ナレッジ  » 週刊 戦略調達 vol.7 2009.5.26

週刊 戦略調達 vol.7 2009.5.26
「ソニー、調達先を半減」

【今週のトピックス】

ソニーが、部品や素材の調達先を2010年末までに現在の約2500社から1200
社に減らす方針を明らかにしました。新設する調達本部に、独立色が強か
ったゲーム子会社のソニー・コンピュータエンタテイメント(SCE)も含め
て、事業部や子会社に分散していた調達機能を集約し、部品ごとにまとめ
て発注する体制に切り替え、2010年3月期には、年間2兆5000億円に上る調
達コストを、5000億円以上圧縮し、2兆円前後に絞り込むとの事です。
(出所:2009年5月21日 日本経済新聞1面)

5000億円というと、調達コストの2割削減とかなり大きな数字です。「さ
すが、世界のソニー。規模の小さいウチにはまねができない。」とあなた
は思われるかもしれません。

しかし、「事業部や子会社に分散していた調達機能」を、「担当者や部門
でバラバラに取引先を選んでいる」という言葉に置き換えると、かなり多
くの会社の状況に当てはまるのではないでしょうか?

ソニーの調達の現状が記事の通りであるならば、このソニーの取組はベス
トプラクティスでも何でもなく、ソニーが拡大していく過程で、当たり前
の調達活動ができていなかったという事を示しています。そのため、2割
の調達コスト削減という効果予測も、野心的な目標というより、かなり現
実的な数字で、これまで調達活動をしっかりやっていなかった材カテゴリ
で、調達活動をしっかり行えば、2~3割の削減効果が見込めます。

よく、調達先絞り込みによるコスト削減は、一社あたりの取引量が増える
事でサプライヤの生産コストが下がるためと説明されるため、大企業のみ
がそのメリットを享受できると考えられがちですが、実際には、調達活動
の徹底による要素の方が大きく、中小企業であっても、調達活動を徹底す
る事によって、ソニーと同様、2~3割のコスト低減効果を得られます。今
回のケースを引き合いに、コスト低減がどこから引き出されるかを見てい
きましょう。

1.取引先の選別強化
まず一つは、取引先の選別強化です。取引先を集約するという事は、サプ
ライヤから見れば、集約の対象から外れた時に、取引が減少するどころか、
皆無になるという事です。このような踏み絵を突きつけられると、サプラ
イヤは、量産効果うんぬんではなく、取引に残れるか否かというギリギリ
の判断での価格の提示を迫られます。

2.仕様の標準・汎用化
取引先の集約を進める過程で行わなければならないのが、仕様の簡素化、
削減、統一です。特殊な材料・部品・加工が仕様にあると、どうしても
「そこにしかできない取引先」が必要になります。今回のケースのように
トップダウンで取引先の集約という目標が掲げられると、これまで聖域化
されていたそうした特殊な仕様の見直しがなされます。特殊な仕様が除か
れ、より標準・汎用化が進めば、調達品の単価は下がります。取引先の集
約に隠れた仕様の標準・汎用化の効果は相当なものです。

3.カテゴリソーシング
カテゴリソーシングとは、品目単位での調達ではなく、液晶パネル、半導
体といった大括りのカテゴリで、複数の品目の調達交渉をまとめて行う事
です。今回の記事では、ソニーは部品ごとにまとめて発注する体制としか
書かれていないので、カテゴリソーシングまでに踏み込むのか分かりませ
んが、カテゴリソーシングの意図する所は、複数の品目の調達交渉をまと
めて行う事により、先の仕様の標準・汎用化を促進すると共に、交渉の枠
組みを、品目単位から会社対会社の関係に引き上げる事により、サプライ
ヤのより柔軟な営業戦略の引き出し、受発注や物流などサプライチェーン
のオペレーションの効率化によるコスト低減機会などの発掘にあります。

4.調達業務の重複の解消
担当者や部門でバラバラに取引先を選んでいると、その分、お互いに重複
した調達活動を行っている事になります。調達機能を集約する事で、これ
らの重複した業務の解消が図られます。

■調達先の集約は万能薬か?

こうして見ると、調達先の集約はすべての問題を解決する万能薬のように
思えるかもしれません。こうして文字にすると簡単に見えますが、ここに
書いてある事を実施するのは容易ではありません。ソニーは、一年間で半
減との目標ですが、特に仕様の標準・汎用化が壁になって思うように進ま
ない事が予想されます。ただし、この壁は、技術的なものというより、精
神的なものが大きいので、トップや現場のコミットメントで幾らでも乗り
越えられるものです。こうした壁に直面した時に、その会社がどこまで調
達活動に本気なのかが表れます。

調達先の集約には、隠れたリスクもあります。一つには、調達先を集約す
る事によって、特定の取引先への依存度を高め、サプライヤの力が相対的
に高まり、長期的には自社の調達力を弱めてしまうリスクです。特定のサ
プライヤへの依存は、PCの世界でインテル、マイクロソフトが圧倒的なポ
ジションを築いたように、寡占化が進む液晶パネルなどで同じような業界
構造を作るのを促進してしまいます。

次いで、調達機能の集約の過程で、担当者への依存度を過度に高めてしま
うリスクです。調達機能の集約やカテゴリソーシングは、個々の調達担当
者に、より多くの調達権限を集中させます。それだけ、その担当者の力量、
モラル、モチベーションに結果が左右されようになりますので、その担当
者の選別、育成、マネジメントが重要になります。

最後に、調達機能の集約により、調達機能そのものを弱体化させてしまう
リスクです。調達機能の集約に合わせて、過度に人員削減を進めたり、機
能と体制のバランスが合わないと、毎日の業務や短期的な業績に負われ、
調達活動そのものを担えなくなる可能性があります。例えば、サプライヤ
の集約を至上命令としてしまうと、取引社数を減らす事のみに躍起になっ
てしまい、取引のないサプライヤの動向把握や、新規サプライヤの開拓な
ど、最善の取引を追及するための調達活動そのものがなおざりにされる可
能性があります。

■やるべき事は、調達先の半減ではなく、調達活動の徹底

「調達先の半減」は、ムダな取引を選別していった時の結果にすぎません。
こうした記事に影響され、無批判に「調達先の半減」を至上命令としてし
まうと、上記に懸念されるような事態に陥り、逆効果になりかねません。

私たちが今回のソニーのケースから学ぶべきは、単に取引先を減らす事で
はなく、なぜ彼らがそうした事態に陥ったか、私たちがそのような事態に
ならないようにするにはどのようにすべきかです。

ソニーのケースは、調達業務が現場任せでマネジメントできていなかった
のが、今回のような取組を行わなければならなくなった主因ではないかと
判断されます。

「ソニーのような立派な会社が、そんな事もできていないなんて!?」

そう疑問に思われるかもしれませんが、様々な規模の数多くの会社の方々
と話してきた結果、残念ながら、今の日本で調達・購買業務のマネジメン
トに真剣に取り組んでいる会社は非常に微々たるもの申し上げざるを得ま
せん。逆に言えば、今回のソニーのように、取り組めば大きな効果が得ら
れる余地が、現在の調達・購買業務には残されているという事でもありま
す。

あるべき調達体制を組み、明確な調達業務の目標を定め、それに準じた調
達活動を徹底させる事により、ムダな取引、取引先は排除されます。これ
を機会に、あなたも、取引毎に、現在の仕様、取引条件、取引先はベスト
なのか見直してみませんか?それだけで、かなり改善機会が見つかるもの
です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【株式会社 戦略調達からの他の情報提供のご案内】
■「月刊 戦略調達」のご案内
弊社では、お知らせや弊社の調達・購買業務、部門マネジメントに関する
blog「調達・購買部門の縦と横」 の更新情報などをお送りする「月刊 戦
略調達」を発行しています。「月刊 戦略調達」は、臨時号を除き月刊で
発行する予定です。

「月刊 戦略調達」のご購読をご希望の方は、件名を「月刊 戦略調達配信
希望」とし、
  1) 貴社名
  2) 貴部署名
  3) お役職名
 4)お名前
  5) ご所属先メールアドレス
 6) お電話
  をご記入の上、ms1@samuraisourcing.com 宛にメールにてお送り下さい。

※「月刊 戦略調達」は、調達・購買・物流関連業務に携わっている方向
けに行っているため、企業・機関・団体様を特定できない場合や、同業他
社様からの申し込みにつきましては、お申し込みをお断りさせて頂く場合
がございますこと、ご了承願います。

■調達・購買部門のマネジメントblog 「調達・購買部門の縦と横」
調達・購買部門のマネジメントのあり方について、1.部門マネジメント、
2.体系化、3.実践という弊社独自の視点により、ブログ形式でまとめ、弊
社サイトにご登録頂いた方に限り公開しています。詳細はこちら⇒
http://samuraisourcing.com/knowledge/blog/

■調達・購買プロフェッショナル登録
当制度は、弊社でのポジションの有無に関わらず、調達・購買業務でキャ
リアを形成したいという方々に、希望する調達材カテゴリやご経歴などを
伺い、適したポジションの募集が生じた場合に、優先的にご登録頂いた方
へ働きかけるものです。

ご登録頂いた方には、定期的情報提供やトレーニング、各人の研鑽を目的
としたディスカッションセッションなどへのご招待といったメリットがあ
りますので、是非ご登録をお願いします。詳細はこちら⇒
http://samuraisourcing.com/recruit/recruit/entry.html

―――――――――――――――――――――――――――――――――
【編集後記】

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

最近、大学病院やメーカの研究所の方々などから、試薬、研究設備、医薬
品などの調達・購買業務のご相談を立て続けに頂いています。

聖域とされた研究開発費まで予算が厳しくなり、これまでは、コスト削減
とはあまり無縁と思われる領域でも、調達・購買業務の見直しによるコス
ト削減が求めらているということなのかもしれません。
                            (中ノ森)

―――――――――――――――――――――――――――――――――
【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
 www.samuraisourcing.com
■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
■ご意見、ご感想、お問い合わせは ms1@samuraisourcing.com
  トピックスの選定や構成も皆様の声に合わせていきます  ので、ご意見、
  ご感想をお寄せ下さい。(このメールへの返信でできます)
■引用、転送などは、出所を明記して頂ければ、了承を得たものとします。

このページの先頭へ