子のうち
『人材』は2022年に50位、『規制の枠組み』は47位、『ビジネスの俊敏
性』は62位だった。


さらにサブ因子の内訳を見ると、『人材』の中の『国際経験』は63位、
『デジタル/技術的スキル』は62位、『ビジネスの俊敏性』の中の『機会
と脅威への素早い対応』、『企業の俊敏性』『ビッグデータとアナリティ
クスの活用』は63位だった。」
出所)外薗 祐理子「デジタル競争力ランキング過去最低の29位、企業の
『デジタル敗戦』を招いた真因」『日経クロステック/日経コンピュータ』
2022年10月27日(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/102501144/?n_cid=nbpnxt_mled_itmh 
閲覧日:2022年10月31日)


上記の結果で気になるのは人材の「国際経験」「デジタル/技術的スキル」
や企業の「機会と脅威への素早い対応」「企業の俊敏性」「ビッグデータ
とアナリティクスの活用」といった企業経営に関わる因子が日本の順位を
下げている事。これらの因子の評価が低い点は筆者の肌感覚とも一致しま
す。これらの因子が現在の日本企業の国際競争力の低下につながっている
のではないでしょうか。


上記の結果で気になるのは人材の「国際経験」「デジタル/技術的スキル」
や企業の「機会と脅威への素早い対応」「企業の俊敏性」「ビッグデータ
とアナリティクスの活用」といった企業経営に関わる因子が日本の順位を
下げている事。これらの因子の評価が低い点は筆者の肌感覚とも一致しま
す。これらの因子が現在の日本企業の国際競争力の低下につながっている
のではないでしょうか。


筆者は日本企業の国際競争力の低下の原因は、日本の市場がある程度の規
模があるため、日本国内市場での競争のみを考えており、国際競争をあま
り意識していない事にあると考えています。製品仕様の多くが日本国内の
みのガラパゴス仕様になっているが顕著な例でしょう。


しかしながら、現在の人口動態に大きな変化がなければ、中長期的に殆ど
の分野で日本国内市場は縮小していくでしょう。企業規模が大きくなれば
なる程、成長のみならず現在の売上規模を維持するのにも海外市場に打っ
て出ねばならず、そうした市場で勝ち抜くための国際競争力をつける必要
があります。


調達購買部門も当然そうした国際競争力をつけていく必要がありますが、
日本の経営スタイルがボトムアップである事を考えると、経営トップから
そうした指針が示される企業は少ないと考えます。部門の競争力向上は自
衛のためにそれぞれの部門で考えていかなかれば何も起こらず、ずるずる
と競争力を低下させるといった事になりかねません。


自ら改革を進めていくのは容易ではありませんが、そうした人材が日本の
調達購買領域では圧倒的に不足しているのも事実で、この困難な業務を成
し遂げれば、様々な企業から引く手あまたの人材となれる機会です。


お菓子のCMではありませんが「迷ったら、ハズむほう。」困難な挑戦をし
た方がその先のリターンや機会は必ず大きいと筆者は考えます


2022.11.4

vol.95「選外の見積依頼先にフィードバックを」

 

【今週のトピックス】

 

貴方は相見積を行った時に選外の見積依頼先にフィードバックをしていま
すか?弊社はサービスを外販しているので、提案・見積を提出する機会が
多々ありますが、かなりの数の案件でもともと案内されている意思決定日
に連絡がなく、結果・フィードバックを求めても何ら回答が無い事があり
ます。


先方は色々な業務を抱えていて、選外のサプライヤに対応している余裕が
ないのかもしれませんが、この様な対応をしていると結果的にコスト高を
招く事になると考えます。


品目毎にサプライヤの得意分野が若干異なり、最善の調達購買を進めるに
は多くのカテゴリーで複数のサプライヤを必要としており、1社だけと取
引していれば良いというものは非常に少ないと考えます。競争環境の構築
や近年のサプライリスクマネジメントの観点からも複数のサプライヤとの
取引が求められています。


提案・見積にはサプライヤの工数が掛かっているので、そうした誠意の無
い買い手企業からはサプライヤは離れて行ってしまいます。弊社ではフィー
ドバックの無い会社から別の案件で見積依頼が来ても、恐らく、前回フィ
ードバックが無かったのは既に取引先が決まっており、社内ルールで相見
積が義務付けられている等、社内を説得するためだけの当て馬見積の取得
が目的と判断し見積辞退をしています。


弊社はこの様に半分はサプライヤの立場で仕事をしており、サプライヤの
気持ちも分かるので、弊社が提案・見積取得を行う場合には選外のサプラ
イヤにも必ずフィードバックをする様にしています。特に、選外にはなっ
たものの選定社と価格が近い等ある程度の競争力を有するサプライヤには、
選定社の価格が明らかにならない様に数%の下駄を履かせた上で、「次回
の案件で貴社が選定されるには、今回の案件を例とすると〇〇%以上の価
格低減が必要となります。」という形でコスト低減目標を伝え、次回以降
のサプライヤの奮起を促しています。


もし、貴方が選外の見積依頼先にフィードバックをされていないのであれ
ば、これからはされる事をお勧めします。


2022.10.28

vol.94「アイリスオーヤマ/ 機動的に組み替えられるサプライチェーンの構築へ」

 

【今週のトピックス】

 

「アイリスオーヤマ(仙台市)は、中国3工場で製造しているプラスチッ
ク製品の一部について生産を日本国内に移管する。中国から日本への輸出
にあたり、円安長期化や海上運賃の高騰などでコストが上昇していること
に対応する。東アジアを巡る安全保障環境などの変化も踏まえ、さらなる
生産移管やサプライチェーン(供給網)分散も視野に入れる。


生産移管の対象はプラスチック製の収納ボックスやプランターなどの容器
類だ。中国子会社が大連、天津、広州の3拠点で製造。多くを日本に輸出
している。(中略)


一般的に製造業が海外から生産移管をする場合、工場のラインや設備、人
員確保やオペレーション準備に最低でも数カ月かかるとされる。同社は各
工場で稼働率を7割に抑え、常に急な増産などに対応できる体制をとる。
ロボットによる自動化を進め、短期間でスムーズな生産移管ができること
も背景にある。(中略)


電子部品など戦略部品の調達難を背景に、アイリスは21年にサプライチェー
ンマネジメント部を立ち上げた。それまで工場や現地法人ごとに在庫や部
品を管理する体制だったが、本社で一括管理する方式を取り入れた。」
出所)「アイリス、プラ製品生産を一部国内移管」
『日本経済新聞』2022年8月25日 (https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC246IW0U2A820C2000000/
閲覧日:2022年10月17日)


今回のケースの様に、現在、為替・海上運賃・地政学リスクの観点から中
国一辺倒のサプライチェーンの見直しが各社に迫られています。今回はた
またま日本国内への生産回帰となりましたが、今後、日本に続々と生産が
戻ってくるという事ではなく、為替・原材料市況・地政学リスクに応じて
グローバルに機動的に調達先・生産拠点を見直し、サプライチェーンを組
み替えられる体制づくりが迫られていると弊社は考えます。

 

今回アイリス社が生産拠点を移す要因になったのは主に為替と海上運賃の
高騰というそれぞれの市場動向によるもので、中長期的な構造的変化によ
るものではありません。為替・海上運賃や原材料価格等の動向によって、
再び国内生産ではなく海外生産でないと価格競争力に劣るという事態に陥
る事も大いにあり得ます。地政学リスクについては高まる事こそあれ、リ
スクが収束し安定した経営環境が整うという事は短中期的には見込めませ
ん。


グローバルに最適な調達先・生産拠点を選び直し機動的にサプライチェー
ンを組み替えられる体制づくりのヒントを今回のケースは与えてくれてい
ます。
・グローバルに最適な調達先・在庫ならびに生産拠点を決定するには、各
工場や現地法人にそれらの管理を任せるのではなく、グローバルに一元管

・工場の標準時の稼働率を7割に抑え常に急な増産などに対応できる体制
・ロボットによる自動化を進め短期間でスムーズな生産移管を可能に


アイリス社のこうした取組を参考に貴社でも機動的にサプライチェーンを
組み替えられる体制づくりを進めていくべきと弊社は考えます。


2022.10.21

vol.93「セブン&アイ・ホールディングス/ 低価格PBブランド『セブン・ザ・プライス』開始」

 

【今週のトピックス】

 

株式会社セブン&アイ・ホールディングスがグループのプライベートブ
ランド(PB) 「セブンプレミアム」において、より低価格を追求した「セ
ブン・ザ・ プライス」を新たに展開します。
出所)「確かな品質と安心価格で、『これはおトク』とうれしくなる セ
ブンプレミアムの新ブランド『セブン・ザ・プライス』誕生」『株式会社
セブン‐イレブン・ジャパン ニュースリリース』2022年9月26日


価格を抑えるために同社は、例えば納豆では競合製品には当たり前に
付いているからしとたれの添付を止めました。これにより、材料費を
抑えるだけでなく、パック時の作業工の低減にもなります。商品設計・構
成のシンプル化と部品点数削減にちよる製造工数低減の事例です。


きざみ沢庵では切れ端もあます事なく使う事で材料の歩留まり改善を行っ
ています。


商品パッケージでは色数を4色ではなく2色とする事で印刷費を低減してい
ます。


元々は「ザ・ プライス」はイトーヨーカ堂限定のPBでした。これを
他のグループ企業のヨークやセブン-イレブンにも拡大し原材料の購
買量を増やす事で、更なるコスト低減を引き出していると考えられます。


個々の施策を見ると魔法の杖の様な奇策はなく、基本に忠実な施策の積み
重ねで今回の低価格PB実現している事が伺えます。コスト低減には目標価
格とQDMのすべてを満たす夢の様なスーパーサプライヤの登場を待つので
なく、サプライヤ選定の厳正化に加えて、VEやデマンドマネジメントといっ
た基本的な施策を積み重ねて行く事が王道であると、今回のケースに改め
て感じさせられました。


2022.10.14

vol.92「社会的責任のある調達がトレンドから基本動作に」

 

【今週のトピックス】

 

先週の編集後記でご紹介したフィットネスジム関連の内装品の海外調達で
特に印象に残ったのは、お客様から「サプライヤへの見積依頼項目にカー
ボンニュートラルの取組の紹介を加えてほしい」との依頼を受けた事でし
た。


今回の調達目的はコスト低減でしたが、それでも加点項目として評価する
ので加えてほしいとの事でした。その依頼に対して現地の中国人スタッフ
からは「中国のサプライヤではカーボンニュートラルに取り組んでいる所
は多い」との回答でした。利にさとい中国人が実践しているという事は、
カーボンニュートラルは買い手企業へのアピールとなり、それらのサプラ
イヤにとって実際の利益になっていると考えられます。


日常の調達案件の評価項目にカーボンニュートラル等の社会的責任のある
調達に関連する項目が加えられ、サプライヤが選定に残るためにそれらの
項目に対応する。社会的責任のある調達がトレンドから調達購買の基本動
作として定着しつつあると感じた瞬間でした。


2022.10.7

vol.91「ヤフー/ 需要の平準化で配送コスト低減」

 

【今週のトピックス】

 

ヤフーは「アスクルのネット通販『LOHACO(ロハコ)』で通常より数日遅
い配達を選べる実証実験を始める。対象は10月9日までの日曜日。特典と
してスマートフォン決済『PayPay(ペイペイ)』のポイントを付与して利
用を促す。日曜日は注文が集中するため、配達日を分散させ物流や環境の
負荷軽減につなげる。


サービス名は「おトク指定便」。希望の配達日を遅らせるほどPayPayポイ
ントの還元率を上げる。還元率は検討中で、効果が確認できればヤフーの
電子商取引(EC)サイト『Yahoo!ショッピング』全体への拡大も検討す
る。


EC業界では翌日配送など配達の速さを競ってきた。新型コロナウイルス禍
の巣ごもり需要でECが拡大したことや慢性的な人手不足も影響し、宅配ド
ライバーの需給は逼迫している。急がない利用者に数日後の配達を促し、
物流への負荷を下げる狙いだ。」
出所)「ヤフー、ロハコで期日遅い配送便」『日本経済新聞』2022年8月24日
(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220824&ng=DGKKZO63694090T20C22A8TB2000
閲覧日:2022年9月25日)


ご存じの通り、価格の決定要因の一つに需給バランスがあります。供給が
逼迫していれば価格は上昇します。


2020年以降、運転手を中心とした労働力不足で国内陸運の運賃は上昇傾向
にあります。その一つにはEC業界を中心とした翌日・当日配送といった配
達の速さを競う競争です。配達日数を短縮しようとすれば、積載率を無視
して配達速度を優先せざるを得ません。積載効率が下がれば、便数を増や
さざるを得ず、便数を増やすには運転手の増員が必要となります。そのた
め運送会社各社は運転手を確保するために給与を上げざるを得ず、それが
運賃にも反映される事となっています。


コスト低減の手法の一つにサプライヤの採算改善への協力があります。サ
プライヤの採算を改善すれば値下げの余地が生まれるので、そこから生じ
た値下げ余地を価格に反映させるものです。


固定費の採算改善にはその設備・資産効率の改善が有効です。設備・資産
効率改善方法としてはキャパシティマネジメントと需要の平準化がありま
す。


ピークに合わせて投資しキャパシティを拡大してしまうと、そのキャパシ
ティに見合った仕事量を非ピーク時にも確保する必要が生じます。特に、
ピークと非ピーク時との需要の変動が大きい場合には、ピーク時にキャパ
シティを合わせてしまうと非ピーク時の稼働率が大きく下がってしまいま
す。一方で、キャパシティに制約があると、それを超える案件の受注がで
きなくなるので、単純にキャパシティを絞れば良いという話でもなく、サ
プライヤがどの様な事業を志向するのかという戦略に基づく意思決定が必
要です。


このピークと非ピーク時との需要の差を小さくし、平均して設備・資産の
稼働率を上げようというのが需要の平準化です。トヨタのJITの前提にも
この需要の平準化が置かれています。需要が平準化すれば設備・資産の平
均稼働率が上がりますし、需給ギャップに備えるためのまとめ生産による
在庫を抱えずに済み、在庫のムダも無くなるという発想です。


今回のケースの配送リードタイムに猶予を設ける試みは、配送会社(サプ
ライヤ)により計画的に配送手配を組む機会を設け、日々の需要のバラつ
きを猶予期間の間でならす事により需要の平準化を行い、サプライヤの積
載効率を改善するものです。配送業務委託の仕様として、恐らく、配送リー
ドタイムが通常より長めに設定されているでしょう。

 

そこ効果として以下の三点が考えられます。
1) サプライヤの採算改善の還元によるコスト低減
2) 要求水準・キャパシティに猶予が出た事によるより多くのサプライヤ
との取引可能性・配送能力の確保
3) より多くのサプライヤ間での競争によるコスト低減


サプライヤに単純に価格もサービスもと求める事はできます。しかしなが
ら、過度なサービスレベル・品質を求める事で、実は貴社にとって最善の
サプライヤとの取引を失っているかもしれません。適切な仕様設計がコス
ト低減となります。


安易に他社が当日・翌日配送をしているからといった理由でウチもと同質
競争に陥るのではなく、配送スピードよりも価格(ポイント)を求める顧
客を囲い込むといった異なる競争軸を持ち込む方が競争戦略上は優位と考
えます。孫氏曰く「 戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。」
です。


2022.9.30

vol.90「実のある調達購買業務には調達購買のデジタル化から」

 

【今週のトピックス】

 

「米航空宇宙局(NASA)などが昨冬に打ちあげた巨大な宇宙望遠鏡『ジェー
ムズ・ウェッブ(JWST)』の観測画像を初めて公開した。画像は極めて
鮮明で、既存の宇宙望遠鏡の100倍とされる能力を存分に発揮。(中略)


遠い銀河や恒星の観測に詳しい大栗真宗千葉大学教授は『これまで観測で
きなかった遠い銀河の細かい構造まで見えていて、予想以上にすごい』と
話す。画像だけでなく、同時にデータが公開された銀河の光を詳しく分析
したスペクトルも重要だ。スペクトルから銀河にどのような元素が含まれ
るかなどが分かるが『今まで見えなかったものが、はっきり見えた』と大
栗教授は驚く。(中略)


太陽系外惑星『WASP-96b』はスペクトルのデータだけが公開された。ス
ペクトルを調べることで大気にどのような成分が含まれているかがわかり、
今回は水が存在することが確認された。太陽系外惑星に詳しい成田憲保東
京大学教授は『従来より観測できる波長の幅が広がり、精度もよくなって
いる。詳しく解析するとメタンなど水以外も見えているのではないか』と
話す。」
出所)「『最初の星』に迫れ 『性能100倍』宇宙望遠鏡の画像公開」
『日本経済新聞』2022年7月20日 (https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220720&ng=DGKKZO62740170Z10C22A7EA1000
閲覧日:2022年9月14日)


調達購買業務も現状が見えないと何も始まりません。例えば、コスト低減・
カテゴリーマネジメント・調達戦略策定には何を誰から幾らで買っている
のかをまずは知る必要があります。会計の勘定科目レベルでの製造経費が
幾ら・補修費が幾ら・業務委託費が幾ら・広告宣伝費が幾らといった情報
では調達活動は始められません。


購買統制も同じで契約購買比率がどれ位なのかといった数字が必要です。
サプライリスクマネジメントや社会的に責任のある調達の推進には各サプ
ライヤのBCPやESG経営への対応状況がどうなっているか把握する必要が
あります。


サプライヤのパフォーマンス改善には各サプライヤのQCDMの評価がどう
なっているのか、調達購買業務の改善には要求元の調達依頼から選定結果
通知迄・契約雛形発行から締結迄・購買申請から発注迄といった各業務の
サイクルタイムや掛かっている社内工数を把握する事でどこに課題がある
のかを明らかにする必要があります。


こうした情報を取得するには宇宙望遠鏡ではなく、調達購買業務ならびに
支出・BCPやESG対応調査票等のサプライヤからの提出情報・サプライヤ
の評価情報等のデジタル化が必要です。実のある調達購買業務を進めてい
くには調達購買のデジタル化が始まりとなります。


2022.9.16

vol.89「五輪組織委元理事を逮捕/サプライヤとの癒着・サプライヤ間の癒着を 防ぐには」

 

【今週のトピックス】

 

「東京五輪・パラリンピックの大会スポンサーだった紳士服大手のAOKI
ホールディングス(HD)側から現金5100万円の賄賂を受け取ったとして、
東京地検特捜部は17日、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)を
受託収賄容疑で逮捕した。」
出所)「五輪組織委元理事を逮捕」『日本経済新聞』2022年8月18日
朝刊1面


今回はこの事件を参考に、貴社が担当者のサプライヤとの癒着・サプライ
ヤ間の癒着を防ぐにはどの様にすれば良いか考えていきます。


今回の事件で目に付くのはスポンサー選定の経緯が高橋氏の下でブラック
ボックス化し、対等以上の立場で高橋氏に意見できる者からのチェックが
入っていない点です。同じ轍を踏まぬ様、貴社がサプライヤを選定する際
には選定プロセスの透明化が必要で、金額に応じてサプライヤ選定結果・
経緯を承認者が確認・決裁する形にする必要があります。


選定プロセスで担当者とサプライヤとの癒着を見抜くには、一つはその確
認プロセスでその調達案件に招待されたサプライヤリストを確認します。
そこでそのカテゴリーで有力なサプライヤが参加しているか、適切な数の
サプライヤが招待され競争が働いているかを確認します。


また、仕様・要件が調達目的にそぐわない形で選定されたサプライヤが有
利になる様に設定されていないかをチェックします。


サプライヤ間の癒着を見抜くには各社からの見積をチェックします。例え
ば、普段は価格競争力のあるサプライヤが普段とは異なる高止まりの見積
となっている・選定者のみが飛びぬけて安い・参加サプライヤすべての見
積が極端に非常に接戦となっている等の異常値がないかを確認します。


こうした異常値を発見したら、各サプライヤにどうしてその様な見積となっ
たか背景をヒアリングします。そこで納得の得られる説明が為されたかっ
た時にはサプライヤ間の談合を疑った方が良いかもしれません。


中期的な対策としては、担当者とサプライヤとの癒着を防ぐにはカテゴリー
毎の担当者の変更を、サプライヤ間の癒着を防ぐにはカテゴリー毎のサプ
ライヤプールに適宜新規を入れるの有効な手段です。


幅広いカテゴリーを見る事になりますが、承認者には各カテゴリー毎の有
力サプライヤとそれらの間での序列・価格レベルは頭に入れておく必要が
あります。


2022.9.9

vol.88「海外サプライヤの日本離れへの対処が必要」

 

【今週のトピックス】

 

「新型コロナウイルス禍で日本の港湾競争力低下に拍車がかかっている。
海上物流の混乱が長期化する中、海運会社は貨物量の少ない日本への寄港
に後ろ向きで、国内主要港へのコンテナ船の寄港隻数は2021年に00年以
降で最低を記録した。米国の主要港への直行便が減る中、荷主は韓国など
国際ハブ港経由での輸送に切り替えざるを得なくなり、輸送日数の予想が
難しくなるといった問題も浮上している。」
出所)「日本、港湾の競争力低下」『日本経済新聞』2022年8月28日朝刊
2面


別の形で弊社が肌身で感じている事を示している記事だったため、今回採
り上げました。それは日本の市場としての魅力の低下です。弊社ではグロー
バル調達代行やシステム導入で海外のモノ・システム・サービスを日本に
入れていますが、言葉の壁や規制・商習慣等で日本だけで閉ざされた市場
となっており、かなり苦労しています。世界3番目の市場であり、参入し
たければ相応の努力をしろという言い分があるのは理解できます。


しかしながら、サプライヤも顧客・市場を選べるという考え方に欠けてい
ると感じます。確かに国として日本はある程度の規模がありますが、市場
は国単位でなく、複数の国々の面で捉えられるものが多く、それらの方が
日本市場よりもはるかに大きかったりします。ある程度の市場規模がある
にしても、日本市場での販売に掛かる手間や時間を考えると、そちらの市
場を優先し日本市場を敬遠するサプライヤが出てきているのも事実です。


本記事中では海運会社の日本離れで日本発の海外市場への直行便が減少、
それに伴い輸送リードタイムが長期化し、輸出拠点としての日本の魅力の
低下、海運会社の更なる日本離れという負のサイクルに陥る懸念が指摘さ
れています。また、多くの市場は人口に市場規模が比例しますので、この
まま少子化・移民非受入が続けば様々な材での市場の縮小・日本の魅力の
低下が続くでしょう。


海外サプライヤの日本離れに対処するには、まず日本政府に規制を日本独
自の規格ではなく国際規格に基づくものにする・移民政策の推進といった
対応を求めたい所ですが、これらはそうそうすぐには進まないでしょう。
各企業が自社の裁量の範囲で仕様を海外市場に合わせ門戸を開放する努力
が必要です。そうする事により、グローバルのより厳しい競争に晒された
優れたサプライヤを自社のサプライチェーンに組み込み、競争力を高める
事ができます。


企業としてのもう一つの方策は販売市場を海外に求める事です。大企業で
もまだまだ売上の多くが日本市場という所が多くあります。海外売上が多
少あっても、その多くが輸出が中心という所が少なくありません。サプラ
イチェーンの競争力を高める並びにリスクマネジメントの観点から、でき
る限り需要地の近くで生産するのが主流となっています。日本離れを進め
る事となりますが、自社を守るには必要な事と考えます。


2022.9.2

vol.87「アマゾンエコー原価、旧型の半値」

 

【今週のトピックス】

 

「米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「エコー」の普及モデ
ルを分解調査した。部品価格を合計した推定原価は24ドル(約3200円)
と旧機種から半減した。(中略)


コスト削減に大きく寄与しているのは電子部品と素材だ。例えばメイン半
導体の推定価格は5ドルで台湾・聯発科技(メディアテック)製だった。
半導体は毎年性能が向上するが、古い製品はその分価格が下がっていく。
旧モデルからほとんど性能が変わらない半導体を採用することで価格を抑
えた形だ。


中核以外の半導体でもコスト削減の秘訣がある。これまで米国メーカー製
だったオーディオ用半導体はメディアテック製になり、韓国サムスン電子
製が使われていた記憶装置では米マイクロン製の価格が安い部品に切り替
わっていた。


また筐体(きょうたい)は旧モデルではアルミ製だったが、プラスチック
になった。筐体の価格は1ドルと10分の1程度に抑えた。」
出所)「アマゾンエコー原価、旧型の半値」『日本経済新聞』
2022年8月16日朝刊14面


今回はコスト低減についての色々な示唆を含むアマゾンのエコーの事例で
す。最初のポイントは商品コンセプトの明確化です。そもそも旧型とこの
商品を比べて良いのかという位、商品の位置づけが変わっています。これ
まではスマートスピーカという単体のハードとして販売されている側面が
ありました。そのため、製品単体の魅力度を高める必要がありました。


しかしながら、このエコーの普及モデルは発売して1年も経たない内から
原価割れで販売される等、動画・音楽のコンテンツ配信や会員制サービス
のプライム等のアマゾンの各サービスの販売チャネルとしての側面に重き
が置かれる様になっています。そのため、今回の普及モデルの機能・仕様
は必要最低限のものに抑え、コスト低減を徹底的に追及したものとなって
います。


スマートフォンや日本の家電メーカは新しいモデル投入時には消費者が求
めているか否かに関わらず、機能追加等により製品売価の維持・アップを
試みます。しかしながら、アマゾンはコスト低減という至上命題を果たす
ために、中核となる半導体の性能を維持し、年々性能比単価が低減すると
いう半導体の特性を活かしてコスト低減を果たしました。また、筐体をア
ルミからプラスチックにダウングレードしています。これならば確実にコ
ストは下がります。


次いでのポイントはコスト低減には何かを変える必要があるという事です。
基本的に最初の選定で適正にサプライヤを決定していれば、半導体の様な
特殊なカテゴリーを除き、交渉で価格を下げるのは難しく、何かを変える
必要があります。実際、アマゾンはオーディオ用半導体や記憶装置ではサ
プライヤを変更しています。繰り返しになりますが、筐体ではグレードを
下げています。こちらは仕様・材料変更です。


今回のケースでは抜本的なコスト低減には、
1. 商品コンセプトの明確化とそれに合わせた仕様の適正化
2. 仕様・サプライヤ等何かを変える
といった手法が有効である事を示しています。


2022.8.26

vol.86「ユナイテッドアローズ/ 新疆綿の使用を中止」

 

【今週のトピックス】

 

「セレクトショップ大手のユナイテッドアローズは2023年の秋冬向け商品
から、全ブランドで中国の新疆ウイグル自治区で生産された綿花の使用を
中止することを決めた。今年の秋冬商品から一部ブランドで先行して使用
をやめる。ウイグルでは強制労働の疑いがあり、消費者や投資家の視線が
厳しさを増していることに対応する。


米国が6月、新疆ウイグル自治区からの輸入を原則禁止する法律を施行する
など、同地の人権問題には厳しい目が向けられている。ユナイテッドアロー
ズは新疆綿の使用に関する姿勢を明確にしていなかったが、『人権侵害な
どの疑いがある素材を商品に使用するのは企業活動として適切でない』と
判断した。


現時点での新疆綿の使用量は調査中としている。各取引先に産地の確認を
求め、新疆綿を使っていることが判明すれば使用を取りやめる。ただ、使
用する素材は多岐にわたり『意図せず使用してしまう可能性はある』と難
しさをにじませる。」
出所)「ユナイテッドアローズ、新疆綿の使用を中止」『日本経済新聞』
2022年7月22日朝刊16面


米中の対立が激しくなる中でサプライチェーンの組み方が非常に難しくなっ
ています。新疆綿の使用も判断が分かれるテーマです。新疆綿を使い続け
れば欧米市場から排斥されるリスクがあります。一方で、新疆綿の利用を
辞めれば中国市場から排斥されるリスクがあります。


規制が製品を対象としたものであっても、新疆綿を巡るこれらの市場から
の排斥リスクはそれぞれの企業の価値観を巡る風評リスクのため、市場毎
にそれぞれに即した原材料を使い分けても免れる事ができない可能性があ
ります。


このケースにおいて二兎を追うのは両方の市場を失うリスクが高く、中国
市場を取るか、欧米市場を取るかの判断が迫られています。この場合、覚
悟を決め、自社にとりより重要な市場のどちらかを選ぶ必要があります。
決断をする事でどちらかの市場から排斥されるリスクを取る事により、取っ
ているリスクが特定されます。リスクが分かっているのであれば対策が取
れますので、リスクを取った市場から排斥される可能性を低減する事が可
能です。

 

反対にやってはいけないのは現状維持・意思決定の先延ばし等で気付かな
い内にリスクを取っている・両方の市場から排斥されるリスクを抱えると
いった事態です。事故発生時に良く聞く「想定外でした。」という言葉が
示す通り、リスクマネジメントはリスクを特定する事から始まります。


2022.8.19

vol.85 「コスト増はサプライヤが必ず吸収すべきもの?」

 

【今週のトピックス】

 

「サプライチェーン全体で中長期にわたる競争力の強化に取り組むため、
足元の厳しい事業環境による仕入先の負担を当社が一旦受けとめます。」
出所)トヨタ自動車株式会社『2023年3月期 第1四半期決算情報 決算報
告プレゼンテーション資料(スクリプト付き)』、2022年


筆者はこのフレーズを見た時に違和感を覚えました。このフレーズには
「本来はコスト増はサプライヤが吸収するものだが、敢えて買い手企業の
ウチが負担してやっている。しかも、それは一時的なもので将来的にはサ
プライヤの方で負担しろよ。」といった前近代的な買い手企業の立場にあ
ぐらをかいた驕りや、「本来このコスト増はサプライヤが吸収すべきもの
だが、ウチが大企業で社会的責任のある立場なのでサプライヤを支えるた
めに負担する」といった偽善が感じられるからです。


価格は需給バランスで決まります。供給側の「この価格で売りたい」と需
要側の「この価格で買いたい」という意思のぶつかり合いです。それぞれ
が「この価格でなら売っても良い」「この価格でなら買っても良い」と合
意する事で初めて取引が成立します。


こうした原理原則を無視して「価格変更は一切認めない」というのは、か
なりに無謀な主張です。例え、契約で価格維持を縛ろうとしても、通常は
コストに大きく影響を与える経済情勢の変化があれば価格を見直す条項が
入るのが一般的です。仮にその条項が無かったとしてもあまりにも不当な
契約は無効となる可能性が高いです。無効とならなかったとしても、サプ
ライヤは契約破棄・取引解除という手段に出てくるでしょう。


会社としてこうした調達購買の基本が理解されていないのであれば、それ
は組織的な調達購買力の乏しさを示すものですのでかなり由々しき事態で
す。今回のフレーズはあくまでも原稿を書いたスピーチライターの個人的
なものでトヨタの会社としての考えではない事を祈ります。


2022.8.12

vol.84「日本の調達購買のDXにはAIの前にデータ・プロセスのデジタル化とデータ活用から」

 

【今週のトピックス】

 

先日ある経営コンサルタントの方とお話していて、調達購買のDX・シス
テム関連の話では調達購買でのAIの活用事例の調査依頼が多いという事
を伺いました。


そこでその方と筆者との意見が一致したのは、日本のユーザ側ではDX=AI
の様に思われている方々が多いけれど本来はそうではない、そもそも日本
では業務で必要とされる情報やプロセスがデジタル化されていないの二点
でした。


DXは企業が競争上の優位性を保ち続けるべくデータとデジタル技術を活用
し、常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、「素早く」変革「し続ける」
能力を身に付け、実際に変革し続ける事と弊社では捉えています。AIはこ
れを実現するためのデジタル技術の一つにすぎず、決してAI=DXではあり
ません。AIが必要とされれない業務や場面は多々あります。


AIを機能させるには大量の学習用のデータが必要ですが、日本の企業では
調達購買プロセスがシステム化・デジタル化されておらず、そこで使われ
たり得られる情報がデジタル化されていないというケースが多く見られま
す。

こうした状況でAI活用をうんぬんしてもAIが機能するはずはありません。
こうしたケースではまずプロセスのシステム化とそこで使われる情報・
アウトプットとして出てくる情報のデジタル化が先決です。


それらが実現されて初めて、他の技術と横並びでAIを一つの手段として
活用を検討するというのが、課題に対して適切な解決法を見出す手順とな
ります。


2022.8.5

vol.83「中国政府/ ハイテク製品での外資排除を拡大」

 

【今週のトピックス】

 

「中国政府は業界ごとに製品の技術などを定める『国家標準』で、ハイテ
ク製品での外資排除を拡大する。中核部品を含めて中国で設計、開発、生
産をするよう求める。外資企業は中核技術を渡すか、中国市場から事実上
撤退するかの判断を迫られる。


中国の国家標準を手掛ける国家標準化管理委員会と品質管理を担う国家市
場監督管理総局が4月、複合機やプリンターなどのオフィス機器を対象と
した国家標準を刷新する検討に着手した。今年中に意見募集案を策定し、
2023年の実施を見込む。将来はパソコンやサーバーにも広がる可能性があ
る。


検討の草案によると、半導体やレーザー関連などの中核部品を含めた中国
国内での設計、開発、生産を新たに要求した。従来は情報漏洩の防止など
の安全技術が柱だったが、中国で完結するサプライチェーン(供給網)の
構築を求めた。


通信や情報サービス、エネルギー、交通、金融などの重要情報インフラ企
業は国家標準に適合した製品のみを購入することが義務付けられる。」
出所)「中国、ハイテクで外資『排除』」『日本経済新聞』2022年7月6日
朝刊15面


今回のケースは営業サイドの話ですが、製品に組み込まれる中核部品を含
めたサプライチェーンを規制するものですので、当然、これらに関わる調
達・サプライチェーンマネジメント業務に影響が出て参ります。


また、現時点ではハイテク製品に限定した話ですが、これまでの中国政府
の動きや中国を巡る国際関係の状況次第では、今後中国がサプライチェー
ンにどういった形で制限を掛けてくるか不透明なため、どういった品目に
こうした動きが広がるか分かりません。


サプライチェーン寸断リスクを考えると、何れの品目であっても、中国を
中心とした強権国家市場向けとそれ以外の市場向けの二つのサプライチェー
ンを調達サイドでは持つ必要があると弊社では考えます。


2022.7.29

vol.82「サプライヤが弱小・苦しい時が戦略的パートナーシップの機会」

 

【今週のトピックス】

 

強力なタッグで先端半導体市場をリードする台湾積体電路製造(TSMC)
とオランダの半導体製造装置大手のASMLですが、その関係は1980年代の
創業期からの深い縁で始まっています。


「『創業時の資金調達が大変難しく(日米の企業が関心を示さないなかで)、
TSMCの創業に唯一、手を差し伸べてくれた海外企業がフィリップスだった』。
創業に携わった清華大学の史欽泰教授はそう当時を振り返る。TSMC創業者
の張忠謀(モリス・チャン)氏は、この時もインテルに出資協力を仰いだ
が、無念にも断られた。」フィリップスはASMLの親会社でもあり、TMSC
とASMLとのビジネス面での仲介も行って参りました。


後の1997年、インテルが国際的なコンソーシアムを立ち上げ、米モトロー
ラなどと共同で最先端のEUV装置の開発に乗り出した際に、インテルはTSMC
の参画をかたくなに拒否。TSMCはASMLをパートナーに選び、この屈辱を
バネに2社でEUV開発にまい進。紆余(うよ)曲折を経ながらも、インテル
がなし得なかった世界初のEUVの実用化にこぎ着け、2019年から先端半導
体の量産を成功させました。
出所)「半導体2強、進む技術支配」『日本経済新聞』2022年6月29日朝
刊12面


調達購買の世界ではサプライヤとの信頼関係が重要と言われますが、会社
対会社でそうした関係を築く事は容易ではありません。特にそのサプライ
ヤが成功してからすり寄った場合にはなかなかそうした関係に迄至らない
でしょう。


筆者は総合商社に勤めていた時に商社の機能の調査・提言を行う業務を担
当しており、その一つに現在の商権がどの様にして成り立ち、現在自社が
果たしている機能について調査するというものがありました。そこで得ら
れた結果の中で、グロバール化や電子メール等のグローバルコミュニケー
ション技術が進展しサプライヤが成長した現在に至っては、総合商社が果
たしている機能に価値があまり見出せないものの、その事業の立ち上げ期
に与信や総合商社の物理的なグローバルネットワーク等によりサプライヤ
を支える事で商権を獲得、何十年もその商権が続いているというものが多
くありました。


会社は人の集団で成り立つもの。グローバル化・IT化が進もうと、相手が
弱小・苦しい時に支援するのが強固な関係構築につながるというのは不変
の様です。すべてのサプライヤとそうした関係を構築すべきとは考えませ
んが、技術的制約等でその会社からしか買えないという様なカテゴリーに
ついては、例え相手が小さくとも、否相手が小さい時こそこうした関係が
築きやすいので、積極的にサプライヤとの長期パートナーシップ戦略を採
り、そのサプライヤと共に事業を大きくしていくというのがかなり有効な
戦略の一つとなります。


2022.7.22

vol.81「日本電産/ EV半導体発注を集約」

 

【今週のトピックス】

 

「日本電産は2022年内に電気自動車(EV)向けなど車部品用の半導体に
ついて、メーカーへの発注をグループで集約する。重複する製品をまとめ
て注文し、発注量の多い顧客との取引を優先するメーカーへの交渉力を高
める。長期の購入契約を結び、安定調達につなげる取り組みも始める。」
出所)「日本電産、EV半導体発注を集約」『日本経済新聞』2022年6月8日
朝刊17面

 

調達の基本は購買力というケースです。交渉力は購買力から生じるものの
一つですが、交渉力=購買力ではありません。購買力は色々な要素の組み
合わせで生じるもので、一言で言えば「購買力とは買い手企業がサプライ
ヤにその取引を魅力的に見せる組織的な力」となります。


供給難の現在では想像できないかもしれませんが、購買力があれば交渉せ
ずともサプライヤの方から良い条件の提案を持ってきます。購買力を醸成
するには「お客様は神様」といったハリボテの立場にあぐらをかかず、取
引を可能な限り魅力的に見せるべく努力する必要があります。


例えば、今回のケースのグループ集中購買で発注量をまとめる、長期契約
で安定的な取引である事を示すといった行為がその努力にあたります。長
期契約は安定的な取引である事を示すだけでなく、取引期間中の発注量を
まとめる事で取引量を増やすという効果もあります。


発注量を増やす以外にも購買力を高める方法は色々あります。より多くの
サプライヤと接触する、期限内に支払をする、約束を守る、価格交渉に真
摯に対応し適正な値上げは受け入れる等々、競争環境を構築する一方、貴
社との取引をサプライヤに魅力的に見せる努力が貴社の購買力の強化につ
ながります。


少なくとも後数年は調達難の時代が続きそうですので、貴社の購買力を磨
く事が不可欠となります。


2022.7.15

vol.80「テレワーク導入はもう不要?」

 

【今週のトピックス】

 

総務省が5月に発表した通信利用動向調査によりますと、「テレワークを
導入している企業の割合は 51.9%に達し半数を超えた。導入目的は、
『新型コロナウイルス感染症への対応(感染防止や事業継続)のため』の
割合が9割を超えており最も高い。」との事です。


一方で、この調査の中でテレワーク導入済みに今後導入予定の企業を含め
た比率は2020年の58.2%(内、導入済み47.5%から2021年は57.4%に
下がっており、テレワーク導入が頭打ちになっている傾向が読み取れます。
出所)「令和3年通信利用動向調査」 総務省 2022年5月27日


コロナ禍が解消するPostコロナは少なくとも何年かは来ず、コロナ禍が
再来するWithコロナの時代が続き、再び緊急事態宣言が発令される可能
性を想定し業務設計すべきと弊社では考えます。BCPの観点から、必要に
応じてテレワークの体制が取れる様にしておくべきです。テレワークに対
応する事は柔軟な勤務体系を希望する求職者を引き付ける事ができるといっ
た採用面のメリットもあります。


テレワークについてはそれぞれの経営者の考えにより採否が分かれますが、
業務のデジタル化はあらゆる企業にメリットがあり、こちらはすべての企
業で検討すべきです。テレワーク化=デジタル化ではありませんが、テレ
ワークには業務のデジタル化が不可欠です。テレワーク導入が頭打ちにな
る中で業務のデジタル化の取組も止まってしまっているという事がないの
を祈ります。


2022.7.8

vol.79「電力調達では内製化が調達戦略の一つに」

 

【今週のトピックス】

 

電力供給が不安定になる中で電力調達を内製化する動きが出ています。物
流施設開発の日本GLPは新規事業としてデータセンター運営を考えていま
すが、既存の物流施設と合わせその電力は自社での再生可能エネルギー発
電により賄う計画である事を明らかにしました。
参考)「日本GLPが再生エネルギー事業に参入。新会社FPSを設立 エネル
ギーバリューチェーンを構築へ」『日本GLP株式会社プレスリリース』
2022年4月5日


現在、電力需給は世界的に大きな転換点を迎えています。需要面では脱炭
素化の要請が高まっており、中長期的には再生可能エネルギーによる発電
で電力を賄っていく事が求められています。供給面で見た場合、現時点で
はすべての電力需要を100%再生可能エネルギー発電で賄う目処は立って
おらず、再生可能エネルギー調達において供給不足が生じる事は明らかで
す。


こうした時に調達戦略の一つとして生じるのが内製化です。内製化は調達
対象がモノから設備・人材と大きく変わる、多大な初期投資が生じる、費
用が変動費から固定費に変わるといった理由から通常の調達戦略検討の中
では検討の俎上に上る事はありません。


しかしながら、電力調達においては需要面においてコスト低減のみならず
脱炭素化への対応といった新たな要件が加わる一方で、サプライチェーン
の転換やリスクの増加といった要因が加わる中で、現実的な戦略の一つと
して内製化を検討する局面を迎えているといえます。


2022.7.1

vol.78「欧州で販売する製品のサプライチェーンに組み込まれている企業が気にしなければならない事」

 

【今週のトピックス】

 

以前に比べ、経済安全保障や人権への配慮等、政治がサプライチェーンに
影響を与える度合いが増えている様に感じます。そうした中で欧州で販売
する製品のサプライチェーンに組み込まれている企業に影響がありそうな
ものが「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」です。


DPPは欧州連合(EU)が進めている新たな規則案です。DPPでは個々の製品
の部品ごとの詳細な使用原材料やその含有割合・環境負荷など環境関連情
報に関するデータ群の提供を求めています。もし、DPPが制度化された場
合にはバイヤ企業はサプライヤに各部品の納品時にDPPの提出を求める事
になるでしょう。


これは各サプライヤにDPPの作成、バイヤ企業にDPPの保管・管理を求め
る事になり相当の負荷となる事が予想されます。ですので実際に制度化さ
れるか否かを見極めていく必要があります。現在、法制化が進められてい
る電池規則ではバッテリー分野におけるDPPが議論されており、DPPの先
行事例となりそうです。


REACHやRoHS等、実現が難しそうな規則でもEUは押し通してきた実績が
あります。欧州で販売する製品のサプライチェーンに組み込まれている企
業にとってDPPは新たな頭痛の種となるかもしれません。


2022.6.24

vol.77「調達購買部門が調達を断念せざるを得ない機会が増える?」

 

【今週のトピックス】

 

「回転ずし「スシロー」を展開するFOOD&LIFE COMPANIESは21日、養殖事
業を手掛ける新会社を設立したと発表した。エサの調達や販売、魚の品種
改良などに取り組む。回転ずし業界は漁獲量の減少や漁業の人手不足、魚
の価格上昇などで将来の安定調達に不安を抱えている。安価で品質の良い
魚を安定して仕入れるため、養殖事業に関わる。」
出所)「スシロー、養殖の新会社」『日本経済新聞』2022年4月22日朝刊14面


世界的な供給難が続く半導体に加え、ロシアのウクライナ侵攻により肥料
・小麦・トウモロコシ・海産物など様々な材カテゴリーに供給難が広がっ
ています。VUCAの時代になり、サプライチェーンリスクは収束の動きを見
せる気配は全くなく、供給難に陥る材カテゴリーは広がるばかりです。


供給難を回避する手法の一つとして内製化があります。供給難に陥ってる
原材料・部品を自社で内製するものです。お寿司屋で材料の寿司ネタを養
殖するのも内製化の一つと言えます。供給難に陥っている材は価格が高騰
しているため、異業種からの参入で多少コストがかかっても、内製化によ
る安定調達でメリットが生じる様になってきています。


一方で、内製化は調達とは対極の考え方となります。サプライチェーンの
設計思想には相反する「自由」と「統合」との二つがあり、調達は自由に、
内製は統合の考え方に分類されます。ですので、内製化を進めるとなると
その推進役は調達購買部門から生産技術部門に移されるでしょう。調達購
買部門から見れば、内製化はその材についての調達をあきらめる事と言え
ます。


しかしながら、今後、その材の調達可否を見極められるのはそれを担当し
ている調達購買部門に他なりません。貴社にとり最善のサプライチェーン
を築くには、供給難の材につき調達を断念し内製化を会社に進言する機会
が増えて行くかもしれません。


2022.6.17

vol.76「脱炭素が調達購買業務に与える影響」

 

【今週のトピックス】

 

「欧州鉄鋼大手SSABは近く、『水素還元製鉄』と呼ばれる製造法でつくり、
二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に抑えた鋼材の供給を日本で始める。石
炭の代わりに水素を使った製鉄法で、脱炭素の将来的な切り札とされる。
物流や原材料などを含めたサプライチェーン(供給網)全体で大部分を占
める製造時でのCO2排出をゼロ近くに抑えた。スウェーデンのボルボなど
が採用しており、日本での投入は初めて。」
出所)「水素で製鉄、CO2大幅減」『日本経済新聞』2022年5月24日朝刊
13面


今回のケースでは脱炭素化の要請が調達購買業務に与える影響について考
えます。ロシアのウクライナ侵攻による欧州への天然ガスの供給難で現在
は短期的に若干トーンダウンした感がありますが、中長期的に脱炭素化に
向けた動きは止まる事は無いでしょう。脱炭素化の動きは調達購買業務に
1. 現在購入しているモノで二酸化炭素排出量が少ない代替品の調達
2. 貴社の脱炭素化への転換に関連した調達
という二つの課題を与える事となります。


1. 現在購入しているモノで二酸化炭素排出量が少ない代替品の調達
こちらは調達購買業務に大きな変化を与えるものではなく、あくまでも現
在調達しているものの代替品の探索となります。鋼材ユーザの立場で見れ
ば、今回のSSAB品の様に仕様の一つに二酸化炭素排出量が非常に少ない、
もしくはゼロであることといった要件が加わる事となる変化です。


2.貴社の脱炭素化への転換に関連した調達
こちらはSSABの調達購買担当の様な立場で、自社の脱炭素化を果たすた
めに必要な原材料・製造技術・物流方法の変更等、事業・製品開発的な調
達となります。これまでと全く異なるモノを調達する事になる場合もある
でしょうし、技術的にはまだ実現化していないものもあるでしょう。


今回のケースでは石炭の代わりに水素を使い鉄鉱石から鉄を取り出します。
この水素についてもそのサプライチェーンにおいて二酸化炭素を排出しな
いグリーン水素である必要があります。グリーン水素は水を電気分解して
製造する必要があり、その電気も再生可能エネルギー等の非化石燃料電源
で発電されたものでなければならず、そうしたグリーン水素を安価に大量
に供給できる国となると現時点では限定的になります。

 

こうしたものの調達では関連情報が一般的になっておらず、研究論文等か
ら集めなければならない等、難度が高いものとなるでしょう。調達購買担
当者としては、貴社が必要としている素材や技術情報を把握し、広く情報
収集を行っていく事から始めなければならないかと存じます。


2022.6.10

vol.75「供給難下のコスト低減にはデマンドコントロール」

 

【今週のトピックス】

 

半導体やコンテナの需給ギャップ・コロナ禍による工場稼働の低下や停止・
ロシアのウクライナ侵攻・原油高・円安と様々な材カテゴリーで値上げが
止まりません。調達購買部門の方々は値上げ回避・抑制どころか、供給確
保すらままならないのが現状ではないでしょうか?

それでも調達購買部門の方々は部門のミッションとしてコスト低減を進め
ていかなければなりません。とはいえ、こんな時に交渉や相見積で価格が
下がる訳はなく、新規サプライヤの採用によるコスト低減を図っても、供
給難の時にはサプライヤは既存取引先を優先するため、新規の開拓も進み
ません。

こうした時に有効な手段の一つに調達品の使用量を減らすデマンドコント
ロールがあります。単に需要を抑制しようとしても、要求部門は必要があっ
て購買申請をしていますので効果は見込めません。仕様変更等により自動
的に使用量が減る工夫が必要です。そうした工夫により正に需要(デマン
ド)をコントロールするのがデマンドコントロールです。

まずはもっとデマンドコントロールに力を注ぐべきと感じた事例を紹介し
ます。在宅勤務が続き納付書の回収が遅れ保険料の支払が遅延した事で日
本年金機構とやり取りをする機会があったのですが、受け手の事を考えて
いないコミュニケーション設計のために色々と不必要な需要(コミュニケー
ションや書類等)を生んでいると感じました。例を挙げると、

・相手の手許に届かない住所に何度も納付書や督促状を送付

・郵便物の送付先変更や銀行口座からの自動引落の手続きが民間企業等と
比し煩雑。例えば手続きに必要な提出書類の種類や量が多い、自動引落申
請書に銀行からの確認印の取り付けを求める等、こうした書類の取得の手
間を考えると手続きを断念させる様な仕様となっています

・個々の送付物の紙の量が多く半分以上は読まれない。例えば、口座から
の自動引落申請書が送られてきた時には、申請書を提出しない場合、なぜ
それを提出しないかを記載させるアンケート調査票が同封されていました

・銀行の確認印取得のために自動引落申請書を出せずにいると、機構が業
務委託しているコールセンターから書類提出の督促電話が掛かってきまし


これらは不良の真因を探らずに検査回数や人員を増やすといった対処療法
のみを実施しているようなものです。対処療法では問題解決につながらな
いため、また支払遅延という不良を生み、無駄なコミュニケーションが生
じる事となります。

今度は真の問題解決を図る事でデマンドコントロールを行いコスト低減を
達成している事例をご紹介します。保険会社のお客様では切手代の低減の
ためにHPやメールも含めてコミュニケーションの動線を検討し、郵便物そ
のものの量を減らしコスト低減をしています。

IT企業のお客様では、DMの送付にあたり厚い資料を紙で送付するのは止
め、資料をHPからダウンロードする様に促す1枚ものの案内文書に代え、
印刷ならびに郵送費用を抑えています。

同様の取組を日本年金機構が行えば、少なくとも今回のやり取りで機構が
支出している費用を1/4程度に圧縮できるのではと感じています。

何れの事例もコミュニケーション費用に関わるものとなってしまいました
が、デマンドコントロールは必ずしもコミュニケーション関連カテゴリー
だけにしか通用しないものではありません。例えば、樹脂製品で強度に影
響が出ない範囲で穴を開け、樹脂の使用量を抑制する・軽量化を図り物流
コストを低減するといったものもデマンドコントロールの一種と言えます。

デマンドコントロールを成功させるポイントは、

・調達品が必要となっているそもそもの目的を明らかにする。特に、途
中段階のものでなく、お客様の最終目的を明らかにする。調達品が原材
料・部品であれば、それらがお客様の最終目的に向けて果たす機能とな
ります

・調達品の事は一旦忘れ、その目的達成に向け、ゼロベースで必要な手
段を検討する。その際には目的から逆引きで手段を挙げて行くのが有効
です

・挙げた手段がお客様の最終目的を達成する最も効率的なものか、より
効率的な代替手段がないか今一度見直す。こうして得られた手段を調達
品として設定

になります。

2022.6.3

vol.74「テレワーク環境下でのコミュニケーションのマナーとルール」

 

【今週のトピックス】

 

前々回・前回とテレワーク環境下での社内コミュニケーションの先進企業
から学ぶシリーズを続けてきましたが、今回はその最後として同期・非同
期コミュニケーションに共通のマナーやルールを学びます。


同期・非同期コミュニケーションに共通するマナーとして「調べてから聞
く」が挙げられます。同期・非同期の何れにせよ、質問された側はその回
答のために時間を割かなければなりません。電話やチャット・メールの通
知は質問された方の集中を削ぐ原因にもなります。これらはスタッフの生
産性低下の原因となります。
.
ミスの指摘や何か注意をする際には文字ではどうしても角が立ってしまう
のでメール・チャットではなく口頭で行うのが良いでしょう。


定例ミーティングやスタッフから質問を受ける立場のリーダー以上の方は
定期的に質問を受ける時間を設けておくとスタッフの方々も会話のきっか
けを得やすくなります。アウトプットベースでの管理ではなく、細かく指
示を出した方が良い業務やスタッフの管理をされている方は、定例ミーティ
ングの頻度を日次など細かく設定し、チームに対してではなく個別のコミュ
ニケーションが必要な場合にはその方に定例ミーティング後に残ってもら
うといった形で密にコミュニケーションを取っていくのをお勧めします。


参考)西村 崇「『テレワーク環境下で気軽に声をかけられない』、課題
解決に効くマナーとルール」日経クロステック、2022年1月19日
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00355/021600001/
閲覧日:2022年4月3日)


2022.5.27

vol.73「非同期コミュニケーションのマナーとルール」

 

【今週のトピックス】

 

今回はテレワーク環境下での社内コミュニケーションの先進企業から非同
期コミュニケーションのマナーやルールを学びます。


非同期コミュニケーションはメールやチャット等の対話者が自分の都合の
良い時に返答をするコミュニケーションを指します。非同期コミュニケー
ションの特徴の一つにメールやチャット等のメディアを介しますので、情
報共有が可能です。


この特徴を活かして「個別チャットよりもチャンネル利用」をルール化し
ている企業があります。業務で分からない事がある時に自分と相手だけで
なく、チームメンバーもそのコミュニケーションに含めるのです。ある人
がつまづいているポイントは他の人にとっても同じ可能性があります。非
同期コミュニケーションは記録に残りますから、複数のメンバーが参照可
能なチャネルを利用する事で、例え、今は他のメンバーが必要としていな
い情報でも、将来には必要となる事もあるでしょう。同じコミュニケーショ
ンでもチャットではなくチャネルを利用するだけでチームの情報資産とな
ります。


「会話の往復が増えたらオンライン会議へ移行」をルール化している企業
もあります。チャットでの会話は音声での会話よりもキー入力の分だけ手
間と時間が掛かります。会話の往復が増えて来ると、その会話は非同期コ
ミュケーションから同期コミュニケーションになってきますので、筆者も
このルールに賛成です。


参考)西村 崇「『テレワーク環境下で気軽に声をかけられない』、課題
解決に効くマナーとルール」日経クロステック、2022年1月19日
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00355/021600001/
閲覧日:2022年4月3日)


2022.5.20

vol.72「テレワークの生産性向上にはそのマナー・ルールの確立が有効」

 

【今週のトピックス】

 

弊社のお客様の中には弊社の執務スペースを用意されない会社もあり、そ
うした案件ではコロナ禍の以前からテレワークを中心に執務しています。
テレワークの難しい所はちょっとした会話ができない所にあると感じてい
ました。コロナ禍でテレワークが普及した事もあり、こうした悩みを持つ
会社は増えてきている様です。そうした中でテレワーク環境下での社内コ
ミュニケーションのマナーやルールを確立させようとしている企業が出て
きています。今回はそうしたマナーやルールで参考になりそうなものを取
り上げます。


NTTコミュニケーションズはコミュニケーションの種類をオンライン会議
や電話等の対話者がお互いの時間を共有しリルタイムで話をする同期コミュ
ニケーションと、メール・チャット等の対話者が自分の都合の良い時に返
答をする2.非同期コミュニケーションの二つに分類し、それぞれの特性や
障害に応じたマナー・ルールを提唱しています。この分類はシンプルかつ
良く整理されているので、これらに即してお話していきます。


テレワーク下での同期コミュニケーションの障害の一つには相手の様子が
見えないので声を掛けるのをためらってしまい、そこで必要な情報が得ら
れる業務がスタックしてしまうという点が挙げられます。これを解決する
ルールが「ためらわずに聞く」です。また聞きやすい環境を作るにはチャッ
トツールのステータス表示の活用をルール化し、応対可の時はその旨を表
示させる事を徹底させ、応対可の時は遠慮無く話しかけて良いとするのが
良いでしょう。特にリーダークラス以上など他のスタッフから質問・確認
を受ける立場の方は、忙しかったり、自分の仕事に集中したかったりする
かもしれませんが、その責任においてそうした質問・確認を受ける時間を
1日の中である程度確保する必要があります。可能であれば曜日毎にその
時間帯を明確にしておくと、メンバーもコミュニケーションが諮りやすい
かと考えます。


テレワーク下での同期コミュニケーションにおけるもう一つの障害は話し
かけられる方が集中を妨げられるという点です。弊社ではテレワーク下で
のコミュニケーションのマナー・ルールが徹底されておらず、良くチャッ
トで「今話せますか」という確認が入ります。チャットの通知機能をオフ
にしていないと、これだけでも集中が切れてしまいますし、話せない時に
いちいち返答するのは手間となり、余計に集中がそがれてしまいます。こ
れを回避するには、こちらもチャットのステータス表示を活用し、応対可
以外の時には話しかけないのをマナーとするのが良いかと存じます。また、
ある会社ではこうした時に話しかけられた人は応答・コールバック不要と
しています。考え方としては、話しかけられた方の負担を減らし、話しか
けた方が必要としているのであれば再度掛けなおすかかチャット等でメッ
セージを残す等、必要としている人が行動すべきというものです。


ビデオチャットが普及する中で一つのテーマはビデオ表示をルール化する
か否かです。上司と部下という会話の場合、上司としては表情も含めて様
子を確認したいのでルール化したい所かと思いますが、ここは我慢してビ
デオの利用は個人の判断に任せるとした方がテレワークの普及につながる
と考えます(筆者は相手に好印象を持ってもらいたいので基本的にはビデ
オ表示をオンにしていますが。。。)


長くなりましたので今回はここまでとし、次回は非同期コミュニケーショ
ンのマナー・ルールについてお話します。


参考)西村 崇「『テレワーク環境下で気軽に声をかけられない』、課題
解決に効くマナーとルール」日経クロステック、2022年1月19日
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00355/021600001/
閲覧日:2022年4月3日)


2022.5.13

vol.71「EVのサプライチェーンのデザインに調達購買部門の活躍の機会有り」

 

【今週のトピックス】

 

「台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が進める電気自動車(EV)の共同開発
に当初の5倍にあたる約100社の日本企業が参加することが分かった。デン
ソーなどトヨタ自動車の系列企業も加わる。EVには異業種の参入が相次ぐ。
鴻海は部品の規格などを共通化し、受託生産を狙う。」
出所)「鴻海EV連合に国内100社」『日本経済新聞』2022年3月13日朝刊1面


自動車の主流がEVになる中で、自動車のサプライチェーンに変化が生じて
います。製品構造がエンジンを中心とするものから、モータや電池を中心
とするものに大きく変わります。それぞれの製造を得意とするサプライヤ
が異なりますのでこの変化は必然です。


弊社では調達購買部門の主な仕事の一つは「継続的に投資価値を最大化す
るサプライチェーンのデザイン」であると考えています。こうした産業構
造の変革期には新たなサプライチェーンのデザインが必要となります。


EVならびにEV向けの原材料・部品の製造販売に携わる企業の調達購買部門
の方々はこれからしばらくの間、EVのサプライチェーンのデザインに活躍
の機会が生じ、奔走される事になるかと存じます。


2022.4.22

vol.70「生分解性プラスチックを使用しないと批判に晒される時代がやってくる」

 

【今週のトピックス】

 

「カネカは2024年までに海洋生分解性プラスチックの生産量を現在の4倍
の年2万トンに拡大する。(中略)


海外大手のホテルチェーンや食品メーカーなどからも納入要請があり、
『既存のプラスチックから一気に置き換えが加速する』(田中稔社長)と
みる。今回の投資を手始めに30年までに国内外で生産能力を年10万~20
万トンに引き上げを検討する。」
出所)「海で溶けるプラ、カネカが増産」『日本経済新聞』2022年2月7
日朝刊5面


海に漂着したプラスチックごみを海洋生物が誤って摂取してしまい、その
生命を危機に晒してしまう事などから、生分解性でないプラスチックの使
用に批判が高まっています。


現時点ではカネカの海洋生分解性プラスチックの価格はそうではない一般
のプラスチックの2倍となりますが、同社はその引合の強さから生産量を
引き上げ、30年迄には現在の40倍に迄持っていこうとしています。


特に、消費材においては、生分解性プラスチックを使用しないと批判に晒
される時代がすぐにやってくるかもしれません。


2022.4.15

vol.69「買い手の行き当たりばったりのサプライヤ選定は百害あって一利なし」

 

【今週のトピックス】

 

「審査の結果、1位と2位の評価点が僅差だったために両者と交渉し、2位
の事業者を選定した――。京都府和束町の「和束町総合保健福祉施設設計
業務公募型プロポーザル」における設計者選定プロセスが物議を醸してい
る。審査で1位となった事業者を受注候補者として交渉し、まとまらなけ
れば2位と交渉するというルールを町が自ら破ったうえ、そのことについ
て丁寧に説明していないからだ。」
出所)坂本 曜平「和束町がプロポーザルでルール破り、審査結果に従わ
ず施設設計者を選定」『日経XTECH』2022年3月11日
(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01405/
閲覧日2022年3月28日)


サプライヤに約束した選定プロセスを破ったケースです。約束した選定プ
ロセスを破る事はデメリットしかありません。正に百害あって一利なしで
す。


まず初めに、入札・相見積の後に交渉プロセスを入れるという事は、「サ
プライヤは最善価格を提示する」という入札・相見積の大前提を買い手自
らが否定する事となります。後で交渉でベストプライスを提示したサプラ
イヤを逆転する事ができるというのでは、各サプライヤが最初は少し様子
を見て最善の価格を提示するのを控えてしまい、競争環境が形骸化してし
まいます。その上、入札・見積後の複数社を相手にした不毛な交渉を長時
間・お互いに労力を掛けて続けて行く事となり、選定プロセスがグダグタ
となってしまいます。


次に、最安値を提示したのに選外となった企業にしてみれば、買い手に対
し不信感しか残らず、その企業から今後の入札・見積への参加・協力が得
られなくなってしまいます。有力なサプライヤの不参加は以降の案件での
競争環境の形骸化につながります。


また、こうした不公正な選定は選定者と選定サプライヤとの間に癒着があ
るのではといった疑いの念を周囲に引き起こします。他のサプライヤがこ
うした疑いを持てば、これらの企業からの入札・見積への協力が得られな
くなり、これも競争環境の形骸化となります。


更に、担当者の選定結果を正当な理由なく覆しては、担当者のモチベーショ
ンダウンとなります。記事では選定委員会で委員長を務めた長坂教授の以
下のコメントが紹介されています。「『時間と労力をかけて審査し、選定
結果を取りまとめたにもかかわらず、その結果を町が覆した。裏切られた
ような感覚で、極めて不愉快だ。町は詳細な経緯を公表すべきだ』と怒り
をあらわにする。」企業でいえば経営者が和束町、担当者が選定委員会に
あたり、もし経営者が和束町と同じ様な行動を取れば、担当者は長坂教授
の様な怒りを抱くでしょう。


もし、どうしても僅差の場合に最終交渉を入れたいのであれば、「評価点
の差が##点以内の場合には、その範囲の中にある入札者との交渉で決定す
る」といったルールを入札要綱・見積依頼書に入れるべきでした。しかし
ながら、弊社は入札・見積の後に交渉プロセスを入れるのはお勧めしませ
ん。それは冒頭に上げたサプライヤは最善価格の提示するという入札・相
見積の大原則を崩す事に他ならないからです。入札・見積の後に設けられ
るべきものは、後で「やっぱりこの価格ではできませんでした」とサプラ
イヤが匙を投げる事がないように見積前提や見積に誤りがないかの確認と
サプライヤの専門知識を活かした仕様の最適化による価格の最適化であっ
て、交渉ではないと弊社では考えます。


2022.4.8

vol.68「テレワークを妨げる三つの原因」

 

【今週のトピックス】

 

日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2021年10月に実施した「働
き方改革に関する動向・意識調査」によると、テレワークを利用していな
い理由の首位は「同僚(上司や部下を含む)や取引先、顧客と直接対話し
たいから」「職場(または派遣・常駐先)で扱う帳票や文書の電子化が進
んでいないから」「出社することでON/OFFを区分し、心身を仕事モードに
切り替えたいから」の3つが回答の22.1%で並びました。


一方で、「勤務先(または派遣・常駐先)がテレワークに必要なITシス
テム・インフラを整えていないから」は2020年4月の同調査では回答42.4%
を占めましたが、2021年10月調査では10.4%と32ポイント減っています。
この1年半でテレワーク向けの従業員の勤務環境の整備が進んだ事が伺え
ます。出所)大和田 尚孝「働き方改革を阻害する3大要因、解決が最も
遠い『あの問題』」日経BP総合研究所イノベーションICTラボ、2022.01.12
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01856/010600010/?P=2
閲覧日:2022年2月20日)


上記の内、相手と直接話したいと出社することでON/OFFを区分し心身を
仕事モードに切り替えたいとは心の持ち様の問題で無いものねだりと考え
ます。コロナ禍もあり、ここ2年でテレワークは急速に広まっており、貴
社が実施していないくても、サプライヤはテレワークを実施しているとい
う場合は多々あります。また、サプライヤが海外の場合には、まだまだ気
軽に出張して対面での打ち合わせを行うというのは容易ではありません。
コロナ禍も未だに収束の気配は無く、変異株の流行による感染の拡大で、
再び貴社や相手方の方針で強制的に対面での打ち合わせが一切禁じられる
という事態も想定されます。


この様に考えると、対面での対話ができない事を想定し、web会議での打
ち合わせに慣れていくしかないかと考えます。個々人の受け止め方の問題
はありますが、ビデオチャットを使えば相手の表情も見え、ほぼ対面での
打ち合わせに代替できると弊社では考えます。またweb会議での打ち合わ
せには打ち合わせの移動時間を無くすという大きなメリットがありますの
で、そのメリットを大いに享受すべきと考えます。


出社することでON/OFFを区分し心身を仕事モードに切り替えたいという
点につきましては、今後も出社ができない時が出て来ると考えられますの
で、自分なりの気持ちの切り替え方法を確立しておく必要があります。現
在はこうした需要を見越して、企業側で個室スペースを用意する所も出て
きていますので、そうした環境を提供している会社に属されている方はそ
れらを利用するのが一つの手でしょう。そうした制度が無い企業の方々の
場合には、個人でそうした環境を整えるしかありません。しかしながら、
自宅にミニ書斎を設ける事ができるキットや個人用テレワークブース提供
サービス等が手軽な価格で色々と出回っていますので、環境を整えないと
気持ちの切り替えができないという方にはそれらを利用される事をお勧め
します。良い仕事をするための投資と考えれば費用対効果は大きいと考え
られます。また、こうした環境を自宅ないしは自宅の近くに設ける事で、
通勤時間を大幅に削減できるというメリットもあります。


「職場で扱う帳票や文書の電子化が進んでいないから」は企業側の問題で
す。子供がいる家庭等、柔軟な働き方を求めるスタッフは増えています。
企業側も平時は毎日をテレワークとする必要はありませんが、月の何日か
はテレワークを従業員が選択できる様にし、スタッフのテレワークを前提
とした業務環境・プロセスの構築が今後は不可欠と弊社では考えます。本
来であれば、上記のテレワークに掛かる経費は必要経費として企業が負担
すべきものと考えます。テレワークの推進により通勤交通費・出張旅費や
オフィススペースを削減している場合には賃料も大きく削減されています
ので、新たにテレワークで生じる経費についてはそれらで十分に賄う事が
できるでしょう。スタッフが良い仕事をできる様に環境を整えるのは企業
の責任であり、良い人材はそうした点に配慮できる企業に集まる様になる
と弊社では考えます。


2022.4.1

vol.67「物価スライド条項が一般的になる?」

 

【今週のトピックス】

 

「建物物の鉄筋に使う異形棒鋼の取引価格が、13年4カ月ぶりに1トン10
万円を超える高値水準まで急上昇した。指標品は前月比8%高い。(中略)


異形棒鋼は電炉の鉄鋼メーカーが主に製造している。値上がりの主因は原
料に使う鉄スクラップの高騰だ。鉄筋くずなどからなる標準品種『H2』
の電炉の鉄鋼メーカーの買値は、東京地区で現在1トン5万7000円前後。1月
下旬に付けた直近の安値と比べ9%高い。08年8月以来の高値圏にある。中
国の景気刺激策の強化による鋼材消費の拡大観測などを背景に急速に値上
がりした。


原油や液化天然ガス(LNG)の高騰で電力価格が上昇し、電炉のエネルギー
コストも大きく膨らむ。製鋼の際に脱酸素剤として使うフェロシリコンな
どの合金鉄も昨夏から高止まりしている。(中略)


コスト高が重くなってきた棒鋼メーカー側は製造コストの変動を迅速に価
格に反映できるよう、商習慣の見直しも求める構えだ。棒鋼は使用する建
物の工事期間が始まる前にメーカーとゼネコンが商社を経由して必要量を
まとめて契約するのが一般的だ。契約から実際の納入完了までに1年以上
の時間が空くことも少なくない。(中略)


このためメーカーや商社はゼネコンに棒鋼の短納期化や契約期間の短縮を
要請している。棒鋼メーカーの幹部は『契約から納入完了までを四半期も
しくは半期に短縮することが理想』と話す。(中略)


ゼネコンにとっては施主と決める建設予算の組み方に変更が生じるため、
『商習慣の見直しは一筋縄ではいかない』(鉄鋼商社)。」
出所)「鉄筋用棒鋼、13年ぶり高値」『日本経済新聞』2022年3月4日朝
刊 21面


値決めの時期が納品時期と大きく乖離する建築資材等のケースです。この
事例の様に、建築資材では値決めから実際の製造・納品が数年先となる事
が少なくありません。この場合、サプライヤはその原材料等の市況の変化
による製造コスト増のリスクを抱える事となります。当然、サプライヤも
そのリスクを見越して見積にある程度のリスクプレミアムを載せています
が、競合との競争がある中で、見積に含められるのは限定的とならざるを
得ません。輸入品や原材料等に輸入品を使用している品目では、為替の影
響もあり10%超のコスト高となる事も珍しくありません。


デフレ基調にある日本国内での取引であれば、買い手企業のエンド顧客と
の契約が同様の条件となっているため、こうした値決めと製造・納品時期
のずれを受け入れる様にサプライヤと交渉する事もできるかもしれません
が、輸入品や採算が厳しくなる中で原材料等に輸入品を使用している品目
ではサプライヤはこのリスクを受け入れないでしょう。


こうした品目の取引では今回のケースの様に短納期化や単価の適用期間の
短縮等により値決めと製造・納品時期をできる限り近づける必要がありま
す。どうしてもこれらが難しい場合には、市況変動を反映する物価スライ
ド条項を設ける手もあります。


こうした手法はサプライヤのリスクを除く事になりますので、現在の価格
に織り込まれているリスクプレミアムを取り除く事が可能になります。ま
た、製造・納品時期に市況が下がっている時の高値掴みリスクを減らすと
いったメリットもあり、より適正な価格での取引が可能となります。


一方で、こうした条件を貴社のお客様との契約にも反映しないと貴社がこ
の価格変動リスクをすべて負う事になりますので、営業部門も含めて、貴
社のお客様との価格決定方法を変えるか、貴社でそのリスクを負うかの検
討も必要となります。


2022.3.25

vol.66「日本自動車部品工業会会長『カンバン方式見直す必要』」

 

【今週のトピックス】

 

「日本自動車部品工業会(部工会)の尾堂真一会長(日本特殊陶業会長)
は21日の記者会見で、『(在庫を極力持たない)カンバン方式は見直す必
要がある」と語った。』
出所)「部工会会長『カンバン方式見直す必要』」2021年12月22日、
電子版(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211222&ng=DGKKZO78649060R21C21A2TB2000
閲覧日:2022年1月28日)


供給難が起こる度にカンバン方式が問題の元凶とやり玉にあがります。果
たして、抜本的にカンバン方式そのものを捨てる生産モデルの見直しか、
供給リスクの高い一部部材についてのみ在庫を持つのみの修正とするのか、
トヨタの見解を伺いたい所ですが、弊社では後者になると考えます。


供給難に備え、サプライチェーン全体であらゆる原材料・部材の在庫レベ
ルを引き上げてしまうと、毎日の在庫管理費用が嵩む事となります。また、
商品のライフサイクルが短くなる中でサプライチェーン全体で在庫を抱え
てしまうと、機動的な商品の切り替えが難しくなり、機会損失・不良在庫
リスクを抱える事となります。これらの要素は製品コストを大きく押し上
げます。


そのため、こうした供給難にそなえ在庫を抱えるモデルは有効ではなく、
供給難の発生確率と供給停止による損失を掛け合わせた数字と、在庫保有
によるコスト増とを比較し、それが一致するギリギリの所での在庫保有が
正解になると考えます。


英国元首相のチャーチルであれば「在庫の極小化は最悪のサプライチェー
ンモデルといえる。これまで試みられてきた、在庫の極小化以外のすべて
のサプライチェーンモデルを除けばだが」と表現する所でしょうか。


2022.3.18

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