ナレッジ  » 週刊 戦略調達 vol.15 2009.7.21

【週刊 戦略調達 vol.15 2009.7.21】
共同調達でコスト削減という幻想

【今週のトピックス】

日本百貨店協会が、百貨店業界をあげての備品の共同調達に乗り出します。
三越伊勢丹や高島屋などの大手4社に、藤崎や天満屋など地方の有力百貨
店を加えた計9社で、コピー用紙やレジ用ロール紙など試験的に実施、今
後は対象品目を文房具や蛍光灯などにも広げる計画との事。
             (出所:2009年7月17日 日本経済新聞 3面)

これから共同調達に取り組まれる日本百貨店協会には悪いのですが、この
共同調達は簡単には成功しないでしょう。

1.サプライヤの視点
サプライヤから見た時に、共同調達への入札は、これまでの個社との取引
に比べ、自社の経営に与えるインパクトが大きくなり、採算管理を徹底せ
ざるを得ません。また、ある品目を値引きし、取引を築き、トータルの会
社対会社の関係で収益を上げるといったサプライヤの柔軟な営業戦略を反
映させる事ができません。よって、これまで調達をしっかりやっていた会
社ほど、共同調達で得られるメリットは減少し、場合によっては、共同調
達はデメリットとなります。

2.購買統制の問題
一企業内、一企業グループ内で行われる集中購買に比べ、共同調達では、
購買統制が掛けにくくなります。日本百貨店協会が、どの位、各百貨店に
睨みが利くのか分かりませんが、この共同調達を通さずに、各社でモノが
買えるのであれば、この仕組みは機能しないでしょう。

通常のサプライヤは、この場合、入札上では適当な価格を提示し、自分の
狙っている特定の個社にだけ、入札価格よりも有利な取引条件を提示し、
個社の切り崩しを図ります。

こうした各百貨店の抜け駆けの動きを、日本百貨店協会がどれだけ抑えら
れるかがポイントになりますが、業界団体が加盟社に対してそこまでの縛
りを掛けられるかについては、疑問が残ります。

3.有力加盟店の心理
有力加盟店であればある程、共同調達のメリットは少なく、或いはデメリ
ットになります。「他社より仕入れ値が10%以上高い百貨店もある(同協
会)」との事ですが、有力加盟店にしてみれば、「なんで、やる事をしっ
かりやってこなかった競合を、我々が助けなければならないんだ」という
思いが、すぐに生じてしまいます。

4.仕様の統一の問題
共同調達をしやすくするため、包装資材などで規格統一を進めるとの事で
すが、店舗什器、内装などお客様の目に触れるものはもちろん、バックヤ
ードのものであっても、品質や環境への配慮、オペレーションの方法の違
いなどから、容易に統一できるものではありません。

これは、例えば、企業合併で良く言われる調達・購買・仕入れの一本化に
よるスケールメリットから生じるコスト削減というのが、蓋を開けてみた
ら仕様の統一が進まず、当初の想定ほど生じないというものと同じ現象で
す。共同調達という緩やかな統制の下では、この壁を克服するのは、更に
難しい事は言うまでもありません。

では、今回の百貨店各社の共同調達は必ず失敗するのでしょうか?

そうとも限りません。各社の調達能力が低く、均一で、それぞれが高値で
買っている事、参加各社が結束を固め、経営戦略、企業文化の違いを乗り
越える事、共同調達の担当者(今回のケースでは日本百貨店協会)の能力
が高く、上に挙げた数々の壁を乗り越えて行く事ができれば、共同調達に
よるコスト削減も夢ではなくなるでしょう。

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【編集後記】

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

今回の記事に小職の否定的なトーンを読み取られている方もいらっしゃる
かもしれません。それは、小職が、今回の取組を、入札システムの提供会
社か、戦略コンサルティング会社など、誰かは分かりませんが、「共同調
達でスケールをまとめれば、簡単にコスト削減ができますよ」と、調達・
購買について真剣に考えていない者による安直な絵と感じるからです。

確かに、今回と違うアプローチを取れば、本文で上げた成功の条件が揃わ
なくても、共同調達で大きな成果を出す事は可能です。ただ、そのために
は、手前味噌になりますが、単純な入札やリバースオークションではなく、
共同調達をした時と分散調達をした場合、対話型電子見積などを使って、
共同調達をするにしても、どこまでをまとめて、どこからを個社で調達す
べきかといった様々な調達戦略の検討など、細かい作業の積み重ねが必要
になります。

そうした努力を怠り、この取組が失敗すれば、参加各社は、「色々と手間
と時間を掛けて調達・購買業務の改善に取り組んだけれど、あまり成果は
出なかった。やっぱり調達・購買業務の改善に手間と時間を掛けても無駄
だ。」と誤った認識が広がるのを懸念しています。

小職は、共同調達はあらゆる改善の手立てをつくした後、最後に手をつけ
るべきものと考えています。「共同調達でコスト削減」という幻想に囚わ
れる前に、まずは、他社より仕入れ値が10%以上も高いのは何故か、社内、
企業グループ内での集中購買は出来ているのか、仕様の簡素化など、開発
購買でもっと工夫できることはないのか、単品の調達ではなく、カテゴリ
ーソーシングの手法を導入することで改善はできることはないのかといっ
た自社内で取りこぼしているものをつぶしていく地に足のついた取組の方
が、より多くの効果を迅速に得られると考えます。

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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
 www.samuraisourcing.com
■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
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